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脅威との遭遇
214.討伐完了(第三者視点)
しおりを挟む目一杯の支援魔法を受け、崖の上へと駆けていくリンを見送ったベネリは、思わずカンの方を見た。
「・・・カン、今のって。」
「あ、みなさんにもかけときますか。リンさんが劣竜種撃ち落としたら、即バトルですからね。ーーー 【 再生回復 】【 保護 】【 魔盾 】【 攻撃倍加 】」
「だからっ、お前、その【 再生回復 】って!」
「え?一定時間、常に体力を回復し続ける魔法っスけど?」
「お前っちゅー奴ぁっ・・・っ!」
「へ?」
「・・・これだから、『黒持ち』は。」
声を荒げるベネリに、きょと、とカンは首を傾げる。
そして、はぁ、とイズマが呆れ混じりに溜息を吐きながら首を振る。
その様子に、コウが苦笑いしながら、補足説明を加えた。
「・・・カン、この世界には、その回復魔法の概念は無いから。秘匿ね。」
「・・・マジっスか。」
「ん。マジで。完全やらかし案件。流石にリジェネはレザ先生もやってない。」
「あは、は。・・・気をつけます。」
カンは、ポリポリと頬を掻く。
「まぁ、おかげで、戦い易くなったのは確かだ。あとは・・・リンが何をするか、だな。」
ファーマスが崖上を移動していくリンの姿を目で追う。
彼女は、片手に銃を持ち、劣竜種の位置を確認しながら、軽やかに駆けていく。
ある位置で止まると、銃を構えて劣竜種に照準を合わせている。
どうやら、背後から狙い撃つようだ。
「堕とせるのか?」
「うーん、何時もの威力だと届かないか、届いても堕とすまでの怪我はつけられないと思うんだけど・・・まぁ、俺だって劣竜種と戦うのは初だし、何とも。コウはどう?」
イズマが訝しげな顔をして、ベネリに話を振れば、ベネリも首を振る。
「うーん、何か秘策、あるんでしょうかね・・・ん、まさか、アレ。」
話を振られたコウは、リンの様子に目を眇める。
銃を構えるリンは集中し、魔力を銃に移しているようだ。
その銃口には光が集まっているように見える。
その光の集束が収まると、構えに力を入れ、引鉄を引いた。
何時もの銃声がなく、キュィン、と甲高い音を鳴らしその銃口から放たれたものは、土や氷、風や火等の属性魔法ではなく。
鮮やかな、一筋の閃光。
「なんだ、ありゃぁ。」
あまり動じないファーマスが、驚愕した声を出す。
銃口から伸びた赤黄色い光は、一直線に劣竜種へ向かい、その翼を撃ち抜いた。
「ビーム・ライフルってか?」
「ガン●ムみたいっスねー・・・」
思わず出たコウの呟きに、棒読みのカンの台詞が重なった。
「やっちまったなぁ・・・」
はぁ、とコウは頭を抱える。
もちろん、レーザー光線の概念はこの世界には無い。
劣竜種どころか、その先の雲まで切り裂いたあの光は何だと、大騒ぎになるのは確実だろう。
翼を撃ち抜かれた劣竜種は、飛翔を制御できず、暴れながら堕ちてくる。
「・・・何にしても、堕ちてきたら俺らの出番だ、いくぞ。」
ファーマスが大剣を構えると、全員が頷き武器を持つ。
凄まじいほどの悲鳴のような声を上げながら、劣竜種が堕ちてきた。
「ーーー 【 重力緊縛 】!!」
地面に届く前に、カンは拘束魔法を発動する。
拘束されてもなお暴れる劣竜種に、コウたちは切りかかっていく。
右翼に大穴が開いた劣竜種は、防御力も下がり、刃が通りやすくなった。
コウとイズマ、そしてファーマスがその巨体を素早く切りつけていき。
ベネリとリンは、集中できないように、主に顔面へ向け魔法を放っていく。
カンは拘束魔法をかけ続け、反撃を封じていた。
劣竜種前足の部位破壊が済むと、次第に暴れる威力も減り大人しくなる。
「トドメ、だな。」
見計らったファーマスの声に、コウとカンが反応した。
目を閉じ集中するコウの両手の双剣は、魔力が篭り、刃が震えだす。
カンは、魔力を練り上げるとコウへと支援魔法を飛ばした。
「ーーー【 攻撃倍加 】!」
それを受けたコウは、カッと目を見開くと、限界まで胸を張り大きく広げた両腕を、クロスするように勢いよく振り抜いた。
「ーーー 【 切り裂け 】!!」
両刃から放たれた風の刃が、劣竜種の首を刎ね上げた。
ズゥ・・・ン、と地響きを立てて崩れ落ちる劣竜種の躯と頭。
「終わった、か。」
時間にして約40分程度の劣竜種討伐は、『旅馬車』と『猟犬』の共闘体制により、無事にその任務を終了した。
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