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妄想乙女ゲームに終止符を

271.(修正)乙女ゲームに終止符を 其の三

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それから数日後。
準備が整った、との連絡が入り、私達は再度騎士団の詰所へと向かった。

まだごねるこーくんを団長室におき、私とカン君で面会に向かう。
騎士が先導をし、部屋に入っていく。

ヒルデ嬢が拘留されている部屋は、いかにもな牢屋ではなく、貴族拘留用の簡素な部屋。ベットに添えつけの机と椅子、トイレと洗面場所は軽く隔離された作り。一見、 安いビジネスホテルの一室のようなものだ。


「何しにきたのよ」


簡易なドレス・・・というか、ワンピースに身を包み、ベッドに腰掛けていたヒルデ嬢は、ゆるゆると顔を上げ、入ってきた私達を恨めしそうに睨んできた。腕には魔力制御の腕輪が光る。

見た目は儚げな深窓の令嬢なのだが、雰囲気は一転して、怒られて拗ねている子どもといったところだ。
言葉遣いも取り繕うつもりもないのだろう。

・・・やはり転生者、なんだろうな。

思わず溜息を吐きそうになった。


私は添えつけの机にあった椅子を引き、断りもせず勝手に座る。
す、と、カン君が斜め後ろにやってきて何も言わずに控えている。

私の格好はいつもの冒険者スタイル。
対してカン君は、いつもの黒鎧とは違い、騎士団から借りた大きな黒いローブに身を包み、目深にフードをかぶっている。
デカイから、それだけで存在感と威圧感バリバリだなぁ。怪しさも満点。

それはさておき、私はヒルデ嬢の問いに答えることにした。


「・・・ちょっとした確認と、雑談をしに、ですかね。」

「雑談、ね。その後ろの人は?」

「一応騎士団の護衛。まぁ気にしないでください。ただ、貴女が此方側に攻撃を仕掛けようとしたら、問答無用でぶっ飛ばすらしいので、ヨロシクね。」


こちらの素性は本題ではないので、サッサと終わらせる。
ここにいる事自体、犯罪者なので、こちらの言葉遣いが乱暴になろうが、彼女に対して不敬にはあたらない。
そして、私を人質にしたり、倒して逃げるとか、無駄であると言外に告げる。
まぁ、「騎士団」と「の護衛」の間に(に許可をもらった私)という言葉が省略されてますけど。


「で、早速ですが、本題に入らせてもらいますね。貴女はしきりに私のことを『モブ』って言っていたけど、アレは何?」

「は?」


多分、私を狙った理由などを聞かれると、身構えていたのだろう。
ぽかん、とした表情でこちらを見た。


「だって貴女、『なんでモブがしゃしゃってくる』って言ってたじゃない。モブって何?」

「知らないの?」

「知らない。貴女が話す言葉に、時々意味不明な言葉が入ってるから気になったんだよね。コウラルと一緒になれるって、盲信してるのも気になったし。」

「コウラルと私は一緒になれるんだったのよ!それをあなたが邪魔したのよ!」

「邪魔って何?私が邪魔するも何も、そもそもコウは、貴女を毛嫌いしてたよ?何で好かれてると思っていたの?
コウの大事な友達に怪我させても謝りもしない。言われのない罪を被せるようにして、女子生徒をいびる。そうして、婚約者でもないただの幼馴染であったコウラルの生活を、交友関係を邪魔をしたんでしょう?そんな人を、誰が好きになるの?」

「そんなんじゃないわよ!アンタが邪魔してきたから!!」

「じゃぁ、何で?コウが、貴女を好きになるハズだった理由って何?」


ここまで煽れば、勝手に喋るだろう。
私は怒りでこちらを睨みつけているヒルデ嬢と視線を合わせて、口を開くのを待った。


「この世界はね、『True LOVE』というゲームの世界なのよ!」

「ゲーム?」


・・・キタコレ。
とりあえず、何のことかわからないフリで、話を聞き返す。


「そうよ。私には前世の記憶がある。この世界は、前世でやったゲームの中の世界なのよ。私はその中の悪役令嬢。そして最後には幼馴染であるコウラルと結ばれることが決まっているの。」

