転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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新たな関係

171.全員集合

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いつの間に、泣いていたのか。
鼻の奥が痺れるような痛みと、喉奥でしゃくり上げる音に今更気づく。

こーくんは、私を腕に囲ったまま、あやすように背中をポンポンと叩いていた。


『・・・話は、ついたかぇ?』


背後から不意にかけられた言葉に、吃驚する。

・・・主様の事、すっかり抜けていた。

ヤバい。
すっごい恥ずいんですけど。
主様の前で何やらかしてんの私。


慌ててこーくんから離れようとするけど、彼は私を腕の中に捉えたまま離してくれない。


「ちょっっ!こーくんっ」

「ん?なした?」


彼はくすくすと笑いながら、悶える私を押さえている。
・・・絶対これ、からかってる。
この人そーゆー人だった。基本いじめっ子なんだ。
相変わらず、ムカつく。


『ぬ・・・お主《記憶持ち》か。ふむ、不思議と感じたのは、それで、か。』


此方の様子に構うことなく、何かを見ていた主様は、少し驚いた様な声をあげる。
こーくんは、私を抱えたままぽふ、と頭を撫でた後、す、と背筋を伸ばして、主様に向き直った。


「・・・ニースの森の御使様。お初にお目にかかります。私は、コウラル=チェスター。御使様のご指摘の通り、前世の《記憶持ち》。前世は、こちらの《迷い人》である『佐伯鈴』の夫、『佐伯康平』でした。」

『ほぉ。つがい、だったか。それはまた、難儀したのぉ。』

「御使様も、鈴を気にかけて下さって、ありがとうございます。・・・幾分拗らせすぎて、相手するのが面倒だったかと思いますが。」

「ぅおぉぃ!」


今それ言うか。
思わず野太い声で突っ込む。


『ほんとさなぁ。思い込みが激しいのも考えもんじゃな。大変じゃの、お主も。』

「全くです。おちおち死んでも居られない、ってこのことかと。」

「ちょっ、2人とも扱い酷くねっ!?」


溜息交じりに同意しあう2人に、再度突っ込む。
その慌てる私を見て、主様もこーくんも、吹き出して笑い始めた。


『ふむ・・・ちゃんと甘えられる相手がおるではないか。』

「まぁ、ここまでデレてくれるのに、5年かかってますけどね。・・・いたたっ。」

「ドサクサに紛れて、はんかくさいことほざいてんでねってっ!」


思わず、頬を掴んで引っ張ってやる。


「痛いなぁ、だって、ホントの事だべや?久しぶりにれるの見たけど、めんこいなぁ、鈴は。」

「やかましわ!」

「あぐっ!」


思い切り、爪先を踏んでやる。
こーくんは、脚を抑えて蹲った。
漸く腕の拘束から解かれて、自由になる。


「痛いよぉ、鈴・・・もー、ツンデレさんは面倒くさいなぁ・・・おぃこら、銃口をこっちに向けんなや。」


しゃがみ込んだまま、ニマニマと笑顔で見上げてくる彼のしたり顔を見ていると、もれなくイラッとしてきて、左手に持つ猟銃相棒を抱え直し、足元に銃口を向ける。

軽口を叩きながらも、彼はそっと銃に手を伸ばした。


「ウィンチェスター上下二連・・・使っててくれたんだ。」

「うん・・・」


慈しむように、懐かしむように、銃身を撫でる。
やっぱり、こーくんが触っても、猟銃ヴェルは攻撃反応をしない。
元の持ち主だからだろうか?


「最近、変化する様になったよ?・・・ヴェル。」

「おわっ?」


ふわ、と淡い光に包まれた猟銃ヴェルは、子猫の姿になる。 
こーくんの前に、お澄まし顔で、ちょん、と、尻尾巻き座りをした。


クル?・・・あぁ、カン君の小鳥ピアルと一緒かな?自立式魔道具ってことか。」


そう言いながら、彼はヴェルの前に指を出す。
ヴェルは、その指先を暫くふんふんと嗅ぐと、彼の顔を見上げて『にゃぁ』と鳴いた。
そして、ぐるぐると喉を鳴らしながら、手にスリスリと頭を擦り付ける。


「おや・・・妙に懐いてくれてんね。」

「ヴェル・・・誰だか分かってるの?」

『みゃぁう、んにゃ』


これ、まえのごしゅじんー、と返答してよこすヴェル。


「前の持ち主だってこと、分かったんだ。」

『みゃにゃー』


おひさしぶりなのー、と、ヴェルは、こーくんの肩にぴょんと飛び乗り、頬に頭を擦り付けだした。


「おっと・・・ホントに猫だね、お前。」


ーー 美形と、子猫の戯れですかー
ーー 何処のアイドル写真集ですかー?


と、目の前の出来事に半眼になる。
そして、ヴェルが、私じゃない人に懐いてるのが若干面白くない・・・

すると、黙っていた主様が、す、と頭を持ち上げ、森の茂みを見遣った。


『ぬ。・・・また誰か、来たの。』


主様の声に、思わず身構える。


「主様、隠れなくて、」

『ん?・・・この者達なら問題ないであろ。』


慌てる私とは対照的に、主様は余裕な様子。



「ーーー リンさん!!」

「あぁ、ホントに居たな。」


そして、茂みから現れたのは、カン君と師匠だった。

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