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柵(しがらみ)と自由と
237.息子さんをください的何か
しおりを挟む子爵の話に、誰しもが黙り込んでしまう。
聞いていて、頭がクラクラする。
彼女は、ストーリーをなぞらえる事、イベントを起こすに懸命で、こーくんの気持ちを蔑ろにしてきたんだ。
だから、話が通じなくて。
こーくんは、その話の通じなさから、怯えるようになった。
・・・でもこれって、転生とかの問題じゃなくって。
「・・・ぶっちゃけ、『合宿所』の“なりきり”案件じゃねぇの。」
思わず、ぽつり、と漏らしてしまった。
合宿所・・・ネット上でしか見たことが無い、ただの読み物としていたんだけど。
本来は、同人誌作成に関して、合宿所ばりに何人かで缶詰になって原稿を仕上げた後も、宿主の家に居座って迷惑行為を働く輩についての相談板だった筈。あとは、販売イベントの無料宿目的で押しかける輩への相談もあった。
それがそのうち、漫画やアニメ、小説の役になりきり、ターゲットに付きまとい、ロールプレイに付き合ってくれるまで、追いかけ回す。ある種のストーカー案件相談も指すようになっていったのを思い出す。
「合宿所?」
私の呟きが聞こえたカン君が、首を傾げた。
あぁ、知らんかったか。
ジェネレーションギャップを感じる。
しかし・・・このネタを使えば良いか。
「うん、『合宿所』。“ウチは宿でも合宿所でもねえぞ”って相談板が発端だったかなぁ?自主制作本を作るグループの問題事が発端で広がった、迷惑案件全般を指す隠語だったと思う。」
「それは一体何だい?」
子爵が食いついてくるのが分かった。
夫人も、心配そうに私を伺う。
「えぇと。私の故郷にもあった話なのですが。自分が何かの物語の主人公だったり、脇役だったりだと本気で思い込み、その物語の登場人物に被るような顔だったり容姿だったりをしている人に、その役を押し付けて付きまとう、といった迷惑行為が何件もあったそうです。家や学校、仕事場に押しかけたり。それで、ターゲットが乗ってきてくれなければ、実力行使に出ようとしたりする。
私達のような警備隊が出向く案件も実際にあったと・・・先輩から聞き及んでいました。
お嬢様と、こーさんの状況を聞いていると、それを思い出しまして。」
「ふむ・・・成る程なぁ。」
「マジで・・・」
子爵が顎に手を当て考え込む向かいで、アレなの?、と、こーくんが縋る目をする。
うん、私もまさかと思うけど。
一緒に読んでて、『ありえねー』と笑っていたことが身に降りかかるなんて。
「現実世界が嫌で、逃避したいのかは知りませんが。巻き込まれた側はたまったもんじゃ無い。
自衛のため、不用意に接触しない、証拠は残す、周囲に相談し協力を仰ぐ、警備隊に事前相談し地域の見回り強化や事が起きた際に迅速な対応をしてもらうようにする、など、対策も色々提示されていました。」
「詳しいのね?」
ほう、と感心したように、夫人は、私を見た。
「はい。ですが、私は先輩からの話や文献でしか事例は知りません。実際に対応してはいませんから、お嬢様が本当にそれに当てはまるかは。」
何とも、と言葉を濁す。
一応相手は貴族様だし、決め付けるのは得策では無い。
まして、A級冒険者といえ、私は平民出身同等だ。あまり不敬に当たることは避けて無難だろう。
判断するのは子爵様達だから。
「分かった。君が提示してくれた可能性も考慮するように、アダール殿に進言しておこう。」
「へっ?」
あまりにもあっさりと、私の発言が受け入れられて、逆に慌ててしまう。
「そんな、私の戯言をそんなすぐ受け入れて、良いのですか?」
「ん?何故だい?今まで進展してこなかった問題なんだ。別な視点からの捉えは有益だ。検証する値はあると思う。それにーーー」
子爵が、こーくんと私を見ながら微笑む。
「女性に対し、頑なに距離を取っていた息子が、人が変わったように思いを寄せている女性の意見だ。それだけで、一考の余地はあるんだよ。」
