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モースバーグ国横断、1/3の夢旅人
286.クラスAが集まってみた 其の六
しおりを挟む言い切ったこーくんは、また、ぎゅうと私を抱きしめた。
うーん。
私の背後で、ものすごいドヤ顔で、言い切ったんだろうなぁ・・・
なんかもう、どーでもいーや。
早く旅に出たい。
ここしばらく、人ばっかり相手して、魔獣狩りしてないから、身体動かしたい。
「ふっ、ざけんな!何でお前が決めんだ。そこに、彼女の、リンの気持ちはあるのかよ!」
・・・え?
何でそこで私に振るかな。
「今更、重たい執着で、束縛して、彼女は幸せだって言えるのか!?」
ん?
思わず首を傾げてしまう。
束縛されてる?
いや。
寧ろ、私の方が足枷でしょうよ。
幸せ・・・かぁ。
現状、幸せ、なんだと思うよ?
それよりも、見守ってくれる3人に、何も返せていないのが、心苦しいだけで。
こんなメンドクサイ人間、根気よく相手してくれて、申し訳ないんだけど。
私がいない方がさぁ・・・みんな、もっと自由な筈なのに。
ぐるぐると、また、思考の波に落ちていく。
「『鈴』」
「っ!」
そっと、耳元で真名を囁かれ、びくりとする。
「また、なんか小難しいこと考えてるしょ?言ったよね?『君と一緒に幸せになりたい物好き』は、必ず側に居るんだ。君を1人にはしないから。」
「ぅん。ありがと・・・」
目を閉じて、少しだけ、こーくんの身体に寄りかかる。
背中に感じる温もりが、心地よくて、懐かしくて。
安心して、泣きそうになる。
「リン!アンタは、そんな執着心の塊のような奴の元にいる必要はない!いいように刷り込まれているだけだ!もっと自由に生きれるんだ!」
ヴォルフさんが叫ぶ。
心配してくれているのだとは思うけど。
耳触りのよい、上っ面だけの言葉に聞こえてしまう。
・・・だって、私のことを何も知らないよね?
こーくんの本質だって知らないクセに。
なのに、なんで、こーくんに騙されてるなんて言えんの?
こーくんが、ここまでベタベタしてくるのは、嫌なわけじゃない。
・・・人前だから、嫌なだけで。
くっついてる時の安心感は、段違、なんだよね。
「自由・・・ですか?」
「そうさ。」
ヴォルフさんは、痛ましいものを見るように私を見つめる。
何故、憐れまれる必要があるのだろうか。
「リン。」
ゾクゾクするほどの低音イケボが耳朶を打った。
振り向くと、いつの間にか、大きな体躯が私の側にいる。
「お前なぁ、もうちょっと顔に出せ。」
「?」
「人前でイチャつくのに抵抗あるのは分かるが、少しは顔を赤らめるとかしとけよ。お前は本気で照れたら無表情になるから、あーゆー輩が勘違いすんだ。」
「っ?」
思わぬ師匠の言葉に、狼狽える。
すんごい眉にシワが入ってると思う。
「ホントっス。ツンデレが過ぎてクーデレですからねぇ、リンさんは。バカップルになれとは言いませんから、少しは、人前でデレを出しても良いと思いますよ?」
「ふなっ?」
カン君の追撃で、またHPが抉られる。
すると、こーくんが、視界を隠すように頭を抱えてきた。
「2人とも。いいんだよ、リンはこのまんまで。照れた可愛い顔も、デレて惚けた顔も、有象無象に見せるわけ無いじゃん。そんな顔は、僕らが知ってればいーの。」
「にゃっ!」
「あー・・・分かった分かった。お前ら全員色ボケしてやがんのは分かったから。それ以上お前らが話すな。ややこしくなる。・・・で、リン。お前は『旅馬車』を抜けて、『牙狼』 に入る気はあんのか?」
隣でロイドさんが、呆れたように話を切った。
どこか、投げやりちっくに言われた台詞は、話を戻すのに充分で。
「・・・え?ありませんけど?」
「おい、リン!」
即答した私に、ヴォルフさんは眉を顰めた。
その様子を見ながらも、ロイドさんは淡々と話を進める。
「その理由は?」
「私のバトルスタイルが生かされるのが、この面子だから。基本的に、カン君が強化支援かけまくってくれるから、前面で思う存分戦えるし。大ボス戦なら、こーくんが簡易盾をしてくれるから、私も遠距離・近距離スイッチできて、連携も取りやすい。そんな中でも盾をお願いしなきゃならん、ってんなら、師匠以外は信頼ができない。雑魚一掃する時に、通常盾のように私の前にいられると邪魔。その点師匠は、私の意図を汲んでくれて、雑魚を追い込んでくれるから、一斉駆除がやりやすい。大体にして、私の職業、『銃剣闘士』をキチンと理解してくれてるのは、今の面子と『猟犬』の面子。その他の人に、私の生い立ちやら、銃剣のことやら、特殊なバトルスタイルやら、一から説明して、連携訓練して、パーティー組み直すなんて、面倒臭いからやりたくない。」
