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柵(しがらみ)と自由と
228.領主様との面会 其の三
しおりを挟むそれから、ニースの森に関わる一件について説明があった。
シグルドが作成した、精神干渉の腕輪と足輪については、その全てを破壊し破棄。
術式については、第4部隊部隊長のスミスさんが、カン君が解明した解除の術式と一緒に管理する。
騎士団の中での第4部隊の位置づけは変わり、怪我を負った騎士たちの訓練部隊・・・いわゆるリハビリテーションの部として、その地位を確立することとなった。
今までスミスさんが個人的に行なっていたような関わりを、部隊として明確化するということ。
これにより、トラウマ持ちの騎士の治療も出来るのではなかろうか。
身体的と精神的なケアが受けられるなら、復職も、また、復職が出来なくても、次に進むことが出来る。
今回の騒ぎの渦中に居た、私が助ける事となったグリオさん、そして、集落側にいたというラーンさんと言う騎士さんも、改めてスミスさんの下で働くことになったと。
スミスさんの管理責任や、グリオさんの山火事の過失は問われるものの、今までの貢献と、シグルドやコルトの手口が明らかになる事で、恩赦になったらしい。ただし減俸扱いではあるようだけど。
ーーー ようやく、アイツの望んでいた部隊に出来る。
少し口の端を上げ、そうポツリと呟いた団長さんの姿が印象的だった。
んで。
渦中の3人の処遇は、聞いていて気持ちの良いものではなかった。
シグルド=オーファについては、死罪。
騎士団内部でのクーデターの画策。多数の騎士達の忠誠心を逆手に取った精神干渉・思考統制の実施。そして実際に冒険者ギルド内で2名の騎士に対し、魔力暴走を誘発し自滅・・・人間爆弾にしようとした事は、完全に殺人未遂の域。
生かしておいても、精神干渉・思考統制の魔道具の製造方法を知っている事で、技術が犯罪組織に売られてしまうのも厄介。記憶を消すような魔法も無い。
その諸々を加味しての判決らしい。
ダグ=ネルキオについても、死罪。
どうやら今回の一件・・・特に山火事を起こさせた事の他に、暴行やら何やらが余罪として出てきたらしい。その中で、女性を凌辱した上、殺害に至った案件があったようだ、と。
民を守る筈の騎士としてあるまじき行為。それはかなり重く見られての判決と。
・・・くっそ。どうせなら、股間ブチ抜いてやりゃよかった。
そして、コルト=ラギル。
彼については、禁錮10年。
シグルドの計画の全容を知らず、今回の一件に加担した、という事らしい。
彼が行ったのは、シグルドの代わりにニースの森に居た私を捕まえる事。
『精神干渉の腕輪』は勿論、『隷属の首輪』も、シグルドが用意した、という事になっている。
・・・つまりは、彼の罪状は「上から命令」され実行した「私への」誘拐未遂のみ。
ニースの森の火事は、ダグに教唆されたグリオさんの所為とされているし。
集落でこーくん達を足止めしようとした命令はあるものの、全て『シグルドの命によるもの』とされた。
・・・精神干渉の腕輪の管理者がシグルドのみであった故のよう。
領主様からは『戦乙女』だなんだ、という話が出てこない。・・・どうも、無かったことになっているようだ。
何だか引っかかる、と思ったら、大人の事情も加味された、と。
そもそもコルトは、ファルコ領にあるラギル子爵家に養子として入っていたらしい。
本筋は、王都にあるルーミル伯爵家の四男。この伯爵家、王都内の大派閥に属しており、結構権力持ちのよう。
男爵出のシグルドや、ダグと違い、力関係が働いたのだろうか。
どうやら、この現ルーミル伯爵の夫人・・・コルトの実の母が、イリューン国出身であるとの話。
あの、異様なまでの『戦乙女』への執着は、そこら辺の何かがあったのかな・・・
シグルドの手元に入っていた謎の研究費や物資提供は、王都に隣接するベーリエフ伯爵領からが濃厚。
但し証拠はない。かなり、ロンダリングされており、仲介者の足取りが途切れてしまっていると。完成品が流れてしまったのかも不明だと。
シグルドの話では、完成した術式と完成品である腕輪は提出していない、との事だった。彼自身も依頼者が誰なのかを把握していなかったようだし、『成功すれば、中央に取り立てられる』といった甘言に乗せられたようだ。
完成品を渡していなかったのは、今回の騒動において、効果を確認してからと思っていたから、らしい。
それだって、本当かは分からない。
本人の気づかないうちに、術式がコピーされていたりするかもしれない訳で。コルトから、ルーミル伯爵家へ流れている可能性も否定できない。
完成品ではなくとも、途中までの術式は流れてると考えておいた方が良いだろう。
ベーリエフ伯爵家と、ルーミル伯爵家は同じ派閥ではある様子。
但しそこまで懇意にしている繋がりではないらしい。
一応、この件については、王宮の必要機関に報告は上がっている。しかし、大々的にではない、一部の重要ポストの人だけに伝えられている。
そして、私の容姿は伝えられていない。ただ詳細不明の武器持ちのため狙われた女性冒険者、と報告されている、と。
ファルコ辺境伯爵は、先の2伯爵とは派閥を別にしている。というか、ぼっち・・・と言うと聞こえが悪いね、無派閥と言う事らしい。強いて言うなら、現王派。王位に付かれた方に忠誠を尽くす、ということ。
辺境伯という特殊性から、昔から派閥争いには参加してはいないと。そして、今では自領独立でやってけるくらいになってるらしい。
・・・それって逆に、独立戦争起こしそうに見えるんだけど。どうなんだかなぁ。
と、まぁ。
今回の、ファルコ辺境伯爵領騎士団に関わる一件については、そんな決着になったようだ。
結局、『戦乙女』と、イリューンについては、何も情報なし。トカゲの尻尾切りな感が否めなかった。
そして、私に対しては幾ばくかの賠償金が、そしてカン君に対しては、腕輪の干渉を解く術式を提示した謝礼が支払われる事になった。
うん、小金持ちだ。
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