「え゛。」
すると、メイア夫人が笑顔で口を開く。
「ところで、コウラル。貴方、リンさんとの将来をどう考えているのかしら?」
ワインを飲もうとしていたこーくんは途端に噎せた。
急に爆弾投下だね。
「母上、何を・・・」
「この際だから、はっきりしておきたいのよ。彼女を着飾って連れて歩いて、騒動起こしているのですから。どういうつもりなの?」
ズバズバと斬り込んでくるメイア夫人は、漢らしすぎて。眉間にしわを寄せているこーくんとの対比に、笑ってしまいそうになる。
ぽり、と頬を掻いて、1つ息を吐くと、こーくんは口を開いた。
「私自身は『唯一』と思っておりますが。如何せん、リンの気持ちもあり・・・立場も微妙です。ですが、私は何処までも、一緒に居るつもりです。」
「そう・・・リンさんが故郷に帰るとなっても?」
「・・・えぇ。彼らの故郷であるアス=ガルタへ、付いて行くつもりでいます。」
その言葉に、私は、ズキリ、と胸が抉られるような痛みを感じた。
「そう・・・そうなのね。では、リンさん。」
「はい?」
急に、メイア夫人が私の方を向く。
そして、見惚れるほどの笑みを浮かべて、ある提案をしてきた。
「申し訳ないのだけれど、私と手合わせをお願いできるかしら。」
「・・・は?」
とっても良い笑顔で言い切られた言葉の意味を取れず、私は思わず首を傾げる。
「母上!!」
隣でこーくんが、ダン!と机を叩いて立ち上がった。
「何を怒っているのです。貴方が認めたA級冒険者なのでしょう?力量を測らせてもらっても問題ないわよね?」
「何故力量を測る必要が有るのです。」
「自分の身を守れるかどうかくらい、心配になるわ?特に貴方の隣にいるのであれば、それぐらいできて当然でしょう。それとも何?実の所はA級の力はないのかしら?」
「母上!」
こーくんが声を荒げた。
おや、分かりやすい挑発だ。
多分、メイア夫人は、チェスター子爵から聞いて、私が騎士団の面子に襲われたことを知っている。
それに、今後お嬢様が仕掛けるであろう、刺客の存在も危惧している。
メイア夫人は、女性騎士の先駆者として名を馳せ、今も女性騎士達の教官として働いているとは聞いていた。
私自身が足枷にならない、こーくんに守られるだけの存在ではない事を、自分で証明しろと言う事なんだろう。
・・・しかし。
何だろうか。
『息子の彼女に相応しいか見極める(但し物理)』
って、ことで良いのか?
まぁ、前世の嫁、現世の虫除けとして、ここで引き下がるワケにもいかんべし。
売られた喧嘩は買わないと、女が廃る。
「ーーー 分かりました。お願い致します。」
「リン!!」
「あら。」
こーくんが大声をあげ、メイア夫人は目を見開く。
「私は、魔獣討伐には自信がありますが、対人戦については苦手としている所もあります。寧ろ、対人戦闘方法について御教授いただきたいくらいです。」
じ、と、メイア夫人の顔を見据える。
対人戦闘が苦手なのは課題であったし、手合わせで学べる事もあるはずだ。
それに、お嬢様の事が有ろうが無かろうが、この先、私達はこーくんの時間を占拠する事になる。
であれば、『息子さんを(貸して)ください。』は、必須だろう。
「ふふ、物怖じしないのね。」
「物怖じなどすれば、熊モドキに、首を吹っ飛ばされてますから。」
ふわりと笑う夫人に、私も微笑み返す。
「・・・怖っ。」
隣でぼそりと、カン君が何かを呟いたが、聞き取れなかった。
でも視界の端で、チェスター子爵と師匠がニヤニヤ笑っていたのが、何かイラっとした。
**************
※ あれ?両親へご挨拶イベント、おかしくね?wまぁ、姑と嫁(仮)は似た者同士という事でwww
※ 合宿所・・・これ知ってる人いらっしゃいますかね?今も動いてるのかな?
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