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脅威との遭遇
217.素材取り扱い
しおりを挟む話し合いが終わった所で、私は回収した『認識票』と、装飾品を提出した。
それを見たザイルさんは、顔を歪めた。
「馬鹿だとは思ってましたが、ここまでとはね・・・ありがとうございます。ギルマスにも伝えて、証拠記録と合わせて処理させていただきます。彼等に情報を流した職員とも合わせて、ね。」
怒りが滲む顔でそう言って、ザイルさんは遺品を回収していった。
*
その後、劣竜種の素材剥ぎ取りは、ギルドへ依頼する事になった。
テルさんをはじめとした、解体職員さん達と話を進める。
カン君が出した劣竜種の大きさを見て、解体はこのまま村で行う事にしたそう。
鱗や骨などが鎧防具の素材になるとの事で、私とイズマさん、ベネリさんの防具分を寄っこしてもらう。
師匠とこーくんの防具については、それ以上の良い素材を使ってるらしく、要らないと。
カン君の鎧も、師匠のお下がりのため、同様なのだそう。
「でも、ドラゴン装備とかって、ファンタジーっスよねぇ。」
そんなカン君の呟きに頷く。
鎧は要らないとすれば、盾が欲しい、とカン君は小盾を作ることにしたらしい。
とりあえず、師匠からミッドランドの腕利きの防具屋さんを紹介してもらう事になった。
師匠は一部素材を報酬とし、こーくんは要らないので、それ以外の素材は売りに出した分の取り分に上乗せという事になったが・・・
「あの。」
「どうした?リン。」
交渉していた師匠の側で、顔を見上げる。
ん?と、険しい目つきの中に、優しさが滲む感じで、私を見下ろした。
「・・・『影猿』の皆さんにも、素材分けちゃ駄目ですか?」
「ほぅ?何でだ?」
片眉を上げて、師匠が尋ねる。
周囲にいた職員さんが騒つく。
「あの劣竜種に最初に遭遇したのは、『影猿』の皆さんです。
あの竜の妨害魔力で、索敵が上手くいかなかった所に、タカさんが場所を教えてくれたから、すぐに向かうことができましたし。
ナルさんとジェリさんが、竜をあの場に留めてくれたから、すぐ戦闘に移れました。彼等の助力が無ければ、まだ時間がかかっていたと思いますから。」
それに・・・彼等の装備が良くなれば、もっと安全に斥候に取り組めると思うし。今回のような事になっても、助かる確率が上がるだろう。
でも、そこまでは私からは言えない。
それを理由にすると、きっと彼等に気を遣わせてしまう。
基本的に、素材は討伐した者達に所有権があるとされるから。そこに組み込めないか提案するのが、限度だろう。
じ、と師匠を見ていると、師匠もそのまま私を見つめて、ふ、と微笑み、頭を撫でた。
「ふにゃっ!」
「・・・お前らしいな。」
少し撫でくりまわすと、師匠は顔を上げ、こーくんの方を見た。
「コウ、構わんか?」
「えぇ。問題ありませんよ?」
「わかった・・・誰か、『影猿』を呼んできてくれないか?」
あっさりと、私の言い分が通り、少しビックリする。
きょとん、とする私を見やった師匠がにやり、と笑う。
「筋が通った言い分だ。・・・まぁ、お前のワガママだったとしても、可愛いもんだよ。・・・有難うな。」
師匠はそう言うと、職員に呼ばれて来た『影猿』の側に寄り、話を始めていた。
私は、お礼を言われた意味が分からず、首を傾げる。
「ーーー 今迄だって、十分すぎるくらい貰ってる!これ以上貰ったって、旦那に返せるモンがないんだ。こんな素材貰えねぇよっ。」
アワアワしながら、3人は断ろうとしている。
そんな3人に対して、師匠が諭す。
「・・・これは、お前等の働きに対しての正統な報酬と、先行投資だ。お前等が命を張って、劣竜種に対峙してくれたおかげで、俺達の討伐が上手くいった。
これからだって、ギルドからも、俺からも仕事を頼む。これを使った装備で、お前等の生存確率が上がって、情報持ち帰ってくれりゃ、それが対価に成るンだからな。貰っとけ。」
「・・・スンマセン。ありがとうございます。」
師匠の言葉で、彼等は素材を受け取ってくれる事にしたようだ。
でも、今の会話を聞いて、はっとする。
師匠は彼等と知り合いで、その能力を評価していて。
そもそも、素材を渡すつもりだった?
