転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
288 / 393
モースバーグ国横断、1/3の夢旅人

280.屋台村にて 其の四

しおりを挟む



痛いほどに、ヴォルフさんの視線が刺さる。



「・・・もう1人、黒髪、しかも男、だと?」

「おい、ヴォルフ。」



また、威圧がかかる。殺気も濃厚だ。
彼の仲間らしい人達も寄ってきた。



「今の魔法は、お前のか・・・街中で、魔法行使とはな。いい度胸してやがる。」

「えぇ。俺の仲間パートナーに手を出そうとした、不埒者の気配を感じたんでね。仕方なくですよ。」

「・・・お前、名前は?」

「ヴォルフ、止めろ。喧嘩始める気か?」



ヴォルフさんのお仲間らしき斥候役っぽい人が、彼をなだめに入る。
しかし、彼はカン君に殺気を向けたまま、視線を外そうとしない。
カン君は、私の側で仁王立ちし、糸目で見下ろす格好だ。



「名前はっ!?」

「おぃ、ヴォルフっ!」

「はぁ・・・」



なだめる斥候役を振り切る勢いで、ヴォルフさんは怒鳴る。
カン君は、ポリポリと頭を掻くと、大きく息を吐いた。
そして、正面から彼を見据え、口を開く。



「俺は、モースバーグ国冒険者ギルド、ファルコ領ミッドランド支部所属、A級ライセンス、カン=マーロウ。所属パーティーは、クラスA『旅馬車トラベリン・バス』。パーティーリーダーは、現A級ライセンストップである、コウラル=チェスターだ。」

「なっ!」

「はぁっ!?」



その宣言に、ヴォルフさんも、斥候さんも、そして騒ぎを見ていつの間にか揃っていた彼のパーティーメンバーと思しき3人も、一斉に声を上げる。
魔術師風の男性に、弓師の男性と、回復役系っぽい女性。



「・・・テメェ、フカシてんじゃねぇぞ。」

「笑えない冗談ですね。」



ヴォルフさんの殺気が増す。
パーティーメンバーであろう、魔術師風の男性も参戦してきた。
他のメンバー達も、顰めっ面だ。



「・・・は?冗談言ってアンタらに付き合うほど、コッチはヒマじゃねぇよ。どーせ、ミッドランド支部のクラスAは、『ケルベロス駄犬』しかいないとか踏んで、ココに来たんだろうさ。いつのだよって情報しか持ってないんだろ?」

「何だとっ!」

「『ケルベロスあいつら』なんぞ、数か月も前に犯罪やらかして、とっくにライセンス剥奪されて、収容所送りだし。劣竜種レッサードラゴン討伐なんて、1か月前に終わった話だ。情弱乙。」



わぁ、カン君のお口が悪い。
おねーさん、君をそんな子に育てた覚えはありませんよ?
ってか、さっきの私の情報から、そんなに煽らないでくれるかなぁ。



「何だと!」

「言わせておけばっ!」

「ホントの事だろーが。女のケツ追っかけてる間に、正しい情報仕入れたらどーだっつーの。」



耳の穴小指で穿りながら、話しないの。態度悪ぃよ?
牙狼ファングウルフ』の皆さんが、顔真っ赤にしとるがな。

あー、もー。
街中戦闘はかんべーん。



「いーかげんにしなさい。」

「あだっ」



どうしようもなくなり、背後からカン君の頭にチョップする。



「なんスかっ!」

「私も大概だけど、君も無駄に煽らないの。彼方は先輩冒険者だし、今後共闘しなきゃなんない時もあるかもしれないんだから。」



そう言いながら、カン君の前に進み出る。そして、頭を下げた。



「『牙狼ファングウルフ』の皆様、彼が失礼な言動で煽った事はお詫びいたします。仲間意識が強く、気が短いので、私がヴォルフさんに手を出されたと、早とちりしたみたいです。申し訳ありません。」

