転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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脅威との遭遇

208.作戦会議(第三者視点)

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「あ・・・」


目を開けたジェリは、目の前の黒髪の女性を認識する。


「嬢、ちゃんか?」


そこにいるのは紛れもなく、今朝挨拶したばかりの『旅馬車トラベリン・バス』のリン。

するとリンは、にこ、と微笑みをみせた。


「良かった。意識はありますね。」

「あ、あぁ、って、このカッコっ!?」

「もうちょっと移動しますんで、捕まって下さいね?」


そう言うと彼女は、身体を沈み込ませてジャンプした。

ジェリを横抱きーー即ちお姫様抱っこーーの状態で。


「どわぁぁっ?!」


急な浮遊感に身体が不安定になり、思わず彼女の首にしがみついた。

ふわりと香る甘い匂いと、腕に感じる温もりが、助かったことを実感させる。


『それよりも!』


確かに怪我して動けない身体ではあるが。
あの場から、緊急避難しなければならなかったのだが。


『だからって、横抱きはねぇだろ!俺、一応男なんだけど!』


恥ずかしさと、情けなさに身悶えしているのに、彼女は全くの涼しい顔で、軽々と自分を運んでいる。


『何だよ、このイケメンは。』


下手な男よりもカッコイイ。
舞台なんかであるらしい、男装の麗人ってこんなんか?
それでも、相手役は女性だろう。

自分は現在、ヒロイン立ち位置か?


『・・・情けねぇ』


しがみつきながら項垂れる。


「ジェリさん?」

「あ?」


思わず眉間に力が入り、顔を上げた。
そこには、柔らかな微笑みを向ける彼女が。


「すぐに、回復させますから。もうちょっと、頑張って下さいね?」

「ん・・・大丈夫、だから。」


ーー 俺は荷物。

抱き寄せられた身体から感じる甘い匂いの中、心の中でそう唱えながら、無心で運ばれた。





ジェリ達が落ちてきた最初の崖に、難なくとリンは駆け上がっていった。


「っと、着いたっ。」


とん、と軽い感じで着地した彼女は、そのまま少し進む。


「っ!ナルっ!」


見ると、ナルが地面に横たわっていた。
近くには、A級ライセンストップであるコウがいる。

ジェリを抱えたまま、リンはナルの近くまで歩み寄ると、そっとしゃがんでジェリを下ろした。


「カン君は?」

「今来る。」


険しい顔をしたコウが、ある一点を見
やると、ガサ、と音を立てて、デカイ黒鎧が現れる。


「あ、大丈夫そっスね?んじゃ、【 完全回復パーフェクトヒール 】っと。」

「こーさん、劣竜種レッサードラゴンの特性とか、戦い方のセオリーはある?」

「カンの実況から、風特化っぽい個体なんだよな。攻撃は、咆哮によるスタン、遠隔攻撃にもなる風の咆哮、近接は噛みつき、尻尾による打撃やなぎ払い、突進。あとは飛ばれると厄介。さっきまで飛ぶ様子はなかったけど・・・」

「ポーション、食べた件?」

「それな。怪我が理由で飛べなかったんなら、傷が癒えて、飛べると考えた方がいいと思う。飛ばれると向こうの風の咆哮は届くのに、こちらの魔法の射程範囲を超えてしまい届かない、ってこともある。なるべく地上で戦いたいな。」

「攻撃するならドコ?」

「翼と前足かな?カンの 【 重力緊縛グラビドバイン 】が使えたらいい。」

「叩き落として、地面に固定し、タコ殴りって事だね。了解。」

「ざっくりすぎんだろ!」



突如現れたカンが、アッサリとジェリとナルを回復している最中、これまたアッサリと戦闘打ち合わせを行うコウとリン。
しかも出した結論がアバウトすぎて、ジェリは思わず突っ込みを入れてしまった。


