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新たな関係
173.再生
しおりを挟む『森の再生か。・・・あまり気にせんでも良いんだがのう。』
のんびりとした口調で、主様は答える。
そして、ちら、と私を見やり、言葉を続けた。
『でも、ま。それでお主が納得するなら、仕方ないかの。では、お主の力を借りるが・・・ふむ・・・その黒色の男の力も借りるかの。』
「俺、ですか?」
「なっ、主様っ、カン君は関係」
「いいっスよ。」
「ちょっと、カン君っ?!」
私だけではなく、カン君の顔も見て、主様は力を借りると言う。
慌てて止めようとした私の言葉に被せる様にして、カン君はあっさりと了解してしまった。
「リンさんだけ何かして、倒れられる方が俺は嫌です。手伝って、分散できるならその方が良いっス。森の主様、がっちり手伝うんで、お願いします。」
『ん。あいわかった。』
カン君の宣言に、満足そうに主様は目を細める。
こーくんと、師匠も少し前に出て来る。
「御使様、私達も出来る事があれば。」
『お主は風特化な様子じゃからなぁ。其方の守護役も、火と土か。とりあえずは良い。ま、全属性の2人から魔力を借り受けるだけじゃ。見守っておれ。』
「・・・分かりました。」
そうして主様は、私とカン君に側に来るよう促した。
『すまんが、ワシの身体に触れ、魔力を流して貰えるか?そうさな、治癒系が良いかの?』
「主様、私、直接治癒はできないよ?」
『ん?お主、武器に魔力を流しておるであろ?その感覚で良い。』
「なら、だいじょぶかな・・・」
そっと主様の身体に触れる。
鱗が硬くてひんやりとした主様の身体へ、森が元のように治るイメージを持って魔力を流す。
そっと隣を伺うと、カン君も主様の身体に触れて、魔力を流している。半眼で集中している様子。
すると主様が、長い尾で私達ごと囲うようにとぐろを巻いた。
魔力を貯める雰囲気を感じる。
「おわっ」
突然、魔力が一気に抜けてく感覚に陥る。起立性貧血のような、目の前が白くなるような感じ。
ふわっと、足元がぐらついた。
途端に、がしっと身体を支えられる。
「リンさんっ、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫・・・」
気がつけば、私の両手は、背後から覆い被さるカン君の手に包まれるようにして、主様の身体に押さえつけられていた。
「・・・カン君、もう大丈夫、だよ?」
左上を見上げると、ん?と首を傾げ、カン君がこちらを見ていた。
「・・・この方が、魔力の伝導効率良さそうなんで、このままで。」
・・・何か、えらい嬉しそうな顔してんなぁ。
ま、いいや。
押さえられている手は、ぽかぽかと暖かくて、嫌な感覚ではない、し。
何だろう。
縁側で日向ぼっこしてるイメージ?
北の大地の家は、縁側なんてそうそう無いから、二重サッシの内側で日向ぼっこだけど。
ふわふわして、眠たくなる。
『ふむ、そろそろ良いかの。』
主様が、鎌首をもたげ・・・るのは、良くないことが起こるわけじゃないから、表現として適切ではないね。
主様が顔を上げて、焼けた側の樹々を見つめた。
『ぬぅっ!!』
「わっ!」
主様の気合いと共に、全身が金色に発光したかと思ったら、それに呼応するように、眼下の焼け爛れた山肌が光り始めた。
みるみるうちに、黒色の焼けた土色が青々とした芝生に覆われ。
にゅ、と木々が顔を出したかと思いきや、一気に大きく繁りだした。
「・・・コレって。」
「・・・某ジ●リ映画を連想ですねぇ。」
うん。
とある姉妹が月夜の晩に、お隣さんと行った呪術で繁らせた木の上で、オカリナ吹いちゃう、あの国民的アニメ映画のヤツだよね。
いやね?
異世界だし、魔法はあるし、何か方法があるかな?とは思ったけどさ??
反則すぎやしませんかね、コレ。
「あー、集落で、みんな大騒ぎしてるなぁ・・・」
「え?見えるの?」
ポツリと呟いたカン君の声に反応する。
私は索敵は、あくまでサーチ画面だから、人の位置がわかる程度。
「え、あぁ、アルのおかげで、軍事衛星状態で見えるんス。1キロ範囲くらいで、とてもクリアに。鑑定も可能なんスよね。」
「何そのチート仕様。隠密し放題じゃん。」
「そっスねぇ。ヴェルと組んだら、スコープになって、長距離撃てないかなぁとか思ったんで、後で試しましょ?」
カン君は、にぱ、と目尻を下げて笑いながら、物騒な事を言い出した。
・・・何ですか?
笑顔でバイオレンス路線に転向ですか?
・・・うん、危険キャラ2人も要らない。『佐伯のSは、ドSのS』と言われた奴の真似はしなくていい。
頼む。君は、癒し担当しといておくれ。
『さて、と。これで良いであろ。お主らの魔力の質と量が共に良かったからのぉ。元通りと言うか、思った以上に森全体が活気付いたようじゃの。実りが増えて良い事じゃ。』
主様がご機嫌な様子で、赤い舌をチロチロと出している。
森全体って・・・
「・・・これ、確実にヤらかしたやつだっ。」
「何言ってんですか。実りが増えりゃ皆んな喜ぶだろうし、良いじゃないですか。」
思わず頭を抱える私の後ろで、あっけらかんと言ってのけるカン君。
「だって、目立っちゃうべさ。」
「今更?ここまできたら、開き直り肝心ですよ?俺らは『黒持ち』で、これから魔力量膨大なA級ライセンス冒険者になるんスから。」
「そんな簡単に・・・」
「・・・だって、そうしないと、リンさんば守れないんでしょ?だったら、目立とうが何しようが、俺は何だってやりますから。・・・一緒に、帰れるまで。」
「ん?」
あんま恥ずい事言うな、自分の身を守ってね。って思ってたら、最後の小声を聞き逃した。
「鈴、カン君、体調大丈夫~?」
「あ、うん。だいじょぶー。」
少し離れた所で見守っていたこーくんから、心配する声が飛んできた。
手を振って大丈夫アピールする。
『ほれ、これでお主も安心したろ?森については、悩む必要は無いぞぇ。』
細い目をさらに細めた主様が、優しく声をかけてくれる。
「うん・・・主様、ありがと。」
ぎゅ、と主様の首元に抱きついてみた。鱗で硬い、ひんやりとした身体が心地よい。
『そうじゃ、素直に喜んで良い。何でもかんでも、自分を悪く思うことはせんで良いからの。』
「はい・・・」
じんわり滲む目元を隠すように、暫く主様にしがみついていた。
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