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脅威との遭遇
208.作戦会議(第三者視点)
しおりを挟む「あ・・・」
目を開けたジェリは、目の前の黒髪の女性を認識する。
「嬢、ちゃんか?」
そこにいるのは紛れもなく、今朝挨拶したばかりの『旅馬車』のリン。
するとリンは、にこ、と微笑みをみせた。
「良かった。意識はありますね。」
「あ、あぁ、って、このカッコっ!?」
「もうちょっと移動しますんで、捕まって下さいね?」
そう言うと彼女は、身体を沈み込ませてジャンプした。
ジェリを横抱きーー即ちお姫様抱っこーーの状態で。
「どわぁぁっ?!」
急な浮遊感に身体が不安定になり、思わず彼女の首にしがみついた。
ふわりと香る甘い匂いと、腕に感じる温もりが、助かったことを実感させる。
『それよりも!』
確かに怪我して動けない身体ではあるが。
あの場から、緊急避難しなければならなかったのだが。
『だからって、横抱きはねぇだろ!俺、一応男なんだけど!』
恥ずかしさと、情けなさに身悶えしているのに、彼女は全くの涼しい顔で、軽々と自分を運んでいる。
『何だよ、このイケメンは。』
下手な男よりもカッコイイ。
舞台なんかであるらしい、男装の麗人ってこんなんか?
それでも、相手役は女性だろう。
自分は現在、ヒロイン立ち位置か?
『・・・情けねぇ』
しがみつきながら項垂れる。
「ジェリさん?」
「あ?」
思わず眉間に力が入り、顔を上げた。
そこには、柔らかな微笑みを向ける彼女が。
「すぐに、回復させますから。もうちょっと、頑張って下さいね?」
「ん・・・大丈夫、だから。」
ーー 俺は荷物。
抱き寄せられた身体から感じる甘い匂いの中、心の中でそう唱えながら、無心で運ばれた。
*
ジェリ達が落ちてきた最初の崖に、難なくとリンは駆け上がっていった。
「っと、着いたっ。」
とん、と軽い感じで着地した彼女は、そのまま少し進む。
「っ!ナルっ!」
見ると、ナルが地面に横たわっていた。
近くには、A級ライセンストップであるコウがいる。
ジェリを抱えたまま、リンはナルの近くまで歩み寄ると、そっとしゃがんでジェリを下ろした。
「カン君は?」
「今来る。」
険しい顔をしたコウが、ある一点を見
やると、ガサ、と音を立てて、デカイ黒鎧が現れる。
「あ、大丈夫そっスね?んじゃ、【 完全回復 】っと。」
「こーさん、劣竜種の特性とか、戦い方のセオリーはある?」
「カンの実況から、風特化っぽい個体なんだよな。攻撃は、咆哮によるスタン、遠隔攻撃にもなる風の咆哮、近接は噛みつき、尻尾による打撃やなぎ払い、突進。あとは飛ばれると厄介。さっきまで飛ぶ様子はなかったけど・・・」
「ポーション、食べた件?」
「それな。怪我が理由で飛べなかったんなら、傷が癒えて、飛べると考えた方がいいと思う。飛ばれると向こうの風の咆哮は届くのに、こちらの魔法の射程範囲を超えてしまい届かない、ってこともある。なるべく地上で戦いたいな。」
「攻撃するならドコ?」
「翼と前足かな?カンの 【 重力緊縛 】が使えたらいい。」
「叩き落として、地面に固定し、タコ殴りって事だね。了解。」
「ざっくりすぎんだろ!」
突如現れたカンが、アッサリとジェリとナルを回復している最中、これまたアッサリと戦闘打ち合わせを行うコウとリン。
しかも出した結論がアバウトすぎて、ジェリは思わず突っ込みを入れてしまった。
「あ、元気になりましたね?」
そう言って、ツッコミはスルーし笑顔を向けてくるリン。
「そうそう。深く考えたら負けっスよ?はい、魔力回復ポーションどぞ。あと、体力回復も置いときますねー。」
