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妄想乙女ゲームに終止符を
262.釣り上げ準備 其の五(第三者視点)
しおりを挟むアイザックの提案を聞き、黙っていたコウが口を開く。
「サーフェス=ホーカー・・・あぁ、あの時、僕の前に出てきた人、ですか。」
コウが、目を眇め、嫌そうに言葉を紡ぐ。
サーフェスとは、あの時・・・アンジェリン=サルバがにリンに攻撃し、その彼女にコウが刃を向けた際に、刃を納めるよう話してきた者だ。
コウから見たら、こちらの気持ちは関係なしに、アンジェリンを庇うような態度であったのが気にはなっていた者であった。
ただ、彼は、あの処分を決める場にも同席してはいたが、その時はこちらに敵意は見せてはいなかった。
・・・余程、気持ちを制御するのが上手いと見える。
「ふぅん・・・彼の動機は、アンジェリンとか言う女性騎士に懸想をしていた故の、僕に対しての意趣返し、って所ですか?その為に、ヒルデお嬢様と結託した。リンを攫い、魔力制御で動けなくし、始末するつもり、と。」
「まぁ、そう取られても、仕方がない、だろうな。」
アイザックの回答に、コウは唇を噛み締めると、がたりと立ち上がる。怒気をにじませ、何も言わず、部屋から出ようと、身体を反転させた。
「コウさん、待ってください。その点については大丈夫なんで落ち着いて。」
「大丈夫って何だよ!」
落ち着いたトーンで話すカンに、コウは初めて感情を露わにぶつけた。
滅多にない程激昂しているコウの様子に周囲は驚くが、カンは全く意に介さない。
「だから、大丈夫ですって。じゃなきゃ、リンさんはこんな無茶しません。」
「はぁ?」
「リンさんには、『魔力制御の腕輪』へ対抗するアイテムを持たせてあるっス・・・まぁ、だから、無茶したんでしょうけどね。」
「は?」
「何だそれは?」
誰もが首をかしげる中、カンは説明を続ける。
「リンさんには、【 魔力流出防御 】という術式が発動するアイテムを持たせてるんで、『魔力制御の腕輪』を付けられても、魔力を抜き取られることはねぇっス。腕輪をつけられようが、誰かにMP吸収をしかけられようが、抜き取られを感知したら、完全防御しますから。リンさんはいつも通り戦えます。だから大丈夫。」
「お前はまた、何ちゅーもんを・・・そりゃぁ、意気揚々と攫われるだろうな。囮し放題じゃねぇか。」
「次から次へと、術式開発するなぁ・・・想像力逞しいよね。」
頭を掻くファーマスと、怒りの勢いを削がれたコウは、でかい溜息を吐き。
騎士団の3人は理解が追いつかず、目が点になる。
「あー、ちょっと宜しいか?」
そんな様子を切るように、少し言いにくそうに、ロイドが遮る。
「・・・まぁ、カンの魔導具で、リンは大丈夫だろうって事で。すまないが、此方の報告もさせて貰いますよ。領主様の別荘に張り巡らされた索敵妨害ですが、ウチのギルドから盗まれた物である可能性が高いんですわ。」
「な、それって・・・」
「ウチの失態晒すのも憚られるんですが・・・コウとカン、リンがパーティーを組む際に絡んだ、馬鹿な職員が2名居ましてね。其奴らが着服した所までは掴んでます。しかし、何処に流したか、口を割らないんですよね。で、このタイミングで、盗まれた物と同様の物と思しき範囲で、索敵妨害が発生している・・・あの2人だけで犯れるとは大抵思えないので、間に誰か介入してると思うんですが・・・」
一気にそこまで説明して、ロイドは、アイザックを見遣る。
「で、先ほど言ってた、そちらの犯人と思しき騎士が、冒険者と会っていた、という事は間違いないですか?その冒険者は、どの様な特徴でしたか?」
「冒険者・・・ケネック、どうだ?」
アイザックは、ロイドの質問をケネックへと渡す。
「えぇ、彼が破落戸と、それに混ざる冒険者風の男と会っていたのは、ウチの諜報員が確認しています。後は、女性冒険者も2人居たようです。」
「男性1人、女性2人・・・まさかっ?」
カンは慌てて、記録用魔道具を取り出し、壁へと投射する。
「ケネックさん、それって、コイツらじゃないですか!?」
