転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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柵(しがらみ)と自由と

219.設定固めようか

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ニヤニヤしながら、私達を見ていたロイドさんが口を開く。


「仲良いよなぁ、お前ら。」

「何しみじみ言ってんすか。」



こーくんは、顰め面でロイドさんを睨み返すが、意に返さないどころか、こーくんの頭を撫でくりまわした。


「ま。いーじゃねぇか。その仲の良さを見せりゃいいんだ。お前らがフツーにしてるだけでも、お嬢様にゃダメージがデカイんじゃねぇか?」

「簡単に言いますよね・・・そんな単純な話で済みゃ、こんなに悩んでませんて。」

 
ふぃ、と顔を背けながら、こーくんは何処か諦め半分で呟く。
その姿がなんか、切ない。


「・・・ね、何が最良かは分からないけど、こーさんを傷つける人は、私達にとっても敵認定だよ?そんなに長い因縁があるなら、ここで断ち切って、憂いなく旅に出よ?」

「リン・・・うん、ありがと。」


少し言い澱みながらも、こーくんは、じ、と見つめた私の視線に、しっかりと見つめ返してくれた。
誤魔化さないでいてくれたその姿に、少し安心する。

すると、急にロイドさんが真剣な顔を向けてきた。


「それはそうと、な。・・・カン、すまんが遮音的な事できるか?」

「遮音ですか?はい。ーーー  【完全遮音インスレーション】」


頼まれたカン君は、パチリと指を鳴らすと一瞬に魔力を巡らし、結界を張る。
それを確認したロイドさんは、ゆっくりと話し始めた。


「うん。あんなぁ?・・・リン、カン。お前らの設定、固めておいた方がいい。《迷い人》という事がバレると、色々厄介だ。」

「ど、しました?いきなり。」


急に変わった話の流れに、私達は思わず首を傾げる。


「お前らが劣竜種レッサードラゴンを倒した事は、本所である王都ギルドへ報告が上がっている。あと、王都ギルド所属だったコウが、新しくパーティー結成した事で、所属がミッドランド支部うちになってんだよ。その件を合わせて、王都ギルドに呼ばれるだろう。
・・・それにかこつけて、王宮に召集される可能性が高い。」

「うゃ、王様に会うんですか?領主様より面倒そうな話なんですね・・・」

「あぁ、俺らはど庶民だから、関係ないと突っぱねたいが、A級ライセンスだとそういうワケにもいかんくてなぁ。貴族との関わりを求められる場面が出てくる。それもあって、出身やらなんやらブレない設定にした方が良い。なるべく、この国の水準と変わらない感じの出身地設定がいい。
《迷い人》は、余りにもこの世界とかけ離れた考え方だったりする事で認識されるからな。
・・・お前ら2人が《迷い人》だと知るのは、ニースの森集落の者たちと、ファーマス、ベネリ、イズマ。ギルドは俺だけ。あとは、レザリックか。ザイルは勘付いているかもしれんが、伝えてはいない。設定を創り込んだら、ベネリ達に言って、集落の面子に伝えてもらうから。」

「何でっスか?」

「『黒持ち』の全属性持ちである事は、騎士団なんかは垂涎ものだし、国防に使いたい、という欲は出る。だが、『黒持ち』としては、それまでだ。冒険者として生きていく分に必要能力で、魔獣が絡む事には手を貸すと明言してりゃ、それ以上どうこうはできねぇ。
まぁ、『黒色』であるが故のイリューンのことはあるが、それはまた別問題だ。

ただな?《迷い人》は違う。お伽話のようではあるが、この国や他国でも『恩恵』という益をもたらす存在として認識されている。きっと『黒持ち』を囲おうとする比じゃねぇんだ。
ボロを出したらマズイ。だから、お前らの事を知る連中の口裏を合わせる。
・・・これは、お前らが、国に囲われないための処置だ。いいな?」


ロイドさんは、何処か痛ましそうに、申し訳なさそうに話してくれる。
すごく心配してくれているのがよく分かって、恐縮してしまう。


「はい、分かりました。ご心配ありがとうございます。」


私とカン君は軽く頭を下げた。

そして、ロイドさんとこーくんを交えて、私とカン君の背景を作り込んだ。

氏と名が一般民にもあるとして。
私は佐伯=「遮る」から、カン君は名前の「葵」から、氏をつける事にした。


*****

リン=ブロック
銃剣道に精通した一族の生まれ。街を警備する部隊に代々所属。武器である銃剣は、祖父の形見。
平時は銃を使用した狩猟民マタギとしても活動していた。 
職業スキルの銃剣闘士は独自のものと推察される。
因みにリンが扱う銃剣の型は、一族の型からは逸脱気味で、独自進化させている。

カン=マーロウ
闘気量が多い一般民。警備部隊に一般試験で入隊。その潜在能力を開花させるべく取り組んでいたが、盾士として伸び悩んでいた。ニースの森にて、魔法概念を学び、闘気=魔力利用と同義と考え利用したところ、魔導師の職業スキルを得た。



私達が居たのはアス=ガルタ、という島国。
生活水準は、(私達の中で)明治時代のイメージ。
魔法という概念はなく、闘気を纏い身体強化で戦う種族。黒髪黒目が一般的。

警備隊の新人だった私達は、船で近くの島に渡る際に、急な嵐で船が転覆。
気づけばニースの森が面する小さな入江に流れ着いた。森に入るしか先に進めず、彷徨い歩いていたら、ニースの森の集落にたどり着いた。
その時に仕事で居たファーマス率いる『猟犬グレイハウンド』と知り合い、冒険者として研鑽を積んだーーー


