転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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新たな関係

178.旅馬車

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先生は話し終えると立ち上がり、うーんと唸りながら身体を伸ばした。


「さて、と。俺の話はどーでもいっからさ。君ら3人がパーティーとしてどう動くのか、話し合ってくれ。俺は最大限バックアップさせてもらうから、遠慮なく言ってくれな。
・・・じゃ、ファーマス。俺は先に帰るわ。集落のみんなの状態は問題なかったし、いつまでも診療所閉めてられんしな。」

「あ、あぁ。分かった。」


ひらひらと後ろ手に手を振ると、先生は家を出て行く。

飄々として何処か浮世離れしている先生の、大事な過去を知れた事は、信用してもらえて嬉しくもあり、切なくもなった。

不意に、ガタリ、と音がする。
見ると、師匠がソファから立ち上がっていた。


「・・・すまん、ちょっと出てくる。」

「あ、はい。いってらっしゃい。」


師匠の表情は冴えない。

まぁ、先生の独白の内容の半分は意味不明だろう。
それでも、前世が幸せな結婚でなかった事、そして事故で死んだ事は理解しているだろう。

・・・頭を整理する為に、外に行ったのかな。


バタン、と玄関戸が閉まり、こーくんとカン君、そして私が残された。

沈黙が流れて行く。
居たたまれず、空間収納から新しくお茶のポットを取り出し、空になっている3人分のコップに入れていった。


「・・・なかなかに、ヘビーだったんだね、先生。」

「・・・僕も初めて知ったわ。」

「そうなんスか?」

「うん。医者だった話、病院の話や、漫画やアニメ、ドラマなんかの話はポンポンと出てきたけど。家族の話は全くしなかったから、独身だったのかなーって、勝手に思ってただけだったし。」

「・・・そだねぇ。話すそぶりもないなら、あえて触れんべし。」


私もこーくんも、人の事情を根掘り葉掘り聞き出すのは苦手だから。
自分から話さない限りは、極力放置なんだよね。

ふぅ、と溜息が出てしまう。

まぁ、先生の事情は先生のもの。どうこう出来るものじゃない。
それに、先生は色々飲み込んで割り切って、この世界で生きてるんだろう。

ふと、先生の台詞を反芻する。


『ーーー 転生してなお《迷い人》の伝承に縋り、前世の世界に繋がる方法を探し続けるコウがさ・・・いつか、壊れるんじゃ無いかって。』


思わず、向かいに座るこーくんを見てしまう。

先生が見て分かるほどに、彼は《迷い人》の伝承にのめり込んでいた。

ーーー それって。

私自身も彼にとって、枷になっていたのだろうか。

仄暗い思考が頭をもたげる。


「リンさん?」


不意に呼びかけられ、意識が戻る。


「どうかしました?」

「ううん。何でもない。・・・差し当たり、ランクアップ試験でミッドランドに出向かなきゃいけない?」


軽く頭を振って、私達の今後の活動に話題を戻す。


「そ、だなぁ。ベネリさん達からの連絡が来次第、ギルドに出向くでいいと思う。あとは、連携練習と、パーティーの結成、かな。」


こーくんの言葉で、『グレイハウンド』から脱退する事が、一気に現実味を帯びる。
決まっていた事だけれど。何処か寂しく感じてしまう。
この世界での最初の居場所だったから。


「名前、決めなきゃなんないっスかね?」

「そ、だね。僕のパーティー名は『独戦士ロンリーウォーリア』だから。そこに入るのは可笑しいよねぇ?改めて名前つけた方が良いよ。」


しみじみする私を取り残し、2人は話を進めていた。

・・・現実的だなぁ。

呆れを通り越して、笑ってしまう。


「鈴、なんか良い名前ない?」

「ん?名前?」

「そ、パーティー名。」

「センス無いんだけどな・・・」


ふむ、と腕組みして考える。

その間も、2人は名前を考えてるのか、ゲームやアニメ談義なのかわからない会話を続けていた。

・・・このままだと、厨二病的名前になりそうだなぁ。

このメンバー・・・3人・・・なんか違う。
目的は?
本来なら、元の世界に帰る方法を探す為だったけど。今は・・・見た事のない景色を見て歩きたい気持ちが強い。

旅・・・旅かぁ。
どんな旅になるだろう?

馬車に揺られるのはキツイだろうか?
見る景色はどんなんだろか?
道中は楽しいだろうか?
ある種の行き当たりばったり。
冒険者は、その日暮らしでもあって。


「・・・旅馬車・・・」

「「え?」」


ぽつり、と呟いたわたしの言葉に、2人は即座に反応した。


「何て言ったんスか?」

「んと・・・『旅馬車トラベリン・バス』・・・いや、ないな。」


呟いてみたものの、慌てて否定する。
首を傾げるカン君の隣で、くす、とこーくんが笑った。


「『旅馬車』で、“トラベリン・バス”ね。いーんじゃない?鈴て。」


そう言って、に、と笑うこーくんにつられて、カン君も頷く。


「バス、って無いと思うけど、いーんじゃないっスか?」

「きつい旅にはしたくないけどね。」


無垢なカン君の言葉に続けて、そう言って笑うこーくんには、名前の由来がバレてんなぁ、と改めて感じた。


その後も、色々案は出したけれど。
結局『旅馬車トラベリン・バス』になってしまった。

ちょっと、なぁ。
いいのかなぁ、それで。
厨二じゃないけど・・・ちょっと、恥ずかしいんですが。





*****************

※ 旅馬車トラベリン・バス・・・ネタは検索かけたら一発ですw 170話に出てきた、現世でコウがリンに連れて行かれた大御所の武道館、ってヤツですよ。タオル真上に投げちゃうアレですwww 
※ 独戦士ロンリーウォーリアとか、グレイハウンド猟犬もロックンロール系なネタでした。お分かりな方ご一報下さいw
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