転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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チェスター家の男

251.収束 其の二(第三者視点)

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※ 章名追加しています。チェスター家のお話になってきたのでね・・・σ(^_^;)


**************



「第1部隊所属、12小隊長アンジェリン=サルバ。君は、騎士として有るまじき行為を行ったという自覚はあるか。」

「・・・はい。」


アイザックの怒気の滲む問いかけに、怯えながらアンジェリンは答えた。儚げに見えるその様子は、通常であれば男性の加護欲を唆る。

ただ、この場にいる男性は、誰もその様子に心動かされる事なく、淡々と進む。

アイザックは、アンジェリンの処分について、口を開いた。


「アンジェリン=サルバ。動機も、しでかした結果も、情状酌量の余地は無い。ただ、その攻撃を防御した審判役のA級冒険者ファーマス=ベレッタ氏からは『放たれた攻撃魔法の、致死性の、と判断する。』と報告を受けている。」

「はっ!?」

「よって、12小隊長の任を解き、騎士団からは除隊。女性用更生施設にて3年の労働の後、釈放となる。その後、当騎士団に戻る場合は、一般受験となる。異議はあるか。」

「あ・・・」


アンジェリンは、わなわなと震え、何も答えられない。

自分が放った【土槍アースランス】は、怒りや嫉妬の感情からなのか、自身の中で過去最大の攻撃力だった。
確実に、あの冒険者を屠るつもりだったのに。

それが、あの『英雄』から「」と判断されたのだ。
彼女は、根底にあった自信が崩れていく音を感じていた。


「アイザック団長、発言の許可を。」

「カーラ=シレネ部隊員、よかろう。」


震えるアンジェリンの手を握りながら、カーラが毅然と口を開いた。


「彼女は、女性騎士達では一番に強く。統括にも優れています。『戦乙女ヴァルキリー』とも称される程に、敬愛の対象でもあります!ですから、どうか・・・」

「『戦乙女ヴァルキリー』・・・だと?」


カーラの台詞に、アイザックは眉を顰めた。


「・・・第1部隊部隊長、 ロメル = ハヴィランド。」

「はっ。」


アイザックに視線を向けられた、第1部隊部隊長であるロメルは、姿勢を正し返答する。


「・・・それは、第1部隊のか?」

「いいえ。一部の女性騎士の間での俗称かと。」

「なっ!?」


その言葉に、カーラもレミルも、そしてアンジェリン自身も、思わず背後を向く。


「・・・で、あろうな。我々上層部には、は上がっていない。そうだな?ヨルク。」

「えぇ。そうですね。」


アイザックの問いかけに、ヨルクは侮蔑のような溜息と共に答えた。


「第3部隊副部隊長、ケネック=チェスター。第3部隊はどうだ?」


アイザックは、そのままケネックへと目を向ける。
ケネックは素早く立ち上がると、回答する。


「はっ、第3部隊は、女性騎士含め、そのような俗称で、を呼ぶ事は有りません。寧ろ・・・」

「・・・兄上?」


そのまま発言を続けようとしたケネックを、コウは隣からギロリと睨む。
ぅぐ、と言葉に詰まるケネックの様子に、アイザックはふ、と笑みを浮かべた。


「寧ろ、何だ?その先を許す。」


ニヤリとしながらアイザックは、チェスター兄弟ケネックとコウラルを見据えた。

その様子に、ケネックは苦笑いを浮かべ、コウは視線を逸らし溜息をつく。
ふ、と息を吐くと、ケネックは再度口を開く。


「・・・では。我が第3部隊では、冒険者ギルド、ミッドランド支部管轄内で起きた魔獣暴走スタンピート制圧、及び、元クラスAパーティー『ケルベロス』による暴力事件の収束後より、に対して『戦乙女ヴァルキリー』の敬称が用いられております。」

「ほぅ、して、誰を指す?」

「クラスAパーティー『旅馬車トラベリン・バス』構成員、A級冒険者、リン=ブロック氏です。その強さ、胆力、立ち振る舞い、社会貢献・・・それらより彼女を『黒髪の戦乙女ヴァルキリー』と呼び慕う傾向に有ります。なお、先程の『女傑』との『手合わせ』で、その傾向が強くなったと思われます。」


一気に言い切ったケネックの隣で、コウが嫌そうに溜息を吐き。
カンも苦笑いを浮かべたまま、アイザックの顔を見ていた。


「・・・そうか。まぁ、パーティーメンバーからみれば不本意なのだろうが・・・功績からも鑑みて、妥当ではあろうな。あぁ、安心してくれ。別にファルコ領騎士団として正式な呼称とする訳ではない。まぁ・・・黙認、だな。」

「・・・迷惑なんですがね。」



アイザックと視線を交わすコウは、眉を顰めたままだ。
それを見ながら、人間味が出てきたなぁ、と、アイザックは感慨に耽る。

コウラルの事は、父であるグレイドに連れられ、アイザックの甥であるカイルの世話役としてファルコ本邸に出入りしていた頃から、ずっと知っていた。
騎士団の体験入団で頭角を現した時も。
・・・無論、姪であるヒルデに付きまとわれ、表情を無くしていくさまも。

彼がA級冒険者となり、仕事として対面する事は幾度となくあった。しかし、何時も穏やかな笑みを浮かべ、何処か一線を引くような態度だった。

強さは本物。孤高の存在として磨かれていくが、危うさも孕み。
精神面が気になり、1人にしておくことが良からぬ結果となりそうで、幾度か、次兄ケネックをを通し騎士団への入団を打診したが、断られ続けた。

人間味を取り戻したのが、リンとカンあの2人のお陰であるのならば、冒険者として生きるのは、仕方のない事なのだろう。


ーーー それでもやはり、騎士団に欲しかったが。



「なぜ?『戦乙女ヴァルキリー』は私・・・」



信じられないようなモノを見る目で、アンジェリンはケネックを見て呟いた。
刹那の間、感慨にふけっていたところを、無理やり現実に引き戻され、アイザックは不機嫌になる。


「・・・アンジェリン=サルバ。君が 『戦乙女ヴァルキリー』と言うならば、君はこの騎士団で『何を』成し遂げた?」

「何を、とは・・・」

「レミル=コーギュ、カーラ=シレネ。君達にも問おう。君達は、『戦乙女ヴァルキリー』と一緒に、『何を』成し遂げた?」

「は・・・?」

「成し遂げた・・・とは。」


アイザックの言葉の真意を理解できず、3人は困惑した顔を見せる。



「・・・過去、当騎士団において、騎士団全体から『戦乙女ヴァルキリー』と呼ばれ、認識されたのは2名。メイア=ブローニン、そしてライリー=ザヌーソ。知っての通り、現チェスター家当主グレイド=チェスターの伴侶パートナーと、チェスター家の次期当主ライル=チェスターの伴侶パートナーだ。彼女達はただ剣が強かっただけではない。彼女達の、当騎士団と、この領に対する功績は大きいのだ。
この騎士団で『戦乙女ヴァルキリー』と呼ばれている、と言うからには、何らかの功績があるのだろう?」


アイザックの厳しい目が、3人へと向けられた。
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