転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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柵(しがらみ)と自由と

224.虫除けのお仕事 其の三

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私と師匠の演技イチャつきを見た、ご令嬢達やご婦人達は、また、ムキャーと騒ぎ。
逆に男性陣は、信じられないモノを見るように、黙り込んでしまった。

そらそーだ。

無限指揮者インフィニティコンダクター』やら、『英雄』やら、鬼神の如き謂れをされる伝説の偉丈夫が、女にデレている所を目撃するなどレア中のレアだろう。

残ったこーくんは、またご令嬢達と対峙した。
ご令嬢達からは、殺気にも似た感情がダダ漏れている。
私と師匠が消えた途端に、ご令嬢達はこーくんに迫る。


『コウラル様っ!なっ、なんなのですか、あの女はっ!』

『僕の“”、とお伝えしましたが?』

『だって、コウラル様がいらっしゃるのに、他の男性にっ!』

『何か問題ですか?この国は、一妻多夫も認められておりますよ?』

『何を?!それは一部の貴族だけでっ!』

『何をおっしゃいますか。A級ライセンス冒険者も、その条件を満たしますが?』

『でも、それはコウラル様のみでっ!』

『現在ファーマスさんもA級ライセンス、そして僕のパーティー『旅馬車トラベリン・バス』のメンバーである、リンもカンも、A級ですよ?何か問題でも?』


モスク伯爵令嬢も、他のご令嬢達も、はくはくと口を開けたり閉めたりするだけで、それ以上は何も言えなくなってしまった。


『・・・私は仲間達と、こちらにお邪魔しております。これ以上の騒ぎは、店の迷惑となりましょうから、下がらせていただきますね?では失礼。』


ふわりと微笑んで、優雅にお辞儀をしたこーくんは、踵を返し、さっさと個室へと戻ると、後ろ手にドアを閉めた。


「【 完全遮音インスレーション 】っ!・・・なんっスか!あの砂糖吐きそうなイチャつきっぷりはぁっ!」

「あははははーっっ!やってて、自分でもキモかったわぁ~。あー可笑しぃっ。」


扉が閉まると同時に遮音魔法を唱えたカンくんがキレ気味に叫ぶのと、私の机を叩きながらの爆笑が部屋中に響く。
ロイドさんが頭を抱えて大きく息を吐いた。


「リン、コウ、お前らやり過ぎだろうよ・・・。」

「え?リンが余りにも可愛い事言うから、本気便乗ですよ?ね、ファーマスさん。」

「あぁ・・・まぁこれで、周りの反応をこちらに留められたな。」

「リンさん1人に敵愾心ヘイトが向いただけっスけどねぇ?領主様んトコの娘さんだけって話じゃなかったです?」


こーくんの台詞に苦笑いしながら師匠が頷くと、ぶぅ、と膨れるように、カン君が吐き捨てる。
何故そこで拗ねるかね?


「ま、遅かれ早かれこーさんの立場的にこうなる事は分かってた訳で、今更でしょ?今後パーティーメンバーである私が狙われる事考えれば、餌撒きした事で一気に炙り出せるし。それに、あのゴージャス令嬢の精神干渉で、周囲の人間が彼女とこーさんとの婚約が本当だと思う、という状態は邪魔できたんだから。
とりあえず、私を狙う輩を叩き潰せば、裏で手を引く犯人は分かるワケでさ?」

「そうですけど・・・。」


右手をワキワキしながらカン君を見ると、何処か納得出来ていない顔を向けてきた。


「さ、これからは忙しくなるだろうから、ガードは宜しくね?寝込みも襲われるかなぁ?」

「じゃ、俺一緒に寝ます。」

「あ、僕も。」

「そしたら、俺も混ざっとくか?」

「「ファーマスさんは、独り寝で良いでしょ。」」

「・・・どさくさに紛れて、馬鹿言ってんじゃないよ。」


全くこの男共は。
そんな様子を見ていたロイドさんは完全に匙投げてる。


「あー、イチャつくのは宿帰ってからやれな。明日はファルコ辺境伯爵様との懇談だからな?遅刻すんなよ?」

「致しませんから。あ、フツーに冒険者の格好で良いんですよね?」

「構わん。ま、そのカッコが良いなら、それでも良いけどな?」

「無理。」

「そのカッコで、そんな嫌な顔すんな。色々台無しだぞ?」

ニヤリと笑いながら軽口を叩くロイドさんに、心底嫌な顔向けたら、酷い言われよう。

もう舞台裏じゃ。
別に台無しで構わんし。







その後、私達はロイドさんとは別行動で、レストランを後にした。

レストランから出る際も色んな視線に晒され、馬車に乗り込む。
ゴージャス令嬢の姿は無かったけど、それまでには感じなかった斥候らしき人の尾行が増えた。

宿に到着し、馬車から降りる際には、カン君がエスコートしてくれた。
別に要らないんだけども、一応まだドレスアップした状態だからねぇ。
仕方無しに手を取り、誘導される。
今度は背後に師匠がガード。
何だろねぇ、このVIP感。

