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妄想乙女ゲームに終止符を

274.(修正)乙女ゲームに終止符を 其の六

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言い切ったカン君は、ふう、と大きな息を吐く。
そして、私の方に振り向くと、ふんわりと笑顔を見せた。

その様子を見たヒルデ嬢が、私に向けて大声で吠えた。



「何なのよ貴女!返してよ!コウラルも!葵のことも!なんで私から取るのよ!返して!!!」



その言い方に、カチンとくる。
こーくんも、カン君も、オモチャじゃない。意思がある人間だ。


 
「・・・“かえす”?・・・何それ。コウも、カンも、自分の意思で道を選んでる。私がどうこうできる立場じゃない。」

「嘘よ!どうせ、【魅了チャーム】とかの魔法があるんでしょう!?だから、逆ハーみたいにできるんでしょっ!!じゃなかったら、アンタみたいな不細工に!私が負けるわけないもの!!」

「巫山戯んな!俺は【魅了チャーム】なんか受けていない!」

「嘘っ!嘘よ!!ヒルデの姿は完璧だもん!葵の推しの『さくら』にだって似てるんだから!なのに離れるなんてありえない!!全部アンタのせいでしょ!!この魔女が!!」



ヒルデ嬢は、怒りの矛先を私に向けた。
言ってる内容も支離滅裂だ。
カン君の言葉も届かない。

だから、私が美人じゃないのはわかってるつーの。
魔女かぁ。それもカッコいいなぁ。
でも魔法は自由にぶっ放せないしなぁ。。。
どっちかってーと、狂戦士バーサーカーですからねぇ。

・・・なんかもう。
もう、どうでもいいや。

自分の都合の良いようにしか受け取らないのなら。
それに合わせて、宣言してしまおう。



「・・・私が何言っても、アンタは信じないんでしょ。じゃぁ、アンタが望む答えをあげるよ。」



本当は。
ホントは、ちょっと、期待したんだ。
彼女が改心してくれるのを。

ここはゲームの世界じゃないって、現実だったんだって。
家族にも、こーくんにも、みんなにも迷惑かけてしまったって。
だからごめんなさい、って、謝って欲しかった。
どうしたら償える?、って、相談して欲しかった。

でも、そうじゃないんだ。

私は、固く拳を握りしめた。



「・・・コウも、カンも、アンタがぞんざいに扱ったから、気持ちが離れたんだ。自分のことばっかりで、人の気持ちなんて知ろうともしないで。道具のように扱うから、離れたんだよ。つまりは、アンタが捨てたんだ。私はそれを拾った。そんなアンタなんかに、2人を帰すわけねーべや。」



ギロリと怒気を滲ませて、私は彼女を睨みつけた。

魅了してようが、してなかろうが。
手前テメェなんかに、2人を渡してなるものか。



「・・・自分が何をしたのか振り返りもしない、相手がどんな気持ちだったのか考えもせず、謝りもしない。そんなアンタのモトなんかに、絶対に帰してなんかやるもんか!」



私の所為で、彼ら2人はヒルデ嬢のモトには帰らない。
そう思うなら思えばいい。

今あるものに満足せず、人をうらやみ、おとしめ、さげすんで。それにより自分の価値を上げることに重きを置く。
そんな人は、自分の捨てたものが、自分から去っていったものが、幸せになるのが許せないはずだ。
それが、モブだと馬鹿にしていた人物のもとでなら尚更に。



「煩いわね!私はこのゲームの主人公なのよ!!アンタみたいなモブなんかにっ!!!」



沸々と怒りが湧き上がる。
まだ、まだ、折れないのかコイツは。

モブだろうがなんだろうが、この世界に生きている。
主人公属性は無くても、それぞれみんな生きているんだ。

・・・わかったよ。

自分と渡り合うのは主人公だって言うのなら。
同じ土俵に立ってやろう。
そして、アンタば、引きずり下ろしてやる。

私は半笑いで、口を開いた。



「そう・・・主人公なら許されるんだ・・・ねぇ、そのゲームの・・・『True LOVE』の黒髪のヒロインの名前って、なんて言うんだったっけ。」

「はぁ?『スズネ』よっ!それがどうしたって言うのよ!」



それを確認した私は、ふん、と鼻で笑ってしまった。

・・・これを言ったら、もう終わりだ。怨まれるだろうなぁ。
でも、売られた喧嘩は、買う主義だ。

ここが、ゲームだって言うなら。
バッドエンディングにならない事に拘るなら。
主人公として舞台に上がらないと、存在を認めないってんなら。

・・・主人公ヒロインとして、こーくんのことも、カン君のことも、奪ってやろうじゃないか。



「・・・私の名前『リン』は、偽名だよ。本名は『』って言うんだよねぇ。しかもだ。良かったねぇ・・・どうやら私は、アンタのいうゲームの、主人公ヒロインみたいだ。」



ヒルデ嬢の目が、大きく見開かれる。
やっと、こっちを見たな。

でも・・・こんなのただの偶然だ。こじつけだ。
主人公ヒロインと私の名前が似ているだけ。
でも私は、それを利用して、彼女にとって慈悲もなく、残酷であろう言葉を叩きつける。



