転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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チェスター家の男

【閑話】希望の鐘が鳴る朝に・壱

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※ 唐突ですが、コウの父:グレイド=チェスターと、母:メイアの馴れ初め話。
※ 4話構成。途中胸糞要素強いです。ご注意下さい。
※ 折を見て、裏へ移動します。




*****




情熱的な赤髪のショートカットがふわりと揺れる。凛々しく整った顔立ちが、嫌そうに少し歪んだ。

彼女の目の前には、ライトグリーンの髪色を持つ美青年。
細身の眼鏡は一見冷たそうな印象を与えがちなのだが、その奥の垂れ目の所為で、甘い顔面のアクセントになっている。



「・・・帰れ。」

「どうして?メイア嬢。僕は少しでも長く、君と逢瀬を過ごしたいんだけど。」

「何度来ても同じだ。私は貴様の求愛には答えられん。貴様には沢山“候補”がいるのだろう?私に構うより、其方のお嬢様達に誠実に向き合ったらどうなんだっ。」

「嬉しいな。妬いてくれてる?」

「巫山戯るな!」

「フザケてなんかいないよ?そんな、誠実な思いなんて物は彼女達にないんだもの。十把一絡げで断ったって問題ないんだよ。」


ふわりと甘い笑顔から漏れ出るのは、辛辣な言葉たち。
メイアは益々顔を歪めた。


「貴様・・・っ!彼女達の思いを何だと!」

「あのねぇ?大体のご令嬢は、僕をアクセサリーか財布にしか思っていないのさ。僕を夜会に連れ回して見せびらかすか、僕の資産を搾り取るか。自分のステータスを上げることに僕を使うことしか頭に無いんだ。恋愛がしたい?そんな事言う癖に、僕自身を知ろうともしない。僕は根っからの仕事中毒者ワーカホリッカーだ。なのに、『仕事ばかりではなく、私にも目を向けてくださいませ』だぁ?」

「そ、そこは、少しでも心を通わせるべきではないのか?」

「僕の存在意義アイデンティティを真っ向から否定する奴らにかける時間なんて勿体無いし。・・・でもね、君はずーっと僕に誠実でいてくれた。君は僕の仕事を否定しないでしょ?」

「職業に貴賤はないだろう?」

「・・・うん、そーゆーとこが嬉しいんだ。それに、君自身が、自分の仕事に誇りを持ってる。最初は家族を守るためであったかもしれないけど、今は、この騎士職お仕事好きでしょ?」

「・・・あぁ。」

「僕はね、自分の仕事の合間に、君がお仕事している姿を見るのが好きなんだ。君を見てたら、まだ頑張ろうと思える。騎士道を貫いて、街の人に優しくて、困った人や泣いてる人を救い上げて、しかも戦場に立てば強い。荒地でも咲き誇れる鬼百合みたいで、綺麗なんだもの。」

「・・・褒めてないだろ。」

「そう?僕は、花壇で大事に育てられて咲き誇る花より、山で逞しく咲く野生の花の方が綺麗だと思うから。あと、野菜の花も好き。彼らは、実となり僕らの糧になってくれるため、健気に仕事してるもん。・・・ねぇ、メイア嬢。僕と結婚して?」

「なっ!?」

「仕事は続けてもらって構わないし。ってか、むしろ続けて?子どもができたら、僕も子育てするし。何なら、僕が休もうか?その為なら仕事の調整も可能だよ?」

「・・・馬鹿だろ、貴様。私なんて・・・貧乏男爵家だぞ?貴様に益など何もないっ!」

「僕はメイア嬢と一緒に過ごせるだけで有益なの。馬鹿になって、貴女の手を取れるなら、僕は幾らでも馬鹿にでも、道化にでもなるよ?何せ、僕は『変わり者一族チェスター家』の一員だからね。生きていける財力があって、愛する人と共に生きる事に重きを置く、“変わり者”だから。家の繋がりなんて、クソどーでもいいの。」


