転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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新たな関係

177.先生の事情

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「俺が、コウが前世の記憶持ちだ、と知ったのは、出会って間もない頃だったかな。」


先生とこーくんが顔を見合わせて笑う。


「あー、何かあの頃は色々試してた黒歴史ですからね。」

「どゆことですか?」


カン君が首を傾げる。
コウ君がふ、と笑いながら答える。


「色々鬱憤溜まってた頃でさ。今のような双剣スタイルじゃなくて、サバイバルナイフみたいな短剣で、近接戦闘やってたんだよねぇ。それを先生に見られた。」

「へぇ?」


そんなこともあったか?と首を傾げる師匠。
その横で、何かを思い出して、くすくす笑いだす先生が話す。


「短剣を逆手持ちして、『死ねっ!雑菌がっ!!』って言いながら、嬉々として血塗れで魔獣を屠ってんだよ?笑うよね?」

「ん?雑菌?何だそれ。」


師匠が首を傾げる。
私とカン君は、思わず顔を見合わせる。


「えーと・・・それは、某白血球さんの擬人化マンガですか?」

「それなー」


先生はケタケタ笑いながら、指をさす。


「雑菌、という概念はこの世界に無くてね。それを叫びながら、魔獣討伐してるもんだもの。あぁ、多分、こいつ前世持ちかなーって。しかも、あのマンガを知ってる時代の。カマかけたら、案の定だった訳。」

「ま、お陰で理解者が得られたから、僕も助かってきたんだ。」


こーくんも、くすり、と笑う。
ひとしきり笑い、ふぅ、と一息つくと、先生は話を続けた。


「・・・で、話すうちに、コウが前世で入院していた病院に、俺が外科医で勤めていたのが分かった。コウは最終的に緩和ケアの内科病棟だったから、直接的な接点はなかったけど。・・・コウの症例は覚えている。手術オペ適応にするか否かの話し合いカンファレンスに、俺も出席してたからな。レベルⅣの末期膵臓がん。各所にも転移していて、原発巣の除去ではどうにもならない、手術オペしようがない、という結論で、抗がん剤対応、そして緩和ケアになった筈だ。」

「それ、は・・・」


ぐ、と私は息を飲んだ。
先生から話されるのは、私とこーくんしか分からない筈の話だったから。


「俺が関わったのはその時だけで。あと、覚えているのは・・・前世で、コウが死んだ時だな。」

「「え?」」


私の驚きに被せてこーくんの声も聞こえてきた。聞いていなかったのだろう。見ると、こーくんも驚いていた。
聞き返した私達にうっすらと微笑むと、先生は続ける。


「俺は、死を看取る現場には沢山出くわしてきた。死を悼み、泣く遺族も沢山見てきた。怒るもの、嘆くもの、悲しむもの、時には喜ぶものも。・・・でも、たまたまあの日、内科病棟に用事があって行った時に聞こえた泣き声は、違っていた。」


先生は一息おく。
誰もが次の言葉を待ち、静まり返っていた。


「・・・懺悔だった。『私と一緒になった所為で、ごめんなさい。』と。事故や突然死なら兎も角。あそこで亡くなった患者は、若い末期がん患者で。家族が責められることは何も無い症例だった筈なのに、な、と。それと同時に、そこまで想われていて、羨ましい、とも思った。」

「羨ましい、ですか?」


カンくんが首を傾げる。
ん、と先生は頷いた。


「その頃俺は、離婚問題を抱えててさ・・・ま、仕事にかまけて、家になかなか帰れずにいたら、カミさんが別な男と仲良くしてたっちゅーな。」


はぁ、と軽い溜息をつき、遠くを見ながら、続きを呟く。


「子どもも、俺じゃ無くて、そっちに懐いてたようでさぁ・・・それ知って、なーんか色々と虚しくなってた時だったからなぁ。死に別れした2人には申し訳ないんだけど、あの光景見ていて、すげぇ、眩しかったんだよ。そしたら、自分何やってんのかと思ってさ。だから、色々精算しようと思って。離婚して、どっか田舎の病院で医者やろうかと思ってた矢先に、交通事故で死んだみたいだ。」

「事故って・・・」

「トラックが対向車線はみ出してきて、ドン、だな。痛みも何も覚えて無いから、即死だったんじゃないか?・・・まぁ、まだ離婚してなかったし、カミさんには保険金も入り、保証もありで、子どもと浮気相手と暮らせて良かったんじゃない?」


人ごとのように、ケラケラと笑う先生。
その笑顔は痛々しく見えてしまったけど。私には何も言えなかった。


「ま、俺がそれを思い出したのは、A級ライセンス冒険者で、ロイドと組んでた20代前半頃だったか。ある日唐突に思い出したんだよ。その知識を活かして、治療師・薬師になる事にした訳だ。転生なんて手段で強制的に柵を捨てられて、ココで好き勝手に生きていられるから、幸せモンさ。」


ふ、と笑う先生は、何処か寂しげで。
カン君が口を開く。


「・・・先生の前世の名前を伺っても良いですか?」

「ん?必要ないから、捨てた。もう、名乗る事は無い。今の俺は、レザリック=コスミである事だけで十分。前世の記憶で必要なのは、医者として培った知識と矜恃だけだから。」


諦めたような笑みを浮かべた先生は、眩しそうにこーくんを見やった。


「だからなぁ、心配だったんだ。俺みたいにココで生き直すんじゃなくて。転生してなお《迷い人》の伝承に縋り、前世の世界に繋がる方法を探し続けるコウがさ・・・いつか、壊れるんじゃ無いかって。」


目線を逸らし、ぽり、とバツが悪そうに、頬を掻くこーくん。


「だから、ここに来てくれてありがとうな、リン。」


そう言って笑う先生を、私は直視出来なかった。





***************


※ 話に上がった漫画ですが、深夜アニメでも入っておりました『はたらく細胞』さんです。コウは白血球ゴッコをして遊んでいた模様。・・・痛い子w

※ 先生に語らせたら、存外にバックグラウンドが重たくなりすぎてどうしましょう(´Д` )
この伏線は回収できねぇなぁ・・・

※ 前世では、コウの死が先ですが、先に転生していたのは先生という事に。時間軸のズレが起こっております。
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