転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
212 / 393
脅威との遭遇

209.討伐開始〜ひと狩り行こうぜ!

しおりを挟む



「・・・にしても、まぁ、人誑しは健在だなぁ。」

「ん?なんか言った?」


先行していた2人に追いつくと、溜息を吐きながらこーくんが何事かを呟いた。


「うんにゃ。何でもないよ?さて、と。そろそろ行こうか?」


こーくんが、ふい、と顔を向ける先には、目の前から獲物が消えて、怒っている劣竜種レッサードラゴン

ジェリさんたちが居た場所のすぐ近くに倒れていた盗っ人冒険者を、その前足で踏み付けていく。


「あー・・・アレ、ほっといていいの?」


劣竜種レッサードラゴンが進む先には、冒険者が3名。
なんだかんだで大騒ぎ中だ。


「僕としては、ほっといて良いと思ってるよ?依頼を受けた訳でもなく、勝手にココに来て。戦場を引っ掻き回したんだ。協力者である、『影猿シャドウモンキー』のメンバーも、危険にさらされたしね。助ける義理はない。」


こーくんは、バッサリと切り捨てる。


「それに、あの女性冒険者達は、ギルドでリンとカンに絡んでいた奴らでしょ?義理立てする必要ある?冒険者は、自己責任だ。こうなってるのも自業自得だよ。」


笑顔だけど、目が笑っていない。
淡々と告げるこーくんを見て、ふと昔を思い出した。



地元特産食材を使った加工品開発の仕事で、みんなで色々と頑張っていたのに、開発メンバーだった農家さんが、他町にリークして。
他町も、同じ食材が特産で、先にそっちで製品化したから、ウチのモノが出せなくなってしまった。

その後、ボツになった案を見直して。
地元の商業高校にも協力してもらって、別な加工品を作り上げた。
その加工品がSNS関係で盛り上がって。ふるさと納税が騒がれるようになった頃だったのもあって話題になり。商業高校にテレビや新聞の取材が入ったりする様になって、結構町が盛り上がるようになった。

その後、バツが悪そうにやってきた例の農家さんを、彼は笑顔でバッサリと切り捨てた。慈悲も何もなく。
無論、通常の農家への支援はする。役場だし、私念で動くわけにはいかないから。
でもそれ以外の点・・・プロジェクトだったり、イベントだったり。その参加や発言権を、とことん排除していった。

温和で柔和なイメージの彼の印象が、ガラリと変わるくらい。
・・・課長がビビってたもんなぁ。
アレから、『佐伯は絶対怒らせるな』ってお達しが出るくらいに。

あの時の目と一緒・・・というか、綺麗な顔立ちの所為で、昔よりも凄みが増している。



「こーくん・・・」

「ねぇ鈴。助けてどうするの?助けた所で、あんな輩はまた同じ事を繰り返すんだ。利用価値もない。」


感情を削ぎ落とした様な冷たい声で吐き捨てた言葉に、ふるふると、私は首を振る。


「・・・別に、助けたい訳じゃないよ。私だって、聖人君子じゃないし。ただ、目の前で喰われるのを観ているのが気分が悪いだけ。どうせ死ぬなら、私の見えないところで勝手にくたばってて欲しい。」


きょとん、とした顔で、私を見つめるこーくん。
思わず顔を伏せてしまった。


・・・そう、これは私の我儘。

既に死んでる者を見るのは仕方がないと思えるけど。
まだ生きている人間が、自分の目の前で死ぬのを見るのは、なんか・・・嫌だ。
どんなに腹が立った相手だったとしも、『くたばれ』と思っていたとしても、命が刈られるのを目の前で見て、『ざまぁみろ』と平然としていられる程、私は強くはない。

私は、人を殺す覚悟が、無いから。

命の価値が低く見えてしまうこの世界だけど。
だからと言って・・・


伏せていた顔を上げると、こーくんは困った様な顔をして私を見ている。

すると、隣で黙って話を聞いていたカン君が笑い出した。


「はは・・・分かりました。とりあえずお2人は、冒険者アレを気にせず、劣竜種レッサードラゴンを相手して下さい。普通に討伐クエストですよ?」


にま、と糸目をさらに細めて笑うカン君。


「・・・冒険者アレは、俺が相手しとくっス。後方支援として、2人の戦いに邪魔にならないようにしときますから、ね?行きましょ?」

「・・・何、するの?」

「え?別に・・・何もしねっスよ?ポーションくらい売りつけて、この場から立ち去って貰うくらいで。ですから、2人は思いっきり、劣竜種レッサードラゴン相手にして下さい。【 保護プロテクト 】【 魔盾シールド 】【 迅速ヘイスト 】【 攻撃倍加ダブルアタック 】っ!」

「ん。じゃ、リン行こう。」

「う、うん。」


誤魔化すように支援魔法をかけていくカン君の態度に、何処か釈然としない気持ちのまま、私は銃剣相棒を取り出して、土属性と氷属性の弾を込めた。

崖下を見ると、劣竜種レッサードラゴンが冒険者達に襲いかかろうとしていた。

銃剣相棒を構え、魔力を込めて、劣竜種レッサードラゴンの眼に狙いを定める。


「行けっ!」


ダァン!!




ーーー グギャァァァァァ!!




高速の石飛礫を片目に食らった劣竜種レッサードラゴンは、凄まじい咆哮を上げ首を持ち上げる。

その瞬間、銃声と共に崖下へ降りていたこーくんが、風魔法を纏い、右前足を切りつけていく。

痛みからなのか、劣竜種レッサードラゴンは、咆哮を上げながら暴れ始めた。


ーーー こうして、私達『旅馬車トラベリン・バス』と、劣竜種レッサードラゴンの戦いが始まった。



しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

処理中です...