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チェスター家の男
246.試合の後で
しおりを挟むギアが2段階くらい上がったメイア夫人は、炎を纏ったレイピアを容赦なくぶん回してくる。
・・・これ、地味に熱いんだ。
身体強化しているものの、掠った皮膚がじりじりと痛む。こりゃ、火傷まみれだろうなぁ。
継続ダメージ食らってる感じだ。
弾を氷属性に入れ替えたいけど、そんな暇もなし。
ただひたすらに打ち合う。
彼女のバトルスタイルを必死に模倣する。
身体強化をしたって、女性の腕力では敵わない敵だっている。
それに抗う術を夫人は持っているからこそ、『女傑』とまで呼ばれ、尊敬されているんだろう。
凄い人だ。
だからこそ、少しでも得られるように、糧に出来るように。
なりふり構ってられない程に、必死で食らいつく。
一瞬、夫人の顔から、余裕が消えた。
まだ。私はまだイケる。
燃え滾る刀身を、銃身で受け止める。
純粋な力比べ。
炎がジリジリと髪の毛を焦がしている気がする。
私の魔力はまだ枯渇しない。だからまだイケる。
ぐい、と押し込んだ瞬間、夫人のレイピアから力が抜ける。
わ、と思った瞬間、力を入れて吹っ飛ばされた。
よろめき、片膝をついてしゃがみ込んでしまう。
その隙に、夫人が距離を詰めたのがわかった。
ーーー キィンッ!
ーーー ジャキッ!
しゃがみ込む私の首元に、炎を纏う剣先が突きつけられた。
そして。
私は、しゃがみ込んだ姿勢のまま、夫人の胸元に向けて、右腕で銃剣の銃口を突きつけていた。
ゴゥン・・・ゴゥン・・・ゴゥン・・・
「それまで!」
3の刻の鐘が鳴り響くと同時に、審判である師匠の声が、修練場に響き渡った。
「結果は相打ち!故に引き分けとする!」
それを聞いた瞬間、私は地面に大の字になって倒れ込んだ。
は、は、と呼吸が浅く、苦しい。
ぎゅう、と目をつぶり、呼吸を整えようとする。
「お疲れ様。」
頭の上からよく通るアルト声が降ってきたので、目を開けると、座り込んだ夫人が、笑顔で私の顔を覗き込んでいた。
「ありが、と、ござい、ました。」
息が上がったままお礼を伝える。
す、と差し出された手を掴むと、ぐい、と引き起こされた。
「こちらこそ、ありがとう。初めてよ?女性から一本奪えなかったのは。」
「ご期待、に、添え、ましたか?」
愛想笑いを浮かべて尋ねてみる。
すると、夫人は満面の笑みを浮かべて、ぎゅう、と私を抱きしめた。
・・・胸当てが顔に当たって痛いっす。
そんな事御構い無しに、夫人は、私を抱きしめたまま、頭を撫でくりまわしている。
「んもぅっ!期待以上よぉ!!こんなに楽しかった『手合わせ』は初めてだったんだから!」
「なら、良かった、です・・・」
「ごめんなさいねぇ。顔も腕も、火傷になっちゃってるわ。早く治療しなきゃ。」
身体を離した夫人は、申し訳なさそうに、両手で私の頬を撫でてきた。
・・・とりあえず、失望させる事はなかったみたい。
でもなぁ、時間無制限デスマッチなら、負けてるよなぁ。つか、あと10分延長なら、ヤバかった。
時間制限に助けられたのは事実。
でも『手合わせ』という、時間制限ありなルールの中では、役目を果たせたのだ、と、一先ず安堵して、胸をなでおろした。
次の瞬間、ぞわり、と背筋が寒くなる。
ばっ、と顔を上げると、夫人の背後に、土槍が迫るのが見えた。
「危ない!!」
「きゃっ、えっ?リンさん!!」
咄嗟に、夫人の身体を引いた私は、入れ替わるようにして夫人の盾になった。
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