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柵(しがらみ)と自由と
234.お嬢様の秘密?
しおりを挟む「・・・ねぇ、リン、起きて。起きないと、イタズラするよ?」
「ん・・・」
何度かぽんぽん、と肩を叩かれて、耳元で何か囁かれている。
頭が働かない。眠い。まだ寝てたい。
ゴロ、と寝返りをうって、私は微睡みの中に戻ろうとする。
また、耳に吐息がかかった。
「・・・『ね、鈴。もう8時。遅刻するぞ。』」
「ふみゃっ!?」
突如、現実に引き戻され、ガバっと飛び起きた私の心臓は、飛び出さんばかりにバクバクいってる。
見ると、ベッドに腰掛けたこーくんが、くすくすと笑っている。
「なっ?」
「目ぇ、覚めた?」
「ビックリしすぎて、心臓痛い・・・」
まだ、ドキドキいってる。マジで痛い。若干涙目。やめて、遅刻コワイ。
「相変わらず効果あるねぇ、この起こし方。」
「・・・いぢわる。」
うぅ、と唸りながら、ボフ、と、ベッドに再度倒れ込んで丸くなる。
ストライキ起こしてやる。
柔らかい肌触りの羽布団を手繰り寄せて、潜り込む。
「君があまりにも起きないから、メイドが心配して、僕を呼びに来たんだ。疲れてるのに、ゴメンね。・・・ほら、巣篭もりしないの。」
「や。」
「ゴメンってば。ほら、話し合いするから、起きて?」
「やです。」
「ごめんなさい。ねぇ、起きよ?」
「むぅ。」
布団の端を捲られ、眉尻が下がった顔が覗く。
仕方なく、バリケードを解除する。
すると、腕を掴まれて、ぐい、と体を引き起こされた。
素早い動きで、腕の中に捕らえられ、額辺りにリップ音が鳴る。
顔を離すと、満面の笑みのイケメン面。
「おはよ、ねぼすけさん。」
「・・・ナンカ、スンマセン。」
・・・ねぇ。怒涛のお砂糖攻撃、なんなんでしょ。
因みにこのやり取りは、一部始終メイドさんに目撃されていたようで。
人が変わったような子爵家三男坊の奇行に、邸内に戦慄が走った、らしい、よ?
・・・知らんがな。
*
「さて。まずは情報整理しましょうか。」
あの後、こーくんの部屋に連れてこられると、既にカン君と師匠が待ち構えていた。
これまたアンティークだけど華美ではない応接セットで寛いでいる。
私達が部屋に入った所で、カン君が即【 完全遮音 】をかける。
因みに、アルとヴェルは部屋に入った途端に、バタバタと追いかけっこを始めました。
それを横目で見つつ、メイドさん達が置いていってくれた、紅茶とクッキーで一息入れてから、会議が始まった。
議事進行は何故かカン君。ヤる気満々だな。
「コウさんは離れた後、あのお嬢様が行なってきたこと、については、知らないんっスよね?」
「あぁ、分からない。僕も避けてたし、敢えては聞かなかったから。監視があるなぁ程度。邪魔してきたら返礼もできたけど、そうでもないし。監視は撒けば良かったからほっといた。」
「そっスか・・・したら、そこら辺の話は、コウさんのお父さんが戻ってきたら確認っスね。んで、アルを通して確認した感じなんっすけど。」
そう言って、カン君は記録用魔道具を起動させる。もうアルの 移し は済んでいるらしい。
映し出されたのは、映画に出てきそうな豪華なお姫様のお部屋。
可愛らしい猫足の、見るからにふかふかなソファで、突っ伏してえぐえぐと泣いているお嬢様の姿があった。
いいなぁ、あのソファ。
しかし、まぁ、これって。
「・・・盗撮、だよねぇ。」
「しみじみと、犯罪チックに言わんで下さい。止むに止まれずなんスから。」
そのまま見ていると、お嬢様は何やらブツブツと呟きだした。
『・・・なんでっ?子どもの頃のエピソードは全部回収したわ。だから、断罪イベが起きたし。あの後、離れてヒルデの役割に気づいて戻ってくるんじゃなかったの??この世界は、『True LOVE』じゃないの??悪役令嬢の私のTrue endはコレしかないのにっ!