*****


「・・・てな具合で、どうでしょう?国名については、私達の世界でも物語上の物ですから、他の《迷い人》が居たとしても、すぐには分からないと思います。」

「ん?同郷の者が分からなくて良いのか?」

「えぇ。もし居たとして・・・この世界でどの様な立場にいるか分かりませんから。例えば、何処かの国に属していて、其処に居ることが良いと本気で思っていた場合が面倒です。」

「と、言うと?」

「国民性として、長い物に巻かれがちで、お節介な所があるんです。ですから、良かれと思って、勧誘してくる可能性が高い。まぁ、こちらの意思を尊重してくれる良識人ならいいんですけど、自分の行いが正しいと信じて疑わないタイプなら最悪です。正義感と義務感から付きまとわれる。拒否したら、「自分がこんなに心配してやってんのに」と、完全たる敵意を向けられる。・・・関わらないのが一番なんです。」

「自分の同族なのに、辛辣だなぁ。」


私の言葉に、ロイドさんは苦笑いする。

本音は《迷い人》対策では無く、『転生者』対策。
こーくんや、レザ先生がいる事を考慮すると、他にも前世の記憶持ちが居てもおかしくは無い。

向かいにいるこーくんと隣のカン君を見やると、神妙な顔で頷き、カン君が話を続けてくれた。


「俺達の国では、転移やら転生やら、そんな物語が横行していて。力を持った主人公が色々無双する話が溢れています。ですから、勘違いする人が居ないとは言えないんス・・・警戒するに越した事はないかと。」

「その割に、お前らは落ち着いてんな?」

「そりゃ、着いた途端に戦う術を持ってない中、ビガディールに襲われりゃ、現実見ますよ。・・・俺は・・・あの時、何にもできなかったから。」


少し下唇を噛むカン君。
まぁ、何にせよあの時は、やっぱり緊張状態だったのは否めない。

・・・私だって、カン君が居なかったら、何もできず、ビガディールに殺されていたかもしれない。


「・・・そんな事ないよ?君が居たから、私はあの時必死になれたし、冷静になれた。集落に着くまで極限状態だったけど、2人だったから、心強かったんだから。」

「リンさん・・・俺、完全に守られポジだったんスね。」


私の話を聞いたカン君は、しゅん、と肩を落とす。

ーーー あれ?反応が、変?


「リン・・・君ってさぁ、ナチュラルに男心抉るよねぇ。漢前な生き方してるから、仕方ないけどねぇ。」


こーくんが片肘付きながら、くっくっと笑う。ロイドさんまで、笑いを堪えている。


「は、何が?」


ねぇ、何かマズイ事言った?
・・・解せぬ。


「・・・ま、設定はそれで良いとして。領主の所に行くのと、もし王都に召集された際には、俺とファーマスも一緒に出向くからな。・・・コウ、もしもの時の為に、正装を準備できるか?」

「まぁ、領都へ出れば、実家が懇意にしている衣装屋があるので、其処でなら何とか。」

「そしたら、リンとカンの分、あと必要ならファーマスのも、だな。頼めるか?」

「大丈夫です。」


よく分からないうちにロイドさんとこーくんで話が進んでしまう。
何か、嫌な予感。


「ロイドさん、正装って?」

「城に出向く事になったら、それなりのカッコがいるからな。用意しておくに越したことはない。いいな?」

「えぇー・・・まさか、ドレスとか言わないですよねぇ?」

「ドレスは当たり前だろ、女なんだから。」

「絶対嫌。男物で。パンツスタイルじゃなきゃ嫌。」

「お前なぁ?城に行くのに、そんな訳にいかねぇぞ?」

「だが、断る!」

「おい!」


筋金入りのスカート嫌い舐めるな。
中学時代はほぼジャージで過ごし、高校だって、制服着なくていいから、私服校を選んだんだ。
就職してからだって、パンツスタイルのスーツしか着とらんわ。

噛みつきそうな私の剣幕に、ロイドさんは一瞬たじろぎながらも、押し通そうとした。
その様子を見ていたこーくんが、私達の言い合いに割り込んだ。


「まぁまぁ。別にこの国の正装であるからさ?後で考えよう?」

「おいっコウ!?」

「だって、リンもカンも、この国の人間んですから。彼の国の正装と言い張れば如何様にもできるでしょう?寧ろその方が、この国に迎合しない、という意思表示になる。リン、カン、後で君達の国で正装に成り得る格好を教えてもらえる?」

「寧ろ、お願いします。」


そう答えた私に、パチリ、とウィンクを返すこーくん。
私がスカート嫌いなの、知ってるもんねぇ。

助かるわホント。

・・・でも、正装どうしよう。

あぁ、厄介だなぁ。







*****************

※ いつも『転移は猟銃と共に~狩りガールの異世界散歩~』をお読み頂きありがとうございます。
※ 年の瀬最後の更新です。今年もありがとうございました。
※ 男3人、少々恋愛モード突入してますが。主人公は亀の歩み。すっとぼけを上手く書ければなぁと思っています。
※ まだ道半ばの彼らの旅(まだ出てすらいないw)ですが、今後もお付き合い頂けましたら幸いです。
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