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妄想乙女ゲームに終止符を
268.茶番劇 其の六
しおりを挟む「え・・・今、なんて・・・」
にこにこと、穏やかな笑みを浮かべるこーくんを、信じられないモノを見る目で見上げるヒルデ嬢。
笑顔で、ある意味死刑宣告。
・・・こりゃ、こーくん完全におこだね。激おこだね?
あの人怒ったら、胡散臭い笑顔が止まらなくなるからねぇ。
「何故秘密の話をする為に、わざわざ領主様の別荘に、リンが呼び出しをするのです?彼女は、ここを使う権限など持ち合わせてはいない。権限があるのは貴女でしょう?ヒルデ嬢。」
「それはっ・・・人払い出来る所を用意しろと、言われたからっ・・・」
往生際悪く、嘘の言い訳を続けるヒルデ嬢。
こーくんは貼り付けたままの穏やかな笑顔で、言葉を続けた。
「ねぇ、貴女はいつまで言い訳を続けるのです?僕の側からリンを排除するため、カンを逆恨みしていた冒険者や、僕を逆恨みした騎士を使い、貴女がこの場を作った事、ここにいる誰もが知っているのですよ?無論、騎士団長も・・・領主様も、ね。」
「そんなっ!違うのっ。」
「何が違うのですか。・・・貴女がリンやコウを奴隷にしようとした事も、全て聞いていましたよ。」
「そっ・・・そんなことしてないわっ!!何故そんな酷いことを言うの!?」
ヒルデ嬢は、歪んだ笑みの顔に、涙を浮かべる。
大きく溜息をついたこーくんは、ふいと後ろを向く。
「・・・もういいや。カン、映してくれるかな?」
「りょーかいっス。」
地下室入り口に、師匠と2人、黙って佇み、事の成り行きを見守っていたカンくんが、その手に記録用魔道具である水晶を持ちながら地下室の壁に近づく。
ぱぁ、と光った水晶が、壁に映像を映し出した。
そこに映ったのは、私が街で襲われ、袋を被せられ、馬車に乗せられていく所。そして、地下室でのひと騒動が無修正で。
『・・・えぇ、もちろん。ですから、貴女はわたくしが国外で仕入れた奴隷、ということ。どうせ、貴女はこの国の人間ではないのですから、構わないでしょう?・・・』
『・・・あぁ、貴女ともう1人、パーティーを組む男が居たんでしたっけ。貴女と同じくこの国の人間ではない訳ですし、使えるようだから、その男もわたくしの奴隷にして差し上げますわ。』
縛り上げられている私と、それを見下すヒルデ嬢が、4Kもビックリな綺麗な映像+鮮明な音声付きで。
アル頑張ったね。
カメラワークが、どっかの海外ドラマのようだよ。
「嘘・・・なんで・・・嘘よ・・・」
その映像を、目を見開いたままの驚愕の表情で見つめるヒルデ嬢は、うわ言のように呟いていた。
「・・・これでもまだ、言い訳を続けるつもりですか?僕はこれ以上、貴女の執着に付き合う気はありません。貴女は、僕の大切な人に手を出した。大切な仲間を、奴隷にするなどと、領主の令嬢にあるまじき発言を向けた。これだけの鮮明な画像があるんだ。もう、冗談じゃ済まされない。・・・今度こそ、決別です。」
「・・・なんで・・・なんでよ・・・なんでモブがしゃしゃってくるのよォ・・・っ!コウラルはっっ私のっなのにぃ!」
あぁぁぁぁっ!、と断末魔のような泣き声を上げて、彼女はその場に崩れ落ちた。
いつの間にか、こーくんの背後には師匠が控えていて。
ぽん、と肩を叩くと、その身体を下がらせた。
「ヒルデ=ファルコ辺境伯爵令嬢。A級冒険者リン=ブロックへの誘拐、隷属脅迫容疑で連行する。ケネック=チェスター副部隊長、連れて行け。」
「はっ。」