『余計なこと、しちゃった?』
「ーーー リン。」
ぐるぐる考えていると、急に背後から声をかけられ、ビックリする。
振り返ると、イズマさんがいた。
珍しく、表情が柔らかい。
「ど、しました?」
「アイツらに、素材を渡すよう進言してくれて、ありがとな。」
師匠に引き続き、何故お礼を言われるのか分からず、首を傾げイズマさんを見た。
「え・・・そもそも、師匠は彼等に素材を渡すつもりだったんじゃないですか?私、余計なこと言っちゃったって・・・」
イズマさんは、ふ、と微笑み、軽く首を横に振り、その理由を教えてくれた。
「いいや。あそこで、メイン討伐者である『旅馬車』のメンバーから、進言があった事が重要なんだ。
・・・確かにファーマスさんは、アイツらに素材を渡すつもりだったと思う。でもそれは、自分の取り分から分け与えるつもりだった筈だ。
それを、お前が進言してくれたおかげで、アイツらが正統な討伐メンバーであった事を証明して、堂々と素材を渡すことができる。この違いは大きい。」
違いが分かるような、分からないような。
ニュアンスの違いなんだろうか。
ん?と首を捻っていると、くすり、とイズマさんが笑った。
「・・・『ファーマスの依怙贔屓で』とか、『雑用パーティーの癖に』とか、アイツらを揶揄する声は沢山ある。でも、今回正統報酬を得た事で、アイツらがしっかりとした実力がある事を証明した形になるんだ。」
「あ、成る程・・・でも、それなら、こー・・・さんが言ったんじゃ。」
この裏事情を、こーくんが考えなかったことは無いと思うんだけど。
益々分からず首を捻る。
「いや、コウは口を出せない。・・・もう一つ、お前からの進言ってのが必要だったんだ。」
「え?」
「ファーマスさんが、さっき言っただろ?『お前のワガママだったとしても』って。それは、お前の言い分は『英雄』のパーティーである『猟犬』が、全部受け入れるってこと。お前達の後ろ楯としている事がはっきりした、ってことだ。」
「あ・・・」
「俺とベネリがA級ライセンスになった事で、『猟犬』はクラスAになったし、ファーマスさんの威光も使いやすくなった。これで少し、お前等自身も動きやすくなれば、良いんだけどな。・・・お前等の恩恵に報いられるモンかは分からんけど。」
イズマさんは、ポンポンと私の頭を軽く叩き、師匠と『影猿』がいる方へと向かっって行った。
私は釈然としないままその姿を見送り、こーくんの姿を探そうとする。
「なしたの?めんこい顔して。」
「こー・・・さん。」
すぐ後ろに、こーくんが控えていた。
なんもかんも、お見通しなような、そんな笑顔を浮かべて。
「少しずつ、リンとカンの立場を確立していこ?腕力でねじ伏せるんでもなく、権力で押さえつけるんでもなく。そのまんまの考え方、感じ方で良いから。味方を増やすんだ。・・・ま、ファーマスさんは、君が『おねだり』すれば直ぐなんだけどさ。」
「そんな・・・別に、甘やかされてないよ?」
くすくす笑うこーくんを睨む。
師匠に甘えまくってるような言い方されるとムカつく。
「うん、君が甘えるの苦手なの知ってるさ。甘やかそうとしたって、そやって、自制しちゃうからさ?だからこそ、たまの『お願い』が効くんだよ?物は使いようだから。」
「むぅ。」
「・・・ま、君の『お願い』は、全部他人の事、なんだけどね。」
「何か言った?」
「んーん。なんでもなーい。」
不貞腐れていたら最後の呟きが聞こえず、こーくんの顔を見直すけど、意味深な笑みを浮かべるだけで、教えてはくれなかった。
*
その後、私達はミッドランドへと戻り、1日休んだのち、近隣のA級クエストを手分けしてこなす事とした。
その合間に商業ギルドへも行き、ザンギレシピの販売料を貰ったり、ミルガの実を加工した味噌やジャーベ(山椒)を提案したりと、バタバタしていた。
商業ギルドの良心レインさんとだと、つつがなく打ち合わせが終わって気持ちが良い。
彼女が立上げたレシピ開発部門でも、色々と新しい料理が生まれているらしく、『薬膳料理』の店を商業ギルド直轄で運営することも視野に入れているみたいだ。
是非とも頑張って欲しい。
私とカン君はあまり余計なことは言わず、楽しそうにしているレインさんの語りを聞くに留めた。
そんなこんなで数日が過ぎ。
いつもの通り依頼を受けようと、カン君とこーくんと一緒に冒険者ギルドへ顔を出す。
私達の姿を見た、担当職員のエミリオさんが、ガタンと勢いよく椅子から立ち上がった。
「『旅馬車』の皆さん!お待ちしていました!」
エミリオさんは、そのまま私達を奥へと誘導する。
「ギルマスが、用事があるとの事で・・・執務室にご案内しますね。」
促されるまま執務室に入った私達は、ロイドさんから面倒臭い話を聞く事となった。
*****************
※ 年末バタバタ中でして、少し更新お休み致しますm(_ _)m
※ 次回から新章予定。あんまり、章の区分け意味をなしてませんけど・・・
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