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モースバーグ国横断、1/3の夢旅人
280.屋台村にて 其の四
しおりを挟む痛いほどに、ヴォルフさんの視線が刺さる。
「・・・もう1人、黒髪、しかも男、だと?」
「おい、ヴォルフ。」
また、威圧がかかる。殺気も濃厚だ。
彼の仲間らしい人達も寄ってきた。
「今の魔法は、お前のか・・・街中で、魔法行使とはな。いい度胸してやがる。」
「えぇ。俺の仲間に手を出そうとした、不埒者の気配を感じたんでね。仕方なくですよ。」
「・・・お前、名前は?」
「ヴォルフ、止めろ。喧嘩始める気か?」
ヴォルフさんのお仲間らしき斥候役っぽい人が、彼をなだめに入る。
しかし、彼はカン君に殺気を向けたまま、視線を外そうとしない。
カン君は、私の側で仁王立ちし、糸目で見下ろす格好だ。
「名前はっ!?」
「おぃ、ヴォルフっ!」
「はぁ・・・」
なだめる斥候役を振り切る勢いで、ヴォルフさんは怒鳴る。
カン君は、ポリポリと頭を掻くと、大きく息を吐いた。
そして、正面から彼を見据え、口を開く。
「俺は、モースバーグ国冒険者ギルド、ファルコ領ミッドランド支部所属、A級ライセンス、カン=マーロウ。所属パーティーは、クラスA『旅馬車』。パーティーリーダーは、現A級ライセンストップである、コウラル=チェスターだ。」
「なっ!」
「はぁっ!?」
その宣言に、ヴォルフさんも、斥候さんも、そして騒ぎを見ていつの間にか揃っていた彼のパーティーメンバーと思しき3人も、一斉に声を上げる。
魔術師風の男性に、弓師の男性と、回復役系っぽい女性。
「・・・テメェ、フカシてんじゃねぇぞ。」
「笑えない冗談ですね。」
ヴォルフさんの殺気が増す。
パーティーメンバーであろう、魔術師風の男性も参戦してきた。
他のメンバー達も、顰めっ面だ。
「・・・は?冗談言ってアンタらに付き合うほど、コッチはヒマじゃねぇよ。どーせ、ミッドランド支部のクラスAは、『ケルベロス』しかいないとか踏んで、ココに来たんだろうさ。いつのだよって情報しか持ってないんだろ?」
「何だとっ!」
「『ケルベロス』なんぞ、数か月も前に犯罪やらかして、とっくにライセンス剥奪されて、収容所送りだし。劣竜種討伐なんて、1か月前に終わった話だ。情弱乙。」
わぁ、カン君のお口が悪い。
おねーさん、君をそんな子に育てた覚えはありませんよ?
ってか、さっきの私の情報から、そんなに煽らないでくれるかなぁ。
「何だと!」
「言わせておけばっ!」
「ホントの事だろーが。女のケツ追っかけてる間に、正しい情報仕入れたらどーだっつーの。」
耳の穴小指で穿りながら、話しないの。態度悪ぃよ?
