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妄想乙女ゲームに終止符を
261.釣り上げ準備 其の四(第三者視点)
しおりを挟む邸には、カン、ファーマス、ロイド、コウの他、騎士団長であるアイザックに、副団長のヨルク、そしてコウの兄である第3部隊副部隊長のケネックまでやって来ていた。
応接室には会議用の机が置かれ、領都界隈の地図が用意されている。
「何故に、皆さんまで?」
カンが首を傾げると、アイザックは苦笑いを浮かべた。
「ちょっと、気になる案件が、騎士団内に起こってなぁ。繋がりがありそうなので、コウラルに連れて来て貰ったんだ。」
「そうですか・・・?」
カンが首を傾げコウを見ると、頷き返してきた。
「カン、思う所はあると思うけど、先ずは、リンが攫われた状況を説明してもらっていいかな?」
「わかりました。」
そうしてカンは、アルから得た情報を紙に書き留めつつ、地図の上に示していく。
昼の1の刻頃に、職人街で被害に遭い、男3人に連れていかれたこと。
その際、腕輪を嵌められたようであること。
彼女を乗せた荷馬車は、領都西門から森林地帯へと入っていったこと。
2キロ程進んだ先に、索敵上100メーター四方で魔力探知が出来ない怪しい空白地帯があること。
その空白地帯の中央に、森の中に馴染むように作られた色合いの、二階建ての建物があり、そこで荷馬車が止まっていること。
そして、その建物に、そこそこに良い馬車が、側に護衛をつけ、向かっていったこと。
その護衛は私服ではあったが、馬上での振る舞いが冒険者ではなく、騎士のように感じたこと。
「・・・最後のは推察なので、事実とは異なりますが、大体こんな感じです。あと、この邸が誰の物なのか、分かれば教えて頂きたいです。」
「・・・何処から突っ込んだら良いのやら。」
その声にカンが顔を上げると、アイザックが苦笑いを浮かべ、ヨルクとケネックが困惑した顔をしていた。
「・・・えぇ。どうして索敵妨害がかかる中、建物が有るのがわかったのか、まるで見て来たようにお話をさせるので。」
ヨルクは困惑の表情に、新たに疑惑を貼り付かせ、カンを見た。
その様子にカンは少しムッとして、細い目を更に細めた。
「・・・あぁ、彼は色々と規格外の魔導師ですし、専用魔道具も有りますから。調べる術は多々ありますよ。ただ、索敵範囲が広がってたのはビックリだけど。」
その様子に、コウが助け舟を出しながらも、驚きを口にする。
「・・・俺の事はいいっス。こうしているうちにも、何かがあそこで起きてるんですから。日も暮れますし、早くしましょう?・・・で、リンさんが攫われた時に、つけられていた腕輪が有るようなんスけど、アレ、見覚えがあり過ぎたんスよねぇ。」
「まさか・・・」
「えぇ・・・コルトとかいう騎士がハメやがったヤツとデザインが一緒で。」
「なっ・・・!?」
ガタッと、騎士達3人は身動ぐ。
「・・・『魔力制御の腕輪』。また、勝手に使われてませんか?盗まれてるか、横領か、して。」
カンの刺さるような視線を受け、騎士団の3人は顔を見合わせ、頷く。
「正に、その話なんだ。ここへ同席させてもらった理由は。」
「どういう事だ?」
眉間に皺を寄せ、ファーマスがアイザックを見つめる。すると、アイザックと顔を見合わせたヨルクが口を開いた。
「シグルドやコルトの一件があり、騎士団内の拘束系魔道具等の備品について、徹底した管理状況の洗い出しを行いました。すると、行方が分からなくなっている『魔力制御の腕輪』が2個、ありました。紛失に気づかれないままだったようで、いつ紛失したのかは不明です。因みにどちらも第1部隊の物、と。」
「では、今回リンに付けられた腕輪は、第1部隊の物の可能性が高い、ということか?」
「えぇ。その可能性が高い、と思われます。それに・・・」
ファーマスの問いに頷きながら、ヨルクは少し言い澱みながらアイザックを見遣った。
頷きながら、アイザックはその後を続ける。
「・・・第1部隊は、王城で言わば近衛の立場にあります。護衛任務は、領主だけではなく、その家族も対象。・・・そして、この数日、ヒルデ付きの担当だった者に、妙な動きをしていた者がおりましてね。」
そこまで言うと、アイザックは溜息を吐いた。
カンとコウは首をかしげる。
「妙な動き?」
「ある冒険者風の者達と接触し、何らかを画策している様子がある・・・との情報がありまして。そしてソイツは、『魔力制御の腕輪』を取り扱う事が出来る立場にある者だった。それに、カン君が言う所の『お邸』だが、あの森林地帯管理のため、ファルコ家で管理している、言わば別荘だ。」
「それって、つまりは・・・」
カンは、ごくり、と唾を飲み込み、次の言葉を待つ。
コウとファーマス、ロイドは険しい顔のまま、黙って聞いていた。
「カン君から提示された話と、こちらの状況を合わせると、恐らく、だが。・・・コウラルとの婚約が進まないことに、業を煮やしたヒルデが、護衛を使ってこの状況を作り出した。冒険者側の協力者は分からないが、騎士団側は、第1部隊副部隊長サーフェス=ホーカーが関与していると踏んでいる。」
そこまで言い切り、アイザックは先程よりも、深い溜息を吐いた。
「あ゛ーっ、何なんだよ、次から次へと。ここまでも腐っていたのかと思うと、全部ぶっ潰して再編したくなるわ。」
ガシガシと頭を掻きながら、いきなり口を突いて出たアイザックの暴言に、カンは目を丸くする。
「そういや、アイザック団長は、王国騎士団からの出戻りでしたっけ。」
「あぁ、交流修行という名目で王国騎士団に出向いていた。ファーマス殿に扱かれたのもその頃でね。・・・兄上が領主を継いでから、戻って来いと言われてな。団長を受けたのは3年前だ。しかし、まぁ・・・叩けど叩けど、埃ばかりだよ。」
「それでも、アイザック様のお陰で、大分綺麗になったのですがねぇ。」
コウの問いに、嫌そうにアイザックは返答する。
そんな様子を、少し柔らかい雰囲気を醸し出してヨルクが見ると、ケネックも思う所があるのか、大きく頷き同意していた。
「まぁ、いいさ。今回の一件で、兄上もヒルデの処遇について考えるだろうし、俺も騎士団の再編に取り組ませてもらう。で、だ。こちらは今すぐ、あの別邸に行っても問題ないが。コウラル達はどの様に考えていた?」
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