転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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チェスター家の男

241.姑(仮)はwktkしている(第三者視点)

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ファルコ領騎士団の修練場は、朝から活気に溢れている。
ここには大きな修練場が1つと、小さな修練場が3つあるのだが、部隊ごとの修練、個人修練、必ず誰か彼かは使っている状態だ。

素振りや型練習を終え、休憩していた騎士達が、雑談をしていた。


「そういや、昼2の刻から、大修練場使えないらしい。グループで使おうと思っていたのに。」

「あぁ、それな。チェスター子爵夫人が借り切ってるらしいぞ?」

「あれ?今日女性騎士講習だったか?」

「いや、どうやら違うらしい。例の『手合わせ』らしいぞ?」

「マジか!結構久しぶりじゃねぇ?相手は誰だ?あ、そういや、『英雄』が領都に来てるって話あったか。」

「『英雄』相手なら、観たいなぁ。前回の時もなかなかの迫力だったらしいぜ?最終的には負けたけど、あの『英雄』相手に食い下がれるのがすげぇよな。流石『女傑』。」

「そういや『英雄』は、何だか女と仲良く絡んでたって聞いたけど、本当かなぁ?」


ざわざわと、水面が広がるように噂が噂を呼んでいく。
それを小耳に挟みながら、剣を振るう女性騎士達がいた。


「ねぇ、アンジェ。メイア様の『手合わせ』観に行く?」

「えぇ、是非観たいと思っているわ。」

「何てったって、未来のお義母さまの御姿ですしねぇ。」


アンジェリン=サルバ。ファルコ領騎士団第1部隊の部隊員である彼女は、当騎士団女性騎士達の中では抜きん出た存在。
それ故に、未だ婚約者の居ない、A級冒険者コウラル=チェスターの婚約者候補に名乗りを上げていた。

他の令嬢と違い、彼の母であるメイア=チェスターと同じく、女性騎士という立場であり、しかもチェスター子爵夫人から直接教えを受けている。
覚えも悪くないはずだ。
そして、周囲の女性騎士達からも支持されている。

ーーー 自分こそが、コウラル=チェスターの妻にふさわしいのだ。


「・・・やめてよ、もぅ。私なんか、メイア様の足元にも及ばないのに。」


口では謙遜しつつも、内心ではそう、強く思うようになっていった。


しかし、実際は、チェスター家に申し入れても、断りの文面が届いただけ。
コウラル本人への顔合わせもさせて貰えない。
チェスター家が恋愛至上主義なのは有名な話で、全ての縁談を断っているとは聞いてきたが、見合いで会ってから始まる恋愛だってあるだろう、と憤っていた。

そんな中、領都の高級レストランにコウラルが現れたと聞いた。
黒髪の女性を連れて。
しかも、『英雄』ファーマスと、黒髪の大男が一緒に居たと。
そして、その女性は3人と仲睦まじくしていたと。

その噂は、たまたま、とある騎士が、恋人とのデートにそこを使っていたらしく、実際に目撃したのだと、情報源がはっきりしていたため、疑いようもなく。


そのため、アンジェリンは、表面は穏やかにしていながらも、内心では嵐が吹き荒れていた。
仲間の女性騎士達には、その噂は広がっていないようで、いつも通りの軽口を叩いてくる。


そんな中、また、男性騎士達のデカイ声の噂話が飛んできた。


「あー、その『手合わせ』、どうやら女性冒険者らしいぜ?コウラル息子と新たにパーティーを組んだっつー相手らしい。」



***


昼1の刻。

メイア=チェスターは、『手合わせ』の準備の為、修練場の控えの間へ向かっていた。
すれ違う騎士達が二度見をする程にご機嫌な状態で。


『銃剣道ねぇ・・・どんな技なのかしらね。』


今朝早く、例の彼女は裏庭で鍛錬をしていたようだった。
コウラル息子と組手をしている様子を少しばかり覗き見をしたが、なかなかに面白い動きをしていたと思う。
今自分が訓練を見ている女性騎士達が、全く足元にも及ばない、見事な体捌きをしていた。