「あ、元気になりましたね?」


そう言って、ツッコミはスルーし笑顔を向けてくるリン。


「そうそう。深く考えたら負けっスよ?はい、魔力回復ポーションどぞ。あと、体力回復も置いときますねー。」


ヤンキー座りでジェリとナルを回復したカンが、2人分のポーションを渡す。


「ジェリさん、でしたか。貴方はもう動いても大丈夫です。ナルさんの方は、打撃余波の衝撃で脳震盪起こしてましたけど、悪影響はないです。担いで運んでも問題ないっスね。まぁ、もうちょいしたら目覚めると思いますよ?したら、村に戻ってくださいね?」

「あ・・・悪りぃ。つか、料金は?」

「イラネっスよ?魔獣暴走スタンピートの時の恩もありますし、何せ、劣竜種あいつをここに留め置いてくれた訳ですからね。」


チームは助け合いでしょ?と、ニカ、と人なつこい笑みを見せたカンに、ジェリは目を見開く。



ーーー どこまで、お人好しなんだよ、コイツら。


「とりあえず、早急にココを離れて貰えると助かります。戦闘で何処まで被害が出るか分かりませんから。ーーー リン、カン。そろそろ行こか?」

「はいっス。」

「おっけー。」


コウの言葉にそれぞれが立ち上がり、戦場に向かう。


「おい・・・。」


ジェリは思わず手を伸ばすが、そのまま掌を握りしめる。
世話になりっぱなしで、自分がかけられる言葉なんてなくて。


すると、リンが歩みを止め、ジェリの方を振り返った。


「どうしました?」

「え、あ・・・ナルを助けてくれて、ありがとう。俺が言っても、何にもならんけど・・・気をつけて。」


しどろもどろなジェリの様子に、リンは、ふ、と微笑んだ。


「ご心配ありがとうございます。・・・タカさんと同じで、優しいですね。」

「なっ・・・」


思わぬ事を言われて、顔に熱がこもる。


「タカさんも、お2人の事を心配してましたよ?・・・じゃ、ジェリさん。ナルさんを頼みます。タカさんが、村で待ってますから、早く行ってあげて下さいね?」


そう言って、ふわりと笑うリンの姿は、木漏れ日の中で輝いて見えた。

そのまま駆けていく後ろ姿を見送りながら、ジェリはため息をつく。


「『戦乙女ヴァルキリー』・・・か。」


自分が関わった魔獣暴走スタンピートの後に、色々とあったことは、友人ベネリから聞いてはいた。
戦乙女ヴァルキリー』だと、執着されたという話も。


『ただの優しいお人好しなんだよ。あのはさ。余計な事に首突っ込んで、何もかもを抱え込もうとしてるみたいで・・・』


心配なんだ。と呟いた友人の目が、切なそうに揺れたのを思い出す。

礼儀正しくて、お人好しで、強さも兼ね備えて、見返りなく人を助けてしまう。

高潔であるが故に、『戦乙女ヴァルキリー』に祭り上げられる。
その事を心配していた。

そんな聖人君子なんて居るのかよ、と話半分に聞いていたけれど。


『ありゃ、ヤバイなぁ。』


この国、いやこの世界の人間なら知っているだろう『黒髪の女神』の昔話。
それになぞらえたくなる気持ちが、分かった気がする。

柔らかくて、暖かくて、陽だまりに居るような良い匂いがして。
守られているような、赦されているような、そんな気持ちになってしまう。

そこまで思い、ふるふると頭を振る。


『何でもいいや。恩に報いられれば。』


旦那ファーマスと同じで、彼女リンのことも。そしてそれを支えるコウとカンにも。

必要とあらば何でもする。

決意を新たに、ジェリは立ち上がる。

先ずは早急に、ここを立ち去ること。
戦いを見てみたい気はしている。
でも、足手まといにならないよう、彼らが全力で戦える場を整えるのが、自分の今の仕事だ。

身体強化をかけて、ナルを担ぎ、ジェリは村に向かって走り出した。





*********

※ 何だか、ジェリが匂いフェチみたいにw 魔力のダダ漏れによる気持ち良さを「良い匂い」と表現しているみたいです。

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