「私は【魅了チャーム】なんか使えない。でも、私みたいな不細工にコウラルが惹かれたって理由がいるんなら、私の主人公ヒロイン属性に惹かれたってことだろさ。良かったな、理由がわかって。」

「なっ・・・アンタなんかがヒロインな訳っ・・・!」

「知らねぇよ。寧ろゲームをよく知るアンタになら分かるんだろ?現実問題、コウラルは、アンタば選ばず、私を選んだ。それが答えだべや。」

「そんなっ・・・!」



急にヒルデ嬢は、ガタガタと震えだす。
主人公ヒロイン要素である乙女らしさ、美しさのかけらもない、完全に自分に劣るであろう女子力底辺女が、実は主人公ヒロインだなんて、信じたくはないだろう。

ーーー そして、主人公ヒロインと攻略対象が結ばれたその先は。

私はをあえて言葉にして、追い討ちをかける。



「・・・私がヒロインなんだとしたら。これで、『ヒルデ嬢の幼馴染で婚約者であったはずのコウラル=チェスターとヒロインが』ってエンディングになるんだよね?ねぇ、ここはゲームの中なんでしょ?じゃぁさ、このエンディングは、ヒロインパートの何周目?」



小馬鹿にするように、笑顔で言葉を吐き捨てる。

私自身はこの世界が乙女ゲームの中だなんて、これっぽっちも思っちゃいない。
魔獣を屠って、対人バトルを肌で感じて、気を緩めたら騙されて、命の危機にさらされる。そんな厳しい世界だ。
甘々の恋愛だけしてりゃいい世界だなんて誰が思うか、馬鹿たれ。

でも、アンタが、ここはゲームの世界だと言い張るなら。それに合わせてやろうじゃないか。



「ねぇ。なんだっけ?悪役令嬢が主人公になるには、ヒロインパートを全攻略しないとなんないんじゃなかったっけ?私は、この話の記憶なんてないんだよ。・・・って事は、ヒロインの1周目なのかもねぇ?したらば、私が、残り5人を攻略しないと、アンタは主人公ヒロインになれないんじゃねぇの?・・・アンタとコウラルが結ばれるのが強制力だって言うんなら、あと、5回はこんな惨めな思いをして。漸く悪役令嬢ルートに入っても、さらに5回は死に戻りなんだべさ。って、私のこっちゃないから、どーでもいいけどね。まぁ、精々頑張って。・・・じゃ、帰ろうか、カン君。」

「うス。」

「ちょっと!ちょっと待ってよ!!なんなのそれ!!」

「っ【 障壁バリア 】!」

「きゃぁっ!」



飛びかかる勢いで、私に迫ってきたヒルデ嬢は、バチン、という音と共に見えない壁に弾かれた。

見ると、カン君が【 障壁バリア 】を貼り直しているところだった。



「いやぁ!やだ!!助けてっ!助けてよ葵!!謝るから!ねぇっ!ねえってば!!」



バンバンと、見えない壁を叩きながら、彼女は絶叫する
その姿を無表情で眺めていたカン君が、溜息と共に呟いた。



「たかだかモブであるはずの俺は、“コウラルの為”というお前のエゴで、奴隷にされそうになったんだよな。・・・そんな奴をどうして助ける必要がある?全て、お前の行動が招いた事だ。修道院で、自分と向き合うがいいさ。」

「いやぁ!助けてよ!助けなさいよ!!鬼!悪魔!!返して!葵を返しなさいよ!!」



彼女の叫びは、私にも向けられた。
それに対して、自分でも驚く程に、冷めた声が腹奥から出てきた。



「・・・鬼でも悪魔でも結構。今のアンタなんかにカン君を、こーくんを帰すくらいなら、鬼にでも、悪魔にでも、いくらでもなってやんよ。・・・でも、まぁ、私は今後、残り5人を攻略するつもりなんてこれっぽっちもないから、もう会うことも無いと思うけど。そいじゃ、お元気で。」

「まって!まってよぉっっっ!!ふざけんなっっっ!何が、主人公ヒロインよ!!恨んでやるっ!!呪ってやる!!お前なんかっ絶対にっ!幸せになんかっなれないんだからぁ!!!」



彼女の呪詛を背に受けながら、私は後ろ手に手を振ると、そのまま部屋を出る。
そして、ちらりと後ろを見ると、カン君が部屋を出るところだった。
彼は一礼し、パチリと指を鳴らして術を切ると、そのまま扉を閉めた。

ガシャン、と重々しい音が鳴り、自動で鍵がかかる。外で待っていた見張りの騎士さんが、他2か所の鍵をかけた。

間髪入れずに、扉がドンドンと叩かれ、何かを叫ぶ声が聞こえる。
扉は分厚く、喚く音としては聞こえるが、何を言っているのかまでは分からない。

私は黙って、その扉を眺めていた。

ふ、と、その前を、大きな影が遮る。



「リンさん、行きましょう。」



見上げると、清々しいほどの笑顔を浮かべたカン君は、有無を言わせず私の手を取ると、出口へと歩き出した。






*********

※ ヒルデの「返す」と、リンの「帰す」は、あえてこの漢字を当てています。


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