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妄想乙女ゲームに終止符を
260.釣り上げ準備 其の三(第三者視点)
しおりを挟む「あぁ、カンか、どうした?」
執務室に入ると、ギルマス用の椅子に腰をかけるロイドと、執務机の傍に立つファーマスがしかめっ面をしていた。
「・・・何か、あったんですか?」
「あぁ、ちょっとなぁ。」
ガリガリとロイドが坊主頭を掻く。
何処か余裕がなく、疲れた様子。
「ロイド、カンには話して良いと思うぞ?コイツらだって関係なくはない。」
不意にファーマスが口を開いた。
「だがっ!・・・まぁ、そうか・・・すまん。カン、貼ってくれるか?」
苦い顔をして、ロイドはカンに向き直る。
カンは、こくりと頷くと、魔力を練り上げた。
「【 完全遮音 】・・・で、ギルドで何かあったんですか?」
執務机の傍に寄ったカンは、遮音結界を発動させながら、首を傾げる。
ロイドは、大きなため息をつく。
ファーマスは、カンと入れ替わり、応接セットのソファに腰を下ろすと腕組みをする。
「先程ザイルから連絡があってな。ちょっと、支部内で不祥事が発生した。」
「不祥事、ですか?」
「あぁ・・・ミッドランド支部で、重要魔道具の紛失さ。」
「魔道具?」
「犯人は判明しているんだが、モノが無い。」
頭を抱えるロイドを見ながら、カンは腕組みし、顎に手をやり考える。胸の奥がザワザワと予感めいたものが渦巻いた。
「・・・その魔道具は、どんなモノなんスか?で、犯人は?」
ロイドはカンの顔を見上げると、諦めたように口を開いた。
「・・・犯人は、カリミナとルーミルという、お前らがパーティーを組む際に絡んだ女性職員2人。盗まれたものは・・・100メーター四方で索敵避けを発動する魔道具だよ。」
「100メーター四方・・・」
ロイドの言葉を聞いたカンの頭の中では、色々なモノが繋がっていく気がしていた。
「・・・ロイドさん、師匠。急ぎチェスター家のお邸まで来てもらってもいいっスか?」
「どうした、急に。」
ロイドとファーマスは訝しげな顔をする。
「多分、今の話も関わることの気がします・・・昼過ぎに街に1人で出たリンさんが、ワザと刺客に攫われました。」
「「あ゛ぁっ?!」」
ロイドとファーマスが、同時に野太い声を発した。
「攫われた先は、領都より西に2キロ程行った森林地帯にある、緑色のお邸・・・其処の周囲が100メーター四方で索敵が妨害・・・ジャミングされてます。」
「ちょっと待て。お前、何キロ先索敵してんだ?」
焦ったような声をロイドが上げた。
「先程半径3キロに広げました。」
「「3キロぉっ?!!」」
「アルが送ってきた映像と、索敵での位置が合わせられなかったんで、気合いで。」
「気合いで広げれるんなら世話ねぇよ・・・」
ロイドが驚愕の顔を、ファーマスは呆れた顔をカンに向ける。
「兎に角、リンさんが攫われた件、ギルドから索敵妨害魔道具が盗まれた件。繋がってる気がするっス。コウさんが、騎士団の方に出向いていたらしいので、ダーヴィさんにお願いして、お邸の方に戻って来てもらうように連絡してもらってるんで、あっちで一気に話してしまいたいんっスけど。」
「あー・・・わかった。準備すっから、ファーマスと先に行っててくれ。」
「わかりました。じゃ、師匠、行きましょう。」
「あ、あぁ。」
有無を言わさぬカンの様子に気圧され、ファーマスは立ち上がり、彼の後に付いて行った。
ロイドはその背を見送ると、ザイルからの伝書鳥のメッセージや、帳簿の写などを整理する。
「・・・ったく、恐ろしいやっちゃなぁ。」
どんどんと規格外になっていくカンの様子に、溜息を吐きつつも、その彼の力で、頭を悩ませていた一件にケリをつけられるかもしれない、という期待が膨らんでしまう。
「おっと、待たせてらんねぇな。」
ロイドは整理した資料を持ち、残る職員に業務の指示出しをすると、急ぎチェスター家の邸まで向かった。
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