「リンさんっ!?」

「ほぉ?・・・で、偽情報を掴ませようとしたことは?どう落とし前をつけてくれる?」



ヴォルフさんが、私の顔を見て、ニヤリと笑う。
それに対しては、スキル『窓口スマイル作り笑顔』で応対する。役場で培ったクレーム対応舐めんな。



「私が謝罪したのは、彼が皆様に失礼な態度をとったことだけ。彼が話した事は全て真実ですが?」

「なっ?」

「私は先程、ヴォルフさんに申し上げました。『明日にでもギルド出張所にてご確認頂ければ』と。それは、真実を告げても、今のような反応が返ってくると思ったからです。又聞きや伝聞よりは、キチンと組織ギルドに問い合わせて回答頂いた方が、ご納得頂けると思いますが。」



感情を込めず、窓口スマイル作り笑顔で淡々と返答する。

引かない一線は守る。真実は曲げない。
納得できない、文句があるなら、ギルドに問い合わせてからにしろ。

笑顔で無言の圧力をかけると、『牙狼ファングウルフ』の面々は、黙り込む。



「・・・貴女達は、何者なんですか?」



沈黙を破るように、魔術師の男性が口を開く。
私は、胸元から、金色のドッグタグを取り出す。



「私は、約1か月前にA級ライセンスとなった、リン=ブロックと申します。同時期に、コウラル=チェスターによって結成された、クラスAパーティー『旅馬車トラベリン・バス』のメンバーです。先程ヴォルフさんから私の『色』へのご懸念に対し、解決済みとお伝えしたのは、そう言う訳です。」

「嘘!コウは誰ともパーティーを組まない事で有名よ!現に私達だって断られたわ!」



回復役魔術師の女性が、声を上げる。
自分達がこーくんに断られたからって、その後、彼がパーティー組まない理由の裏付けにはならんだろうが。



「・・・ですから、お疑いになるのであれば、明日にでも冒険者ギルド出張所でご確認下さいな。現在、諸所のトラブル対応で、ミッドランド支部のギルマス、ロイド氏が出向いているはずですから。」

「・・・なぁ、リン。それは本当なんだな?」

「ちょっと!ヴォルフ!」



ヴォルフさんが、私を見据える。少し頭が冷えたのだろう。威圧が収まっている。

つか、なんで名前呼びさ。



「はい。ついでに言いますと、現在ミッドランド支部所属のクラスAパーティーは2組。私達『旅馬車トラベリン・バス』と『英雄』ファーマスが率いる『猟犬グレイハウンド』。数か月前に『ケルベロス』と、彼らの悪事に関わった者達の捕縛後、『猟犬グレイハウンド』のファーマスさんはA級ライセンスへ復帰。メンバーであるベネリさん、イズマさんもA級に昇格していらっしゃいます。故に、パーティークラスもAへと昇格しております。
次に、劣竜種レッサードラゴン討伐ですが、1か月前に、同じくミッドランド支部所属のクラスBパーティー『影猿シャドウモンキー』等の協力の元、『旅馬車トラベリン・バス』と『猟犬グレイハウンド』の共闘により討伐終了しておりますので、悪しからず。それでは失礼致します。」



そこまで一気に早口で捲くし立てると、私は一礼する。そして、テーブルの上を片付けながら、残っていたエールを一気飲みした。
けぷ、と軽く炭酸が胃から抜ける。
ゴミをまとめ、コップは販売屋台に返却するため別に持つ。



「さて、カン君、帰ろ?」

「・・・うス。」



立ち尽くしていたカン君に声をかけると、にま、と嬉しそうな顔をして付いてきた。



「ちょっと、待ってくれ!」

「?」



その声に振り返ると、バツの悪そうな顔をしたヴォルフさんが、片手を上げ呼び止める姿勢でこちらを見ている。



「まだ、何か?」

「・・・リン、アンタの言い分はわかった。俺たちは明日、ギルドに出向く。」

「はい。お好きになさって下さい。」

「で、だ、明日、ギルドで会えないか?」

「何でアンタの言う事を聞かんきゃならん。」

「カン君。」



兎に角食ってかかるカン君を止め、私はヴォルフさんに向き直る。



「わかりました。元々、出張所には用事がありましたから。私達は、朝10の刻頃に向かいますので、それで宜しければ。」

「あ、あぁ。」

「では、失礼します。」

「ちょぃまち・・・」



彼はまだ、何かを言いかけていたが、私は素早く頭を下げて、カン君の右手首を掴んで、その場を立ち去った。
しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

処理中です...