転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
236 / 393
柵(しがらみ)と自由と

233.お宅訪問

しおりを挟む
 イオリが思った以上に機織りという仕事に造詣があると知ったグラバーは熱心に工場見学をさせてくれた。

 初期の機織り機が見たい。

 イオリの願いを叶える為に機織り達の小屋を出て、敷地の奥に向かう事になった。

 案内された広場では年老いたエルフの男女が若い職人に手解きをしているところだった。

「カロス、ダイダ、お邪魔しますよ。」

 気兼ねなく入っていくグラバーに2人の老エルフは何事かと顔を上げた。

「こちらのイオリ様は、ハニエル様とフェンバイン様もお認めになられた、大切なお客様です。
 是非、イオリ様に初期の織り機を見せて頂きたいのです。」

 2人は人族のイオリの周りにエルフのナギと獣人のラックとコーラルが纏わりついているのを見て、微笑んだ。

 「イオリ様、こちらは長年、職人を勤め上げられた御2人です。
 今は、若い職人を育てる事に尽力してくださっているんですよ。」

 突然やってきた人族の若者にも2人は挨拶をすると手招きしてくれた。

「皆が騒いでた人族だね。
 若い人。
 機織りに興味があるのかい?」

 グラバーを引き連れて近くの小屋に入っていったダイダを見送るとカロスは嬉しそうにイオリに椅子をすすめた。

「子供の頃、祖母が使っていました。」

「おや、それじゃ祖師様と故郷が同じなのかい?」

「祖師様?」

 カロスは楽しそうに頷いた。

「機織り機をルーシュピケにもたらした、かつての恩人の事さ。」

「もしかして、その方は十蔵という名ではないですか?」

「ふむ・・・。
 確かに、そんな名の響きだった気がするが・・・よく考えれば、ずっと祖師様としか呼んだ事がなかったな。
 そうだ、獣人のとこに医者がいるんだが、その夫が詳しいぞ。」

「キキ医師の旦那さんのグリーズさん?」

 確かに、歴史学者とキキ医師が言っていたのをイオリは思い出した。

「そう、その男だ。
 学者というらしい。
 もし、直接の話を聞きたければハニエルの爺様だな。
 あの人はワシらよりも500年は年寄りだからね。
 歴史の生き字引だよ。」

 国の成り立ちから知っているハニエル老が十蔵を直接知っている可能性があると聞いて、イオリは胸を高鳴らせた。

「お前さんも祖師様の事を知っていなさるのか?」

 カロスの問いかけにイオリは、どう答えればいいのか迷った。

「俺、アースガイルから来たんですよ。
 十蔵さんはアースガイルを建国した初代アースガイル王であるマテオ様の親友なんです。
 それで、折に触れて聞く名前なんですよ。」

「ほう、なんと なんとな。
 それは初めて聞いたな。
 学者の男が喜びそうな話だ。」

 「カカカっ」と笑うカロスの後ろからダイダが戻ってきた。

「人の子。
 これが、初期の織り機だよ。
 祖師様が己の手で作られた希少な物だから、大切に扱っておくれ。」

 ダイダが差し出すソレは、イオリが知っている機織り機よりも小さく抱えられる程しかない。
 しかし、それ以上に重く感じるのは時を重ねてきた先人の置き土産だったからかもしれない。
しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...