ヤンキー座りでジェリとナルを回復したカンが、2人分のポーションを渡す。
「ジェリさん、でしたか。貴方はもう動いても大丈夫です。ナルさんの方は、打撃余波の衝撃で脳震盪起こしてましたけど、悪影響はないです。担いで運んでも問題ないっスね。まぁ、もうちょいしたら目覚めると思いますよ?したら、村に戻ってくださいね?」
「あ・・・悪りぃ。つか、料金は?」
「イラネっスよ?魔獣暴走の時の恩もありますし、何せ、劣竜種をここに留め置いてくれた訳ですからね。」
チームは助け合いでしょ?と、ニカ、と人なつこい笑みを見せたカンに、ジェリは目を見開く。
ーーー どこまで、お人好しなんだよ、コイツら。
「とりあえず、早急にココを離れて貰えると助かります。戦闘で何処まで被害が出るか分かりませんから。ーーー リン、カン。そろそろ行こか?」
「はいっス。」
「おっけー。」
コウの言葉にそれぞれが立ち上がり、戦場に向かう。
「おい・・・。」
ジェリは思わず手を伸ばすが、そのまま掌を握りしめる。
世話になりっぱなしで、自分がかけられる言葉なんてなくて。
すると、リンが歩みを止め、ジェリの方を振り返った。
「どうしました?」
「え、あ・・・ナルを助けてくれて、ありがとう。俺が言っても、何にもならんけど・・・気をつけて。」
しどろもどろなジェリの様子に、リンは、ふ、と微笑んだ。
「ご心配ありがとうございます。・・・タカさんと同じで、優しいですね。」
「なっ・・・」
思わぬ事を言われて、顔に熱がこもる。
「タカさんも、お2人の事を心配してましたよ?・・・じゃ、ジェリさん。ナルさんを頼みます。タカさんが、村で待ってますから、早く行ってあげて下さいね?」
そう言って、ふわりと笑うリンの姿は、木漏れ日の中で輝いて見えた。
そのまま駆けていく後ろ姿を見送りながら、ジェリはため息をつく。
「『戦乙女』・・・か。」
自分が関わった魔獣暴走の後に、色々とあったことは、友人から聞いてはいた。
『戦乙女』だと、執着されたという話も。
『ただの優しいお人好しなんだよ。あの娘はさ。余計な事に首突っ込んで、何もかもを抱え込もうとしてるみたいで・・・』
心配なんだ。と呟いた友人の目が、切なそうに揺れたのを思い出す。
礼儀正しくて、お人好しで、強さも兼ね備えて、見返りなく人を助けてしまう。
高潔であるが故に、『戦乙女』に祭り上げられる。
その事を心配していた。
そんな聖人君子なんて居るのかよ、と話半分に聞いていたけれど。
『ありゃ、ヤバイなぁ。』
この国、いやこの世界の人間なら知っているだろう『黒髪の女神』の昔話。
それになぞらえたくなる気持ちが、分かった気がする。
柔らかくて、暖かくて、陽だまりに居るような良い匂いがして。
守られているような、赦されているような、そんな気持ちになってしまう。
そこまで思い、ふるふると頭を振る。
『何でもいいや。恩に報いられれば。』
旦那と同じで、彼女のことも。そしてそれを支えるコウとカンにも。
必要とあらば何でもする。
決意を新たに、ジェリは立ち上がる。
先ずは早急に、ここを立ち去ること。
戦いを見てみたい気はしている。
でも、足手まといにならないよう、彼らが全力で戦える場を整えるのが、自分の今の仕事だ。
身体強化をかけて、ナルを担ぎ、ジェリは村に向かって走り出した。
*********
※ 何だか、ジェリが匂いフェチみたいにw 魔力のダダ漏れによる気持ち良さを「良い匂い」と表現しているみたいです。
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