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旅馬車活動開始
189.トラブル収束?
しおりを挟む肩をロックされるように、背後から抱きとめられ。
ぬ、と、私の左側から、緑がかる金髪が覗いてきた。
途端に、耳をつんざくような悲鳴というか、叫び声というか、怒号というかが飛んできた。
「また、リンは・・・無茶な喧嘩売ってるしょ?」
「売っておりませんし、寧ろ売られたのを買うかどうするか検討していた所でございますが?ってか、この姿勢が一番喧嘩売っておりますがね?こーさん?」
周囲から湧き上がる女性陣の悲鳴の元凶は、くす、と悪い笑みを浮かべると、ちゅ、と私のこめかみにキスを落とした。
途端にギルドが揺れた。
比喩的にじゃなく、物理的に。
絶叫って、建物揺らすんだね。
・・・何してくれていやがりますか?
思わずジト目で睨み、素早く眉間にデコピンを打ってやった。
「いたっ?!何するのさー。」
「その台詞、熨斗つけてお返しいたします。話ややこしくなるんで、止めてくれやがりませんかね?」
「コウさん、悪ふざけ過ぎますよ?アイアンクローかましていいっスか?」
カン君も、左手をワキワキしながら引きつり笑顔を見せている。
「あはは~ごめんって~。で、何してんの?宿取りに行ったんじゃなかった?」
「いえ、別に、何も?」
つら、っとして言い返す。
今度は、こーくんがジト目で此方を見ていた。
「何もってコトじゃないでしょ?何で君達が絡まれてるのか、教えてくれるかなぁ?」
口端だけ上げて、目は笑っていない笑顔を見せる。
「・・・俺らが、短期間でB級ライセンスを持ってんのがオカシイらしいです。ズルしてランクアップしたんだろうってのと、コウさんと一緒に居るのが面白くねぇって話らしいっスよ。」
私が答えないでいると、カン君がアッサリ口を割ってしまった。
「あと、イズマさんにも、コウさんにも、付きまとうな、ってことも言われたっス。」
「なっ!」
「へぇ・・・」
すう、とこーくんの目が細められ、その視線は、喚いていた女性冒険者達と、いつの間にかその後ろに集っていた他の冒険者達に向けられた。
憧れる本人に、自分達の所業をチクられ、軽蔑の目で見られる女性冒険者達の心境は計り知れないが、まぁ、自業自得だ。
「面白い事を言うなぁ。彼等が付き纏っているんじゃなく、実際は僕が、彼等に、付き纏っているようなモンなのに、ねぇ。」
こーくんは、くすくすと笑いながら、私のポニーテールから髪を一房取ると、見せつけるように口付ける。
だから、やめんかい。
一々悲鳴が煩いから。
「クラスAパーティー『グレイハウンド』の秘蔵っ子達。『英雄』ファーマスの弟子なら、僕にとっても弟妹弟子。可愛い後輩達の面倒を見て何が悪いのかな?
血反吐吐くような特訓にも付いて来て、今や単独でもビグベルーを倒せる実力派。ニースの森の守護も任され、依頼も真摯にこなし、採取や解体スキルも活用して、納品物は一級品。そんな真面目で強い後輩達なら、応援したくなって当然だと思わないかい?」
すり、と私の頭に頬を寄せてから、身体を離したこーくんは、私とカン君の間に入り肩を掴む。
「僕はギルドからの依頼で、『グレイハウンド』のバックアップに入ってる。それを邪推する様な輩は、底が知れるよね。
ま、そもそもが、女の武器を振りかざして寄生することを第一に考える様な人間には、一生かかっても彼等には追い付けないし。お互いに信頼して、背中を預けられるようなパーティーでの、冒険の醍醐味なんて、味わえないだろうから。」
ふんわりとした、イケメンスマイルを振り撒きながら、言ってることが正論だらけ。
その様子が鬼畜過ぎて、なんともまぁ、居た堪れない。
まぁ、元々キレた時には、あたりが良さそうな笑顔で、ど正論をふりかざしてぶった切る、鬼畜な発言がある人だったけどさ?今更だけどさ?
