転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
280 / 393
妄想乙女ゲームに終止符を

272.(修正)乙女ゲームに終止符を 其の四

しおりを挟む




※ 主人公、言葉が汚いのでご注意。接続詞や語尾が「?」と言う部分があると思いますが、北の大地のとある地方の方言的言い回しです。ご容赦ください。
※「女性なのに、その言葉遣いは・・・」と言う方には、激しくゴメンナサイ。




**************

何か吹っ切れたように、大きな伸びをして、ヒルデ嬢は微笑む。


「貴女は、コウラルと上手くやってるつもりだろうけど。最後には私のところに戻るのよ。それこそゲームの強制力だわ。残念でした。」


・・・残念なのは、オメーの頭だ。


暴言が出かかったのを、息を飲んで止める。


「まぁ、前世で交通事故で死んだ時は、あの男のせいでって、恨んだけど?ここで転生してコウラルと一緒になれるならいいわ。」

「あの男って?」


また新しいワードだ。
気になったので、とりあえず、掘り下げてみる。


「学生時代、体良く使ってた便利君がさぁ、就職したからって付き合い悪くなって。こっちが声かけてやってんのに逆らいだしたから、一言言ってやろうと車で向かってたら、事故ったんだよね。イライラ運転しててさぁ。前のトラックを追い越そうとしたら対向車がきて、慌てて戻ったんだけど、トラックが減速しやがったから追突。ムカつくよねー。」

「・・・はぁ。」


・・・完全に自分の所為じゃん。
追突されたトラック運転手が可哀想だ。
・・・もしかして、対向車まで巻き込んでないよなぁ?


「にしても、アイツが逆らわなきゃ、私だって出向かなかったし、事故らなかったわよ。のうのうと生きてるんだと思ったら腹立ってきた。マジムカつく。」

「・・・はぁ?」


・・・何だこいつ。
便利君、こんな奴と離れて正解だったよ。


「まぁ、でも。アイツ、アイドル育成ゲーム好きなの隠そうとして就職したみたいだったから、アイツの同級生だって奴に言って、噂バラまいてやったけどね。職場でキモがられてんじゃない?ざまぁ。イベントとか追っかけてたんだから、ほんとキモい。」


・・・おぃ。まさかよ。
まさかそんな世間が狭いオチ、じゃ、ないよな?

彼女に気づかれないように、そっと少しだけ振り返る。
・・・後ろの大きな影が少しだけ身動いだ、気がした。


「・・・ふぅん。」


これ以上、その『彼』を蔑ませる訳にはいかない。
まぁ、私が転生人だと思われても致し方あるまい。ホントは転移人だから「違う」って言っても、問題はない。
私は深く深呼吸して、ヒルデ嬢を見据えた。


「・・・悪ぃけど、社会人になったら、そんなのどーでもいーんだわ。」

「は?」

「テメェが稼いだ金、何に使おうが勝手だべや。ゲームに課金しようが、MMO RPGにのめり込もうが、漫画爆買いしようが、声優追っかけしようが、車につぎ込もうが、フィギュアにつぎ込もうが、どーでもいいべや。そんなこと、仕事さえ真面目にして、適当にコミュ二ケーションがとれてりゃ、少し茶化す奴はいても、表だってキモがる奴なんていない。大人なんてな、腹ん中は何こそ思っていても、仕事さえきっちりやってりゃ許容されるんだよ。」

「何がっ!」

「それよりも、アンタだって、その『True LOVE』だかのゲームやり込んでんだべや。ゲーマーキモいって思ってる連中からしたら、その便利君もアンタも何も変わんねぇ。アンタ、ホントに五十歩百歩、どんぐりの背比べ、目糞鼻糞を笑うを地でいくなぁ!」

「なっ!」


今まで、こんな風に面と向かって言われた事ないんだろうなぁ。
自分が悪口を言ってるなら、相手からも言われてるかもしれん、と何故思わん。


「アンタの死因なんかどーでもいいわ。トラック運転手に、事故処理しなきゃならん家族に迷惑かけて。私から見たら、その『便利君』が、アンタから永遠に解放されて良かったね、としか思えないね。」

