転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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モースバーグ国横断、1/3の夢旅人

287.クラスAが集まってみた 其の七

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私の挑発的な台詞に、ヴォルフさんの顔が怒りに歪む。

まぁ、私だって、彼や彼のパーティーがどのような戦い方をしているかなんて見たことがないから、偉そうなことは言っちゃいけないと思うんだけど。

それでも。

ランキング的に、トップランカーであるこーくんに敵わなくて。どこか敵視していて。
本気を出してない、カン君の脅し術式に二度も引っかかって。
・・・そんな人が、師匠になんてかないっこないだろうことは、容易に想像できてしまう。

ここまでディスるようなことを言ってしまって、申し訳ないとは思う。
でも、私が『旅馬車トラベリン・バス』から抜けることなんてないことを、本気で分かってもらう為に、曖昧で思わせぶりな態度は、逆に失礼だろうから。



「さっきからなんなの!?ウチのヴォルフリーダーが弱いとでも!?」



急に、治癒師のシャナティさんが声を上げた。



「何よ!昔は強かったのかもしれないけど、最近までB級だったんでしょ!それなのにっ!」

「・・・ほぅ?」

「シャナティっ!やめろ!」



すぐさま、ヴォルフさんが彼女を制したけど、時すでに遅し。
やばい、と思って、側にいた師匠の方を見あげる。
すると彼は、にやり、と獰猛な笑みを見せて、ぞわり、と背筋に寒気がする程の威圧を放ち始めた。

・・・やばい、めっちゃカッけぇ。
やっぱり、この凶悪顔好きだなぁ。

じゃなくて!ヤバイヤバイ。
あんな威圧受けたら、彼女はたまったモンじゃないだろう。



「確かに俺は出戻りのA級だがな。お前らごときに遅れをとるとは思っていないぞ?」

「ひっ!?」



ズゴゴゴ・・・と、音が出そうな程、威圧どころか、殺気混じりの怒気が滲み出ている。
わぁ、リアル不動明王だ。

ガタガタと震えるシャナティさんの顔は、完全に青ざめてしまっている。



「師匠、ストップ。その威圧は外にも影響出ますから、やめて下さい。」

「あ゛ぁ?お前なぁ・・・保護者兼夫候補がこんなトコで舐められちゃ、やってらんねぇよ?折角リンが信頼してくれてんだから、充分強いトコ見せとかんと。」



ズボンのポケット部分を掴んで、くい、と引くと、師匠はこちらを見て笑う。
そして、太い人差し指で、猫の首を撫でるが如く、私の頬をフニフニと撫でる。
その状態で、ニタリ、とヤクザ顔するの、どうかと思うの。・・・カッコいいけど。
その姿を見て、自分の顔に少し熱がこもった、気がした。

何かを察したように、背後から伸びる腕に力が入る。



「おい、コウ。妬いてんじゃねぇ。」

「うっさいですよ。外見アドバンテージが無い分、こっちだって必死なんですから。」



背後で、師匠と兄弟子がなんか言ってる。
隣に座るロイドさんが、大きなため息をついた。



「あー・・・ファーマス。コウも、その辺にしとけ。」



そして、この空気でも、ぶった斬れるロイドさんギルマス、ホントすげぇ。
2人をチラ見し、静止させると、再度『牙狼ファングウルフ』 に向き直る。



「あんなぁ、何を勘違いしてんだか知らないが、ファーマスがB級になっていたのは、『ケルベロス』の馬鹿どもの一件があったからだ。ギルド側の制裁ではなく、あくまでも自主的なランク変更とした。魔獣を当てられたケガの所為ってことにはしたが、アイツらが『使えないA級』だと証明するための布石だったんだよ。大体にしてな、昨年のギルド全体の貢献度でいや、ファーマス達『猟犬グレイハウンド』はクラスBであるにも関わらず、3位だかんな?」

「なっ!?」

「まぁ、結果なんて、クラス毎にしか出んし、どうせお前ら『クラスA』の順位結果しか見てないんだろうがな。『猟犬グレイハウンド』は、立派な稼ぎ頭なんだよ。その結果を持ってして、『ケルベロス』の処遇について、王都ギルド本局に降格申請を通す予定でいたんだ。ま、リン達のお陰で、降格どころか、しっかり犯罪者で追放できて何よりだったがな。」

「でも、それは、ニースの森の素材が高額だからであってっ・・・」

「やめろ、ドッツ。」



魔術師さんが口を開いたけど、やっぱり師匠達をディスらないと気が済まないようだ。
ヴォルフさんが止めるも、ロイドさんが、その様子を鼻で笑う。



「・・・『牙狼ファングウルフ』 は、クラスAで5位だったか。でもな、全体で言ったら6位なワケだ。・・・言っておくがな、『ニースの森の素材めぐみ』がどんなに希少で高額でも、それはコイツらの戦績にはならん。基本的に、あそこの素材めぐみは、集落の者達が採取し、加工して卸しているからな。ファーマス達の仕事は、それの護衛や運搬が主だ。その護衛依頼だって、あくまでも一般的な料金だ。治療師レザリックからの直接指名採取依頼はあるが、それだって法外な高額では無い。つまりはそれ以外の討伐依頼で稼いでんだ。ニースの森にうじゃうじゃいる高ランク魔獣を倒し、守護者として管理してんのは『猟犬グレイハウンド』だぞ?・・・ソイツらがB級だからと言ってお前らなんかより弱いワケがねぇだろうが!!」



ドガン、と机にヒビが入るんじゃないかってくらいに、ロイドさんが机上を拳で打った。



「ウチの『旅馬車トラベリン・バス』『猟犬グレイハウンド』は、最強のパーティーだ。力量差も分からん、ファーマスの威圧で青ざめる程度の餓鬼が、偉そうなことほざいてんじゃねぇ!」



ロイドさんも、充分に威圧を放っております。元A級ギルマスは、パ無いですなぁ。
てか、全部美味しいところ持ってかれた気もするけど。



「さて、リンが『牙狼ファングウルフ』に移籍した所で、現状の利益とメリット以上の何かは期待できない。寧ろ、本人のバトルスタイルを阻害し、依頼達成に支障が出、むしろ立場を危うくしかねないと判断する。よって、この交換トレードは承認不可。話は以上だ。」



ロイドさんの宣言に、ヴォルフさんが唇を噛む。
魔術師さんと治療師さん、弓師さんは、師匠とロイドさんの威圧に当てられて、顔色は青ざめたまま。
斥候さんは、この結果も予測していたのか、軽い溜息を一つこぼした。



「この件は、クリコフ支部のギルマス、ニコラスに、抗議と共に連絡済みだ。そんなニコラスから、お前らに伝言だ。『粋がって油売ってねーで、討伐依頼こなしやがれ!』だそうだ。クラスAの火蜥蜴サラマンダーが、何体か人里に降りてきてるらしいぞ?・・・他支部ヒトん家劣竜種仕事に手ェ出す前に、自支部手前ェん家火蜥蜴問題片付けてからにしろや。」


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