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脅威との遭遇
205.救援要請(+第三者視点)
しおりを挟む『いたい・・・』
ジェリにかけてもらった【 速度上昇 】の効果もすでに切れている。
木々の間を縫うように走るが、最短ルートを通ろうとするため、小枝や蔦葉にその身体を擦られる。
擦り傷まみれの身体を必死に動かして、タカは急いだ。
『旅馬車』が何処に居るのかわからない。
それでも、己の直感を頼りに移動する。
心臓が苦しい。
スラムに居た頃からずっと一緒のナルとジェリから離れるなんて思っても見なかった。
2人が盾になり、自分が逃がされる事が、こんなに痛いなんて、知らなかった。
身体の痛みなんかより、胸が痛い、苦しい。
『ドコにいる?』
ジェリが言った『旅馬車』を探してひた走る。
助けて。
大切な義兄弟達を、助けて。
その思いで、一心に。
***
森を進んでいくにつれ、強い圧力を感じるようになってくる。
初めてビガディールと対峙した時のような恐怖感。
「ん?誰かこっちに来る!」
索敵の空白地帯から、青丸が飛び出して、こちらに向かってくるのが見えた。
「どっちだ!?何人!?」
「11時の方向!対象1名!『影猿』の誰かかも知れない!」
行き違いにならないように、私達は向かってくる方向へと足を向ける。
「アル!見えるか!?・・・ん、背が高めの青髪の人、『影猿』のタカさん、かな?!あと30メーター!来ます!」
カン君が、詳細報告をくれる
間髪を入れず、木々の間から何かが飛び出してきた。
そして、転がるように私達の前に倒れ込んだ。
「大丈夫ですかっ!?」
背が高い割に華奢な身体を助け起こす。
途端に、ガシっと肩を掴まれた。
「・・・・・け、て・・・」
「え?」
俯いたまま、肩で息をして呟いた彼の声を聞き逃す。
すると彼はガバッと顔を上げた。
見開かれた薄い青色の目が、潤んでいる。
「たす、けてっ。ナルと、ジェリ、がっ、囮に、なってっ!」
「タカさん、落ちついて。対峙した魔獣は何ですか?」
「『劣竜種』だって、ジェリ、がっ」
「『劣竜種』!?何でこんな所に!?」
思わずこーくんが上げた鋭い声に、彼は一瞬身を縮こまらせる。
そして、ふるふると首を横に振った。
「わから、ない。『旅馬車』、を呼ん、で、こいっ、て、ジェリ、が。こっ、から、約600メーター、先、に巣みたいなトコ。」
そこまで言うと、彼の目からポロポロと涙が溢れ落ちた。
「助け、て。オレ、じゃ、あのバケモノ、に勝てない、からって、助け、呼んで、こい、って。ナル、と、ジェリ、で、あそこに、はり、つかせ、るっ、て。あと、いちゃ、いけない、冒険者、が、いた。『獅子の牙』、と、『水の女神』、だ、った。瓦解、して、た。」
「馬鹿が・・・」
こーくんの冷たい声が、響く。
脅威となる魔獣の存在で気が立っている所に、居てはいけない人間に憤るのはわかるけど。
威圧を、弱ってる彼に向けるのは違う。
「・・・タカさん、わかりました。私達はこれからジェリさん達のもとに向かいます。タカさんは、このまま村に戻って出張所に報告をお願いします。・・・カン君、回復お願い。」
「了解っス。【 完全回復 】!」
「っ!?」
「あと、コレ、魔力回復ポーションっス。体力は全快できるんスけど、魔力回復が無理なんで。飲んで自身の身体強化もして下さいね?」
ふわり、と優しい魔力が流れていく。
ペタペタと自分の身体に触れながら、目を白黒させているタカさんに、カン君は 水薬 を渡す。
「あ・・・ありが、と。」
そう言いながら、タカさんはぐ、と拳を握り、顔を上げる。
「あ、の。オレ、も・・・」
「戻りたい、と言うなら駄目だ。貴方に出張所に戻って貰わないと、誰も正しい情報が掴めなくなる。」
こーくんは、タカさんの言葉を遮る。
2人のことを心配する彼には酷だけれども、仕方がないことだろう。
私は、俯いた彼にそっと近寄って、声をかける。
「タカさん。」
ゆるゆると顔を上げた彼は、やはり涙目で。
安心させたくて、私は微笑んでみせた。
「・・・大丈夫です。私達がお2人を連れて帰ってきますから。ギルドへの連絡は、現場を見てきたタカさんにしか頼めません。お願いしますね?」
私の顔を見た彼は、涙目を見開き、少し固まったあと、コクリ、と頷いた。
「じゃぁ、行きましょか。【 保護 】【 魔盾 】【 迅速 】【 攻撃倍加 】!!」
カン君は、早口言葉のようにタカさんを含めた4人全員に付与魔法をかけた。
「じゃ、行こう!」
こーくんとカン君が駆け出していく。
私も出ようとしたら、タカさんが私の右袖を掴んだ。
「どうしました?」
「あ・・・ジェリ、とナルを、おねがい。あと、気をつけ、て。」
精一杯の言葉を紡ぐ彼が、震えながら掴む手をそっと握り返す。
「はい。ありがとうございます。絶対、連れて帰りますからね。」
「ん、おね、がいし、ます。」
ペコリと頭を下げて手を離した彼をそのままに、私はこーくん達の後を追った。
***
去っていく気配を感じ、タカは頭を上げる。
そして、先程握られた手を、じっと見つめた。
『あったかかった・・・』
胸の辺りがポカポカと暖かい。
自分の焦りも、不安も、憤りも、全て受け止めてくれたような気がして。
微笑む彼女の、黒曜石のような艶かな黒い瞳を見ていたら、きっと大丈夫、とそう思えた。
『・・・すごいなぁ。』
不安を取り除いてくれた彼女も。
自分の怪我も体力も、一瞬にして治してくれた、黒髪の彼も。
感情に任せて動こうとした自分を、即座に諫めた冒険者頂点のコウも。
格が違う、ってジェリが言っていたことが分かった気がした。
ジェリの言うこと、ナルの言うことは、いつも、そんなもんなんだ、と思って聞いていたけれど。
自分で触れて、ホントにそう思った。
『いかなきゃ・・・』
うまく喋れない自分は、いつも、他の冒険者に馬鹿にされ、蔑まれて、疎まれてきた。
ジェリとナルの側だけが、自分の居場所だった。
でも、彼らは、こんな自分にも役割を与えてくれて。
なおかつ、大切な義兄弟達を、助けてくれると約束してくれた。
彼らは、きっと、ジェリとナルを助けてくれる。
だから自分は、言われた通りに、ギルドの出張所へ向かう。
黒髪の彼から貰った魔力回復ポーションの栓を開け、一気に飲み干す。
飲み終わったと同時に、驚く程身体中に魔力が漲る感じがする。
何よりも速く、走れる気がする。
逃げるためじゃなく、守るために。
彼らとの約束を果たすために。
ーーー2人が、戻ったら、今の話を沢山聞いてもらうんだ。
きっと2人は、『すげぇな、よかったな』って、笑ってくれるから。
タカは、ぐ、と掌を握ると、ルイジアンナの村に向けて走り出した。
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