映し出されたのは、劣竜種とのバトルの際に、カンに言い負かされた『獅子の牙』と『水の女神』の生き残り3人組。
「戦士風2人に、魔術師風が1人・・・あぁ、特徴は一緒のようだね。で、彼らは一体?」
「劣竜種討伐の際に、戦場を引っ掻き回して、自滅した上、余計な被害を出そうとした馬鹿ですよ・・・へぇ・・・結局、コイツらか。」
ケネックの問いに、被せるようにしてコウが答える。
そして、一旦治ったコウの怒気が、再び膨れ上がった。
その隣で腕組みをしながら考え込んでいたファーマスが、ふむ、と頷く。
「この馬鹿共は元々コウにとり入ろうと画策していた奴らだ。カンとリンの出現で、その目論見は崩れた。その上、あの劣竜種討伐の際に、カンに馬鹿にされ、プライドはへし折られただろう。・・・で、問題のギルド職員達は、コイツらと繋がっていたんじゃなかったか?」
「あぁそうだ。あの森の探索依頼をお前らに出した時、限定クエストだっつってんのに、馬鹿どもに情報を流したのが、あの2人だったからな。しかし、話を聞かせていた状態で、降格処分にしたのが裏目に出たな・・・」
ファーマスの確認に、ロイドが大きく頷き溜息をつく。
「馬鹿共のギルド内処分は決定してるのか?」
「受付2人は、今回の件が解決次第、クビにした上で詰所に突き出すさ。情報漏洩に窃盗だ。司法に任すつもりでいた。
馬鹿共は、そもそもライセンス剥奪の方向で動いていた。劣竜種の件で事情聴取をしてから剥奪決定して、『影猿』に対する殺人未遂で、詰所に突き出してやる予定だったンだが、いかんせん、あの現場から雲隠れしやがってなぁ。居場所が掴めなかったんだ。まぁ、これで聴取しなくても、ライセンス剥奪はできるし、罪状が増えたから、心置きなく突き出せるがな。」
「そうか、分かった・・・で、ヒルデ嬢の方だが、どうやら護衛騎士が、一枚噛んでいるようだな?『魔力制御の腕輪』を持ち出し、領主の別荘を利用するように誘導したんだろう。リンを始末する事が出来れば、コウと結婚するというヒルデ嬢の望みを叶えつつ、コウからリンを奪うことが出来るからな。
・・・つまりは、リンを貶める事で、冒険者側はカンを、騎士側はコウに嫌がらせが出来、ヒルデ嬢はコウを手に入れられる、三方に理がある、そんな筋書きだったか。」
「・・・反吐が出ますね。」
ファーマスの推理を聞いて、コウは、ぎり、と音が出るほどに、拳を握りしめる。
その様子に、ファーマスは楽しげに口の端を上げた。
「アイザック、ロイド、コウ、それにカン。悪いが、この場は俺が指揮るが良いか?」
「ファーマス殿の指揮下は、久しぶりですね。」
「構わねぇよ。言わば、お前が一番の部外者だからな。」
「・・・えぇ。分かりました。」
「はい。問題ないっス。」
四者それぞれの反応に、鷹揚に頷くと、ファーマスは指示を出す。
「アイザックとヨルクは、領主アダール殿に事の顛末説明。それに、ヒルデ嬢の受け入れと処遇検討の指示を。いい加減野放しにはできないだろ。覚悟を決めてもらえ。
次に、関係する騎士達や使用人の洗い出し、及び処分の準備をしろ。チェスター家ご当主・・・グレイド殿も居るだろうから顛末報告は任せるが、現場への手出しは無用と伝えてくれ。
ロイドは、例の3人のライセンス剥奪手続き実施後、現場に来い。その場で引導を渡してやれ。
コウ、カンは俺と現場。アイザック、ケネックも連絡役及びギルドと騎士団の共闘証明、それに犯人捕縛の為に現場に連れて行くが、問題ないな?」
「構いません。ケネック、お前の直属部下達を幾人か借りるぞ。ヨルクの指揮下に入れる。」
「御意に。諜報員はご自由にお使いください。私は隊長に報告後、犯人捕縛の為、第3部隊を率います。準備でき次第、現場へ急行致します。」
テーブルを囲むように立ち上がった男達の顔を見回し、ファーマスは声を張り上げた。
「これより、A級冒険者リン=ブロックの救出、及び監禁容疑のかかるヒルデ=ファルコ及びその一味の捕縛に向かう!現在5の刻。夜7の刻には全て終わらせる。良いな!」
「「「「「はっ」」」」」
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