転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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妄想乙女ゲームに終止符を

258.釣り上げ準備(第三者視点)

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「うっし、何とかできた。」


カンは、作業の手を止め、顔を上げる。
昼過ぎ直ぐくらいにネックレスが出来上がり、すぐリンに渡した後、彼はトランシーバー擬き作成に取り掛かっていた。

細かいパーツは、鑑定さんからの指示通りに、鉱石から魔力で錬成して作り上げた。
組み立ては、プラモデル作成みたいで思わず熱中してしまったようだ。鑑定をかければ、正しく組み上がっているとの判定。
組み上がったものは、トランシーバーと言うよりは内線通話機器インカムだ。しかも、小型ヘッドセットだけの独立した形。原理は分からないけど、魔力により送受信可能。
1台完成してしまえば、後は複製をかければイケるはず。
空間収納に入れ、複製すると、問題なく2台になる。
チャンネルは1つだけ。コレ同士でのやり取りになるし、増やしても同じ事だ。


「早速試したいけど・・・あれ?今何時くらいかな?」


カンは窓の外を見る。
少し日が傾き、オレンジの色が濃くなり始める頃合い。外の様子から、作業を開始して、3時間以上は経っているだろうか。
椅子の背もたれに寄りかかり、伸びをする。

今日は完全オフで、皆が何をしているかは、カンには分からない。


『そういや、リンさん、何処に行ったかな?』


どうせなら、リンと試したいと思い、何となく、アルに同期リンクをかけてみる。
繋がった途端、アルから焦ったような想いが伝わってきた。


“ごしゅじん、やっと、つながったの!
りんが、つれてかれちゃったの!”


「何だって!?」


思わぬアルの言葉に、ガタン!と、勢いよく立ち上がった衝撃で、椅子が倒れる。


「場所はっ!?」


“えっとね?
まちの、にしがわからでてったの!
りんがねー、「はなれてついてきてね」ってゆーから、ついてきたの!
でもね、こっからなかにはいったら、ごしゅじんとれんらくとれなくなるから、まってたの!”


アルは画像をカンの脳裏に寄越してくるが、森林地帯のようで、これといった特色がない。
これまで最大の半径1キロの索敵と合わせても、範囲外のようだった。


「くそっ!索敵範囲を広げるっ!」


ごそっと魔力を持っていかれ、クラっとする感覚があるが、なりふり構わず索敵に集中する。
ぐん、と半径3キロ程度に索敵範囲が広がり、アルの位置が判明した。
アルの言う通り、西門から2キロ程先にある森林地帯の一角が不自然に白く抜けている。

劣竜種レッサードラゴンの縄張りでは、索敵妨害ジャミングがかかったようで、先行するアルの映像が見る事ができなかった。
縄張り内に入ってしまえば問題なく同期はできたが。

つまり、通常の索敵には索敵妨害ジャミングがかかる。
アルがその範囲内に入ると、もれなく影響を受ける。

でも、その範囲外なら?

今回は、どうやらアルは、カンと通信をする為に、索敵妨害ジャミングから外れた位置に居る様子。


「アル、索敵妨害ジャミングから付かず離れずで撮影は可能?出来れば、中にある建物上空に近づいて撮影できれば、それで。」


“やってみるー”


脳裏に浮かぶ映像が、ドローンのように浮遊し、索敵妨害ジャミングを探るように上昇する。

上空20メーター程だろうか。
そこから真横に移動していくと、森の中にポツンと二階建ての建物が見えてきた。

この世界ではお邸と言われるだろう大きさ。森の中に馴染むように作られた色合いであるから、何か意図がある場所なのだろう。

・・・そんなことは、どうでもよくて。

その邸の周囲の様子を、ズームでくまなく探る。
入り口付近に1台荷馬車が止まっているのがわかった、
するとそこに、もう1台そこそこに良い馬車が走ってくるのが見えた。
御者が乗っているようだ。側には馬が2頭並走している。私服だが、護衛か?冒険者というよりは、騎士っぽい立ち姿の様に見えた。


「アル、そこにリンさんが居るんだな?」


“うん。
おっきなふくろにいれられて、とまってるあのばしゃにのせられたから。
でも・・・なかでなにしてるかはわからないの。”


アルはそう伝えながら、リンが街中で襲われてから運ばれるまでを、倍速でカンの脳裏に見せてくる。


『全く、あの人は・・・っ!』


多分、1人で出て行ったのは偶然だろう。
街中で付けられていることを察して、コレを即座に計画した。・・・あのネックレスに付けた【 魔力流出防御 アンチ・マジックフロウ 】の効果を見越して、ワザと襲われた。
あえて、アルに『離れて付いてくるように』と言った、ってことは、言わなくてもカン自身が気付くと踏んで、だろう。


自分の術式を信頼してくれているのだろう、という嬉しさと、何で、また無茶すんのかなぁ!って苛立ちとが、綯い交ぜになる。


『でも、だってさぁ?』


術式を組んだのは、不測の事態に備えて、だ。
わざわざ、囮になりに行く為じゃぁない。

しかも、打ち合わせも何もなく。
その様子が、自分達がたどり着くまでに、終わらせる気満々な気がしてくる。

若干、苛立ちが強くなりながら、カンはアルに指示を出す。


「・・・分かった。そこの場所のマーキングもしたから、アルは隙を見て中に入ってくれるか?今から、誰かが行くようだ。中の様子を撮っておいてくれ。」


“りょーかい、なの!”


元気の良い想いが聞こえ、映像が搔き消える。
索敵妨害ジャミング内に入ってしまった為と思われた。


「さて、先ずはみんなと合流しなきゃ。」


カンは魔力ポーションを取り出して一気に飲み干すと、勢いよく部屋を出た。







カンは、邸内の点検をしていた家令のダーヴィの姿を見かけ、コウとファーマスの姿を見なかったか尋ねた。
ダーヴィからは、コウはファルコ領騎士団本部、ファーマスは冒険者ギルドミッドランド支部領都出張所へ出向いているようだ、との情報を得る。


「ダーヴィさん、コウさんに、お邸に戻るよう連絡を入れてもらっても良いでしょうか?俺は、ギルドの方に行ってます。ロイドギルマスにも話さなきゃならないんで。もし2人が入れ違いで戻ってきたら、そのまま引き止めておいて貰えますか?」

「分かりました。リンさんに何かあったのでしょうか?」


伺うようなダーヴィの視線に、カンは黙って頷く。

「そうでしたか・・・コウラル様坊っちゃま以外に、旦那様や奥様には、私の方から連絡を入れておきましょうか?」

「・・・いえ、できれば、先ず僕らで方針を固めてから、チェスターご夫妻へはお話していただきたいです。情報が錯綜して、バラバラに動かれてしまう方が問題なので。」


ふるふると首を振ると、カンはダーヴィを見据えた。
ダーヴィは、にっこりと微笑見返す。



「そうですか、了解いたしました。馬車をお使いになりますか?」

「いえ、身体強化で走っていきます。お気遣い感謝します。」

「分かりました、お気をつけて。」


ダーヴィに見送られたカンは、全力で、冒険者ギルドへと向かった。







***************

※ ここにきて、カンが反則級チート持ちと化しております。多分この物語の中で、一番のチート持ちw
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