転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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柵(しがらみ)と自由と

236.ご実家でご飯

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執事さんの後について、テクテクとお邸の中を移動する。


「そういや、服って、これで良かったの?」


晩餐にお呼ばれなのだが、服は領主様の邸にお邪魔した際の冒険者スタイルから、防具を外しただけの、かなりラフな格好。
イグバイパー大蛇モドキの黒革のパンツに濃茶のロングブーツ。白ワイシャツに茶のベスト。別名、、狩人スタイルとも言う。


「うん。構わないよ?両親だけだし。今その対応を求めてないし。リンもカンも平民と同じ立ち位置って事になるしね。ファーマスさんは男爵なんだけど・・・アレだし。」

「んぁ?」


ふと師匠を見れば、黒革のパンツに、白いTシャツ。そして赤黒い革のライダースジャケットの様な上着を羽織っているだけ。
無造作に撫で付けたオールバックが格好イイなぁ・・・って、なんか武道館辺りでこんな格好の人、よく居たなぁと懐かしくなる。大判タオルを肩からかけて貰いたい。

ただ、この革だって、火竜種ファイアドラゴンの鞣し革っつー、トンデモなく加工が難しいモノらしく、これだけで下手な防具より防御力パないし、お値段もスゴイらしいけども。


「俺だって平民出の男爵だ。しかも今や冒険者だしなぁ。堅っ苦しいのはゴメンだ。」

「・・・とまぁ、師匠がコレだから良いんじゃない?」

「なら良し。」


カンくんも、鎧下に来ていた、私と同じイグバイパー大蛇モドキの黒革パンツに、グレーの薄手のタートルネック。申し訳程度で黒のベストを着させられた模様。

背ぇデカイのが、2人とも黒々テカテカしていて、エライ迫力だ。

こーくんが、首にタイをした、いかにもお貴族様っぽい品の良い出で立ちなモンだから、2人がSPにも見える不思議。
こーくんがいなきゃ、ヤの付く自由業にも見えるがな。

ん?と2人の首元に目が行った。
ク●ムハーツのダガーのようなチョーカー。柄のところに黒い石が見える。


「そんなのしてましたっけ?」


しかも師匠とカン君でお揃い。
・・・怪しい。


「リンさん・・・薄い本の展開じゃないから。その目はやめて。」

「なぁんだ。」


先を読まれたので、ちょっとつまらん。おちょくる様に返事すると、急に首元に何かを巻かれた。


「ぐぇ。」

「ごめん。」


歩きながらはやめて。首締まる。
立ち止まり後ろを見ると、こーくんが首の後で何かしていた。


「リンにはコレ。つけておいて。ブレスレットはさ、戦う時邪魔になりそうなら外しておいて。」


問答無用で、話が進む。
長めのネックレスの先にあるのは、盾の形をしたチャーム。
ブレスレットと同じ3色の小さな石がはめ込まれていた。

ふむ。
ブレスレットと同じく、虫除けアイテムと言ったところかな。
執事さんが近くにいるので、余計な事は言わないでおく。


「ありがと。」

「ーーー どう致しまして。」


静かに眦を下げ、へらりと笑ったこーくんは、私の頬に触れると、真面目な顔に変わり、そのまま執事さんの後ろに付いて歩く。

ヴェルはとりあえず銃形態で空間収納へ仕舞い、アルはステルス機能を発揮して、私の肩にいる。


「こちらです。どうぞ。」


重厚感のある扉の前で執事さんが立ち止まり、扉を開く。
昨日に引き続き、豪奢な広間での食事だなぁ、と、気後れしながら、誘導に従った。





 「先程振りだね。肩肘張らずに楽にして下さい。こちらは妻のメイアだ。」

「初めまして。リンさんとカンさんで良かったかしら?息子と一緒に活動してくれてありがとう。ファーマス様はお久しぶりですわね。A級に戻られたと伺いましたけど、怪我は問題はないのですか?」


部屋には既にチェスター子爵と夫人がいらっしゃった。
夫人は、きりっとした細面の美女。背が大きめで、私よりも高い。細身のドレスを纏っているが、プロポーション抜群で背筋がスゴイ伸びてる。宝塚男役が似合いそうだ。
格好ええなぁ。デキる女オーラをバリバリ感じる。美魔女もいいとこだ。


「えぇ、ご無沙汰しておりました。申し分なく身体は動きますよ。それよりも・・・リン、カン。」


迫力美人を、ほぇーと眺めていたら。
先に師匠が挨拶を終え、私達をうながしてくれた。

「初めまして。私は、A級ライセンス冒険者、リン=ブロックと申します。クラスAパーティー『旅馬車トラベリン・バス』の一員として、コウさんと共に活動させていただいております。」

