転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
206 / 393
脅威との遭遇

203.探索本題(+第三者視点)

しおりを挟む
※ 話数修正しています。


*****



ひとしきり鑑定結果を確認し。
私達は鑑定さんの暴走具合に頭を抱えた。

とりあえず、こーくんの補足説明は見なかった事にする。
後でカン君からでも突っ込まれない限りは触れないでおこう。

他人から見られるものは、その都度こーくんに確認してもらう。
私の職業『銃剣闘士』は表示変更しようもない為、とりあえずこのまま。
故郷にある特殊職と誤魔化していくことに。
まぁ、カン君の『魔導師』もヤバいみたいだけども。ベネリさんのような魔法使いは『魔術師』表記らしいし。
・・・字面から導いちゃってるよねぇ。格上感満載。


「トランシーバーを作れそう発言は、魔工技師の職業スキルの所為、って事でいいのかな。」

「・・・じゃ、ないっスかね。多分腕輪改造したりなんだりで、生えたんだろうなぁ。」

「ま、実際に作ったりするのは、探索終わってからにしよう。今はまず、探索が第一だ。」

「ん。そだね。じゃ、奥に進もうか。」


こーくんの声かけに軽く頷き、私達は気持ちを切り替えて、森奥へ向かった。



***


旅馬車トラベリン・バス』達とは逆側を探索中の『猟犬グレイハウンド』。

ファーマスは、この森林地帯の不穏さに眉を顰める。

イグバイパーの縄張り範囲は広い。
リン達の昇格試験で、そんなに広い範囲を索敵はしていないだろう。
なのに、11体のイグバイパーを退治している。縄張り抜きに狭い範囲に密集していたイグバイパークラスA魔獣。ロイドが不審に思って当たり前だ。

森林地帯に入った当初、雑魚から、イグバイパーに至るまで、色々な魔獣が居た。
奥に進むにつれ、数が減りはじめ。
予定の半分ほど進んだ所で、魔獣の出現が無くなった。


「・・・ファーマスさん、静かすぎませんか?」

「ん。この界隈の生き物の気配がない。」

同じことを考えていたのだろう。
ベネリとイズマが口を開いた。


「あぁ・・・只事じゃなさそうだ。このまま奥に進むが、信号弾に注意しておけ。クラスBの連中には、荷が重いかもしれん。」

「「分かりました。」」


ファーマスの言葉に、引き締まった顔を見せる2人。
一抹の不安を抱えながら、彼等は森の奥へと進んでいく。


その時。



『ギギャャャアアアアァァーーーー!!』



森の奥から、大気を揺るがす様な凄まじい咆哮が響き。
進行方向より2時の方角に信号弾があがった。


「あの距離っ・・・『影猿シャドウモンキー』かっ!?」

「ジェリっ?!・・・ファーマスさん!」

「あぁっ!すぐに救援に向かう!」


影猿シャドウモンキー』側に近いのは、リン達『旅馬車トラベリン・バス』。
コウが一緒の今、よっぽどのことがない限り、魔獣相手の戦闘バトルに遅れをとることはないだろう。

それでも、絶対はない。


ーーー嫌な予感は、よく当たる。


舌打ちと共に、ファーマス達は信号弾が上がった方に駆け出していった。



***



信号弾が上がる、ちょっと前。


クラスBパーティー、それぞれに森の異変を感じていた。

クラスBとはいえ、索敵に長けた彼らだからこそ感じる、不気味な程、静かすぎる状態。
気味の悪さを感じながら、それぞれに分担し四方八方に注意を張り巡らせていた。


中でも、『影猿シャドウモンキー』の進行速度は群を抜いていた。

彼等の出自はスラムの孤児。
生き抜く為にスリや万引き色々やってきた。
捕まらない為に鍛えた逃げ足は、身体強化も相まって、衛兵如きには捕まらなかった。

ところがある日、1人の冒険者に捕まる。衛兵や騎士なんかよりガタイの良い、赤茶髪の偉丈夫。
彼の背負う黒の大剣を盗もうとして、失敗した。
殺されても文句の言えない状況だったのに、その男は彼等を1発ずつ殴ると、「こんな所で腐ってんじゃねぇ。どうせなら、その脚と気配察知を活かして、情報を取ってこい。俺が買ってやる。」と言い放った。