「どうして?悪役令嬢なのに?」

「それは、全てコウラルを救うための行動の結果だからよ。」

「はぁ、救う?何から?」

「お人好しで人から利用されて使い潰される彼を、数々の悪意と毒牙からよ。」

「ふぅん。で、実際に彼は、利用されようとしてたの?困ってたの?」

「困るわけ無いわ?だって、私が事前に潰したんだもの。」

「へぇ?事前に潰したって、潰された側に、彼を傷つけることになった証拠はあるの?」

「ないわ。ないけど、知っているもの。」


・・・は?何だその暴論。

思わず呆気にとられた私を置き去りに、彼女は饒舌に話し始めた。





ヒルデ嬢曰く。
ゲームのスタートは、こーくんが通っていた国立学園への入学から。
その段階で、ヒルデ嬢とこーくんは婚約者であるらしかった。

学園では、平民出身のヒロインが入ってくる。その彼女「スズネ」という名で、黒髪の全属性持ち。

攻略対象は、モースバーグ国第二王子、宰相の三男、王国騎士団長の次男、王国魔術師団長の長男、教師、それに貴族令息であるコウラルことこーくん。
ここではコウラルにしておこう。

話の展開は、王道の王道。
ヒロインと攻略対象それぞれが話を進めていく。

攻略対象を取り巻くライバルもいる。
王子と宰相の息子と魔術師団長の息子には婚約者候補が、騎士団長の息子には妹が、教師は婚約者ではなく、大人な恋人が。
そんな中、婚約者がいるのはコウラルだけ。

逆ハールートはないため、ヒロインは、それぞれの攻略対象を順繰りに落としていく仕様だったようだ。

ヒルデ嬢はその全てに絡み、各々の婚約者達を焚きつけ、ヒロインへ嫌がらせを行う。
嫌がらせ、といっても、それがミニゲームの様になっている。シューティングっぽかったり、落ちゲーだったり、謎解きだったり。
バトルして勝つと、攻略対象との好感度が上がり。
負けたら好感度はそのままか、負け方によっては下がるか。

ミニゲームのやり込み要素も強かったみたいで、最高ランクでクリアを続けた上での、ハッピーエンディングのスチルが大人気だったんだそう。
ノーマルエンディングもそれなりに。
バッドエンディングは、学園からの退学で終わり。

王道の第二王子は一番人気。
二番人気がコウラル。なかなかにツンデレキャラだったらしい。
家の繋がりと義務感からヒルデ嬢との婚約を続けていたが、ヒロインとの真実の愛wに目覚めて・・・とまぁ。
因みにヒロインが落とした攻略対象のお相手は、それぞれに潔く身を引くらしいのだが。
ヒルデ嬢だけは、泥沼になり、最後に実家に帰らされるのだとか。

ただ、ヒルデ嬢も可哀想だと声が上がり、彼女がプレイヤーとなる裏ルートが開発。

ただし、ヒロインを全クリアしたのちに、バッドエンディングしかない5人の攻略対象をクリアしないと、コウラルルートが開かれない。
しかも、バッドエンディングは、エゲツなく。
王子ルートの場合は処刑。宰相の息子、騎士団長の息子ルートの場合は国外追放。魔術師団長の息子は魔力暴走による自滅。教師の場合は行方不明に。

それを乗り越えて開かれた、コウラルルートでのハッピーエンディングは、かなりな高難度な音ゲーをクリアしなければたどり着けない仕様だったんだそう。
まぁ、そのコウラルルートは、ノーマルかハッピーエンディングしかないらしい。

・・・以上の話を30分以上かかって聞かされた私は、若干魂が抜けかかる。


ヒルデ嬢の推しは、もちろんコウラル。
そして、ヒルデ嬢が前世記憶を思い出したのは、幼い頃にこーくんと出会った時だったのだそう。

王子達も実在していることを知り、この世界が、ゲーム『True LOVE』の中だと確信を持った。


「だから、コウラルとの絆を深めるために行動していたのに。お父様は私を学園に行かせなくして、1年遅れて入学することになるし。まぁ、イベント前倒してやっていたから問題ないし。」

「・・・ほぉ。」

「やっとコウラルが戻って来たから、話が進むと思ったのに!貴女みたいなモブが出てくるし!・・・まぁ、でも、この後コウラルが迎えに来てくれるからいーけど。」

「・・・何でコウラルが、迎えにくるの?」

「決まってるじゃない。コウラルとのエンディングは、ノーマルかハッピーしかないんだもの。そうよ。だから大丈夫じゃない。」


自分に言い聞かせるように、とても綺麗な笑みでそう言い切る彼女が異質に見える。


「そうよ。私はコウラルルートを選んだのだもの。最後には迎えに来てくれるの。」



彼女に、夢とうつつの境目は無いのだろうか?
さっきまで、うまく行かなかったって言っていたのに、何だこの思い込みは。
まぁ、そもそもが、こーくんの反応を見て、迎えに来ると思えるところが不思議だ。

・・・このままにして、いつまで経っても迎えに来ないことに気づくまで、放置プレイでもいいのかもしれない。


私は軽く溜息を吐いた。






*********************

※ ヒルデ嬢の超理論は、作者にも意味がわかりません。。。
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