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旅馬車活動開始
190.試験前準備
しおりを挟むまぁ、そんなこんなで、愕然としている女性冒険者の皆さんを尻目に、私たちは、こーくんに背中を押されて冒険者ギルドを出た。
「・・・にしても、僕が撃退しようと思ったのに、リンに全部持ってかれた感がする。」
「まさかのイズマさんネタで、トドメ刺すって、酷いですよね。」
私を挟んで歩きながら、2人はケラケラと笑い合う。
「なんだよー、イズマさんとお近づきになりたいってんだから、良い方法教えたのにさぁ。『ありがとう』の一言くらい無いもんかね。」
「うん。アレを試そうという、根性ある女性冒険者はなかなか居ないと思うよ?」
こーくんが笑いを堪えながら答える。
すると、カン君が、私に向いた。
「リンさん、因みにその時の索敵範囲はどれくらいだったんスか?」
「ん?最大でやってたから、半径1キロかな?それで身体強化かけて5時間半の組手で魔力枯渇かなぁ。」
「エグい・・・半端ないな『黒持ち』の魔力量は。チートじゃん。」
溜息混じりに、こーくんが呟く。
すると、あー、とカン君が思い出したように、話す。
「あの時・・・魔獣暴走の前に、リンさんがズタボロでイズマさんに運ばれてきた時っスよね?全身の擦過傷に打撲、肋骨にヒビ。身体強化してんのに、その怪我って。イズマさん女性にも容赦無えなって思ったんスよねぇ。」
「うん。カン君の練習台になった時だわ。イズマさんは、真面目にやったら、しっかり相手してくれるよ?やるからには手を抜かないストイックな人なだけで。」
「あー。イズマさんは確かに、ストイックが服着て歩いてる人だからねぇ。で、練習台って何?」
「魔力枯渇で気絶してるし、レザ先生から治療しろって、ね?治療師のスキル生えた時だよね?」
「そっス。」
「あれ?治療師って、先天スキルじゃなかったの?」
きょとん、と目を丸くするこーくん。
私とカン君は首を傾げる。
「私の薬師スキルと、カン君の解体と薬師、治療師のスキルは後天・・・ですよ?」
「マジでかぁ。『黒』の所為なのかなぁ。あのね、新たなスキルって、そんなに簡単に生えないからね?情報開示には気をつけて?」
「あ、うん、分か・・・り、ました。」
思わずカン君と顔を見合わせる。
師匠達や、集落の皆んなからは、何も指摘されてなかったから、ちょっとビックリしてしまう。
「さて、と。何か、買い物あったかい?」
「あ。えーとね?明日からの討伐の準備なんだけど、結界魔道具とか必要、ですか?野営はするものです?」
人目があるので、こーくんに丁寧語使わなきゃなぁ、と思うと、妙にたどたどしくなってしまう。若しくは慇懃無礼語になるか。
「無理して、敬語にしなくていいのに。」
くすくす笑いながらも「そうだねぇ・・・」と、野営予定がある事を告げ、必要と思われる物を教えてくれる。
そのまま、道具屋や市場に向かい、買い物を済ませていった。
その後、別れた私達は、宿屋『陽だまり亭』へ向かい。
看板娘のミーナちゃんに、泣きながら出迎えられ。
晩御飯は、久しぶりに『グレイハウンド』の5人で食べた。
無論、カン君から昼間の話を暴露され。
師匠とベネリさんが爆笑し。
無表情のイズマさんから、頭にアイアンクローを食らって痛かった。
もし、本当に要請が来たらヨロシク、とは言ったけど。
「希望する人間全員でデスマッチさせて、残った1人に教えてやるよ。」
とのお言葉。
その内、ギルドで取りまとめて、お金取って特別講習とかってならないかなぁ。今度ザイルさんにでも提案してみようかなぁ。
・・・って思っていたら、「不穏な事考えてんの、丸分かりだ。」って、再度アイアンクローかまされた。
何で?
臨時収入ゲットはダメですか?
てか、デスマッチ後1人対象でも、やってくれる気はあるんだね?
