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チェスター家の男
251.収束 其の三(第三者視点)
しおりを挟む困惑の色を隠せないままの3人の様子に、アイザックも、ヨルク副団長も、そして、彼女達の上司であるロメル第1部隊長も、呆れ混じりで溜息をついた。
「・・・メイア=ブローニンは、女性騎士の立場を上手く使った犯罪調査に貢献。それにより、当領だけではない、この国全体の女性騎士達の価値が認められ、地位向上が図られるようになった。現に君達が属する女性小隊の基礎を作り上げたのは彼女だ。
そしてライリー=ザヌーソ。彼女は、元々平民であった立場から、スラム街にいる者達、しいては孤児達の身柄確保を行い、状況改善を図るために奔走した。そのお陰で、この領には怪我をし仕事が出来なくなった者や、商売に失敗した者などの更生施設が出来、孤児達は速やかに教会に併設されている孤児院へと保護され、教育を受けられるようになった。それにより、ファルコ領の特に領都付近は、犯罪発生が減ったのだ。
アンジェリン=サルバ。『戦乙女』の名を冠するのであれば、それに匹敵する『何か』を成し遂げたのであろう?」
「そ・・・れは・・・」
「誰かの為に献身的に働き、愚直なまでに職務を全うする。そんな彼女達だからこそ、チェスター家の男共は欲し、彼女達を支援する為に暗躍したんだ。・・・それで、君には何がある?」
「・・・わたくし、には・・・でもっ!あの女性だって!」
「それは、リン=ブロック氏のことか?彼女は人為的に起こされた魔獣暴走の制圧、そしてその犯人の捕縛に多大な貢献をしている。つい先日の『旅馬車』『猟犬』の共闘による劣竜種の討伐もだ。魔物に潰されそうになった冒険者を助け。劣竜種が空に舞い上がり攻めあぐねた所を、あの武器で撃ち落としたとのこと。それに・・・」
アイザックはニヤリと笑い、話を続けた。
「・・・騎士団内の食堂でも話題になったであろう『付与料理』。あれを考案し、大元となるレシピをタダ同然の値段で公に開示したのは、彼女と、ここに居るカン=マーロウ氏だよ。
実際に料理自体は巷でも流行っているし。あのレシピの考え方を使い、商業ギルドの許可を受け、薬師グループで試験的に売り始めた、回復効果付きの安価な飴。あれのおかげで、ミッドランドの界隈では、ここ数か月にも関わらず、子ども達の病気の重篤化や死亡が減ったと聞く。冒険者である筈の彼女は、我々騎士以上に、領民に貢献しているのだが?」
「そ・・・んな・・・」
アンジェリンは、がっくりと項垂れた。レミルもカーラも二の句が告げられない。
「レミル=コーギュ。君も同罪だ。意味も知らず、アンジェリン=サルバを『戦乙女』と煽り、勘違いを起こさせた。それに先程は、被害者であるリン殿の仲間である、カン殿に、私恨で刃を向けた。まぁ、力量差により、直ぐに捕縛されてはいるが。
これにより、騎士団からは除隊。アンジェリン=サルバ同様、女性用更生施設にて3年の労働の後、釈放となる。その後、当騎士団に戻る場合は、一般受験となる。」
さぁ、と、レミルの顔色は青くなる。
その様子を見ながら、アイザックは内心溜息が止まらなかった。
自らの行動が及ぼす影響を、ここまで考えつかない状態である事に、頭を抱えたくなる。
「・・・カーラ=シレネ、君はアンジェリン=サルバを煽った・・・君にその意思はなかった、と言おうが、教唆と取れる行動だ。よって、除隊までは行かないが、3か月の謹慎処分とする。また、小隊副隊長の任は解き、一般団員として取り扱う事とする。」
「は・・・はい・・・」
他2人と違うとはいえ、ある程度の覚悟はしていたのだろう。カーラは青ざめながら返事をする。
「騎士であること、騎士団員である事の何たるやを、冒険者に諭されなければならない体たらく。手続きが終わるまでの間は、懲罰房へ隔離する。今一度、自身の行いを振り返ることだ。」
アイザックのお達しが響き渡り、姿勢を正した騎士達は拝礼を行う。
そして、それを見計らったかのように、ノック音が響いた。
ヨルク副団長がいち早く反応して、扉前まで移動する。
「はい。」
『指南役、メイア=チェスターです。』
「どうぞ。」
ヨルクは素早く扉を開け、メイアを中へと迎え入れる。
「ご足労頂きまして、ありがとうございます。」
「構わないわよ。処分は決まったのかしら。」
「はい、先程。」
部屋の中へと進むメイアの後ろには、ファーマスとリンが続いてきた。
「リンっ!」
「リンさんっ?!」
勢いよく立ち上がったコウとカンは、周囲が唖然とする中、素早くとリンの元へと近づいた。
カンは自重したものの、コウはそのままリンを抱き止める。
「わ、ぷっ」
「良かった。無事だね?火傷は?傷は?残ってない?母上も容赦ないから・・・」
少し身体を離し、ペタペタと顔に首にと触れ、過保護なまでにリンの身体を心配するコウの様子に、カンとファーマス以外が固まった。
家族であるメイアやケネックは、身内であるが故、人を食ったような生意気な態度しか取らない三男坊を見てきたため、豹変具合を目の当たりにし、やはりチェスターの血筋だったことを理解する。
それ以外の騎士達は、先程までの無表情の怒りの様子からの豹変に、ついていけていない。
「・・・腐っても、チェスター家というか、やはりというか。長男と、次男と、一緒だな。」
「・・・全くだ。」
苦笑いで呟いたアイザックに、血筋ではない事を知るファーマスは、軽く頷き返すだけに留めた。
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