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モースバーグ国横断、1/3の夢旅人

288.クラスAが集まってみた 其の八

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ロイドさんの、ごもっともなお説教の後にもたらされた情報は、結構なインパクト。
多分ナウルさんが耳打ちしていたのは、この件だったんだろう。

火蜥蜴サラマンダーはクラスAに属する魔獣。
凶暴さは、ビグベルー熊モドキに劣るけど、やはり火炎攻撃の勢いが凄いらしい。森林火災に繋がるから、早急に討伐が必要になるハズ。

眉を潜め大きく息を吐き、ガタリ、と席を立ったヴォルフさんは、隣の斥候さん・・・カイリさんを見やり、軽く頷いた。



「ロイドギルドマスター。リン・・・この度は、私情も交えた馬鹿な提案をして、申し訳なかった。」

「ん?」



あら、アッサリと否を認めた。
なんか、もっとゴネるかと思ったけど、意外。



「『英雄』ファーマスにも、お会い出来るとは思ってなかった。強さを間近で見た事が無かったので・・・周囲の評価を鵜呑みにしていた事、申し訳ありません。」



そう言って彼と、立ち上がったカイリさんは深々と頭を下げた。
威圧を緩めた師匠が、茶化すように話す。



「急に、しおらしくなったな?」

「・・・リンが、そこまで強さに貪欲だとは思わなかったので・・・彼女は、守られる事を良しとしないのが、よく分かりました。であれば、俺がとった行動は悪手でしょう。」



ふ、と自嘲気味に笑うヴォルフさん。何となく、この人は憎めない雰囲気があったんだけど。
良しにつけ、悪しきにつけ、こういう真っ直ぐな所の所為だろうか?



「あーぁ。コウに、一泡吹かせるチャンスかと思ったんだが、ダメだったな。結局は、顔の良い方に靡く、か。」



・・・前言撤回。やっぱ失礼だ、コイツ。こーくんに一泡吹かせるための駒じゃないよ、私は。

私のイラっとした雰囲気が伝わったのか、不意にこーくんの手で、頭を撫でくりまわされる。



「ヴォルフ君、負け惜しみはいけないなぁ?言っておくけど、リンの男性の見た目好みは、僕のような優男風じゃないから。」

「は?」

「そもそも、リンはそんな見た目でパートナーを選ばないし。下手すりゃ、一人で生きていこうとする、自立した女性だ。僕らが傍に居れるのはそれぞれに理由がある。・・・カンは同郷からの縁。僕は・・・以前からの浅からぬ縁。そして、ファーマスさんは師弟としての絆。リン側に絆される理由がないと、彼女の傍には居られない。速攻で、全力で、置いていかれるよ?今、君は言ったよね?『強さに貪欲』で『守られるのを良しとしない』って・・・君は、そんな強さをリンに感じたから、欲したんじゃないの?」



くすくすと笑いながら恥ずかしい事を言ってのけるこーくんを、ヴォルフさんは、呆気に取られた顔で見つめかえしていた。
そして、台詞の最後の部分を漸く反芻できたのか、ぐ、と眉を顰めた。



「それでなくても、強者に擦り寄ろうとする輩は多い。特に冒険者なら、男女問わずに、寄生しようという輩が湧いて出てくるし。それも、A級になったら尚更だよね。まぁ・・・それで『守ってやりたい』『守られたい』が合致して、恋仲になるのもいるけどさ。強くなればなるほど、互いに背中を守り守られる、そんな相手パートナーを欲してしまう。それは、強い女性リン側だって同じさ。見極める期間が必要。何回か討伐仕事を一緒にしてからなら、まだ話し合いになったかもしれないのにねぇ。・・・強さを求めたくせに、他の女性と同じ様に扱うから、こうなるんだよ。」

「こーくん、も、いいから。ほら、彼方さんだって、帰らなきゃなんないんでしょ?」



なんかもう、居た堪れない。
もういいから、早く返してあげて、と思っていたら、こーくんがさらなる爆弾を投げつけた。



「それでもなお、僕の容姿が、と言うなら・・・そうだねぇ。あえて、リンの見かけ上の男性の好みを言うなら、『頼れるガタイの良いオッサン』・・・つまりは、この人だからね?」

「にゃっ!」

「「は?」」

「・・・失礼だな、お前ら。」



こーくんが指差す先には、不機嫌顔の師匠。 
牙狼ファングウルフ』 の面子が目を丸くする。

・・・しつれーだな、お前ら。人の趣味にケチつけんじゃねぇ!

