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妄想乙女ゲームに終止符を
272.(修正)乙女ゲームに終止符を 其の四
しおりを挟む※ 主人公、言葉が汚いのでご注意。接続詞や語尾が「?」と言う部分があると思いますが、北の大地のとある地方の方言的言い回しです。ご容赦ください。
※「女性なのに、その言葉遣いは・・・」と言う方には、激しくゴメンナサイ。
**************
何か吹っ切れたように、大きな伸びをして、ヒルデ嬢は微笑む。
「貴女は、コウラルと上手くやってるつもりだろうけど。最後には私のところに戻るのよ。それこそゲームの強制力だわ。残念でした。」
・・・残念なのは、オメーの頭だ。
暴言が出かかったのを、息を飲んで止める。
「まぁ、前世で交通事故で死んだ時は、あの男のせいでって、恨んだけど?ここで転生してコウラルと一緒になれるならいいわ。」
「あの男って?」
また新しいワードだ。
気になったので、とりあえず、掘り下げてみる。
「学生時代、体良く使ってた便利君がさぁ、就職したからって付き合い悪くなって。こっちが声かけてやってんのに逆らいだしたから、一言言ってやろうと車で向かってたら、事故ったんだよね。イライラ運転しててさぁ。前のトラックを追い越そうとしたら対向車がきて、慌てて戻ったんだけど、トラックが減速しやがったから追突。ムカつくよねー。」
「・・・はぁ。」
・・・完全に自分の所為じゃん。
追突されたトラック運転手が可哀想だ。
・・・もしかして、対向車まで巻き込んでないよなぁ?
「にしても、アイツが逆らわなきゃ、私だって出向かなかったし、事故らなかったわよ。のうのうと生きてるんだと思ったら腹立ってきた。マジムカつく。」
「・・・はぁ?」
・・・何だこいつ。
便利君、こんな奴と離れて正解だったよ。
「まぁ、でも。アイツ、アイドル育成ゲーム好きなの隠そうとして就職したみたいだったから、アイツの同級生だって奴に言って、噂バラまいてやったけどね。職場でキモがられてんじゃない?ざまぁ。イベントとか追っかけてたんだから、ほんとキモい。」
・・・おぃ。まさかよ。
まさかそんな世間が狭いオチ、じゃ、ないよな?
彼女に気づかれないように、そっと少しだけ振り返る。
・・・後ろの大きな影が少しだけ身動いだ、気がした。
「・・・ふぅん。」
これ以上、その『彼』を蔑ませる訳にはいかない。
まぁ、私が転生人だと思われても致し方あるまい。ホントは転移人だから「違う」って言っても、問題はない。
私は深く深呼吸して、ヒルデ嬢を見据えた。
「・・・悪ぃけど、社会人になったら、そんなのどーでもいーんだわ。」
「は?」
「テメェが稼いだ金、何に使おうが勝手だべや。ゲームに課金しようが、MMO RPGにのめり込もうが、漫画爆買いしようが、声優追っかけしようが、車につぎ込もうが、フィギュアにつぎ込もうが、どーでもいいべや。そんなこと、仕事さえ真面目にして、適当にコミュ二ケーションがとれてりゃ、少し茶化す奴はいても、表だってキモがる奴なんていない。大人なんてな、腹ん中は何こそ思っていても、仕事さえきっちりやってりゃ許容されるんだよ。」
「何がっ!」
「それよりも、アンタだって、その『True LOVE』だかのゲームやり込んでんだべや。ゲーマーキモいって思ってる連中からしたら、その便利君もアンタも何も変わんねぇ。アンタ、ホントに五十歩百歩、どんぐりの背比べ、目糞鼻糞を笑うを地でいくなぁ!」
「なっ!」
今まで、こんな風に面と向かって言われた事ないんだろうなぁ。
自分が悪口を言ってるなら、相手からも言われてるかもしれん、と何故思わん。
「アンタの死因なんかどーでもいいわ。トラック運転手に、事故処理しなきゃならん家族に迷惑かけて。私から見たら、その『便利君』が、アンタから永遠に解放されて良かったね、としか思えないね。」
