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旅馬車活動開始

193.A級トップの存在

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冒険者ギルドに着くと、ロイドさんは慌ただしくカウンター奥へ向かう。

副ギルマスのザイルさんをはじめ、何人かのギルド職員にもついて来るように伝え。
窓口の職員に、師匠達が戻ったら、執務室に来るように伝言していた。

ギルドマスターの只ならぬ様子に、ギルドホールに居た冒険者達は騒めき始める。


「お前達も来い。情報整理する。」


ロイドさんは、私達を見て手招いた。こーくんが頷き、私達に目配せをしてから、颯爽とカウンター奥へと入る。
私達はその後を追い、ギルドの奥へと進んでいった。







「ふむ、ルイジアンナの界隈で、イグバイパーの大量発生原因調査ですか。緊急依頼クエストということですね。」

「あぁ。 とりあえず調査期間は1週間。クラスAとBパーティーへの指名依頼クエストだ。ただし、クラスBについては、斥候に長けてるパーティーにしたい。
処理は、ルイジアンナの村に出張所を作り、其処で対処する。些末は片して良い。大物がいれば、連絡寄越してもらう。冒険者ギルドウチだけじゃ対処しきれん状況なら、外部調整しなきゃならん。」


私達が作った簡易的な地図を見ながら、ロイドさんが的確に指示を出していく。


「現場は、ザイルとスタッドに任せる。派遣するクラスBパーティーは、そうだな・・・『蒼穹の剣スカイブルー・ソード』と『朧梟ハーズオウル』、それに『影猿シャドウモンキー』だな。」

「他のBパーティーから参加希望があったら、どうします?」

「絶対に受けるな。あの場を乱したくはない。斥候が必要だった依頼クエストの成果が芳しくない奴等は、特に近づけるな。寧ろ邪魔だ。あくまでこれは、ギルマス権限の指名依頼。邪魔をするな、討伐対象がハッキリしたら依頼するしれん、と言っておけ。」


スタッドさんという、落ち着いた雰囲気のギルド職員さんの質問に、強い口調でロイドさんは言い放つ。
すっごい厳しいな。


「分かりました。あと、参加要請するクラスAパーティーは、『猟犬グレイハウンド』と『独戦士ロンリーウォーリア』で、宜しいですか?」

「ソレだが、コウが新しいパーティーを組む事になった。」

「「「え・・・?」」」


ザイルさん以外のギルド職員が、一斉に目を丸くして、ロイドさんを見つめた。


「今回のランクアップ試験で、現在『猟犬グレイハウンド』所属のカンとリンがA級ライセンスとなった。それにより、彼等2人は『猟犬グレイハウンド』を離脱。コウとパーティーを組む。」

「なっ、何故ですか??コウさんはこれまで、誰とも組んでこなかったではないですか。それが、となのです?」


ある女性職員から、声が上がる。
しかも、私に視線が向いている。
場にいる職員は、ザイルさんを含め7名。女性職員3名いる内の2名の視線が特に厳しい。

まぁ、みんな疑問に思う所だろうけど、その聞き方は・・・なぁ。


「彼等のが、僕の能力を活かすに足るからですが。何か、ご不満がおありでしょうか?」


にこ、と笑みを浮かべて、女性職員達を見つめるこーくん。

・・・うっわ、怖っ。

女性職員は一瞬怯んだけれど、尚も食い下がった。



「ですがっ、今迄どなたとも正式に組まれた事が無いじゃないですか。・・・クラスAパーティーである、『牙狼ファングウルフ』や『氷戦神アイス・アテーナー』からの誘いも断っていたと聞いていますし!」

「・・・だから何?有名パーティーと組まない事が、一ギルド職員である貴女にとって、何の関係があるのです?・・・ロイドギルドマスター?冒険者ギルドでは、僕がとパーティーを組んではいけない、と言う決まりでも、あるのですか?」


大きな溜息の後、彼の口から放たれた言葉は、どこまでも冷たく、執務室に響いた。


「・・・それはねェなぁ。それに、『カンとリンがA級になったら、パーティーを組んでやってくれ』と、パーティーリーダーである、ファーマスたっての希望だったしなぁ。」


ロイドさんが、場の空気に呆れながら答える。


「ですよねぇ?・・・僕がこれまでパーティーを組みたいと思ったのは、師匠であるファーマスさんだけ。その彼からの依頼と、実際の連携を行なっての相性から、彼等とパーティーを組みたいと思えた。それの何が問題ですか?」

「ですがっ!」


尚も食い下がろうとする女性職員達に、こーくんの口角は上がり、笑顔を見せている。

でも。

哀愁、軽蔑、苦悩が、ない交ぜになったような視線を、彼女達に向けていた。


・・・そうか。


こーくんのこの世界ここでの立場は、その名の通り『独戦士ロンリーウォーリア』。
孤高の存在、高嶺の花、アイドルであるが故、誰とも一緒にいない事で、『コウさん』として共有されてきたんだろう。

』と言って、互いが牽制しあって。
果敢に攻めたけど失敗した者には、後ろ指を指して。悪口言って。
『この人達とパーティー組ませたらいい』って、勝手に想像して、盛り上がって。
その想像と違うからって、彼の在り方スタンスを否定するの?

・・・こーくんが、どんな思いで冒険者になって、高みを目指したのかなんて、知ろうともしないで。
今ある結果だけで、勝手に理想を押し付けて。

彼には、レザ先生しか理解者がいなくて。
師匠やロイドさんにも、伝えたかったろうに、その『転生』という特殊性から伝えられず。
独りぼっちで苦しんでたのに。


いつの間にか私は、きつく拳を握りしめ、唇を噛んでいた。

俯いていた顔を上げる。


ーーー 私が声をあげなきゃ。


口を開きかけた所、ぽん、と肩を叩かれた。
見上げると、カン君が真剣な顔で此方を見ていた。

彼は、ふる、と軽く首を振り、口を開いた。


『・・・俺が行きます。』

『・・・でも。』

『俺は、ベネリさんと一緒に、コウさんと仮パーティー組んでましたから。女性であるリンさんが出るより、角が立ちませんよ。それに、俺だってコウさんがあんな言われ方されんの、気に食わねっス。コウさんは、コウさんです。何でパーティーの在り方を強制されんきゃならんのですか。」


女性職員達を見据え、私の右肩に左手を乗せたままのカン君は、無意識なのだろう。その手に力がこもる。
ぎり、と痛いくらいに掴んでいるその手に、カン君の想いが見えた気がした。

・・・私が出るより、先にこの支部でこーくんと仮パーティーを組んでいた彼に任せた方が賢明か。

肩にある手にそっと触れて、彼の顔を見上げると、頷いた。


『・・・うん、ごめん。お願い。』

『・・・了解っス。』


私の顔を見て、にぱ、と細い目を更に細めて笑った彼は、顔を上げ直すと真剣な表情に戻る。


「・・・いい加減にして貰えませんか。」


深呼吸をして、彼等に向き直った彼の口からは、威圧の篭る、ドスの効いた声が放たれた。



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