上 下
205 / 393
脅威との遭遇

202.探索開始だけど

しおりを挟む


今回の指名依頼を受けた全員が出張所に揃ったところで、ザイルさんから説明がある。

イグバイパーの異常発生が、別な脅威の出現により引き起こされた可能性。
調査範囲は、ルイジアンナ近くから広がる森林地帯。とりあえず直径5キロ範囲。
それぞれ、1キロの幅を受け持つ。
クラスAパーティーは、両端に。
クラスBパーティーは、中央側に。
なるべく戦闘は避けて問題ない。
クラスBパーティーは、イグバイパーなどのクラスA魔獣は無理に手を出さない。
クラスA魔獣から逃れられない場合は、信号弾を撃ち、近くにいる『旅馬車トラベリン・バス』か『猟犬グレイハウンド』が救援に向かう。その際残るクラスBパーティーは即撤退することとされた。

クラスBの3パーティーは、みんなそれぞれに気の良いメンバーだった。
仕事がしやすそうで、少しホッとする。

調査範囲並び順は、進行方向左手より、
猟犬グレイハウンド
朧梟ハーズオウル
蒼穹の剣スカイブルー・ソード
影猿シャドウモンキー
旅馬車トラベリン・バス
となった。

緊急時用信号弾数個と、伝書鳥用の紙を数枚渡され、パーティー達はそれぞれ出発する事となった。



***


「・・・そう考えるとさ、レシーバーみたいな通信手段が欲しくなるよねぇ?伝書鳥があって、記録用魔道具もあるから、電話やトランシーバー的な物があってもよさそうだけど、無い物なの?」


森の中を突き進みながら、私はこーくんに尋ねる。


「うん。そこまでの魔道具開発には至っていないのが現状だね。せめて、2機間だけでやりとりできる、トランシーバーみたいなモノでも出来ないかなとは思うけど。なかなか、術式がねぇ。」

「そうですか・・・あ。」

「ん?何かいた?」

「いえ・・・」


もご・・・と、カン君が言い澱む。
ハッキリしないのは、珍しい。


「どうかした?」

「いや・・・その・・・トランシーバー、作れる、かも。」

「「は?」」


私とこーくんは、思わず足を止め、カン君を見た。


「ちょ、どゆこと?」

「・・・鑑定さんが、暴走してる感が満載です。」

「え?何それ。」


カン君が言うには、トランシーバーを思い浮かべた途端に、頭の中に構造が浮かんだと。
動力は魔石。それに付与する術式でが指示された、らしい。

向こうから持ってきたモノではなく、こちらにあるモノで作る事が可能なのは理解したが。


「ちょっと、待って?」


私は、はたと思い立ち、カン君に鑑定をかけた。


================
名前:カン(神凪 葵)
年齢:19
性別:男
種族:人間
職業:A級ライセンス冒険者・魔導師

犯罪歴:なし

スキル:採取・複製・解体・調合・料理・魔法錬成・魔道具作成
職業スキル:採取者・薬師・守護戦士(仮)・治療師・魔工技師
魔力:全適性
================
 

あ、誕生日過ぎてる。歳が1つ重ねてるわ。
それはさておき。


「・・・なんか、スキルがいっぱい生えてる。そんでもって表示の仕方が変わってる。職業スキル、凄くね?」

「え?あ、マジで?う、わ。」


カン君も慌てて自分に鑑定をかけて、吃驚している。
以前は、職業の欄に薬師やら採取者やら、羅列されていた筈が、「職業スキル」という新たな欄が出来、そちらに移っている。
どうやら、職業欄は、現在付いている職業が記載されるよう。
職業スキル欄は、力を展開できる職業が記載されるようだ。
にしても、後天的なスキル酷くないか、こりゃ。


「ん?どーゆーこと?」

「こーくんの鑑定で、見る事は出来ないのかな?」


こーくんに聞けば、やはり他人の鑑定は、名前から職業までしか見えないとのこと。因みにこーくんから見て「A級ライセンス冒険者・魔導師」と記載され、その他の職業スキルは見えないらしい。もちろんスキルもだ。

