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新たな関係
172.想いはバレると、こっ恥ずかしい
しおりを挟む焦った様子のカン君に、平然とした様子の師匠。
「2人とも、どうしたんですか?」
「氷壁が急に消えたから、心配になって・・・リンさんっ、無茶してないっスか??」
あわあわしながら、カン君が尋ねてくる。その様子を見てると、思わずくす、と笑ってしまう。
「ん?なんもだよ?通路作ろうと思って風属性弾撃ち込んだら、超音波振動みたいになって、氷が弾けたみたい。そんなに魔力も使ってないから。」
「はぁ、良かったぁ。」
へにゃり、と大きな身体が蹲る。
ぼす、と師匠の大きな手が、カン君の頭を乱暴に撫でくりまわした。
「だから言ったろ?そこまで心配する必要ねぇって。それに・・・」
赤茶の目を少し細め、私とこーくんを見遣った師匠は、一息つく。
「ちゃんと、話せたみたいだな、コウ。」
「おかげ様で・・・2人とも、ありがとうございました。」
「そか。」
「あぁ、良かった。」
ヴェルを肩に乗せたまま、立ち上がったこーくんは、2人に向かってお辞儀をする。
師匠が優しい顔で頷き、カン君はホッとしたように破顔する。
「とりあえず、正体と誤解については話ができました。・・・が、色々斜め上に考えてそうなので、2人にも鈴から目を離さないで貰えると助かります。」
「ふぇ?」
物騒な物言いに、私は思わずこーくんの顔を見上げた。
ゆるゆると立ち上がったカン君が、一段低い声を出す。
「・・・まさか、1人でどっか行こうとか、してませんよね?」
「察しが良くて助かるよ、カン君。そのまさかだから。元の世界に帰る方法を1人で探すから、君の事は僕とファーマスさんに面倒みて欲しい、ってさ。」
やれやれだよねー、と呆れ交じりに答えるこーくんの言葉に、師匠は大きく溜息を吐き、カン君は絶望した様な顔で此方を見ていた。
「なんでまた、そんな事。」
「・・・別に・・・」
ーーー そんなの、言える訳ない。
強くなった後輩に嫉妬したとか。
寧ろ一緒にいると、自分が足引っ張りそうで、申し訳ないとか。
2人が先にこーくんの秘密を共有して、私に教えてくんなかったのが腹立ったとか。
・・・大体にして、こんな浅ましい事考える自分自身が嫌なんだから。
『ふむ・・・自分の所為で危険な目に合わせていたから、庇護対象としていたのに、その男が強ぅなった事で所在を無くし、つがいの秘密を先に知った者達が、自分に打ち明けなかった事でいじけた、と。』
「ちょっ?!主様っ?!」
「あー、御使様。それに、『こんな事考えてる自分がメンドクサイ』的な感じはありませんか?」
『・・・あるのぉ。』
「ちょっとまてやーっっ!!」
主様とこーくんは、勝手に私の気持ちを暴露する。
・・・やだもう。今すぐ出てく。
羞恥で半べそになりながら、私は踵を返して走り出そうとした。
ぱし、と左手首を掴まれる。
「リンさん・・・」
「離して。」
「ヤです。」
見ると、カン君が私の手首を掴んでいる。
振り解こうと、ぶんぶん腕を振ろうとするけどビクともしない。
「・・・ねぇ、リンさん。コウさんの事黙ってたのは、ゴメンなさい。俺や師匠から伝えていい内容じゃなかったから。」
彼は、しゅん、と大型犬が萎れるように、俯く。
私も掴まれたままの手首に目を落とす。
「うん・・・」
「あと、ですね?・・・俺、前衛役は辞めたっス。『黒持ち』の魔力量を生かして魔法職になったンスよ? 付与魔法し放題だから、リンさんば、ガチガチに固めて怪我させません。無論、俺自身死にません。」
ぎ、と手首を掴む手に力がこもる。
恐る恐る顔を上げると、彼は真面目な顔で此方を見下ろしていた。
「これで、リンさんが守りたいモノも、守りたい人も守れます。一緒に戦えるから、俺にも貴女を守らせて下さい。」
「・・・カン君、痛い。」
余りにも真っ直ぐな眼差しに居た堪れなくて、視線を逸らす。
「・・・すんません。でも、離しません。だって、離したらどっか行っちゃうんでしょ?俺はまだ強くないけど・・・強くなったって思ってくれるなら、それは全部死なないでリンさんの隣に居るためですから。」
「ーーーーーっ!」
臆面なく、そんな事言われても、どーしろっちゅーねん。
俯いたまま、ぐいぐいと腕を引っ張っても、カン君は離してくれる気配がない。
溜息が聞こえ、背後から両肩を叩かれる。
背後を見ると呆れ顔の師匠が立っていた。
「・・・リン、諦めろ。カンもコウも、お前を1人にはしないぞ?寧ろなぁ、無理矢理離すと、病んで地の果てまで追いかけるぞ?無駄に体力も魔力もあるからなぁ。」
「師匠までぇ・・・」
するとニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる師匠。
そのまま、背後から抱きとめられた。
「ん?2人がウザかったら、俺んトコで大人しくしてるか?」
「「それは無し」」
色気の漏れる師匠の軽口に、カン君とこーくんが食い気味に答える。
よく分からないカオスな状況に、思わず主様を見遣る。
「ぬしさまぁ~っ」
『ほほっ。お主は、自身を顧みない様だからの。重いぐらいに想われた方が丁度良いであろ。』
「ここに来て、まさかの放置っ!?」
『それは、お主自身が撒いた種であろうて。其奴らに、心配かけ過ぎた代償じゃ。ま、その想いに、ちゃんと向き合う事じゃの。』
目を細め、何処か楽しげにこの状況を眺めている主様。
何だよ、野次馬かよー
「あーっもうっ、分かったから!勝手に居なくなったりしないからっ。とりあえず離せやっ!」
ぶんぶんと、掴まれた腕を振る。
カン君は手を離さないまま、半眼で、じぃ、と私を見ていた。
「・・・リンさん?『置き手紙置いたから、勝手じゃない』とか無しですよ?」
ギク、とした私に、こーくんの声が追い打ちをかけた。
「お、カン君、鋭い。鈴はそれやらかすタイプ。可能性は全部潰せ、な。」
「先輩、了解です。」
「アンタら何で結託してんのさ!」
「「リンさんば、逃がさない為」」
ハモんなよ。何処のデュオだよ。
背後では、ケラケラと師匠が笑っている。
もう、抵抗する気も失せて、溜息を吐いて脱力する。
・・・もういい、仕事しよ。
「・・・ねぇ主様、どやったら、森は再生します?」
「あ、逃げた。」
「逃げたな。」
「現実逃避ですね。」
・・・お前ら、マジで、うっさいっちゅーの。
*****************
※ 「●●ば~」という表現ですが、接続詞の「を」を示す方言と思っていただければ。
※ 突如発生した逆ハー状態に、リンは混乱している!逃げようとした。しかし、まわり囲まれてしまった!・・・といった状態ですw
猫は愛でられ過ぎると、それはそれでストレスなんですがねぇ。
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