『組手の様子から見て、身体強化は上手そうだったわね。動きもトリッキーだった・・・そういえば、前に、剣先の方から魔力放出がされる、ってケネックが言っていたかしらねぇ?括りとしては、魔法剣士になるのかしら。』


銃剣闘士という、未知の職業に色々と想像を巡らせる。
ここに来て、知らないものを知れるという喜びで、メイアは浮き足立っていた。


「メイア様!!」


不意に背後から呼び止められる。
振り返ると、そこには騎士団第1部隊の部隊員である女性騎士アンジェリン=サルバがいた。


「あら、アンジェリンさん、御機嫌よう。何かしら?」

「あの、本日これから、メイア様が『手合わせ』を行うと伺いました。」

「えぇ。それが?」

「相手はどなたなのですか?」


騎士らしく凛々しい顔で尋ねてくるが、その目の奥に嫉妬にも似た激情があるのをメイアは見抜いていた。


ーーー 確かこの娘の家は、コウラル息子への婚約申し込みをしてきたうちの1件だったか。


ふ、と薄く笑いが漏れた。


「A級の女性冒険者よ?」

「・・・ご子息とパーティーを組まれているという方、ですか?」

「えぇ、そうね。」


そんな所まで情報が広がっている事に、頭を抱えたくなる。
また、見学させろと、見世物になるのだろうな、と苦笑いしか浮かばない。

わなわなと震えていた目の前の娘は、きっとメイアを睨みつけると、叫ぶようにして進言してきた。


「メイア様っ!私とも『手合わせ』をお願い致します!」


周囲にいた騎士達野次馬が、その声の大きさとその内容に目を見開く。
メイアはその申し出に眉を顰めた。


「何故?」

「なぜって・・・私だって、ご子息の隣に並び立つ自信があります!強さも家柄だって問題ありません!」


ずい、とメイアに詰め寄るアンジェリン。
その姿に、メイアは思わず溜息を吐いた。



「貴女、何を言ってるの?」

「は?」

「貴女と『手合わせ』をして、私が得られるものは何?」

「え・・・」

コウラルあの子に並び立つ、立たないの問題じゃないわ?貴女は私から教えを受けている立場よね?そんな貴女が私と『手合わせ』をしても、私に利益はないわ?」

「じゃ、じゃぁっ、その冒険者は違うとでも言うのですか!?」

「えぇ、そうね。銃剣闘士という、私が知らなかった職業についているA級冒険者よ?きっと騎士の戦い方とは違う。それだけで得られるモノがあるわ?それに、曲がりなりにも、モースバーグ国冒険者ギルドのA級トップであるコウラルあの子自身が、パーティーを組むことを許可した相手だもの。それなりの強さがあって当然でしょう。だから、私から『手合わせ』をお願いしたのよ?それが何か問題かしら?」

「そんな・・・私が、その冒険者より弱いと!?」

「弱いでしょうよ。この騎士団にいる女性騎士の戦闘実力は、冒険者ランクで言えばD級からC級スレスレ。それもかなり甘く見積もってね。アンジェリン=サルバ、女性騎士の中でトップという貴女すら、C級上位がせいぜいよ?その客観的評価だけで、彼女との差は歴然としているわ。」

「ーーー そんなっ!そんな事!!」

「・・・魔獣暴走スタンピートの最中、何十体ものアグウルグを相手にしながら、通常のビグベルーよりも大きな特殊個体を、1人で木っ端微塵になんて、そんな芸当貴女にできるの?」

「・・・え?」

「規格外なのよ、彼女は。だから、『手合わせ』に向けて集中しようとしている私の邪魔をしないでくれるかしら。」


冷たい視線を投げ付けたメイアは、これ以上話す事は無いと踵を返し、控え室の中へと消えていく。
その場に取り残されたアンジェリンは、涙目で唇を噛み締め、扉の前に佇んでいた。








**************

※ メイアおかーさまの冒険者ランク基準は、どこよりも厳しいミッドランド支部ですw
※ ランクアップ評価がバリ甘い支部ならば、アンジェリンはB級な気もする。
※ 魔獣暴走スタンピートの話は、『50.狂戦士』をご参照。狂戦士バーサーカーだったから、倒せたってのもありますからねぇ・・・おかーさま買いかぶりすぎです。
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