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脅威との遭遇
204.命を守る戦い(+第三者視点)
しおりを挟む怪物の咆哮に、一瞬萎縮し動けなくなる。
その瞬間、怪物から風の塊が向けられた。
「なっ!」
「ジェリっ危ない!ぐぅっ!!」
怯んでいたジェリの前に、ナルが立ちはだかり、盾を構え、突風に立ち向かう。
力を逃し、凪ぐことの上手いナルが、直撃に耐えるしかガードを使えない。
『ヤベェっ!かなりヤベェよ!!』
恐怖に心が支配されそうになる。
絶対敵わない、余りにも大きな力の差。
『くそっ!怯むな!オレが今やらなきゃならない事はなんだよ!』
ジェリは腰ホルダーに準備した信号弾に魔力を込め、即座に上に放り投げた。
ーーードォン
木々の上で、赤い粉が舞い散る。
これで、お役ゴメンだ。
でも。
嫌な予感がする。
「ナルっ!逃げるぞ!!」
ジェリは叫ぶ。
しかし、ナルは動かない。
「ナル!!」
「2人とも、行け!!アイツの意識はこちらに向いてる!俺が動いたら全員助からん!逃げろ!!」
「ナァ・・・」
「行けぇっっ!!!」
その間にも、突風が襲いかかる。
タカは、いつもと違う剣幕のナルに動揺して、オロオロしている。
「おいて、行けっかよっ!」
ジェリは必死に考える。
この局面を耐えうる方法を。
「【 物理攻撃防御 】!【 速度上昇 】!」
「ジェリ?!早くっ逃げろっ!」
「・・・タカ、気配遮断を使って、此処から離脱しろ!」
「ジェリ?」
「ジェリっ何言ってる!お前も逃げろ!」
付与魔法をばら撒きながら、ジェリはタカに指示を飛ばす。
困惑するタカに、ナルはジェリにも逃げるよう再度叫ぶ。
「っるっせぇ!!これが、助かる可能性が上がる方法なんだよ!【 速度上昇 】!タカ!速攻で『旅馬車』呼んでこい!あの怪物は多分『劣竜種』だ!」
「ジェリ、オレ、もたたかうっ!」
「馬鹿野郎!お前が戦った所で致命傷は与えられねぇ!アレはクラスA以上の魔獣だ!俺はナルを支援して、アレをこの場に張り付かせて持ち堪える!あのバケモンに一番気付かれずに助けを呼びに行けんのは、お前だけだ!行けぇ!!」
「ジェリっ、ナルぅっ!」
「「早く、行けぇっ!!」」
2人の怒号に弾かれるようにして、唇を噛み締めたタカは、戦場に背を向けて駆け出した。
***
大気を揺るがす咆哮に、リン達は脚を止める。
「今のは!?」
「あの咆哮・・・竜種系か?何でだ?この界隈は生息地帯じゃないぞ!?」
この界隈では滅多に聞かれない咆哮に、コウの顔付きが厳しくなる。
見上げると11時の方向に、赤色の狼煙が上がっている。
目視1キロメーター先ぐらいだろうか?
でも、空白になった感じで、索敵が映らない。
「あの距離・・・『影猿』か。よし、行こう。」
「ねぇ、あの距離なのに、索敵が効かない。何で?」
「アルの索敵でも、見えねっス。ジャミングがかかってる感じっスね。急ぎましょう。・・・【 保護 】【 魔盾 】【 迅速 】!」
矢継ぎ早に繰り出されるカンの付与魔法。
軽くなった身体を駆って、リン達は前線へ急いだ。
***
「ナル!よけろっ!!」
「くっ・・・うわっ!」
これまでの攻撃よりも強い物が来そうな予感がして、ジェリは背後からナルに飛びつき、横に飛び退けた。
ドガァン!!
