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妄想乙女ゲームに終止符を
254.魔工技師の好き勝手
しおりを挟む婚約者候補(自称)騒動が落ち着き。
ヒルデお嬢様の動きもないまま、数日が経過。
冒険者ギルドの出張所で、領都界隈の討伐依頼を引き受けたり。街角の雑用を引き受けたり。
チェスター子爵夫人に連れられて、孤児院に顔出ししたり。
こーくんのご実家の厨房を借りて、遠征用ご飯を仕込んだり。まぁ、スープを何種類かと、副菜・・・と言ってもきんぴらっぽいものや、お浸しといった簡単なものだけど。
イグバイパーの照り焼きのサンドイッチも作ってみた。
空間収納は助かるねー
色々仕込んでいたら、チェスター家の料理人さんが興味津々だったので。
差し障りの無さそうな物だけ教えてみた。
流石にまだ、商業ギルドで情報解禁してない物はやめといたよ。
ちょっとは、この世界に適応してきてるんかな。
・・・そういや、自重を忘れた魔工技師さんがいるんだよねぇ。
今日も嬉々としてなんか作ってんだよ。
トランシーバーは、まだできてないらしいんだけど。
そんなことを考えながら、お邸の中を移動する昼下がり。
今日は1日オフにしているので、邸内でまったり過ごしていた。
蔵書があるってんで、この国の成り立ちに関する本と、領土関係の本を借りて部屋に戻る。
進行方向でガチャ、と扉が開き、ぬ、っと大きな身体が現れた。
「リンさんっ、ちょーどよかった!できたっス。コレつけて♪」
ずい、両手で差し出してきたのは、盾の意匠のチャームが付いたネックレス。
昨日の夜、ちょっと貸して?、って言うもんだから、一時的に貸し出していたのだけど。
それを、満面の笑みで差し出してきた。
・・・何か、寝不足っぽいテンションなんだけど。
嫌な予感しかしないので、少し後ずさる。
「常時、とまではいかないけど作ってみたっス。」
何だか、大型犬の褒めて褒めて、みたいな感じに見えるけど・・・
差し出されたネックレスは、三色の石は同じで、デザインも変わらないみたいだけど、チャームの部分も、チェーン部分の素材が変わった?
恐る恐る鑑定さんかけて・・・吃驚。
「ちょっ?」
「はい、後ろ向いてね。」
鑑定かけるのに、伸ばしていた腕を取られ、くるん、と後ろに回され、抵抗する間も無く、首に巻かれてしまった。
「【 持主固定 】」
「・・・何してくれてんのさ。」
フックを付け終わったかと思ったら、背後から何やら不穏な 言葉 が聞こえてくる。
「ん?持ち主を固定する魔法。 誰か が、奪おうとしても取れねっスから。いやー疲れた。チェーンも、ペンダントトップも、ミスリルにしたから。ミスリルって、加工大変なんスね。でも、それによって、付与できるモノも増えたし。頑張った、俺。」
「・・・あのねぇ。」
自画自賛しながら簡単に言い放つカン君に、思わず頭を抱えた。
・・・こーくんが用意してくれたネックレスが、古代の遺物並みの、国宝級代物に変化してた。
【 再生回復 】
【 反射攻撃 】
【 絶対防御 】
これ以外に、新しく2つ術式が付いてんよ。
・・・マジで何してくれてんのさ。
「・・・ねぇ。カン君自身のは?」
「ん?あぁ。俺と、コウさんと、師匠のネックレスも、同じように改造付与してっから、大丈夫っスよ?心配しないで?」
首にかかる自分のネックレスを人差し指にかけ、にぱ、と、糸目がこれでもかって細くなり、笑顔になる。
「・・・ねぇ、リンさん。貴女は自分の事より俺らの事優先するし。自分の命を簡単に差し出そうとするでしょ?でもね、俺らの生命線は、リンさんなの。だから、簡単に死ねなければ良いんっスよね?」
「だからって・・・」
「うん、コウさんにも言われた。この術式はこの世界に無いって。だから、リンさんと俺らのヒミツ、ね?」
人差し指を唇に当てて、イタズラっ子のように笑うカン君に、呆れと・・・申し訳なさが生まれる。
「・・・そんな顔しないで下さい。申し訳ないなんて思わなくていいっス。無鉄砲な貴女を守るのに、俺が好きで やってるだけなんスから。だから、俺が作るモノを大人しくつけといてくださいね?」
「・・・ごめん。」
「ありがとうで、貰っといて下さい。じゃ、まだ作るモンあるし、夕飯の時に、ね。」
カン君はそう言って身を翻すと、また自分の部屋へと戻っていく。
残された私は、無意識のうちにチャームを握りしめていた。
*
何だか居た堪れなくなって、借りた本は部屋に置いて。
チェスター家のお屋敷を出て、街に向かう。
夕飯までに戻ればいいか。
お昼の混み合う時間が過ぎ、街は少し落ち着く時間。
また夕方には、仕事帰りの人達でごった返す。
それまでの狭間の時間を、プラプラとする事にした。
肩にはアルがステルス状態で乗っている。姿は見えないのに、楽しそうな様子で何か笑える。
ヴェルも出してあげたいけど、何があるかわからないので、申し訳ないけど猟銃として空間収納に入ってもらっている。
何となく、職人街へと足を向ける。昼下がりは、休憩時間。
日中なのに人通りも少なく、静か。
職人街を抜けると、公園がある。
そこに向かって歩いていたら、不意に後頭部に衝撃が走り。
そのまま、私は崩れ落ちた。
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