領都一の高級宿。5階建て。

先にチェックインを済ませたこーくんが、私達を招き寄せ、部屋へと向かう。
借りたのは、5階のスイートルーム。上級貴族が警護も泊まれるよう、5階全てを打ち抜きで泊まれるようにしているフロア。

よくわからない使用人がゾロゾロと付いてきそうになったのを全て断り、支配人と思しき人だけの先導で部屋まで移動した。


「本当に、使用人を付けずによろしいのですか?・・・その、そちらのご令嬢もいらっしゃるのでしたら。」


おずおずと、支配人が訪ねてくる。
そしてチラチラと私の方の様子も伺う。どうやら、使用人を紛れ込ませたいのかなぁ?
そんなこと、させませんよ?


「必要ありませんわ?冒険者ですから、身の回りの事は自分で出来ますし。」

「いや、しかしながら・・・」


にっこり、と、笑顔を見せ拒否したものの、なお食い下がる支配人。


「お気遣いありがとうございます、支配人。ただ私達は貴族ではなく冒険者集団。使用人にすら聞かれたくない話もあることをご理解下さいませんか?あぁ、これから私達に面会があっても、通さないで頂きたい。食事も何もかも済ませておりますので、宿からのサービスは無用です。お静かに願いますよ。
・・・上級宿なのですから、この意味はお分かりですよね?」

「は、はぁ・・・」


言外に、プライバシーを守るのは当たり前だろ、とプレッシャーをかけるこーくん。


「気をつけろよ支配人。コイツは以前、部屋に侵入してきた女を、問答無用で、扉をぶっ壊して叩き出し、その場でチェックアウトした経緯前科があるからな?」

「ひっ、そ、そのようなことは・・・それでは皆様がお寛ぎいただけますように致しますので。」


若干慌てた様子で、支配人が去って行く。
とりあえず私達は、部屋に入って一休みする。


「何かなぁ。上級宿なんスよね?ココ。・・・【 索敵サーチ 】・・・色々と隠されてますけど、全部無効化でいっスか?」

「うん、やっちゃっていいよ~・・・まぁ、言いたいことは分かるけど、この世界、これくらいが上級の基準だよ?・・・だから、僕は基本的に宿には泊まらない。変装しても、嗅ぎつけてくる輩が多いから。長期で貸し家の一室借りたりした方が平和なんだ。」



こーくんは、どさっ、とふかふかソファーに腰を落とし、背もたれに頭を置きながら、嘆く。
師匠も向かい側のソファに腰掛ける。
カン君は、部屋どころか、フロア全体に索敵をかけ、隠し置かれた記録用魔道具やら、何やらを暴いていく。


「そっスか。確かにコレは落ちつきませんわ。【 効果無効ノーエフェクト 】・・・あとは、【 障壁バリア 】【 完全遮音インスレーション 】・・・っと、こんなもんスか?」

「カン、ホントお前、便利だなぁ。そうだなぁ。俺も、渡り歩いていた時は下手な宿には泊まれんかったからな・・・ん?リン着替えるのか?後ろ解くの手伝ってやろうか?」


3人のやりとりを傍目に、着替え場所を探して、部屋の構造を見回っていたら、ニヤリと笑う師匠に目ざとく見つけられる。


「大丈夫です。1人でも脱ぎ着出来るタイプのを選んだんで。」

「何だ、つまんねぇなぁ。」

「師匠っ!それ、セクハラっス。」

「んぁ?服なんて脱がせてナンボだろ?着飾ってたら特にな?」

「まぁ、確かにねぇ。」

「コウさんまで同意しないっ!」


何言ってんだかなぁ、と相手にするのも面倒で放っておく。
ある扉を開けると、バスルームを発見。


「あ、お貴族様用の部屋だから、お風呂がある~。使っちゃっていいです?」

「イイけど、お前絶対にカナルは使うなよ?喰うぞ?喰われたいなら別だけどな?」

「はぁい。使いませんってば。」


呆れたような師匠の声かけに、ひらひらと手を振り、バスルームの扉を閉めた。





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