転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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モースバーグ国横断、1/3の夢旅人

285.クラスAが集まってみた 其の五

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※ 局地的に、お砂糖注意報がでております。
 読み進める際は、糖度にお気をつけ下さいませw



**************





バン!と、礼儀も何も無く、勢いよく開け放たれた扉から、こーくんが転がり込んできた。

少し息が上がり、頬が上気している。
わぁ、色気ダダ漏れ。
ちら、と、『牙狼ファングウルフ』の方を見ると、治療師のシャナティさんが頬を赤らめていた。

その後ろからは、やれやれ、と言った様子で師匠が、そして、少し困惑した表情でナウルさんが会議室へと入ってきた。

ざっと、素早く周囲を見回したこーくんは、会議室入口側に座っていた私の元へと、満面の笑みで一直線にやってくる。



「リーンーっ!終わったぁ!これでホント終わりっ!もっとかかると思ったけど頑張った!褒めてっ!」

「ちょっ、こーくんっ!?」


 
ガバッと音がするんじゃないかって勢いで抱きつかれ、私の首横に頭を押し付けるように、ぐりぐりスリスリしてくる。

ちょ、マジ恥ずい。やめて。



「ホント、リンとカンのおかげで、終わったよ?ありがとっ!」

「わっ!わかった、からっ!ちょ、痛いって!」



こーくんの、ぐりぐり攻撃が止まらない。
牙狼ファングウルフ』のメンバーが、ビックリした顔で固まっている。
ロイドさんとカン君は、生暖かい目線を向けてくる。

こっち見んな。

・・・つか、これ、絶対ワザとだよね?

すると、ぴた、と止まったこーくんが、少し身体を離す。
何事?とおもったら、頭を擦り付けていた左側の首筋に、生暖かい感触と、ちり、とした痛みが走った。



「ちょ、ばかっ!!」

「ん?なぁに?綺麗に付いたよ?」



こーくんは、屈めていた姿勢を戻し、にっこりと、色気のある笑みを浮かべて、唾液で濡れた唇を親指で拭う。

・・・ダメだ、コイツ。完全に愉快犯だ。

多分つけられた跡の辺りを左手で押さえ、ジト目でこーくんを見上げる。
すると、トドメと言わんばかりに、軽いリップ音をたてて、額に唇が触れた。

・・・やめれや、この似非イタリア人。
キャラ変しすぎて、キャラ崩壊しとるがな。

私は多分、すんごい嫌顔してるのに、構うことなくニコニコしてやがる。
そして、置いていかれた周りは、完全に固まってる。

すると、こーくんは、私に向けていた色気漏れの笑顔から一転。型にハマったような作り笑顔を『牙狼ファングウルフ』の方へ向けた。



「さて・・・と、『牙狼ファングウルフ』のヴォルフ君、久しぶりだねぇ?何用でミッドランド支部の出張所まで出向いたのかなぁ?」



すっげぇ、白々しい。
ニッコニコで目が笑ってないよ?怖いよ?
ヴォルフさんは、信じられない物を見るような目で、こちらを見ていた。
回答を待たずに、更にこーくんは話し続ける。



「ねぇ?ヴォルフ君。まさか、僕の大事な仲間パートナーを掠めとろうなんて、馬鹿な事を考えてなんか、いないよねぇ?」

「・・・お前、誰だよ。」



ようやく開いたヴォルフさんの口から吐き出された言葉から、戸惑いの色が隠せないのがよく分かった。
彼の知るこーくんと、今この場にいるこーくんの状態の乖離が酷すぎるんだろう。



「なんだい?僕が、偽物だとでも?心外だなぁ。 ・・・僕は、モースバーグ国冒険者ギルド、王都ギルド所属を改め、ファルコ領ミッドランド支部所属、A級ライセンス、コウラル=チェスター。所属パーティーである、クラスA『旅馬車トラベリン・バス』のパーティーリーダーだよ?」

「っ!何だよっその豹変具合は!!」

「何がぁ?僕はコレが素だけど?」



作り笑顔でニコニコしながら、椅子に座っている私の背後に回る。
そして、後ろからハグの姿勢。
だーかーらー。



「・・・ね、やめて?」

「やぁだ。人前でイチャイチャしないと馬鹿が湧く事が分かったから。も、自重しなーい。」

「・・・ぅ。」



耳元で囁くなっちゅーのに!
背中ぞわぞわするっ!
ぶるっ、と身震いすると、クスクス笑いながら「寒いの?」と、ますます強く腕に囲われた。

ーーー 寒いのは、お主の行動じゃ!

身動いで逃げようとしても、離してくれる気配はない。
なんかもう、ツッコミ疲れたよ。

若干魂が抜けかかりながら、半眼でこの場をやり過ごすことに決めた。

ふと周りを見ると、ロイドさんは、いつの間にか近づいていたナウルさんと、コソコソと打ち合わせていた。
師匠は、入り口付近で腕組みをして佇んでいる。



「コウさん、イチャるのはそこら辺にして。話を進めてくださーい。」



ロイドさんを挟んだカン君から、声が飛んでくる。



「えー・・・分かったよ。メンドくさいなぁ。とりあえず、どういった状況?」

「『牙狼ファングウルフ』からの、交換トレード要求だ。」



ロイドさんが、端的に説明する。
すると、間髪を入れずにこーくんが答える。



「んなもん、却下。交換トレードの必要がある場合は、『猟犬グレイハウンド』に頼みますんで。ファーマスさん、問題ないですよね?」

「あぁ、構わん。リンならイズマ、カンならベネリで問題ねぇ。」

「はい。これで、この話は終了。ま、交換トレードの必要なんてないんだけどね。」



こーくんは、はぁ、と息を吐き出し、私を囲う腕にまた力を入れる。
ヴォルフさんが、その様子を見てなのか、ぎり、と唇を噛み締めた。



「何のために、A級を急いだと思ってんのさ。・・・彼らが絡め取られないよう、この国での貴族権限を行使するためだ。」

「まさかっ!」

「A級ライセンス冒険者は、下位貴族同等の身分証明、並びに権限が行使できる。・・・一妻多夫の条件を満たしているんだよね、僕ら。」

「何で・・・よりによって、何で彼女なんだよっ。お前!今まで、人になんか興味なかったじゃねぇか!誰に対してもスカした態度で、それ以上踏み込まないし、踏み込ませない。『特別』なんて作らなかったくせに!」

「そんなの、リンだからに決まってんじゃん。君の言う、僕の『特別』はリンだもの。僕の興味は、全部リンに極振りされてる。だって僕は、彼女を探すために生きてきたも同然だからね。その他大勢に対して、同じ対応をとって、何が悪いのかな?それなりに共闘依頼も受けてたし、塩対応じゃないだけ、褒めてもらっても良いと思うんだけどなぁ?だって、構わない、相手にしない、という選択肢だってあったんだから。」



そう言いながらこーくんは、ちゃり、と私の胸元から盾のチャームを取り出す。そして、それにそっと口付けた。



「・・・てな訳で、リンの夫に当たるのは、僕とカン、そしてファーマスさん。この3人以外、リンが迎え入れることはない。残念だけどヴォルフ君、君の出番はないからね?」


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