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モースバーグ国横断、1/3の夢旅人
285.クラスAが集まってみた 其の五
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バン!と、礼儀も何も無く、勢いよく開け放たれた扉から、こーくんが転がり込んできた。
少し息が上がり、頬が上気している。
わぁ、色気ダダ漏れ。
ちら、と、『牙狼』の方を見ると、治療師のシャナティさんが頬を赤らめていた。
その後ろからは、やれやれ、と言った様子で師匠が、そして、少し困惑した表情でナウルさんが会議室へと入ってきた。
ざっと、素早く周囲を見回したこーくんは、会議室入口側に座っていた私の元へと、満面の笑みで一直線にやってくる。
「リーンーっ!終わったぁ!これでホント終わりっ!もっとかかると思ったけど頑張った!褒めてっ!」
「ちょっ、こーくんっ!?」
ガバッと音がするんじゃないかって勢いで抱きつかれ、私の首横に頭を押し付けるように、ぐりぐりスリスリしてくる。
ちょ、マジ恥ずい。やめて。
「ホント、リンとカンのおかげで、終わったよ?ありがとっ!」
「わっ!わかった、からっ!ちょ、痛いって!」
こーくんの、ぐりぐり攻撃が止まらない。
『牙狼』のメンバーが、ビックリした顔で固まっている。
ロイドさんとカン君は、生暖かい目線を向けてくる。
こっち見んな。
・・・つか、これ、絶対ワザとだよね?
すると、ぴた、と止まったこーくんが、少し身体を離す。
何事?とおもったら、頭を擦り付けていた左側の首筋に、生暖かい感触と、ちり、とした痛みが走った。
「ちょ、ばかっ!!」
「ん?なぁに?綺麗に付いたよ?」
こーくんは、屈めていた姿勢を戻し、にっこりと、色気のある笑みを浮かべて、唾液で濡れた唇を親指で拭う。
・・・ダメだ、コイツ。完全に愉快犯だ。
多分つけられた跡の辺りを左手で押さえ、ジト目でこーくんを見上げる。
すると、トドメと言わんばかりに、軽いリップ音をたてて、額に唇が触れた。
・・・やめれや、この似非イタリア人。
キャラ変しすぎて、キャラ崩壊しとるがな。
私は多分、すんごい嫌顔してるのに、構うことなくニコニコしてやがる。
そして、置いていかれた周りは、完全に固まってる。
すると、こーくんは、私に向けていた色気漏れの笑顔から一転。型にハマったような作り笑顔を『牙狼』の方へ向けた。
「さて・・・と、『牙狼』のヴォルフ君、久しぶりだねぇ?何用でミッドランド支部の出張所まで出向いたのかなぁ?」
すっげぇ、白々しい。
ニッコニコで目が笑ってないよ?怖いよ?
ヴォルフさんは、信じられない物を見るような目で、こちらを見ていた。
回答を待たずに、更にこーくんは話し続ける。
「ねぇ?ヴォルフ君。まさか、僕の大事な仲間を掠めとろうなんて、馬鹿な事を考えてなんか、いないよねぇ?」
「・・・お前、誰だよ。」
ようやく開いたヴォルフさんの口から吐き出された言葉から、戸惑いの色が隠せないのがよく分かった。
彼の知るこーくんと、今この場にいるこーくんの状態の乖離が酷すぎるんだろう。
「なんだい?僕が、偽物だとでも?心外だなぁ。 ・・・僕は、モースバーグ国冒険者ギルド、王都ギルド所属を改め、ファルコ領ミッドランド支部所属、A級ライセンス、コウラル=チェスター。所属パーティーである、クラスA『旅馬車』のパーティーリーダーだよ?」
「っ!何だよっその豹変具合は!!」
「何がぁ?僕はコレが素だけど?」
作り笑顔でニコニコしながら、椅子に座っている私の背後に回る。
そして、後ろからハグの姿勢。
だーかーらー。
「・・・ね、やめて?」
「やぁだ。人前でイチャイチャしないと馬鹿が湧く事が分かったから。も、自重しなーい。」
「・・・ぅ。」
耳元で囁くなっちゅーのに!
背中ぞわぞわするっ!
ぶるっ、と身震いすると、クスクス笑いながら「寒いの?」と、ますます強く腕に囲われた。
ーーー 寒いのは、お主の行動じゃ!
身動いで逃げようとしても、離してくれる気配はない。
なんかもう、ツッコミ疲れたよ。
若干魂が抜けかかりながら、半眼でこの場をやり過ごすことに決めた。
ふと周りを見ると、ロイドさんは、いつの間にか近づいていたナウルさんと、コソコソと打ち合わせていた。
師匠は、入り口付近で腕組みをして佇んでいる。
「コウさん、イチャるのはそこら辺にして。話を進めてくださーい。」
ロイドさんを挟んだカン君から、声が飛んでくる。
「えー・・・分かったよ。メンドくさいなぁ。とりあえず、どういった状況?」
「『牙狼』からの、交換要求だ。」
ロイドさんが、端的に説明する。
すると、間髪を入れずにこーくんが答える。
「んなもん、却下。交換の必要がある場合は、『猟犬』に頼みますんで。ファーマスさん、問題ないですよね?」
「あぁ、構わん。リンならイズマ、カンならベネリで問題ねぇ。」
「はい。これで、この話は終了。ま、交換の必要なんてないんだけどね。」
こーくんは、はぁ、と息を吐き出し、私を囲う腕にまた力を入れる。
ヴォルフさんが、その様子を見てなのか、ぎり、と唇を噛み締めた。
「何のために、A級を急いだと思ってんのさ。・・・彼らが絡め取られないよう、この国での貴族権限を行使するためだ。」
「まさかっ!」
「A級ライセンス冒険者は、下位貴族同等の身分証明、並びに権限が行使できる。・・・一妻多夫の条件を満たしているんだよね、僕ら。」
「何で・・・よりによって、何で彼女なんだよっ。お前!今まで、人になんか興味なかったじゃねぇか!誰に対してもスカした態度で、それ以上踏み込まないし、踏み込ませない。『特別』なんて作らなかったくせに!」
「そんなの、リンだからに決まってんじゃん。君の言う、僕の『特別』はリンだもの。僕の興味は、全部リンに極振りされてる。だって僕は、彼女を探すために生きてきたも同然だからね。その他大勢に対して、同じ対応をとって、何が悪いのかな?それなりに共闘依頼も受けてたし、塩対応じゃないだけ、褒めてもらっても良いと思うんだけどなぁ?だって、構わない、相手にしない、という選択肢だってあったんだから。」
そう言いながらこーくんは、ちゃり、と私の胸元から盾のチャームを取り出す。そして、それにそっと口付けた。
「・・・てな訳で、リンの夫に当たるのは、僕とカン、そしてファーマスさん。この3人以外、リンが迎え入れることはない。残念だけどヴォルフ君、君の出番はないからね?」
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