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チェスター家の男
244.姑と嫁(仮)のお話し合い ※ 但し物理
しおりを挟むドン、という、爆風音と共に、夫人が一直線に飛んでくる。
「せやっ!!」
突き出されたレイピアは、私の左肩口を狙い、その切っ先が加速する。
キィン!
間合いに飛び込んできた切っ先を、銃身で受け流す。
レイピアは、切るというよりは、刺すに特化している。
狙いは私の四肢。
突いて、神経か出血を狙い、武器を使えなくするか、移動できなくするかで、無力化を狙うのだろう。
であれば、切っ先を受け止めるより、受け流す、いなす、弾く方が良い。
夫人は、風魔法に乗り、攻撃スピードが速い。
それに、やはり騎士だ。私がいなそうとしても、体幹が崩れない。専ら、私が反動を使って逃げているような状態だ。
でも、スピードは、カンくんの【 迅速 】と自分の【 疾風 】を使ったこーくんの動きに比べたら、何のことはない。
切っ先の鋭さも、体術と短剣を繰り出すイズマさんや、片手剣だけで私の攻撃をいなす師匠以上とは感じない。
ーーー 大丈夫。攻撃にはついていける。
私が苦手なのは、対人間の駆け引き。
元の世界で、武術系や1対1系のスポーツはやってなかったから。
センスがあるかっていったら、多分無い。アーケードゲームも下手だったし。
こればっかりは、数をこなすしかない。
夫人はやはり、対人慣れしている。
鍔迫り合いの様になった時の視線の誘導、初動の身体の揺れからのフェイク。
油断していると意識を持っていかれそうになる。
全体を俯瞰で見る。
先の先を読む。
相手が何を求めているのか必死に感じ、考える。
その刹那、首を狙ってきた切っ先を、バク転で躱し。
銃剣の剣先を地面に突き立てる。
その間に距離を詰めてきた夫人の脚を狙い、銃剣を軸に身体を回転させ、地を這うように足払いを仕掛けた。
夫人は予期していなかったのか、後ろに飛び退く。
私は回転の勢いそのままに、銃剣を地面から引き抜き、ローアングルから銃口を夫人に向け、引鉄を引いた。
「うわっ!?」
夫人は、咄嗟に横に飛び退いた。
獲物が消え、少し離れた位置に着弾した弾丸からは、バリバリと、人1人分の麻痺の魔法陣が広がる。
「・・・やるわねぇ。」
「・・・捕まってくれてよかったんですよ?」
お互い、開始線辺りで、片膝を付いた状態で、ニヤリと笑いあう。
「まだまだ余裕そうね。隠し玉はあと何個あるのかしら。」
「・・・んなモンありませんよ。付いていくだけで精一杯なのに。」
ふふ、と美しい笑みを浮かべながら立ち上がる夫人に、肩で息をしながら苦笑いを返す。
この、何でもない風な様子もフェイクなのだろうか?これだけ闘ってるのに、凛とした立ち振る舞い。それだけで強者に見える。
対する私は、ギリギリで攻撃を避けてるし、体術も使い、スライディングやらなんやらやらかしてるから、埃まみれで、見た目ボロボロだよね。
でも、互いに致命的な一撃は食らわせていない。
まだやれる。
ふう、と一息つき、銃剣を握り直し、立ち上がった。
「じゃぁ、私も出し惜しみはしてられないわねっ!」
楽しそうに笑う夫人の身体から、ぶわり、と魔力が巻き上がり、手にしているレイピアに集まっていく。
ゴウ、という音と共に、レイピアの刀身が炎に包まれた。
『・・・母上は、スピードファイターだ。兎に角スピードと手数で攻めて来る。属性は風と火。剣に纏わせることも可能だ。』
朝のこーくんの言葉が蘇る。
ホントに剣が燃えてるや。
師匠の属性も火だけど、この使い方はしてないよね。
・・・そらそーか。
魔獣は皮も売れる訳で。燃やしちゃったら価値下がるべし。
魔獣討伐は害獣駆除であるけれども、生活の糧でもあるからね。
それに対して、騎士は対人。
最悪、殺すのも厭わない。慈悲もない、容赦無い攻撃も必要。
・・・もしかしたら、師匠も昔はこうだったのかもしれない、な。
一瞬そんな思いを馳せたが、夫人に意識を戻し、動向を見ながら、そっと上下銃身を切り替える。
すると、夫人はレイピアを顔の横で地面と水平に構えると、私に向けて突き出した。
「【 炎風斬 】!!!」
ゴアッ、と、突き出された刀身から渦を巻いた炎が伸びてくる。
私が飲み込まれるぐらいに大きな炎だ。
即座に銃剣を構えて半分程度の魔力を込め、引鉄を引いた。
ドォン!!
いつもよりも大きな発砲音を鳴らし、風属性の弾丸が飛ぶ。
その反動も使い、私は後ろに飛び退いた。
ゴバァァァァァ・・・ン!!
夫人が放った炎の渦と、私が撃った風弾が、真ん中でぶち当たり、凄まじい爆音と爆風が辺りを包む。
自分でやっといてなんだけど。
・・・うわぁ、エゲツな。
熱風で皮膚が焼けるのをじりじりと感じながら、銃剣を握り直し上下銃身を切り替え、体勢を低くする。
ーーー 来た!
あの爆風の中を突っ切って、夫人が突進してくるのが見えた。
「覚悟っ!」
「疾っ!」
身体強化を最大限にかけ、襲いかかるレイピアの刀身を銃身で受け、滑らせる。
しかし、鍔迫り合いに移行した際レイピアの護拳で弾き飛ばされた。
よろめきながらも、無属性麻痺弾を牽制で連射する。
間合いを詰めようとした夫人は、再度距離を置いてくれた。
「ふふっ・・・あはははっ!」
急に、夫人が笑い出した。
奇行に見えるその様子に、私は思わず眉を顰める。
「互角に闘れるって、こーんなにも楽しいものなのね!私も貴女も、まだ強くなれる余地があるわ!さぁ!まだまだ行くわよ!!」
ゴウ、と刀身がまた炎に包まれる。
「マジっすか・・・」
夫人が、生粋の戦闘狂だった事を改めて実感しながら、大きく息を吐く。
そして、次なる波に対抗する為、魔力を込めながら、銃剣を握り直した。
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