外面という、完全たる武器を手に入れての破壊力は、半端ないですね。
わぁお。
おねーさん達、揃いも揃って半べこいてら。
「どんな依頼も真摯にこなし、高みを目指して切磋琢磨する。こんな当たり前の冒険者としての矜持を、蔑ろにする輩が多いこと。いい加減ウンザリなんだよね。『掃き溜めに金翅鳥』とは、よく言ったもんだ。一握りの真面目な冒険者が輝いて見えるもの。
でも、まぁ、この支部で、ランクアップ試験を受けた冒険者達には、真面目に頑張ってるパーティーが多いようだけどねぇ。
・・・そうだねぇ、Bランクパーティーの『蒼穹の剣』とか、Cランクパーティーの『月宵の拳』って言ったかなぁ?是非とも、頑張って欲しいよね。」
急に、パーティー名が呟かれた事で、ざわ、とギルド内が騒めく。
「え?あ?俺ら??マジで?」
「うそ、ウチらのパーティーが?」
と、どうやら、奥の方に本人らしき人達も居たようで、びっくりする声が聞こえてきた。
誰に見せるでもなく、ストイックに頑張ってきた彼等の努力は、見てる人間は見てる。
周りからは、何であんな雑用パーティーが、とか、
あんなパーティーより自分達の方が、とか、
直ぐに妬む声も聞こえてくる。
でも、そんな事より、『A級ライセンストップが自分達のパーティーを知っていた』という事実は、揺るぎない自信に繋がるのだろう。
「ま、そんな訳で、僕は強くなる為に努力して、仕事をする人間には好意的だけれど、私利私欲に塗れた冒険者とは馴れ合う気もないから、ヨロシクね?」
・・・何がヨロシクなんだかな。
完全に虐めみたいになっちゃってるよ。
俯いて、涙目になってる集団をみて、ふぅ、と溜息をついてしまった。
「さて、2人とも。明日の準備もあるだろうから、行こうか?」
ポン、と背中を叩かれる。
カン君は、それにつられて出口に向かう。
「コウさんっ!ちょっと、まっ・・・」
何かを言いかけている、ビキニアーマーの女性と目が合う。
まだ彼女の目は死んでない、
というか、憎しみが篭った目でコッチが見られてる。
・・・仕方ない、情報あげようか。
「あの。」
「な、何よ。」
「イズマさんとデートしたいなら、良い方法が有りますけど。」
「え?」
女性冒険者達が、急にざわざわと色めき立つ。
振り返ったカン君とこーくんが眉を潜めた。
「え?リンさん?」
「おい、リン。勝手なことを・・・」
「えぇと、『ガルサボアの巣窟である、西の草原で、索敵練習を兼ねた組手練習がしたいので、付き合って下さい。』ってお願いすれば、やってくれると思いますよ?」
「は?」
きゃぁ、と色めき立っていた、女性陣の動きが止まる。
「な、何言ってんのよ・・・」
「全力で組手しながら、ガルサボアの索敵結果をイズマさんに逐一伝えつつ、襲ってくる奴等を組手中に退治する。2~3時間元気にやれりゃ、イズマさんには興味持って貰えるかと思いますよ?」
「・・・リン、それ、デートやない。修行だ。」
「イズマさんと、いっつもそんな感じだったんスか。」
2人が呆れたように呟く声が聞こえてきたけど気にしないことにする。
「・・・だって、イズマさんと一緒にいたいって言う事は、そーゆー事でしょう?寧ろ彼は、それが通常運転ですし。普通の男女のデートなんて、して貰えるワケ無いじゃないですか。彼に興味を持ってもらいたかったら、それぐらい食らいついてみたら良いと思うの。」
「因みに、リンさんは、何時間付き合ったんスか?」
「え?5時間半休みなし。」
「・・・君、どMなの?」
こーくんがしょっぱい顔で此方を見ている。
失礼だなぁ。
気晴らしだって連れて行かれて、真面目にやってたら、終わりが見えなかっただけだよ?
お陰で、魔獣暴走に耐えられる胆力がついた訳だし。
索敵精度も上がったし。
・・・ねぇ、なんで、ドン引いてんのかな。みんな。
・・・解せぬ。
***************
※ 44話「気晴らし」の思い出ですw
※ もれなく、タンクトップ姿のイズマさんが拝めるレアイベントなのですがねぇwww
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