・・・まぁ、いいわ。まだ修正可能な筈だから。
やっぱり、コウラルはスチル通りカッコいい!絶対諦めないんだから!』
・・・おぅふ。
やっぱりかぁ。
転生乙女ゲーの世界にようこそ、の住人っぽいやぁ。
思わず半眼になってしまった。
「諦めろよ、そこは・・・」
ぼそりとこーくんが呟く。
はは、とカン君は乾いた笑いを浮かべた。
「・・・ね、精神的にクるでしょ?あぁ、この後はお嬢様の独り言で、コウさんが如何にイケメンかという萌え話と、TL顔負けの妄想が垂れ流されますので、ここら辺で止めときますね?見たきゃ流しときますよ?」
「いらねぇ。切れ。」
わぁ、こーくんが、雄々しくなった。
「心外だぁ、全部見せられた俺の気持ちは?折角疲れた気分共有しようと思ったのに。トラウマになりそうなんで、労災申請していいです?賠償はリンさんと1日デートで。」
「僕はカンの雇用主じゃないから、申請受理はしないよ?」
「えー。おーぼーだー。」
「・・・カン君、覗き見しておいて、その言い草はないかな?こーくんへの被害対策を話し合うための調査だったんだべさ。お嬢様の妄想から行動原理を分析する必要はあるけど、それをネタにお嬢様自身を落すのは、今は違うと思う。」
ヘラヘラとしていたカン君は、はた、と停止し、私を見た。
「オタが、自分の推しネタ馬鹿にされるのが嫌なのは、分かるよね。君も同じでしょ?」
「・・・はい。」
しゅん、と俯くカン君。
「生理的に受け付けないのは分かるけど、私達は、こーくんや師匠と違って、お嬢様の人と為りを何にも知らないから。決めつけないほうがいい。」
「はい・・・変なテンションになってました。スンマセン。」
じ、とカン君を見つめると、彼はコクリと頷いた。
「じゃ、続き話そ。」
「・・・で、よ。ヒルデ嬢は、一体何言ってたんだ?俺には、全くお前らの会話が分からん。」
師匠が眉間に皺を寄せて、困惑した顔をしている。珍しい。
こーくんが溜め息をつく。
「コレは、 彼女が転生者って事で良いのかな?」
その呟きに、私とカン君は頷いた。
「どうやら、悪役令嬢に転生しました、と思ってるみたいだよね?でもさ、彼女の言い分だと、なんかのゲームで、悪役令嬢のルートがあんの?私、乙女ゲー範疇外だから分かんないや。」
「乙女ゲー?何だそれは。」
師匠が首を傾げる。
あぁ、師匠には前提から話さないとダメだね。
「要は、恋愛のお芝居を、自分が選択肢を選んで流れを進めていく、といった遊戯があるんですよ。お嬢様はどうやら、そう言った物語の中の1つに、役の1人として転生した、と思っているんだと思います。」
「・・・そりゃまた、突飛な話だな。」
意味がわからない、と言った風に、師匠は顔を歪める。
「まぁ、私達がいた世界では、そういった物語の本が沢山ありましたからねぇ。」
「・・・の割には、お前達は落ち着いてんのな?」
「そんなの、元のゲームの内容知らなきゃ、その話だなんて気づきませんから、普通に生きるしかないじゃないですか。やったことあるゲームっぽかったら、まだ疑ったかもしんないですけど。明らかに有名どころのRPGじゃないし。兎に角、乙女ゲーム範疇外だから、例え“だった”としても分からんからどーでもいい。」
「そんなもんなのか。」
「そんなもんでしょ?大体、転移者と転生者が同時に存在してる段階で、話がおかしいですもん。」
「ほぉ。」
私の話に、うんうん、とこーくんもカン君も頷く。
師匠は、顎に手を当てたまま、少し考える風だ。
「で、こーくんも乙女ゲーは範疇外でしょ?」
「うん、やったことないなぁ。君がやってたギャルゲー手伝ったくらいだよ。」
「手伝ったっていうか、攻略サイトも見ないのに、1周目から、1番難易度高い隠しキャラを難なく発見するのやめて頂きたいわー」
「えー?分かりやすかったよ?あれ。」
「そんなチートいらねぇよ。勝手に変なトコばっか行ってやがんなと思ったら、サッサと発見しやがって!私は分かんなかったんだよっ!」
思わず、ダンッ!と、机を殴ってしまった。
メインキャラ順繰りに攻略してこうと思ってたら、「何かいたよー」って、サラッと隠しキャラ暴かれたあの悔しさは忘れない。
しかも、見つけるだけ見つけたから満足したって、ストーリー放ったらかしって、どんな放置プレイよ。責任取れよ。
「まぁまぁ。コウさんが隠したがるものを暴いて辱めた上に放置する性癖だっつーのは理解しましたから、話進めて良いです?」
「カン、語弊がある言い方やめてくれる?悪意があるね。あとでお話しようか?貴腐人の皆様が喜ぶネタ提供してあげようか?」
「だが、断る。って、コウさん、それブーメランの自滅技っスからね?被害甚大だから。・・・で、お嬢様の言ってた話ですけど。」
「あれ、カン君知ってるの?」
「まぁ、多分、って言う状態です。とは言え、ヒトから聞いたことがある、程度ですけど。」
ふぅ、と息を吐いたカン君は、何処かうんざりしながら、言葉を選ぶように話し出した。
「・・・多分ですが。彼女が言うのは、『True LOVE ~真実の愛はどこに~』とか言う、乙女ゲームの事かと思います。」
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