てか、それより。
しれっと、本人の前で再度バラしてんじゃないよっ!



「ちょっ!こーくんっ!」

「事実でしょ?君がデカくて厳ついゴリマッチョ系オッサンが好みなのは。そんな人が側にいて、いつ一人勝ちで持っていかれるか分かんない。だから、僕やカンは、いつだって必死なんだよ?」

「だからってぇっ!」



こーくんは、ジタバタ暴れる私を、背後から押さえつける様に抱え込む。
隣で、ロイドさんとカン君は笑ってるし。
師匠は、顰めっ面してるし。

えーから、離せってのにぃ!
こんな羞恥プレイいらんわ!

すると、目の前から、大きなため息が聞こえてきた。
見ると、ヴォルフさんが、ガックリと項垂れている。



「・・・は、ははっ・・・マジかぁ・・・」

「そ。魔力量からいったら優良物件の筈なのに、その体躯と、あまりの威圧の激しさで、モテない『英雄』ファーマスが、彼女の好みのど真ん中なんだから。僕も君も、彼女の好みの外見的要素からは圏外にいるから、安心して振られたらいいよ。ま、ワンチャン欲しけりゃ、真面目に討伐お仕事頑張ってね~。」

「・・・失礼する。」



ふざけた様な口調で、ヒラヒラと手を振るこーくんと、抱え込まれる私をちらと見てから、ヴォルフさんは一礼し、会議室を出て行く。
他のメンバーも、慌てて後を追っていったけど、斥候さんだけが、扉前で立ち止まった。


振り返った斥候さんは、直立姿勢で、私達に向き直る。



「皆様、ヴォルフのワガママに付き合わせてしまい、申し訳ありませんでした。」



深々と、90度に近い礼をした斥候さん・・・カイルさんは、先程の様子からも、この展開は読んでいたんだろうか?



「ほぉ?この茶番は、お前の思惑もあった、ということか?」



ぞわり、とまた、無駄に威圧を放つ師匠。怒りっぽくなってるぅ。



「えぇ。申し訳ありません。」

「ねぇ、君から見てさ、そもそも、リンをオトせると思ったの?」



頭を下げたまま謝るカイリさんに、こーくんが声をかけた。
ゆっくり頭を上げたカイリさんは、ふるりと、首を振った。



「まさか。昨日の屋台村でリンさんとカンさんの2人の様子を見て、入り込む余地なんてないと思いましたよ。ですが・・・」



あぁ、そういえばこの人、カン君に突っかかっるヴォルフさんば、懸命に止めてたわ。
そう考えたら、彼には余計な手間をかけさせた事になる。



「・・・私が、ヴォルフさんに不用意に触らせてしまったから、ですよね?ごめんなさい。」



私はぺこりと頭を下げる。
一瞬、師匠とこーくんが、ピクリと動いた。
ぎゅ、とまた、私を拘束する腕の力が強まった。



「・・・リン、触らせたって、どーゆーこと?」

「え、と。昨日ヴォルフさんと対峙話してる最中に、ごつごつするような魔力気配は感じたんだけど・・・私も、お酒飲んでて、気が緩んでたのさ。魔力漏れてたみたいで。」



居た堪れず、語尾が萎んでしまう。
大きく息を吐く、こーくんと師匠。



「はぁ、感じ方の違いがあるのは、分かってはいるけど・・・ってか、分かってたんなら、拒みなよ。」

「うー。あからさまなのって、久しぶり過ぎて、よく分かんなかったんだもん・・・」

「ちょっかいかけて、無反応だったから、触りたい放題で、勘違いか・・・やっぱり、〆るか。」

「ししょ、いいよ。私が、ちゃんとしてなかったからだし。」

「・・・お前なぁ。」

「リンさん、もろ痴漢されてんのに、自分が悪いって持ってかんでいーですよ。触る奴が悪いんだから。とりま、今後については、俺が魔導具作ってガードするっスから。」

「ん。カンお願いね。」

「りょーかいっス。コウさん。」

「・・・なんか、本当にすいませんでした。」
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