転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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柵(しがらみ)と自由と

240.ウォーミングアップ

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夢も見ない泥のような眠りから、意識が浮上してくる。
目を開けると、部屋の中はまだ薄暗い。
二度寝をしたい衝動に駆られるけど、寝たらきっと寝覚めが悪くなる。

後ろ髪を引かれながら、ベッドから降り、カーテンを開けた。
日が昇り切らない、オレンジと青白が混ざる空。

ーーー 外に出て、少し身体を動かそうか。

貸し出されていた夜着を脱ぎ、トレーニングウェアがわりのTシャツと動きやすいズボンに履き替える。


『みにゃぁ?』


どこいくの?と、枕元でアルと寄り添って寝ていたヴェルが起きあがる。
アルはコロンと転がったが、眠ったままだ。


「ちょっと、身体を動かしてくる。ヴェルはアルと寝てる?」

『みゃ。』


いっしょにいく、と、テトテトと近寄り、差し出した私の手を舐め、銃形態になる。
屋敷内を持って歩くのも物騒だろうなと思い、空間収納へ入れる。


「この子は・・・連れてくしかないかぁ。」


・・・監視役じゃなかったんかい。

溜息を一つ吐いて、私は、野性味を感じない転がった姿勢のまま眠るアルを掌に乗せると、客間を出た。





朝の5の刻前。
静けさに包まれる邸内を、玄関に向かって歩く。
途中、昨日お風呂場まで案内してくれたメイドさんが邸内を見回りしていたので、素振りができそうな所がないか聞き、メイア夫人お母さまケネックさんお兄さんが練習に使うという裏庭に案内された。
メイドさんは、夜勤だったのかな?

小学校の体育館半分くらいのイメージな広さの、土がむき出しの裏庭。
端にベンチが置いてあるので、タオルを置き、その上にアルを乗せた。

空間収納から猟銃ヴェルを取り出し、銃床のグリップを何度か握り感触を確かめる。
右手で握り、ぶん、と軽く振り、剣先を出す。
全身に魔力を巡らせ、身体強化を軽めにかける。右手が伸びてるイメージを持ち、銃剣相棒の剣先にまで魔力を巡らせる。
これで、どんなに振り回しても、銃剣相棒は私の手から離れていくことはない。掌に磁石のように吸い付いているみたいだ。

ウォーミングアップがてら、ゆっくりと、銃剣相棒を振り回して動きを確認していく。

イズマさんから習った体術と、師匠から習った矛術、そしてゲーキャラ孫市のコマンドアクションのイメージを合わせて、素振りを行う。
色々ごった煮すぎて、 奇妙な動きな気もするけど、私はこの大陸に1人しかいない銃剣闘士という職で、銃剣道亜種の使い手、との設定だから、少しぐらい変な方が良いのか?とも思う。

徐々にスピードを上げる。
剣先の空気を切り裂く音が高くなっていく。
さほど息は上がらないけれど、じんわりと汗をかいてくる。

基礎練は好きだ。
苦手な動きでも、少しずつできていく過程が好き、というのもあるけれど。
集中する分、余計な事を考えないで済むから。
30分程続けて、一旦動きを止める。

じんわりと温まって汗をかいた。
上がった息を整えていると、少しひんやりした空気が肺に流れ込んできた。
その温度差で気管支が縮まり、思わず咳こみそうになる。

さて、次はどんな動きをしようか・・・
深呼吸をしながら、また、体内で魔力を巡らせる。


「リンさん。」


邸の方から声が聞こえ、振り返るとそこには眠そうな顔のカン君がいた。


「ん?おはよ。」

「おはようございます・・・型の練習っスか?」

「そ。」

「あの、今日は・・・その、大丈夫っスか?」

「ん~?大丈夫じゃないかもしんないねぇ。メイア夫人は、女性騎士の先駆者で、対人戦闘には長けてそうだし。」


まぁ、十中八九勝てないんじゃないかなぁとは思ってる。当たって砕ける、になる気もしてる。


「それでも、やるんですか?」

「だって、夫人は、こーくんの味方でしょ?自分の目で、息子の隣に居て良い人間なのかどうかを判断したいんでしょ。
理由はどうであれ、怪しい他国出身者が纏わり付いてんだから、親としては心配でしょうさ。」