ほぼ、ワンブレスで言い切った私の発言に、一瞬の間が生まれる。
そして、こちらの男共が一斉に爆笑した。
「・・・ったく、色恋全く関係ねぇじゃねぇか。ちったぁ表に出せって言ってんだろ。」
「オブラートにも包まない本音キター。現実感満載で、めちゃめちゃ草生えるじゃないっスか。」
「安定のリン・クオリティで、ホッとするねぇ。信頼してくれて、嬉しい。」
「・・・ま、まぁ、パーティーへの所属継続には、もっともな理由だな。」
爆笑されているのは解せないけど。
私の性格を理解して、ある程度放置して、自由に戦わせてくれるなんて、至れり尽くせりが過ぎるでしょうよ。
私がイレギュラーな動きをしても、それは織り込み済みで、直ぐに意図を理解してくれるから、戦いやすくて、居心地いいんだもの。
ヴォルフさん達、『牙狼』の面々が、驚いた顔のままコチラを見ていた。
・・・今の私の思いは、言葉にしないと伝わらない。言葉によっては誤解を生むけど、言葉を尽くさなきゃ分かってもらえない。
すぅ、と息を吸い込み、お腹に力を入れ、ヴォルフさんを見据えた。
「・・・てか、冒険者として仕事をするにあたって、気持ちよく戦わせてくれる仲間って、それだけで稀有じゃないですか?・・・私の思考パターンも、動きのクセも熟知していて。だから、目線の動きだけでも、次の展開が分かり合えるし、動きに無駄がなくなる。そんな状況に感謝はあれど、不満は全くありませんから、所属変更はあり得ません。」
「そんなっ、組んでみなけりゃ、分からない事だって、あるだろ?」
なおも、食い下がるヴォルフさん。
もう懸念事項は解決されてる筈なのになぁ。
あんまりシツコイと、嫌悪感情ついちゃう。腹芸苦手だから、今後共闘とかする場合に、支障が出ちゃうし、ヤダなぁ・・・
「・・・ヴォルフさん、お心遣い痛み入ります。ですが、昨日もお伝えしました通り、私やカン君の『黒持ち』の件も、パーティー所属の件も、当初から計画し、調整して今に至っております。私にとって、今この状態がベストだと思ってますので、お気遣いは無用です。」
「でも、それは!」
「・・・たとえ、貴方の仰るように、傍から見て、コウの束縛、執着が酷かったとしても、今現状、私が魔獣討伐するにあたって支障は全くありません。困り感が無いのに、所属を変わる必要がありますか?」
「まぁ、コウさんの束縛に執着は、別にヤンデレやDVな方面じゃ無いですし。ただの溺愛っスからねぇ。魂レベルで嫁大好き人間なんでしょ。」
「ん。そのとーり。リンが本気で嫌がる事なんてしないよ?」
そこで、そんなカン君の合いの手いらない。
こーくんもそこに、乗っかんなくていいっちゅーのな?
とりあえず2人は無視して、私は話を進める。
「・・・ヴォルフさん、貴方はお強いのでしょうが、貴方のバトルスタイルと、私のバトルスタイルは根本的に合わないと思います。共闘して仕事をしたわけでも無い、何も分かりあえてないうちから、メンバー交換を打診してくるあたり、貴方は自己中心的に物事を進める方と判断します。カリスマ性を求めるタイプのメンバーとなら、上手くいくのでしょう。だから貴方はランクAのパーティーを運営している。ですが、私も好き勝手に動きたい方ですから、貴方のような、強引なモノの進め方をされるような方とは、きっと上手くいかないと思います。」
「それは・・・っ」
「それに・・・ヴォルフさん、貴方は前衛職ですよね?」
「あぁ、そうだ。」
「先程も言いましたが、私が盾役として信頼を置くのは、師匠であるファーマスさんのみ。昨日、今日とカン君が貴方に放った捕縛魔法への対応を鑑みて、私には、貴方がファーマスさんより強いとは到底思えません。」
「あ。リンさんがさらっとデレた。師匠良かったスね。」
「・・・あぁ。」
・・・外野、やかましい。
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