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旅馬車活動開始
193.A級トップの存在
しおりを挟む冒険者ギルドに着くと、ロイドさんは慌ただしくカウンター奥へ向かう。
副ギルマスのザイルさんをはじめ、何人かのギルド職員にもついて来るように伝え。
窓口の職員に、師匠達が戻ったら、執務室に来るように伝言していた。
ギルドマスターの只ならぬ様子に、ギルドホールに居た冒険者達は騒めき始める。
「お前達も来い。情報整理する。」
ロイドさんは、私達を見て手招いた。こーくんが頷き、私達に目配せをしてから、颯爽とカウンター奥へと入る。
私達はその後を追い、ギルドの奥へと進んでいった。
*
「ふむ、ルイジアンナの界隈で、イグバイパーの大量発生原因調査ですか。緊急依頼ということですね。」
「あぁ。 とりあえず調査期間は1週間。クラスAとBパーティーへの指名依頼だ。ただし、クラスBについては、斥候に長けてるパーティーにしたい。
処理は、ルイジアンナの村に出張所を作り、其処で対処する。些末は片して良い。大物がいれば、連絡寄越してもらう。冒険者ギルドだけじゃ対処しきれん状況なら、外部調整しなきゃならん。」
私達が作った簡易的な地図を見ながら、ロイドさんが的確に指示を出していく。
「現場は、ザイルとスタッドに任せる。派遣するクラスBパーティーは、そうだな・・・『蒼穹の剣』と『朧梟』、それに『影猿』だな。」
「他のBパーティーから参加希望があったら、どうします?」
「絶対に受けるな。あの場を乱したくはない。斥候が必要だった依頼の成果が芳しくない奴等は、特に近づけるな。寧ろ邪魔だ。あくまでこれは、ギルマス権限の指名依頼。邪魔をするな、討伐対象がハッキリしたら依頼するかもしれん、と言っておけ。」
スタッドさんという、落ち着いた雰囲気のギルド職員さんの質問に、強い口調でロイドさんは言い放つ。
すっごい厳しいな。
「分かりました。あと、参加要請するクラスAパーティーは、『猟犬』と『独戦士』で、宜しいですか?」
「ソレだが、コウが新しいパーティーを組む事になった。」
「「「え・・・?」」」
ザイルさん以外のギルド職員が、一斉に目を丸くして、ロイドさんを見つめた。
「今回のランクアップ試験で、現在『猟犬』所属のカンとリンがA級ライセンスとなった。それにより、彼等2人は『猟犬』を離脱。コウとパーティーを組む。」
「なっ、何故ですか??コウさんはこれまで、誰とも組んでこなかったではないですか。それが、何故今更、彼等となのです?」
ある女性職員から、声が上がる。
しかも、私に視線が向いている。
場にいる職員は、ザイルさんを含め7名。女性職員3名いる内の2名の視線が特に厳しい。
まぁ、みんな疑問に思う所だろうけど、その聞き方は・・・なぁ。
「彼等の実力が、僕の能力を活かすに足るからですが。何か、ご不満がおありでしょうか?」
にこ、と笑みを浮かべて、女性職員達を見つめるこーくん。
・・・うっわ、怖っ。
女性職員は一瞬怯んだけれど、尚も食い下がった。
「ですがっ、今迄どなたとも正式に組まれた事が無いじゃないですか。・・・クラスAパーティーである、『牙狼』や『氷戦神』からの誘いも断っていたと聞いていますし!」
「・・・だから何?有名パーティーと組まない事が、一ギルド職員である貴女にとって、何の関係があるのです?・・・ロイドギルドマスター?冒険者ギルドでは、僕が好きな相手とパーティーを組んではいけない、と言う決まりでも、あるのですか?」
大きな溜息の後、彼の口から放たれた言葉は、どこまでも冷たく、執務室に響いた。
「・・・それはねェなぁ。それに、『カンとリンがA級になったら、パーティーを組んでやってくれ』と、パーティーリーダーである、ファーマスたっての希望だったしなぁ。」
ロイドさんが、場の空気に呆れながら答える。
「ですよねぇ?・・・僕がこれまでパーティーを組みたいと思ったのは、師匠であるファーマスさんだけ。その彼からの依頼と、実際の連携を行なっての相性から、彼等とパーティーを組みたいと思えた。それの何が問題ですか?」
「ですがっ!」
尚も食い下がろうとする女性職員達に、こーくんの口角は上がり、笑顔を見せている。
でも。
哀愁、軽蔑、苦悩が、ない交ぜになったような視線を、彼女達に向けていた。
・・・そうか。
こーくんのこの世界での立場は、その名の通り『独戦士』。
孤高の存在、高嶺の花、アイドルであるが故、誰とも一緒にいない事で、『みんなのコウさん』として共有されてきたんだろう。
『みんなのモノ』と言って、互いが牽制しあって。
果敢に攻めたけど失敗した者には、後ろ指を指して。悪口言って。
『この人達とパーティー組ませたらいい』って、勝手に想像して、盛り上がって。
その想像と違うからって、彼の在り方を否定するの?
・・・こーくんが、どんな思いで冒険者になって、高みを目指したのかなんて、知ろうともしないで。
今ある結果だけで、勝手に理想を押し付けて。
彼には、レザ先生しか理解者がいなくて。
師匠やロイドさんにも、伝えたかったろうに、その『転生』という特殊性から伝えられず。
独りぼっちで苦しんでたのに。
いつの間にか私は、きつく拳を握りしめ、唇を噛んでいた。
俯いていた顔を上げる。
ーーー 私が声をあげなきゃ。
口を開きかけた所、ぽん、と肩を叩かれた。
見上げると、カン君が真剣な顔で此方を見ていた。
彼は、ふる、と軽く首を振り、口を開いた。
『・・・俺が行きます。』
『・・・でも。』
『俺は、ベネリさんと一緒に、コウさんと仮パーティー組んでましたから。女性であるリンさんが出るより、角が立ちませんよ。それに、俺だってコウさんがあんな言われ方されんの、気に食わねっス。コウさんは、コウさんです。何でパーティーの在り方を強制されんきゃならんのですか。」
女性職員達を見据え、私の右肩に左手を乗せたままのカン君は、無意識なのだろう。その手に力がこもる。
ぎり、と痛いくらいに掴んでいるその手に、カン君の想いが見えた気がした。
・・・私が出るより、先にこの支部でこーくんと仮パーティーを組んでいた彼に任せた方が賢明か。
肩にある手にそっと触れて、彼の顔を見上げると、頷いた。
『・・・うん、ごめん。お願い。』
『・・・了解っス。』
私の顔を見て、にぱ、と細い目を更に細めて笑った彼は、顔を上げ直すと真剣な表情に戻る。
「・・・いい加減にして貰えませんか。」
深呼吸をして、彼等に向き直った彼の口からは、威圧の篭る、ドスの効いた声が放たれた。
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