『牙狼』の皆さんが、顔真っ赤にしとるがな。
あー、もー。
街中戦闘はかんべーん。
「いーかげんにしなさい。」
「あだっ」
どうしようもなくなり、背後からカン君の頭にチョップする。
「なんスかっ!」
「私も大概だけど、君も無駄に煽らないの。彼方は先輩冒険者だし、今後共闘しなきゃなんない時もあるかもしれないんだから。」
そう言いながら、カン君の前に進み出る。そして、頭を下げた。
「『牙狼』の皆様、彼が失礼な言動で煽った事はお詫びいたします。仲間意識が強く、気が短いので、私がヴォルフさんに手を出されたと、早とちりしたみたいです。申し訳ありません。」
「リンさんっ!?」
「ほぉ?・・・で、偽情報を掴ませようとしたことは?どう落とし前をつけてくれる?」
ヴォルフさんが、私の顔を見て、ニヤリと笑う。
それに対しては、スキル『窓口スマイル』で応対する。役場で培ったクレーム対応舐めんな。
「私が謝罪したのは、彼が皆様に失礼な態度をとったことだけ。彼が話した事は全て真実ですが?」
「なっ?」
「私は先程、ヴォルフさんに申し上げました。『明日にでもギルド出張所にてご確認頂ければ』と。それは、真実を告げても、今のような反応が返ってくると思ったからです。又聞きや伝聞よりは、キチンと組織に問い合わせて回答頂いた方が、ご納得頂けると思いますが。」
感情を込めず、窓口スマイルで淡々と返答する。
引かない一線は守る。真実は曲げない。
納得できない、文句があるなら、ギルドに問い合わせてからにしろ。
笑顔で無言の圧力をかけると、『牙狼』の面々は、黙り込む。
「・・・貴女達は、何者なんですか?」
沈黙を破るように、魔術師の男性が口を開く。
私は、胸元から、金色のドッグタグを取り出す。
「私は、約1か月前にA級ライセンスとなった、リン=ブロックと申します。同時期に、コウラル=チェスターによって結成された、クラスAパーティー『旅馬車』のメンバーです。先程ヴォルフさんから私の『色』へのご懸念に対し、解決済みとお伝えしたのは、そう言う訳です。」
「嘘!コウは誰ともパーティーを組まない事で有名よ!現に私達だって断られたわ!」
回復役魔術師の女性が、声を上げる。
自分達がこーくんに断られたからって、その後、彼がパーティー組まない理由の裏付けにはならんだろうが。
「・・・ですから、お疑いになるのであれば、明日にでも冒険者ギルド出張所でご確認下さいな。現在、諸所のトラブル対応で、ミッドランド支部のギルマス、ロイド氏が出向いているはずですから。」
「・・・なぁ、リン。それは本当なんだな?」
「ちょっと!ヴォルフ!」
ヴォルフさんが、私を見据える。少し頭が冷えたのだろう。威圧が収まっている。
つか、なんで名前呼びさ。
「はい。ついでに言いますと、現在ミッドランド支部所属のクラスAパーティーは2組。私達『旅馬車』と『英雄』ファーマスが率いる『猟犬』。数か月前に『ケルベロス』と、彼らの悪事に関わった者達の捕縛後、『猟犬』のファーマスさんはA級ライセンスへ復帰。メンバーであるベネリさん、イズマさんもA級に昇格していらっしゃいます。故に、パーティークラスもAへと昇格しております。
次に、劣竜種討伐ですが、1か月前に、同じくミッドランド支部所属のクラスBパーティー『影猿』等の協力の元、『旅馬車』と『猟犬』の共闘により討伐終了しておりますので、悪しからず。それでは失礼致します。」
そこまで一気に早口で捲くし立てると、私は一礼する。そして、テーブルの上を片付けながら、残っていたエールを一気飲みした。
けぷ、と軽く炭酸が胃から抜ける。
ゴミをまとめ、コップは販売屋台に返却するため別に持つ。
「さて、カン君、帰ろ?」
「・・・うス。」
立ち尽くしていたカン君に声をかけると、にま、と嬉しそうな顔をして付いてきた。
「ちょっと、待ってくれ!」
「?」
その声に振り返ると、バツの悪そうな顔をしたヴォルフさんが、片手を上げ呼び止める姿勢でこちらを見ている。
「まだ、何か?」
「・・・リン、アンタの言い分はわかった。俺たちは明日、ギルドに出向く。」
「はい。お好きになさって下さい。」
「で、だ、明日、ギルドで会えないか?」
「何でアンタの言う事を聞かんきゃならん。」
「カン君。」
兎に角食ってかかるカン君を止め、私はヴォルフさんに向き直る。
「わかりました。元々、出張所には用事がありましたから。私達は、朝10の刻頃に向かいますので、それで宜しければ。」
「あ、あぁ。」
「では、失礼します。」
「ちょぃまち・・・」
彼はまだ、何かを言いかけていたが、私は素早く頭を下げて、カン君の右手首を掴んで、その場を立ち去った。
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