「何で私が悪いのよ!!」
彼女はまた、怒りに顔を歪めて私を睨みつける。
まぁ、忙しい。
「・・・それにさぁ、アンタはそのゲームだかのフラグを回収したいの?潰したいの?話を聞く限り、コウと一緒になりたく無くて、潰して回っているようにしか聞こえないんだけど。」
「そんなわけ無いじゃない!貴女に何が分かるのよ!」
「だって、物語自体が学園に入ってからスタートなんだべ?その前からフラグ回収とか言ってっけど、それフラグすら立ってなかったんじゃねぇの?」
彼女は回収したとか言ってるけど、こーくんや、チェスター子爵の話を聞く限り、彼女が始末したとされる人達は何もしていない。悪意のかけらすら無い状態だ。
「ふざけた事言わないでよ!」
「ふざけてんのはアンタだべや。アンタがやったのは、『夢でこいつが悪い事したから、現実でもするんだ』と決めてかかって、断罪してるのと同じだァ。チェスター家や、アンタの実家が総力を挙げて調べたのに、現実での証拠が、何も無ぇじゃねぇの。アンタの妄想で、迷惑被った被害者達に、領主様やコウ達がどれだけ頭下げて回ったと思ってんのさ。」
「そんな事ないわ!だって、中等部には、平民のくせに王国騎士団長の息子の取り巻きになる奴だって居て、コウラルルートでは、学園でアイツがコウラルに嫌がらせしてくんのよ!アイツがケガして、騎士にならなくて良くなったから、学園行っても嫌がらせされなかったのに!何でそんな事、貴女に言われなきゃなんないのよ!!」
「だーかーらー。『疑わしきは罰せず』の意味分かる?疑わしいだけでは、被告人を罰することは出来ないの。確たる証拠も無いのに断罪したアンタは、自分に気に入らない事、寧ろコウに近づいた、という言いがかりだけで、相手を学校に来れないまでに痛めつける、暴君な我が儘令嬢なんだよ!」
「そんな事ないもの!全てはコウラルのためだし!」
「騎士を目指して日々腕を磨いて、将来有望視されてた平民さんが、騎士になれない程の怪我を負ったなんて、そんなの絶望しかないよね。それにコウからしてみたら、切磋琢磨するライバルであり気の置けない無二の親友が、自分に執着する我が儘オンナの所為で、夢を叶えられなくなったんだ。そんなオンナを恨みこそすれ、好きになるなんてさ。どんなマゾでど変態だっつーのよ。」
「うるさい!うるさーーいっ!!」
立ち上がり、発狂気味に声を荒げる彼女は、私に枕を投げつける。
しかし、私の目の前で見えない壁に阻まれ、枕は足元に落ちていった。
憎々しげにこちらを睨みながら、はぁはぁ、と、肩で息をするヒルデ嬢。
その姿に動じないよう、私は椅子から動かず、余裕ぶって彼女を見返した。
「アンタがそこでどれだけ暴れても、私に攻撃は届かないよ?私の護衛は優秀なんだ。」
ちらり、と後ろを見やり、ふふん、と、ドヤ顔をしてみせる。
アンタが嫌がらせした『便利君』は、今やこの世界でトップクラスの魔導師だ。
ヒルデ嬢はギリギリと歯を食いしばっている。
つか、私かなり元の世界の話持ち出してんだけど、無反応だよなぁ。
気づいてんだか、ないんだか。
元々、自分の良いように改変するタイプの人間なんだろうな。
「・・・ねぇ。」
もういいや。
このタイプの人間は、自分の思いだけで生きている。
じゃぁ、私も。
私の思いを、打つけよう。
「ところで、アンタが言う所のコウのルートが強制力で開かれたって言うなら。」
・・・これを言ったら、彼女は現実に引き戻せるかもしれない。
彼女にとっては、辛いことかもしれない。
でも。
彼女を取り巻く現実と、人達と、向き合って欲しい。
ギリギリとこちらを睨むヒルデ嬢を見つめ返し、ずっと疑問に思っていた事を口にする。
「・・・アンタは、何回、死んでんの?」
「・・・は?」
ヒルデ嬢は何を言われているのか分からない、と言った風で、私を見る。