木々や地面が抉れる程の風の塊が、2人が居た所にぶつかり、破片を飛び散らす。
その余波で飛び退いた2人の身体は、そのまま飛ばされ、劣竜種の巣のようになっていた森林地帯の広間に落ちていった。
空中で体勢を立て直し、ナルはジェリを背に負ったまま、足から着地する。
剣は取らず、盾だけを構え、敵を見据えた。
「【 物理攻撃防御 】【 速度上昇 】」
1つ覚えのように、ジェリが支援魔法を唱える。
自分の巣に入った事で、いつでも始末できると踏んでいるのか、劣竜種は攻撃を仕掛けてこない。
「・・・アイツ、怪我してんのか?」
ナルの肩越しに、劣竜種を覗き見たジェリは、呟く。
どうも、翼と後脚に傷を負っているようだ。今新しく付いたモノではない。
痂皮化したような、赤黒い皮膚が見える。
そもそも劣竜種は、ミッドランド付近のモースバーグ国西部には出現しない。
東側の隣国であるブルノ国との間にある山脈地帯に生息している筈である。
ジェリも、図鑑でしか見たことがない魔獣だ。
『怪我して、流れ着いたか?でも、こんな奴がここに移動してたら、道中大騒ぎじゃ?』
ジリ・・・と、ナルが盾を構え直す後ろで必死に考える。
すると、背後から何か聞こえてきた。
「おいっ!お前らっ!助けに来たんだろっ!!早くポーションを寄越せよっ!」
「ありがとぉっ、コイツら使えなくて、パーティーが崩れて困ってたのよぉっ!早く助けてっ!」
「何だとっ!」
「何よっ、装備だけ一丁前で、強くもない癖に!!所詮Cよねっ!」
生き残っていたらしい連中が背後に居たのだろう。何事かを喚いている。
・・・馬鹿か、コイツら。
「・・・ふざけんなっ!何でお前らなんかを助けんきゃならん。」
「「「なっ」」」
「この場所は、ギルマスからの指名依頼の範囲だ。何も知らん村人なら分かるが、冒険者はここいら界隈立ち入り禁止と指示があった筈だ。それを無視した奴らなんかを助ける筋合いはねぇっ!」
ジェリは、劣竜種から目を離さず、自分勝手な連中に言葉を投げつけた。
「ジェリ、くるぞ!」
「おぅ!」
ナルの短い促しに、ジェリは素早くナルの背後に身を潜める。
ゴゥッ、という音と共に突風が吹き荒れる。
瞬時に盾に、超重量級の衝撃が走る。
「ぐぅっ?!」
「一発でキレんのかよ!【 物理攻撃防御 】【 速度上昇 】!」
ジェリの支援魔法では、幾らかのダメージ遮断に止まるだけ。かけてもかけても、怪物との力量差で、その効果は解け、ナルへのダメージは蓄積されてしまう。
肩で息をしているナルの体力は、かなりヤバイ。
三発防御しただけで、この状態か。
「ナル、ポーションっ!」
「あぁ。」
腰ホルダーに差していた体力回復ポーションの蓋を開け、ナルに差し出す。
ナルは怪物から目を離さず、飲み干した瓶を投げ捨て、盾を構え直した。
「おいっ!お前ら分かってんだろうな!?戻ったら、お前ら如きっ」
「生きて戻れりゃ、いいなぁ?!」
先程の怪物の突風は、ナルの盾で少し弱まったため、後ろにいた馬鹿共は飛ばされてくれなかったらしい。
あんな怪物を前に、自分達の仲間も何人かヤられ、まだ生きて帰れると思っているおめでたい連中。
ジェリは苛立ちをぶつけた。
「オレらの請け負った仕事は探索だ。なのに、どっかの馬鹿が起こしてしまったバケモンの為に、クラスAパーティーが来るまで、コイツをここに留め置くことが、現在のオレらの仕事だ!その為に必要な物品類を、何でお前らみたいな馬鹿共にやらんきゃならん!」
「ジェリ!」
「どぅわっ!!【 物理攻撃防御 】【 速度上昇 】!」
そうは言っても、ナルがジリジリと馬鹿共から離れて行くのがわかる。
タゲ取りをして、怪物の気を引き、馬鹿共から引き離そうとしている。
コイツは優しいから。
逃げたきゃ、逃げろ。
それ以上知らん。
オレ達は、タカが『旅馬車』を連れてくるのを信じて耐えるだけだ。
ぎり、と唇を噛み締めて、ジェリはナルの後ろに控えた。
***************
※ 主人公たちの出現、もう少しお待ちください。
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