《迷い人》の私たちとは、やはり鑑定さんの仕様が違うみたいだ。
私は、空間収納からメモ帳を取り出し、見えた結果を書き留める。
それを見たこーくんが唖然とした。


「・・・これ、ないわ。ないわー。」


大事な事だから、2回言った?
眉間を押さえていたこーくんは、顔を上げる。


「魔工技師って、かなりレア職なんだよなー。この国でも、数人しかいない。彼らが魔道具の基礎作りをするんだよ。それを、分解構成して、量産化しているのが現状。カン・・・ヤバイわ。バレたら君も囲い込みかかるわ。」

「うわぁ・・・」


そして、ふと気づく。
何だろうこの(仮)は。


「何だろ、守護戦士(仮)って」

「・・・盾役タンカー途中でやめたからじゃないっスかね?」

「それか。」


つまりは、本人が途中まで齧った職業は(仮)になる、という事だろうか。
ふむ、と考えていると、こーくんから声がかかる。


「鈴は?」

「私?えーと?」


恐る恐る鑑定さんにお出まし願う。


================
名前:リン(佐伯 鈴)
年齢:20
性別:女
種族:人間
職業:A級ライセンス冒険者・銃剣闘士

犯罪歴:なし

スキル:狩猟・解体・採取・調合・料理・魔法錬成
職業スキル:採取者・狩人・狙撃手・薬師・料理人・戦乙女
魔力:全適性
================


「・・・銃剣闘士、って。なんか・・・無理矢理当てはめた感満載。」

「はは、最初からアウト。言っておくけど、この世界には、そんな職ないからね。」

「ですよねー。でも、これ以外に書きようないよねー。」


あはは、と乾いた笑いを返せば、こーくんがますます頭を抱える。

そして。
書き留めながら、嫌な文字を見つける。


「職業スキルに『戦乙女ヴァルキリー』の記載があるのが解せない。何でやねん。」

「スキル効果はわかるの?」

「そこまでは教えてくれないみたい。」


こーくんの質問に、ふるふると首を振った。
やだなぁ、このフラグ。


「とりあえず、職業スキルから得たスキルは、職業についてなくても使えるって事で良いのかな?これ。」

「まぁ、スキル使うときに、職業に就いていたら、ボーナスがあるとか、そんなんじゃない?ゲームなんかの仕様ならさ?」


あ、だんだんこーくんが投げやり。
はぁ、と溜息を吐いた彼は、私を見る。


「・・・ね、僕はどう読み解かれてるの?」

「ん。見てみるね?」



================
名前:コウラル=チェスター
年齢:22
性別:男
種族:人間(転生者)
職業:A級ライセンス冒険者・魔法剣士

犯罪歴:なし

スキル:魔法錬成・解体・採取・料理
職業スキル:狩人・弓師・闘剣士・薬師(仮)・治療師(仮)
魔力:風・光・無属性

>>>
================


とりあえず書き留めて、こーくんに渡す。見た瞬間、やっぱり頭を抱えた。


「・・・自分で見るものより精査されてんのが、解せぬ。」


こーくんが自分で見る表示には、
【職業:A級ライセンス冒険者・魔法剣士・闘剣士】
となっており、
私達が見た、職業スキルにある【狩人・弓師・薬師(仮)・治療師(仮)】は載っていないとの事。
また、犯罪歴も、魔力も、そして(転生者)も見えないと。

鑑定さんのネタバレ感がヒドイです。

そして何だろ、この『>>>』

私がソコに意識を向けると、新たにウィンドウが開いた。


================
<<<

コウラル=チェスター

モースバーグ国、ファルコ領出身
チェスター子爵家三男。
国立学園騎士科158期首席卒業生

学園在籍中より、周囲の目を盗んで冒険者ギルド・ミッドランド支部所属冒険者として、『英雄』ファーマスに師事し、業務に従事。
卒業と同時に本格稼働、同時にA級ライセンス昇格試験突破。
冒険者登録後、2年でのA級ライセンス昇格は当時の最速記録。

転生者であり、転生前の『佐伯康平』は、『佐伯鈴』の夫である。
『鈴』と一緒に居られるのが嬉しいようで、ただ今はっちゃけ溺愛中。

================


・・・ねぇ、鑑定さん。
その情報は、誰得なんだい?



しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...