転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
220 / 393
脅威との遭遇

217.素材取り扱い

しおりを挟む



話し合いが終わった所で、私は回収した『認識票ドッグ・タグ』と、装飾品を提出した。
それを見たザイルさんは、顔を歪めた。


「馬鹿だとは思ってましたが、ここまでとはね・・・ありがとうございます。ギルマスにも伝えて、証拠記録と合わせて処理させていただきます。彼等に情報を流した職員馬鹿とも合わせて、ね。」


怒りが滲む顔でそう言って、ザイルさんは遺品を回収していった。





その後、劣竜種レッサードラゴンの素材剥ぎ取りは、ギルドへ依頼する事になった。
テルさんをはじめとした、解体職員さん達と話を進める。

カン君が出した劣竜種レッサードラゴンの大きさを見て、解体はこのまま村で行う事にしたそう。


鱗や骨などが鎧防具の素材になるとの事で、私とイズマさん、ベネリさんの防具分をっこしてもらう。
師匠とこーくんの防具については、それ以上の良い素材を使ってるらしく、要らないと。
カン君の鎧も、師匠のお下がりのため、同様なのだそう。


「でも、ドラゴン装備とかって、ファンタジーっスよねぇ。」


そんなカン君の呟きに頷く。
鎧は要らないとすれば、盾が欲しい、とカン君は小盾を作ることにしたらしい。

とりあえず、師匠からミッドランドの腕利きの防具屋さんを紹介してもらう事になった。
師匠は一部素材を報酬とし、こーくんは要らないので、それ以外の素材は売りに出した分の取り分に上乗せという事になったが・・・


「あの。」

「どうした?リン。」


交渉していた師匠の側で、顔を見上げる。
ん?と、険しい目つきの中に、優しさが滲む感じで、私を見下ろした。


「・・・『影猿シャドウモンキー』の皆さんにも、素材分けちゃ駄目ですか?」

「ほぅ?何でだ?」


片眉を上げて、師匠が尋ねる。
周囲にいた職員さんがざわつく。


「あの劣竜種レッサードラゴンに最初に遭遇したのは、『影猿シャドウモンキー』の皆さんです。
あの竜の妨害魔力ジャミングで、索敵が上手くいかなかった所に、タカさんが場所を教えてくれたから、すぐに向かうことができましたし。
ナルさんとジェリさんが、竜をあの場に留めてくれたから、すぐ戦闘に移れました。彼等の助力が無ければ、まだ時間がかかっていたと思いますから。」


それに・・・彼等の装備が良くなれば、もっと安全に斥候に取り組めると思うし。今回のような事になっても、助かる確率が上がるだろう。

でも、そこまでは私からは言えない。
それを理由にすると、きっと彼等に気を遣わせてしまう。

基本的に、素材は討伐した者達に所有権があるとされるから。そこに組み込めないか提案するのが、限度だろう。


じ、と師匠を見ていると、師匠もそのまま私を見つめて、ふ、と微笑み、頭を撫でた。


「ふにゃっ!」

「・・・お前らしいな。」


少し撫でくりまわすと、師匠は顔を上げ、こーくんの方を見た。


「コウ、構わんか?」

「えぇ。問題ありませんよ?」

「わかった・・・誰か、『影猿シャドウモンキー』を呼んできてくれないか?」


あっさりと、私の言い分が通り、少しビックリする。
きょとん、とする私を見やった師匠がにやり、と笑う。


「筋が通った言い分だ。・・・まぁ、お前のワガママだったとしても、可愛いもんだよ。・・・有難うな。」


師匠はそう言うと、職員に呼ばれて来た『影猿シャドウモンキー』の側に寄り、話を始めていた。
私は、お礼を言われた意味が分からず、首を傾げる。


「ーーー 今迄だって、十分すぎるくらい貰ってる!これ以上貰ったって、旦那に返せるモンがないんだ。こんな素材貰えねぇよっ。」


アワアワしながら、3人は断ろうとしている。
そんな3人に対して、師匠が諭す。


「・・・これは、お前等の働きに対しての正統な報酬と、先行投資だ。お前等が命を張って、劣竜種レッサードラゴンに対峙してくれたおかげで、俺達の討伐が上手くいった。
これからだって、ギルドからも、俺からも仕事を頼む。これを使った装備で、お前等の生存確率が上がって、情報持ち帰ってくれりゃ、それが対価に成るンだからな。貰っとけ。」

「・・・スンマセン。ありがとうございます。」


師匠の言葉で、彼等は素材を受け取ってくれる事にしたようだ。

でも、今の会話を聞いて、はっとする。

師匠は彼等と知り合いで、その能力を評価していて。
そもそも、素材を渡すつもりだった?


