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チェスター家の男
242.控え室で打ち合わせ
しおりを挟む昼1の刻を過ぎた頃、私達4人は街外れにある、騎士団の修練場という所に来た。
物々しい門の横にある詰所に師匠が出向き、受付をしている。
「行くぞ。」
慣れた様子で、師匠が門の中へと進んでいく。
こーくんがそれに続き、私、カン君と続いた。
騎士団修練場の建物内をずんずんと進んでいく師匠。そしてこーくん。
やはりこの2人は有名なのだろう。
騎士の皆さんが、足を止めて見ている。女性騎士達なんて、目がハートだ。
ふと前を見ると、開いた扉からメイア夫人が手を振っていた。
うん、とっても良い笑顔。
周りの騎士達がビックリしてるのが気になるけども。
「リンさん。今日はよろしくお願いしますね?」
「はい。こちらこそよろしくお願い致します。」
夫人が差し出した手を握り、軽く頭を下げた。
何だか周囲が騒ついている。
「ちっ・・・母上、これは。」
周囲を見回したこーくんが舌打ちをした。
カン君も落ち着かなそうに周囲を伺う。
「ごめんなさいねぇ・・・まぁ、詳しくは控え室で話すわ。入って。」
夫人に促されるまま、部屋に入ろうとした時、一人の女性騎士と目が合った。
ブロンドのショートヘアに、スラッとした体躯、私よりも少し背が高い。
そんな彼女に、すんごい目で睨まれたわ。
『炎獅子亭』で感じたのと同種の、嫉妬と怒りが混ざった視線。
とりあえず、何もリアクションせず、そのまま通り過ぎるようにして、控え室へと入った。
*
部屋には、私達4人と夫人だけ。
入った途端に『【 完全遮音 】』とカン君が唱える。
なんかもう、条件反射だよね。
「人が多くて、びっくりしたでしょう。ごめんなさいね。私が『手合わせ』するとなるとねぇ、見学者が増大するのよ。」
「まさか、観覧させると?」
こーくんが食い気味に言葉を発した。
「仕方ないでしょう?だって、私の『手合わせ』なんだもの。」
こてん、と夫人は首をかしげる。
その様子に苦笑いしながら、師匠が話す。
「コウ、諦めろ。『女傑』の『手合わせ』だ。見学希望は殺到する。俺の時もそうだった。」
「そうそう。しかたないのよ。・・・それに、ね、リンさんが、この『手合わせ』で力を誇示出来れば、一部は静かになるわよ?悪いことじゃないと思うのだけど。」
「一部?・・・扉の前にいた女性騎士さんみたいな?」
「あら、気づいた?」
「まぁ、あれだけ殺気ダダ漏れしてりゃ、歓迎されてないコトくらいはわかりますよ。」
嬉しそうにする夫人に、思わず苦笑いしてしまう。
「彼女は、アンジェリン=サルバ。当騎士団第1部隊の部隊員よ。確か、何度か我が家に、コウラルへの婚約打診が来たわね。全部断ってるけど。で、さっき、リンさんと『手合わせ』するなら、自分ともしろって言ってきたわ。」
「は?」
「『手合わせ』で勝てたら、コウラルが貰えると勘違いしたんじゃないかしら?景品かってーの。お馬鹿よねぇ。」
はんっ、と鼻で笑うように夫人は吐き捨てる。
・・・もしもし?あの。口調崩れすぎですよ?大丈夫ですか?
「ま、冒険者ランクにしたら、精々C級が粋がってんじゃないよ、何様だ。って言っといたから安心して?」
・・・えっと、一応オブラートには包んでますよね?
容赦なく毒を吐く夫人を、まじまじと見つめてしまった。
カン君も私と同様に、驚いた表情をしてる。
でも、こーくんと師匠が溜息をついて眉間を押さえてるから、通常仕様なのかもしれない。
夫人は、私達のリアクションを気にせず、話を続けた。
「そんな訳で、リンさんの闘いぶりでは、そう言った夢見がちな女性騎士達の目が覚めると思うから、ヨロシクね?楽しんで闘りましょ?」
うふふ、とホントに綺麗に笑いながら、恐ろしいこと言うわぁ、夫人。
この人、大好きだ。
「こちらこそ、よろしくお願い致します。不甲斐ない試合にはならないように、精一杯務めさせていただきます。」
「私も、頑張るわよ。あ、魔法はアリでいいわ。防具なんかも普段の使ってね。」
「え?良いんですか?」
「無論よ。普段の貴女の戦い方が知りたいのだもの。卑怯とか汚いとか気にしないで?魔獣と戦うのに、騎士道がどうだとかって、いちいちそんな事気にしてられないでしょう。だから、私のことはビグベルーだとでも思って、ね?」
「そんな美しい魔獣は、見たことないです。」
「まあ。嬉しいこと言ってくれるわねぇ。じゃ、楽しい『手合わせ』にしましょうね。ファーマス様、立会人お願いしていいかしら?」
「元より、そのつもりだ。」
「公平な審判ヨロシクね?じゃ、先に大修練場に行ってるわ。準備できたらいらしてね?」
そう言って夫人は、パチンとウィンクすると、颯爽と部屋を出て行った。
わぁ、女優さんだよなぁ、あれ。
美人さん過ぎて、声もでねぇ。
「・・・なんか、凄い人、だねぇ。」
「・・・ゴメン。」
「ううん?楽しいよ?仲良くしてもらえそうだから、頑張るよ。」
そういいながら、私は戦いに行く準備を始めた。
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