「だってそうでしょう?ゲームでの悪役令嬢主人公の話は、コウ以外の攻略対象は全員バッドエンディングで、処刑・追放・自爆・行方不明なんでしょ?それを越えなきゃなんないって、アンタが言ったんじゃん。」
そう。
ずっと疑問だった。
そんなけ、バッドエンディングを繰り返さなければ辿り着けないはずのルート。
選ぶ、選ばない、の話じゃ無いはずだ。
「“コウラルが自分の元に戻ってくる”って確証が持てる強制力が働くくらいに、ルート攻略してんでしょ?・・・それって、ルートに入ったって分かるくらい、記憶を持って4回?5回?死に戻りっつーか、不幸な結末を迎えてるって事だよね?感情移入したとしても第三者視点でやってるゲームならいざ知らず。現実に、そんなけ、不幸な結末を迎えた事を覚えてるなんて、すっごいねぇ?私なら、その先に好きな人が待ってるってわかっていても、無理だ。発狂する。尊敬するわぁ。」
「うるさい!!馬鹿にしてるの!?」
ヒルデ嬢は大声を張り上げる。
自分が怒られる、責められるといった、本能的に聞きたく無いことは、癇癪を起こして聞かないようにする・・・まるで幼児だ。
この人は、ずっとこうやって、生きてきたんだろう。
私は、やりきれない気持ちで、彼女のことを見据えた。
「・・・ねぇ。アンタがコウと話す時、ポップアップで選択肢が出たの?どの選択肢の会話を選んで、本来なら騎士になるはずだった彼が、冒険者になったって言うのさ。本来ないルートにコウが向かった時に、アンタはココが現実だって、気づけたはずだ。なのに目を背けた。」
彼女が息を飲む音が聞こえた。
私はそれでも、この言葉を、やめない。
「・・・ゲームの中に出てこないだろう、沢山の、屋敷に居た使用人や、領内の学園中等部の生徒さん達は、モブらしく、アンタに向けて、何も喋らなかったの?喋ったとしても、単一な受け答えだけだった?そんなわけないよね?少なくとも私は、そんな風には感じてない。モブだからどうでも良い?アンタが今、生活できてんのは、モブだって馬鹿にしている領民からの税金があるからだべや。それだって現実の筈だ。」
彼女は何かを言いかける。
私はそれすらも遮り、話続けた。
「・・・ここは、現実なんだ。たとえゲームの中だったとしても、それは設定だけの現実。この世界の人達は、魔獣に殺られたら赤い血を流して、死んでしまう。・・・みんな、血が通って生きてるんだ。」
そうだ。
怪我をしたら、血が出て当たり前だ。
殴ったら、痛いんだ。
劣竜種に潰されて死んだ冒険者もいる。
仲間を庇って、盾になる冒険者もいる。
師匠だって、騎士として、冒険者として、死線を乗り越えてきた。
ロイドさんや、レザ先生だって、冒険者として必死に生き残った。
イズマさんやべネリさん、そして師匠が真剣に戦い方を教えてくれたのは、この世界は命が軽くて、簡単に、本当に簡単に、死んでしまうからだ。
「ゲームだから、幾らでもやり直せる、とでも?この世界の人達みんな、プログラムで動いているとでも?街には大勢の人がいて、それぞれ生活を営んでいる。それらが全て、プログラムされたことだとでも?ふざけんなや!魔獣に殺られた冒険者は死んでるんだ。それまでもがプログラムだって言うのか!?死んだって、生き返る保証があるっつーのか?それともモブだから、死んで当たり前だっつーのか!?アンタん家が守る領民達に、そんな事、アンタは言うのか!!」
「・・・そ・・・そん、なの、知らない。知らないわ!私には関係ない!」
ヒルデ嬢は耳を塞ぎ、首を振って拒否をする。
私はそれでも怒鳴った。
「逃げんな!!全部アンタの行動だ!私の事ば邪魔なモブだからって、奴隷に落とそうとしたんだべや!!私だけじゃ飽き足らず、カンのことまで奴隷に落とそうとしたっ・・・ゲームの世界で、自分が主人公なら、何をしても許されるってか?ハンカクセェこと言ってんなや!!」
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