それから、彼等は街の噂話や、冒険者や衛兵、騎士達が話す情報を集め始める。
逐一偉丈夫に報告すれば、良い情報、要らない情報、一見無駄に見えて大事な情報、見分け方を教えてくれた。
どんどんと精度が上がり、色々な所から頼られるようになった。
ある時、魔獣の情報を拾い、偉丈夫に伝えた所、魔獣暴走スタンピートの予兆だと、険しい顔で冒険者ギルドに連れて行かれた。

彼等は自分達が拾ってきた情報で、討伐隊が組まれるのを目の当たりにした。
魔獣暴走スタンピートが大きくなる前に制圧できたと、喜ばれた。

その時から、彼等の生き方が変わった。

探索と警戒に長けたジェリは、盗賊シーフ付与術師エンチャンターの職を。
攻撃力強いのに、臆病で逃げ足の速いタカは、暗殺者アサシンの職を。
2人を大事に思い、守りを固めるナルは、守護戦士ガーディアンの職を。
後天的に手に入れる事が出来た。

身体強化の逃げ足はそのままに。

そして冒険者になった。
人気の無い、探索や採取をメインとする冒険者に。
雑用パーティーと揶揄されようが、自分達の価値を分かって、必要としてくれる人がいる。
それがどんなに、心強いか。


「・・・ファーマスの旦那に、恩返ししないと、な。」


ジェリはポツリと呟く、

『ンなの、必要ねぇ。』

って、笑いながら、あの人は言うんだろう。
でも、自分達の生き方を変えてくれたのは彼だから。一生かかっても、払いきれない恩義だ。

それに。

彼が育てた連中も気が良くて。
ベネリやイズマは歳も近く、自分達の出自を知っても、他の冒険者の様に蔑む事なく接してくれた。
大事な仕事も相談してくれ、任せてくれた。
ケルベロス駄犬』が引き起こした魔獣暴走スタンピートの時も、命を預ける様な真似をしてくれた。

そして、先程挨拶を交わしたリン。
最速でA級になり、明らかに自分達より格が上。
それなのに、自分達を冒険者の先輩だと言い、敬ってくれた。

アイツらに、自分達の情報が活かされるのら、下っ端業も楽しめる。

ーーー頼られたら、全力で応えるしか無いじゃないか。

ふと、口元が緩んだ。


「ジェリ、楽しそうだね?どうかした?」


横で並走していたナルに、声をかけられる。


「・・・なんでもねーよっ。それより、オレらが一番乗りすっぞっ!」


緩んだ口元を誤魔化す様に、鼓舞する様な声を上げた。


「わかったよー」

「ん。」


気の抜けたようなナルの返事と、聞こえるか聞こえないか頷くだけのタカの返事。
いつも通りの『影猿シャドウモンキー』の様子だったが。



『・・・なんだっ!?』


3人揃って足が止まる。
凄まじい程の圧力プレッシャー
本能が、近寄ってはいけないと告げる。

それでも。

気持ちを振るい立たせ、ジェリは一歩踏み出した。

木々の中に開けた場所がある様子で。
やっとの思いで辿り着き、木の陰から広場を望む。


「・・・なんだよ、あれ。」


眼下に広がる光景に、思わず呟く。


怪物と対峙する、見覚えのある冒険者達。
幾人かは血塗れで倒れ。
意識のある者も、戦意を喪失している。

あの場にいる冒険者達は、いつも自分達を馬鹿にしていた『獅子の牙レオ・ファング』と『水の女神アクア・ヴィヌス』の連中。


「・・・何して、やがる。」


歯軋りをして呟いたジェリに、怪物の目が向いた。
その刹那、


『ギギャャャアアアアァァーーーー!!』


その場にいる何もかもを蹂躙するような、凄まじい咆哮が放たれた。


しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...