そう言って、グレイドは眼鏡の奥の垂れ目気味の目を細め、メイアの左手を取り、その指先に口付ける。


「だから、ね?メイア=ブローニン嬢。この僕、グレイド=チェスターと共に歩んで下さい。」


メイアは俯き唇を噛み締めたまま、何も答えられなかった。
ただその耳が真っ赤になっているのを、グレイドはほくそ笑みながら眺めていた。







ある時から、ファルコ領騎士団に属する女性騎士達が相次いで辞めていくようになった。
辞めていく者たちに理由を聞いても、皆一様に口を閉ざし、何も言ってはくれない。

それでなくても数少ない女性騎士が、じわりじわりと減っていく。
メイアは焦っていた。

メイアは、声を上げられない弱者を救う術として、女性という立場が使えると思い、仲間の女性騎士達と積極的な街の見回りや相談受付を独自に強化していた。
予算もつかない、仕事や訓練の合間を縫った、草の根活動。

それにより、少しずつではあるが、泣き寝入りせざるを得なかった女性をターゲットにした犯罪が、徐々に白日の下に晒される事になった。
メイア達女性騎士が親身になる事で、被害女性達が心を開き、解決に前向きになってくれたからだ。
それにより、噂だけで捕まえられなかった、とある子爵令息が婦女暴行犯として捉えられたり。
婦女暴行の捜査がきっかけで、奴隷売買等の別事件に関与していたとして、とある伯爵が捕まったりと、成果を上げていった。

自分が属する第7部隊の部隊長は、その成果を認めてくれ、団長に女性騎士の取り扱いの有用性を提示してくれた。

ならば、と、領都の治安維持のため、女性騎士のみで編成した小隊を試してみるよう団長からお達しがあってから、この問題が浮上してきた。

無論、面白くないと思っている輩がいる事も知っていた。
それでも、負けられなかった。


そんな最中、いつもの通りメイアに会うため、アポなしで騎士団詰所に突撃してきたグレイドは、メイアを覗き込む。


「メイア嬢、困った顔してるけど、どうかしたの?」


視界に飛び込んできた、緑色の綺麗な瞳に見惚れそうになり、メイアは被りを振る。


「・・・何でも、ない。」

「そやって、すぐ我慢しちゃうんだね。何でもなくはないでしょう?何に悩んでるの?話して?」

「・・・貴様には、関係ない。」


ふむ、と息を吐いたグレイドは、メイアの手を取ると、詰所奥にある調書を取るための小部屋へと入っていった。

手際よく鍵をかけて、防音の魔道具を起動させる。


「なっ・・・何をする気だっ」

「関係ないなら、尚更僕に吐き出してよ。あのね?悩みは人に話した方が、頭の中が整理されて、悩みの根本がハッキリしたり、解決策が見出せたりするんだよ?ウジウジグズグズ悩むよりは、はるかに建設的じゃない?」


そんなのは口車だ・・・そう思っていたのに、ぽつりぽつりと状況を話してしまったのは、メイアの心が疲弊していたのか、グレイドの交渉術によるものか。

全てを聞き出した後、グレイドはメイアに見えない位置で口角を上げる。


「ふぅん。使えるハズの女性騎士達が次々に離脱、ねぇ・・・?ね、辞めていった彼女達の名前を聞いてもいい?」


何処からかレポート用紙を取り出したグレイドは、メイアの供述から、現状の調書を手際よく作り上げていく。


「さて、と。ここに書いた通り、彼女達の辞めた理由は、結婚のため的な感じだけど。家の事を考慮すると、時期尚早だったり、不自然だったりしている。何かしらの、外部圧力があったんじゃないかな?」

「つまりは、ある程度の権力がある、上位貴族が絡んでいる、というのか?」

「うん。あくまで推察だけど、そう読み取れるかな。んで、今残っている女性騎士は、平民だったり、領地を持たない下位貴族の方々か・・・この後、エゲツない何かがあるかもしれない。メイア嬢、1人にはならないで。必ず残っている女性騎士達何人かでまとまって行動してほしい。」


じぃ、と覗き込むグレイドの真剣な表情に、メイアは息を飲む。


「もし貴女に何かあったら、僕は僕自身を許さない。お願いだから必ず助けを求めて?貴女を傷つける輩が居たなら、僕は地の果てまで追いかけて、その身を切り刻んであげるから。」

「それは些か、猟奇的だな・・・私よりも弱い貴方がどうやって。」

「幾らでも方法はあるから、気にしないで?ね?メイア嬢約束して。1人で無茶しないで。」


いつもなら、頬に触れようとした手を即座に払うのに。
その日は、不思議と、抱きしめられた温もりに、寄せられた唇の柔らかさに、身を委ねてしまっていた。


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