がっくりと項垂れ、動かなくなったヒルデ嬢が、騎士達によって運ばれていく。
その姿が見えなくなり、私と師匠、こーくん、カン君だけ残された所で、私は大きく息を吐いた。
銃剣を持たない左手の掌を軽く開いて握る。
戦闘になれば、勿論負ける気はしていなかった。
でも、やはり。
魔獣を殴るのと、人を殴るのは、同じ殴る行為なのに、感覚が違っていて。
何処か気張っていたんだろう。
相手が誰も見えなくなった所で、漸く気を緩めることが出来たと思う。
「リ~ン~さぁ~んっ」
「ふゃっ?」
背後から予期せぬ低音声が降ってきて、思わずビクッとしてしまった。
恐る恐る振り返ると、黒いオーラがダダ漏れのカン君が居る。
「・・・なぁに?」
「俺、こんな事させる為に、【 魔力流出防御 】の術式を付与した訳じゃ無いんっスけど?」
「あはは・・・ごめ。」
ずぃ、とカン君の顔が迫る。
バツが悪くなって、思わず目を逸らしてしまった。
がし、と肩を掴まれ、顔を覗き込まれる。
「お願いですから、打ち合わせもなく、ぶっ込むのやめて下さい。俺が全然気付かなかったら、どーするつもりだったんですか!」
「え?全部なぎ倒して、捕まえてたと思うよ?」
実際、残るはヒルデ嬢だけだったし。
きょとん、とすると、カン君がガックリとうなだれる。
そして、ヨロヨロと頭を持ち上げると、彼は眉間に皺を寄せて、私を見上げた。
「そーじゃなくてっ!」
「え。だって、明らかに奴ら弱かったから、みんなの手は必要ないなぁ、って思ってたし。アルが記録してくれてれば良かったし。実際に腕輪つけられて、カン君の術式は問題なく機能してたし。どっちゃにしても、全部捕まえた後で、アルから連絡してもらおうと思ってたしねぇ。」
「だからっ、俺の術式よりも強い物を組める奴が相手だったらどうしたんっスか!」
「んー?まぁ、そん時はそん時?」
その言葉を放った途端に、背後から頭をガシッと掴まれた。
あ、これ、ガチのアイアンクロー。
「いだだだ、痛い痛いっ!!」
「馬鹿野郎!」
涙目で振り返ると、師匠が仁王立ち。
その隣には、笑顔のままのこーくんがいる。
「ねぇ、鈴。社会人なら『報・連・相』は必須じゃないのかい?」
オノマトペをつけるなら、ズゴゴゴゴ、とでもつきそうな、黒いオーラを出しながら、こーくんは笑顔だ。
その圧に押されてしまう。
ここは、素直に謝るべき場面、だ。
「・・・・・・心配かけて、ごめんなさい。」
「・・・うん。ねぇ、鈴。突っ走りたくなった気持ちは分かるけど。用意周到に準備していくのと、行き当たりバッタリなのは違うでしょ?君はそれでも上手くやっちゃうけど。協力した方がもっと上手く囲い込めたかもしれない。だから・・・1人で何とかしようとしないで。特に今回の件の当事者は僕なんだから。君だけを、危険な目に合わせたくなかったのは分かって。」
頬に手を添え、諭すように、懇願するように、こーくんは言葉を紡ぐ。
「ま、兎に角無事なら良かった。」
アイアンクローの手を緩め、はぁ、と呆れた風な大袈裟な溜息を吐いた師匠は、今度はその大きな手で頭を撫でてくる。
その様子をぶすくれた顔で見ていたカン君が口を開いた。
「とりあえず、トランシーバー的な通信機器が出来上がったので、それは持っていてください。あとは、それに居場所探知出来るGPS的魔導具をくっつけたのも作りますからね。」
「徘徊老人対応かっ?」
「どっちかってーと、キッズケータイっス!」
・・・どっちもどっちだよ。
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