『余計なこと、しちゃった?』


「ーーー リン。」


ぐるぐる考えていると、急に背後から声をかけられ、ビックリする。
振り返ると、イズマさんがいた。
珍しく、表情が柔らかい。


「ど、しました?」

「アイツらに、素材を渡すよう進言してくれて、ありがとな。」


師匠に引き続き、何故お礼を言われるのか分からず、首を傾げイズマさんを見た。


「え・・・そもそも、師匠は彼等に素材を渡すつもりだったんじゃないですか?私、余計なこと言っちゃったって・・・」
 

イズマさんは、ふ、と微笑み、軽く首を横に振り、その理由を教えてくれた。


「いいや。あそこで、メイン討伐者である『旅馬車トラベリン・バス』のメンバーから、進言があった事が重要なんだ。
・・・確かにファーマスさんは、アイツらに素材を渡すつもりだったと思う。でもそれは、自分の取り分から分け与えるつもりだった筈だ。
それを、お前が進言してくれたおかげで、アイツらが正統な討伐メンバーであった事を証明して、堂々と素材を渡すことができる。この違いは大きい。」


違いが分かるような、分からないような。
ニュアンスの違いなんだろうか。
ん?と首を捻っていると、くすり、とイズマさんが笑った。


「・・・『ファーマスの依怙贔屓で』とか、『雑用パーティーの癖に』とか、アイツらを揶揄する声は沢山ある。でも、今回正統報酬を得た事で、アイツらがしっかりとした実力がある事を証明した形になるんだ。」

「あ、成る程・・・でも、それなら、こー・・・さんが言ったんじゃ。」


この裏事情を、こーくんが考えなかったことは無いと思うんだけど。
益々分からず首を捻る。


「いや、コウは口を出せない。・・・もう一つ、お前からの進言ってのが必要だったんだ。」

「え?」

「ファーマスさんが、さっき言っただろ?『お前のワガママだったとしても』って。それは、お前の言い分は『英雄』のパーティーである『猟犬グレイハウンド』が、全部受け入れるってこと。お前達の後ろ楯としている事がはっきりした、ってことだ。」

「あ・・・」

「俺とベネリがA級ライセンスになった事で、『猟犬グレイハウンド』はクラスAになったし、ファーマスさんの威光も使いやすくなった。これで少し、お前等自身も動きやすくなれば、良いんだけどな。・・・お前等の恩恵に報いられるモンかは分からんけど。」


イズマさんは、ポンポンと私の頭を軽く叩き、師匠と『影猿シャドウモンキー』がいる方へと向かっって行った。

私は釈然としないままその姿を見送り、こーくんの姿を探そうとする。


「なしたの?めんこい顔して。」

「こー・・・さん。」


すぐ後ろに、こーくんが控えていた。
なんもかんも、お見通しなような、そんな笑顔を浮かべて。


「少しずつ、リンとカンの立場を確立していこ?腕力でねじ伏せるんでもなく、権力で押さえつけるんでもなく。そのまんまの考え方、感じ方で良いから。味方を増やすんだ。・・・ま、ファーマスさんは、君が『おねだり』すれば直ぐなんだけどさ。」

「そんな・・・別に、甘やかされてないよ?」


くすくす笑うこーくんを睨む。
師匠に甘えまくってるような言い方されるとムカつく。


「うん、君が甘えるの苦手なの知ってるさ。甘やかそうとしたって、そやって、自制しちゃうからさ?だからこそ、たまの『お願い』が効くんだよ?物は使いようだから。」

「むぅ。」

「・・・ま、君の『お願い』は、全部他人の事、なんだけどね。」

「何か言った?」

「んーん。なんでもなーい。」


不貞腐れていたら最後の呟きが聞こえず、こーくんの顔を見直すけど、意味深な笑みを浮かべるだけで、教えてはくれなかった。





その後、私達はミッドランドへと戻り、1日休んだのち、近隣のA級クエストを手分けしてこなす事とした。

 その合間に商業ギルドへも行き、ザンギレシピの販売料を貰ったり、ミルガの実を加工した味噌やジャーベ(山椒)を提案したりと、バタバタしていた。

商業ギルドの良心レインさんとだと、つつがなく打ち合わせが終わって気持ちが良い。
彼女が立上げたレシピ開発部門でも、色々と新しい料理が生まれているらしく、『薬膳料理』の店を商業ギルド直轄で運営することも視野に入れているみたいだ。

是非とも頑張って欲しい。

私とカン君はあまり余計なことは言わず、楽しそうにしているレインさんの語りを聞くに留めた。


そんなこんなで数日が過ぎ。
いつもの通り依頼を受けようと、カン君とこーくんと一緒に冒険者ギルドへ顔を出す。
私達の姿を見た、担当職員のエミリオさんが、ガタンと勢いよく椅子から立ち上がった。


「『旅馬車トラベリン・バス』の皆さん!お待ちしていました!」


エミリオさんは、そのまま私達を奥へと誘導する。


「ギルマスが、用事があるとの事で・・・執務室にご案内しますね。」


促されるまま執務室に入った私達は、ロイドさんから面倒臭い話を聞く事となった。





*****************


※ 年末バタバタ中でして、少し更新お休み致しますm(_ _)m
※ 次回から新章予定。あんまり、章の区分け意味をなしてませんけど・・・
しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...