何だかんだで、イズマさんは『いいひと。』だよなぁ。
と、生暖かい目で見ていたら。
「なんかムカつく」って・・・おにーちゃん、顔面にアイアンクローはやめて。
ホントに、イズマさん私に容赦無いわぁ。
*
次の日の早朝、私とカンくん、こーくん、そしてギルマスのロイドさんはギルド前に集まり、馬に跨ると、直ぐに出発した。
馬は基本的に、冒険者ギルドでレンタルができる。今回も、ギルドの馬4頭を借り受けている。
預かり金が一日金貨1枚で、無事に戻ってきたら、銀貨7枚の返却。実質一日銀貨3枚で借りてる事になる。
もし、馬が何らかの事情でダメになってしまった場合は、返却分が無しになる。保障金といったところか。
ちなみに、私が撤退戦でレザ先生から借りた黒馬は、レザ先生が集落から帰る時に乗っていった。
お馬さん達は頭良いけど、特にあの子は、頭良かったからなぁ。
また今度構ってもらおう。
南西に走ること1時間弱。
目的地である、ルイジアンナという村が見えた。
「この度は、依頼を引き受けて下さって、ありがとうございます。」
村に入ると、早速村長から出迎えられた。
ロイドさんに深々と頭を下げた村長さんは、恐る恐る顔を上げる。
「しかし、当村はあまり報酬は出せないのですが・・・大丈夫なのですか?」
「あぁ、こちらも事情がありましてね。A級のランクアップ試験も兼ねさせて欲しいから、問題はありませんよ。」
「ランクアップ試験、ですか?」
村長は目を丸くする。
ロイドさんは、私達の方を向くと手招きをした。
「えぇ。コイツらが、今回試験を受ける2人です。今回の討伐を担当させて貰います。」
「あ、ミッドランド支部所属のB級ライセンス冒険者、リンと申します。イグバイパー退治頑張らせて頂きます。」
「同じく、B級ライセンス冒険者、カンです。よろしくお願いします。」
ぺこり、と頭を下げる私達。
村長さんは、少し驚いた顔を見せ、ロイドさんの顔を見た。
「ご丁寧にありがとう。・・・しかし、こんな若い子達、大丈夫ですか?イグバイパーは、Aクラスの魔獣で、しかも複数体いるのに、彼等に何かあったら申し訳ないのだが・・・」
あ、この方は、若いから信用出来ない、じゃなくて、純粋に心配してくれてるだけだ。
・・・うん、退治頑張ろう。
そんな思いを新たにしていると、ロイドさんが村長に笑顔を向ける。
「大丈夫です。彼等は、クラスAパーティーに戻った『グレイハウンド』の所属。ファーマスの弟子達です。実力は折り紙つき。ビグベルーも単独討伐できますから、心配しないで下さい。」
「しかし・・・」
「もし何かあっても、俺とコイツ・・・A級ライセンストップのコウがバックアップに入ります。」
ロイドさんのフォローにも、まだ言い渋る村長さん。
するとロイドさんが、こーくんを紹介した。
和かな笑顔で、こーくんが挨拶する。
「初めまして。王都ギルド所属A級ライセンス冒険者のコウと申します。今回は、試験の補佐と不測の事態対応の為に同席させてもらいます。」
「何と!あのA級トップの『疾風』のコウさんなのですか!?それは心強い。どうぞ宜しくお願いします。」
「はい。彼等2人が対処しきれない場合は、援護に入りますから。どうか、ご心配なく。」
再度にっこり、と笑うこーくん。
遠巻きに見ていた村人の皆様、特に女性陣の目の色が変わったわ。
・・・つか、二つ名持ちなんだねぇ。
その後、イグバイパーに畑で襲われた、という農夫さんに話を聞き、場所を確認したりして、情報を整理した。
残念なことに、襲われた狩人さんは亡くなられたらしい。
農夫さんは右足を噛まれ、毒が回ったものの、早く牙を外せた事、毒消しを飲むのが早かった事で、右脚の麻痺で済んだとの事。
命が助かっただけでも儲けものだ、と笑う若い農夫さんは、子どもも小さく、一家の大黒柱なのだそうだ。
動きの悪い足では、今迄通りに働くのは難しいだろう。
「カン君・・・」
「・・・俺も多分、リンさんと同じ事を考えていると思います。」
思わず、カン君の顔を見上げたら、彼は少し悩む顔をしていた。
そして、ロイドさんに向かい、口を開く。
「ロイドさん。俺が、彼を『診て』も良いですか?」
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