「何で私が悪いのよ!!」


彼女はまた、怒りに顔を歪めて私を睨みつける。
まぁ、忙しい。


「・・・それにさぁ、アンタはそのゲームだかのフラグを回収したいの?潰したいの?話を聞く限り、コウと一緒になりたく無くて、潰して回っているようにしか聞こえないんだけど。」

「そんなわけ無いじゃない!貴女に何が分かるのよ!」

「だって、物語自体が学園に入ってからスタートなんだべ?その前からフラグ回収とか言ってっけど、それフラグすら立ってなかったんじゃねぇの?」


彼女は回収したとか言ってるけど、こーくんや、チェスター子爵の話を聞く限り、彼女が始末したとされる人達は何もしていない。悪意のかけらすら無い状態だ。


「ふざけた事言わないでよ!」

「ふざけてんのはアンタだべや。アンタがやったのは、『夢でこいつが悪い事したから、現実でもするんだ』と決めてかかって、断罪してるのとおんなじだァ。チェスター家や、アンタの実家が総力を挙げて調べたのに、現実リアルでの証拠が、なんぇじゃねぇの。アンタの妄想で、迷惑被った被害者達に、領主様やコウ達がどれだけ頭下げて回ったと思ってんのさ。」

「そんな事ないわ!だって、中等部には、平民のくせに王国騎士団長の息子の取り巻きになる奴だって居て、コウラルルートでは、学園でアイツがコウラルに嫌がらせしてくんのよ!アイツがケガして、騎士にならなくて良くなったから、学園行っても嫌がらせされなかったのに!何でそんな事、貴女に言われなきゃなんないのよ!!」

「だーかーらー。『疑わしきは罰せず』の意味分かる?疑わしいだけでは、被告人を罰することは出来ないの。確たる証拠も無いのに断罪したアンタは、自分に気に入らない事、寧ろコウに近づいた、という言いがかりだけで、相手を学校に来れないまでに痛めつける、暴君な我が儘令嬢なんだよ!」

「そんな事ないもの!全てはコウラルのためだし!」

「騎士を目指して日々腕を磨いて、将来有望視されてた平民さんが、騎士になれない程の怪我を負ったなんて、そんなの絶望しかないよね。それにコウからしてみたら、切磋琢磨するライバルであり気の置けない無二の親友が、自分に執着する我が儘オンナの所為で、夢を叶えられなくなったんだ。そんなオンナを恨みこそすれ、好きになるなんてさ。どんなマゾでど変態だっつーのよ。」

「うるさい!うるさーーいっ!!」


立ち上がり、発狂気味に声を荒げる彼女は、私に枕を投げつける。
しかし、私の目の前で見えない壁に阻まれ、枕は足元に落ちていった。


憎々しげにこちらを睨みながら、はぁはぁ、と、肩で息をするヒルデ嬢。
その姿に動じないよう、私は椅子から動かず、余裕ぶって彼女を見返した。


「アンタがそこでどれだけ暴れても、私に攻撃は届かないよ?私の護衛は優秀なんだ。」


ちらり、と後ろを見やり、ふふん、と、ドヤ顔をしてみせる。
アンタが嫌がらせした『便利君』は、今やこの世界でトップクラスの魔導師だ。

ヒルデ嬢はギリギリと歯を食いしばっている。

つか、私かなりあっちの世界の話持ち出してんだけど、無反応だよなぁ。
気づいてんだか、ないんだか。
元々、自分の良いように改変するタイプの人間なんだろうな。


「・・・ねぇ。」


もういいや。
このタイプの人間は、自分の思いだけで生きている。
じゃぁ、私も。
私の思いエゴを、つけよう。



「ところで、アンタが言う所のコウのルートが強制力で開かれたって言うなら。」


・・・これを言ったら、彼女は現実に引き戻せるかもしれない。
彼女にとっては、辛いことかもしれない。

でも。
彼女を取り巻く現実と、人達と、向き合って欲しい。

ギリギリとこちらを睨むヒルデ嬢を見つめ返し、ずっと疑問に思っていた事を口にする。



「・・・アンタは、何回、死んでんの?」

「・・・は?」


ヒルデ嬢は何を言われているのか分からない、と言った風で、私を見る。


「だってそうでしょう?ゲームでの悪役令嬢主人公の話は、コウ以外の攻略対象は全員バッドエンディングで、処刑・追放・自爆・行方不明なんでしょ?それを越えなきゃなんないって、アンタが言ったんじゃん。」


