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新たな関係
179.黄昏の中で(ファーマス視点)
しおりを挟む陽が傾き、影が伸びる時間。
ファーマスは、集落を見渡し、姿を探す。
馬の鳴き声が聞こえ、厩舎に向かう。
そこには、先にリン達の家を出たレザリックが居た。
「・・・レザ。」
ぴく、と反応してこちらを振り向く男の顔は、いつもと変わらない。
「どーした?何か用事あったか?」
「・・・いや、このまま帰るのか?陽が落ちるぞ。」
「別にぃ?賊が出る訳でなし。魔獣程度なら問題ないのは知ってるだろ?」
飄々として、軽く応える。
確かに、コイツは強い。小さなナリで、一線を引いたものの、元A級は伊達ではない。・・・それでも、絶対ではない。
「下手なB級より使えるのは知ってる。でも、此処は夜間、レグルパードも出てるんだ。行くなら護衛してやる。」
「過保護だなぁ。アイツらは良いのかよ。」
「・・・3人揃ったんだ。この先は、自分らで決めりゃ良いだろうよ。」
「違いねぇ。」
そう言って、くく、と意地悪げに笑う男の様子は、昔から変わらない。
必要な事は話すし、馬鹿な話も沢山してきた。
でも、先程の話は全くの初耳で。
「ま、何にしても送りはいらねぇよ。今から行きゃ、途中でベネリ達に追いつくだろうさ。・・・何だよ、そんな顔して。何か聞きたいことでもあんのか?」
目を細め、訝しげにコチラをみるレザリックの視線から、思わず目を逸らしてしまった。
「あ・・・いや。」
「・・・俺が転生者だったのは、ロイドも知らねぇよ?」
見透かしたかのような笑みを浮かべながら、レザリックが告げる。
「転生だ、前世だ、なんて大っぴらにする話題でもない。だから、誰にも話してなかった。まぁ、それに縛られて、生き辛そうしていたコウが居たから、アイツには話しただけだ。それだって、差し障りのない話しかしてねぇよ。」
「それは・・・」
「浮気されてて、反旗を翻すことも出来ず死んだなんて、かっこ悪りぃにも程があんだろが。それぐらい察せ。」
ガリガリと頭を掻きながら、吐き捨てるように言い放つ。
「すまん・・・」
「それにさ、コッチの生活が充実しすぎていて、思い出した前世の事なんて、どーでもよかったんだよ。ただ・・・女に対して忌避感が出てしまったけどな。そこだけが残念だ。」
溜息をつきながら、最後にはおどけた口調に戻り。
ふ、と自虐気味な笑みを浮かべた奴は、最後に俺の顔を見た。
「・・・女に失敗してる時点で、俺もお前も似たモン同士だな。」
「そうか・・・そうだな。」
思わぬ言葉に、苦笑してしまう。
確かに。
俺も結婚は上手くいかなかった。
「ま、何にしても。思いあえる相手と添い遂げられるのは幸せなんだろうけど・・・残酷でもあるな。」
「何がだ?」
「コウとリンは再び相見えたけれど。何かの拍子に、リンが戻る可能性だってある訳だ。リンが残る選択肢が出来るなら良いのかもしれない。もしくは、残るのか戻るのか、選べるなら、まだ救いようもあるさ。そうではなくて、強制送還されてしまったら?そうなったら、今度こそ・・・」
「それは・・・」
そんな事はない、なんて言えない。
泣く程に焦がれていた相手との再会。
また、引き剥がされるなんて、どんな拷問か。
「・・・そうならないように、祈るしか、ないだろうけど。・・・なぁ、ファーマス。」
「何だ?」
「お前は、カンが思い悩む姿を見てるだろうから、アイツの肩を持ちがちになるだろ?」
唐突に言われる言葉の真意を探す。
自分の思いを振り返っても、カンを押し退けてまで、リンを欲しいとは思っていない。
リンが墜ちてくるなら受け止める。
最後の砦だと、勝手にそれらしい事を言って、カッコつけているだけだ。
もし、本気で欲しいなら、否が応でも旅について行くという判断をしている筈だ。
それを、色んな理由を付けて、ニースの森に、ミッドランドに居ると判断したのは。
・・・きっと自分は、《迷い人》である2人で上手くいって欲しいと思っていたのだと、改めて気づく。
だから、リンにちょっかいをかけてみたり、カンにワザと発破かけるようなことを言ったりしていたんだと思う。
それが、コイツが言う所の『肩を持つ』という事なんだろう。
「・・・ん。そう、か。そうかもしれねぇ。」
「・・・それと同じで、俺はコウの肩を持っちまうんだ。・・・作った笑顔の裏で、狂ったように《迷い人》の伝承を探すアイツを見ていたから。」
「そう、か。」
いつも笑顔で、俺の後ろをついて歩いていたコウの姿を思い出す。
前世を思い出し、この世界で生き抜く術を学び。A級ライセンストップに駆け上り、誰とも組まず1人パーティーで国を跨いで歩いて居たのは。
・・・全て、愛する妻に再び会う為の手がかり探しだったなんて。
レザリックは馬房の柵に寄りかかり、苦しそうに呟く。
「・・・上手く、いって欲しいんだよな。何が正解かわからんけど。コウも、カンも、リンも、いい奴らだから。」
寂しげに、自分が上手くいかなかった分の希望と期待を乗せるようなレザリックの呟きが、俺の心にもチクリと刺さった。
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