カン君を見ると、苦笑いを浮かべていた。


「こーくんの立場からしたら、私たちの都合に振り回されているわけだし。ちゃんとご挨拶は必要かな、と。夫人はソレが手合わせなんじゃない?」

「物騒な・・・」


カン君は、はぁ、と溜め息をついて、私を見る。


「ただじゃ済まないとしても?」

「ケガしても、カン君が何とかしてくれるでしょ?ま、私は、砕けても、技術が盗めるなら、それで良いかな。この後の事も考えて、対人戦闘のスキルは上げておきたい・・・でも、やるからには負けたくないけど、ねぇ。」


自分の顔に、自嘲する笑みが浮かぶのがわかった。

例え負け戦でも、少しでも抗えれば。
ーーー為す術なく蹂躙される記憶を、上書き出来れば。
少しは、自信になるかなぁ。


「リンさん。」


何時の間にか、俯いていた自分の目の前にカン君がいた。
彼はそっと手を伸ばし、私の首元のチェーンに触れる。
その先にぶら下がる盾のチャームを握ると、ふわりと魔力が巻き上がった。
その魔力は、しゅるりと盾のチャームの石達に吸い込まれた。


「なしたの?」

「術式を組み込みました。・・・条件付き発動【 再生回復リジェネーション 】と、【 反射攻撃リフレクトアタック 】と、【 絶対防御アブソリュートディフェンス 】」

「は?」

「リンさんの体力が2割を切ったら【リジェネ】が発動。気絶してる時や動けない時に攻撃を食らったらそのまま攻撃を相手に【反射】。体力1割切って死にかけの時には全ての攻撃から完全に【防御】するっス。」

「え?」


何してくれてんの??
あまりにもチートすぎるアクセサリーになっちまったよ??

開いた口が塞がらない私に、カン君がに、と笑みを見せた。


「コウさんとも話して、俺等が居ない時、どうしても別行動しなきゃなんない時、俺等がすぐ行けなくても、リンさんが耐えられるだけのモノが有れば、俺等が安心だから。上手く使って?」

「・・・信用ないんだなぁ。」


目を伏せ、ポツリと、嫌味が漏れてしまう。
だって、過保護すぎるじゃんか。


「うん。だって、無茶するしょ?無理しない、って言ってたって、リンさんは、人の為なら無茶しちゃうんスから。だから、せめて、俺が居ないところでなんて倒れないで下さい。」


ぎゅ、とチャームを握りっぱなしのカン君を見上げると、眉を顰めて、泣きそうに見える顔だ。

何でそんな顔してんのかなぁ。
別に神風特攻なんかしないよ?


「うん・・・心配、ありがとうね。」


手を伸ばして、ぽん、と頭を撫でる。
自然と手が動いていた。
ちょっと硬めの髪の毛の手触りが心地よい。



「カン?・・・あ、リンも居た。何してんの?」

「あ、こーさん、おはよ。」

「・・・おはよ、ございます。」


邸の方から、今度はこーくんが現れた。
君等、どうした?早起きだなぁ。



「なんか、早く目ぇ覚めたから。身体動かしてたのさ。」

「そか。・・・リン。母が、ごめん。」


しゅん、とした様子で、こーくんは俯く。


「いんや?ちゃんと、息子さんをお借りしますと話さなきゃならん、って事だと思ってるし。一矢報いるように頑張るよ?目指せジャイアントキリング?」


へら、と笑って答えると、こーくんも釣られたのか、少し笑ってくれた。
でも、すぐ真顔になる。


「・・・母上は、スピードファイターだ。兎に角スピードと手数で攻めて来る。属性は風と火。剣に纏わせることも可能だ。」

「ふぅん。ところで、私は撃っても良いの?」

「良いと思う。それもひっくるめて、真剣勝負を選択したはずだから。」


そか。
したらば、無属性妨害系を使った方が、攻略にはよいのかな?
でも、スピードファイターなら、撃たせてくれないこともあるなぁ。

そんな事をつらつら考えてみる。


「リン?どうしたの?」

「ん?どう攻めるのが良いか、考えてたの。こーさん、ちょっと組手付き合って?」

「あ、うん。分かった。」


こうして、朝からハードに身体を動かす事になり。
最終的にグラウンドに倒れた私は、様子を見に来た師匠から呆れた目で見られてしまった。

・・・おかげで朝ごはんは、めっちゃ美味しかったデス。






****************

【 再生回復リジェネーション 】→黒曜石オブシディアン
【 反射攻撃リフレクトアタック 】→翡翠ジェイド
【 絶対防御アブソリュートディフェンス 】→紅亜鉛鉱ジンカイト

に入ったイメージです。
3人のイメージもあるかなw
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