「同じく、A級ライセンス冒険者で、カン=マーロウと申します。よろしくお願い致します。」


内心あわあわしながら挨拶をし、ぺこり、と頭を下げた私達を見て、夫人は微笑んでくれた。


「ご丁寧にありがとう。お腹空いたでしょ?まずはご飯を食べてから、お話しましょう。」


夫人に促され私達は席に着いた。
出されたのは、フランス料理のフルコース的な食事。

写真に撮りたくなる程、キレイな料理だったけど。
そういや、こーくんの実家なんだ、と思い出したら、何か緊張して味がわからなくなってしまった。



晩餐中は、差し障りのない会話で、というか、領主様の所で話した内容をなぞらえる形になった。

夫人には私達の境遇に同情したものの、『帰る方法を探している』という話をした際に、少し顔が曇った気がした。


デザートまで食べ終わり、一杯いかが、と子爵家ご夫妻が応接室へ招いてくれる。

コレまたアンティークな応接セットに座り、チェスター子爵、メイア夫人と師匠はどうやらワインを傾け始めた。渋い顔をしたこーくんも、付き合わされている。
私はカン君と一緒に紅茶を頂く事にした。


「父上、確認したいことがあるのですが。」


意を決した様に、こーくんが口を開く。


「・・・ヒルデ様のことかな?」

「・・・はい。中等部でのあの一件から、私は敢えてその事に触れないできました。しかし、今日のヒルデ様のあの様子から、今後の事を警戒せねばならないと、そう感じて。その為にも、私がいない間の、あの方の様子を知っておく必要があるのかと思いまして。」

「彼らも一緒にかい?」


子爵はちらりと私とカン君を見た。


「はい。彼らは大切なパーティーメンバーです。彼らにも危害が及ぶ可能性があるなら、情報は共有する必要がある。」

「なぁ、コウラル。お前は、ヒルデ様を迎え入れる気は無いのかい?」

「ありません。」


語尾にかぶるくらいにハッキリと言い切り、じぃ、と向かいにいる子爵お父さんを見つめるこーくん。
暫し見つめ合っていた親子の緊張は、子爵お父さんの溜息で解かれた。


「万が一も無さそうな感じだね。分かった・・・では、リンさんとカン君がいるのなら、初めから話そうか。」


チェスター子爵から語られたのは、こーくんとヒルデお嬢様の幼少期からのこと。
大体はこーくんから伝え聞いていたことと同じだったけど。

決定打は、中等部での学生時代。

だんだんと、周囲から見ても、お嬢様は奇行に走っている様に見えたと言う。
百歩譲って、独占欲からこーくんを他の女子に近づけさせたく無いのは分かるにせよ。
排除しようとする理由に、正当性がみられなかった、と。

お嬢様は、こーくんが騙されているだの、毒牙にかかるんだっただの、政治的にどうとだの。貴族社会にはありがちな理由で『だから心配して、自分が盾になっているんだ』と、自信を持って言い切る。
そのため、もっともらしく見えてしまっていた。
しかも彼女は、こーくんが関わる事以外は問題がなく、ある種、淑女の鏡的に見られていたことも大きい。

だがしかし。
子爵家側でも、辺境伯爵側でも、お嬢様が『コウラルの敵』と認定した者の裏を探ったが、何も出てこない。
背後関係は、全て真っ白だったのだ。
あったとしても、取るに足らない小さな悪事。それが、こーくんに脅威を及ぼすとも思えない。しかも、その位のトラブルは、こーくん自身が対処できるものだった。

親達は訝しがり、裏では被害にあった学生達や親達へフォローをし。
彼女の奇行を止めようとしたが。


「・・・結局、止められなかったのだよ。」


子爵が、申し訳なさそうに、悔しそうに呟く。

委員会活動で、たまたまこーくんと一緒に当番活動をしていた女子生徒に言いがかりを付け、階段から突き落とした。
そして、その彼女を助けようと飛び出した男子生徒が下敷きとなり、女子生徒は助かったものの。男子生徒は利き腕の肘と膝に致命傷を負った。
その時学校にあったポーションでは、切れた腱を修復するに至らず。また、身体構造を理解した回復役も居なかったため、処置が後手後手に回ってしまったのが痛かった。

男子生徒は、大変剣の腕が立ち、平民ながらも将来騎士になる事を夢見ていた者だったが。
その夢が潰えた瞬間だった。

だが、お嬢様はその光景を見ていても。
『これで、コウラルの周りが綺麗になったわ』
と、邪気のない笑顔で言い切ったのだと。

怪我をした男子生徒は、良く騎士団の体験入団にも参加して、こーくんと切磋琢磨し、剣の腕を上げていた者で。良い友人関係だったそう。
こーくんが謝りに行っても、仕方がなかったのだと、寧ろ君が怪我をしなくて良かった、と逆に慰められる始末。

お嬢様に抗議をしても『いずれ、貴方は私に感謝するの』と、天使のような笑顔で言い切られる。

その根拠の無い自信と、異様なまでの執着、そして友人を傷つけられることの恐怖に耐えられなくなったこーくんが、子爵お父さんに頼んで、婚姻関係は元からなかったという証明を行い、彼女の前から逃げる事にした。

こーくんが逃げたのちも、お嬢様は淑女の鏡として過ごす。しかし、お見合いや告白などの申し入れは一切受け付けなかった。

辺境伯がどれだけ、こーくんの気持ちがお嬢様に無いと説明しても、
『いずれ、分かること。これは、宿命なのです。』
と、聞く耳を持たないまま、ここまで来たのだ・・・と。

そう言って、子爵は首を振った。



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