そう。
ずっと疑問だった。

そんなけ、バッドエンディングを繰り返さなければ辿り着けないはずのルート。
選ぶ、選ばない、の話じゃ無いはずだ。


「“コウラルが自分の元に戻ってくる”って確証が持てる強制力が働くくらいに、ルート攻略してんでしょ?・・・それって、ルートに入ったって分かるくらい、記憶を持って4回?5回?死に戻りっつーか、不幸な結末を迎えてるって事だよね?感情移入したとしても第三者視点でやってるゲームならいざ知らず。現実リアルに、そんなけ、不幸な結末を迎えた事を覚えてるなんて、すっごいねぇ?私なら、その先に好きな人が待ってるってわかっていても、無理だ。発狂する。尊敬するわぁ。」

「うるさい!!馬鹿にしてるの!?」



ヒルデ嬢は大声を張り上げる。
自分が怒られる、責められるといった、本能的に聞きたく無いことは、癇癪を起こして聞かないようにする・・・まるで幼児だ。
この人は、ずっとこうやって、生きてきたんだろう。

私は、やりきれない気持ちで、彼女のことを見据えた。



「・・・ねぇ。アンタがコウと話す時、ポップアップで選択肢が出たの?どの選択肢の会話を選んで、本来なら騎士になるはずだった彼が、冒険者になったって言うのさ。本来ないルートにコウが向かった時に、アンタはココが現実リアルだって、気づけたはずだ。なのに目を背けた。」



彼女が息を飲む音が聞こえた。
私はそれでも、この言葉を、やめない。



「・・・ゲームの中に出てこないだろう、沢山の、屋敷に居た使用人や、領内の学園中等部の生徒さん達は、モブらしく、アンタに向けて、何も喋らなかったの?喋ったとしても、単一な受け答えだけだった?そんなわけないよね?少なくとも私は、そんな風には感じてない。モブだからどうでも良い?アンタが今、生活できてんのは、モブだって馬鹿にしている領民からの税金があるからだべや。それだって現実リアルの筈だ。」


彼女は何かを言いかける。
私はそれすらも遮り、話続けた。


「・・・ここは、現実リアルなんだ。たとえゲームの中だったとしても、それは設定だけの現実リアル。この世界の人達は、魔獣に殺られたら赤い血を流して、死んでしまう。・・・みんな、血が通って生きてるんだ。」


そうだ。
怪我をしたら、血が出て当たり前だ。
殴ったら、痛いんだ。

劣竜種レッサードラゴンに潰されて死んだ冒険者もいる。
仲間を庇って、盾になる冒険者もいる。

師匠だって、騎士として、冒険者として、死線を乗り越えてきた。
ロイドさんや、レザ先生だって、冒険者として必死に生き残った。
イズマさんやべネリさん、そして師匠が真剣に戦い方を教えてくれたのは、この世界は命が軽くて、簡単に、本当に簡単に、死んでしまうからだ。



「ゲームだから、幾らでもやり直せる、とでも?この世界の人達みんな、プログラムで動いているとでも?街には大勢の人がいて、それぞれ生活を営んでいる。それらが全て、プログラムされたことだとでも?ふざけんなや!魔獣に殺られた冒険者は死んでるんだ。それまでもがプログラムだって言うのか!?死んだって、生き返る保証があるっつーのか?それともモブだから、死んで当たり前だっつーのか!?アンタんが守る領民達に、そんな事、アンタは言うのか!!」

「・・・そ・・・そん、なの、知らない。知らないわ!私には関係ない!」



ヒルデ嬢は耳を塞ぎ、首を振って拒否をする。
私はそれでも怒鳴った。



「逃げんな!!全部アンタの行動だ!私の事ば邪魔なモブだからって、奴隷に落とそうとしたんだべや!!私だけじゃ飽き足らず、カンのことまで奴隷に落とそうとしたっ・・・ゲームの世界で、自分が主人公なら、何をしても許されるってか?ハンカクセェこと言ってんなや!!」
しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...