転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

文字の大きさ
上 下
173 / 393
新たな関係

170.再会

しおりを挟む


突如として現れた美丈夫は、ゆっくりと私達に近づいてくる。

私は、カチリ、と剣先を出し、いつでも構えられるように銃剣相棒を両手で抱えた。


「・・・どちら様、ですか。」


この人が誰かは、分かっている。
でも、お互いに名乗った事はない。

ーーー これは、必要な手順。

敵意も害意も感じられないけど、切っ先を足元に向ける。
それ以上は、近づいて欲しくなかったから。

美丈夫は2メートル程離れた場所で立ち止まる。
その顔は、益々悲しげに歪んだ。
・・・そんな顔を向けられる理由が分からない。

すると、胸に右腕を当て、彼はす、と頭を下げる。


「・・・私は、モースバーグ国王都冒険者ギルド所属A級ライセンス冒険者『コウラル=チェスター』と申します。以後、お見知り置きを。」

「・・・ご丁寧にありがとうございます。ミッドランド支部所属のB級ライセンス冒険者、リンと申します。」


銃は抱えたまま、私は軽く頭を下げた。
沈黙が、間を支配する。

・・・用がないなら、サッサと居なくなって欲しい。


「・・・なぜ、こちらに?」


居た堪れず、思わず口を開いてしまった。
はっとした顔で、コウさんはこちらを向く。


「・・・先程、大きな魔力の動きを感じ、氷壁が全て消えたので、何があったかと調べに来た次第です。」

「そうでしたか・・・氷壁を消したのは私です。それで、よろしいですか?」

「わかりました・・・あの。」


何処までも他人行儀に成らざるを得ない私の態度に、彼は戸惑いを見せながらも、謝罪を口にした。


「昨日は申し訳ございません。・・・あの様な真似を」

「・・・いえ、犬にでも噛まれたと思っているので大丈夫です。」

「犬、ですか・・・」


食い気味に答えた私に、彼は少し困ったような顔をして、こちらを見ていた。
はた、と思い、私は口を開く。


「・・・すまないと思って頂けるなら、1つ頼まれて頂けますか?」

「頼み、ですか?」

「えぇ・・・カン君、私と同じくB級ライセンスの『黒持ち』である彼を、今の状態のまま、貴方の庇護の下に置いていただければ。」

「それは、どういうこと、ですか?」


コウさんは、眉間に皺を寄せ、訝しげにこちらを伺う。


「彼が、師匠・・・ファーマスさんと、貴方の庇護下にあれば、私が安心できる。それだけです。」

「・・・何故か伺っても?」

「彼は、私の転移に巻き込まれただけの被害者です。・・・彼を返すための方法を探す為に、私はこれから此処を離れますから。彼の安全が確保されているなら、その方が動きやすい。」


すると、私を訝しげに見ていた表情が、次第に悲しそうな表情へと変わっていった。


「・・・何で?」

「は?」


急に、彼の声色が変わる。


「何で、君は・・・すぐ、そう言うかな?自分の事は後回しにして。自分だって傷ついてるのに、どうしてそうやってムリすんのさ。」


どこか怒っているような、苦しさを押し殺すような、そんな声色で。


「君は人を手伝い、助けるだけ助けて。それでいて、自分の領域には踏み入れさせない。それは、助けられた方は、恩を売られただけで、君を助けられない事に苦しくなるんだって・・・教えたよね?」


その声色は、私を叱っているのに、何処か懐かしくて。


「『君と一緒に幸せになりたい物好きだって居るんだ。どうしてその手を振り払うのさ。』」


いつか聞いた、優しい言葉。

ーーー やめて。

聴きたくない。その言葉は。



「ーーー 私と一緒に居たら、死ぬかもしれないのっ!これ以上誰も失いたくないの!!勝手な事言わないでよっっ!!」


思わず頭を振って怒鳴っていた。
そして、切っ先を彼に向かって振り抜こうとする。
しかし、パシッ、と右手で銃身を掴まれた。


「ヴェル!」


発熱でも、電流でも何でも良い。
一撃、怯ませられれば。

しかし、猟銃ヴェルは掴まれているのに、何も反応しない。


「なんでっ!」


銃身を掴まれたまま、ぐい、と引っ張られ銃剣の切っ先を逸らされる。


「・・・銃口を人に向けちゃダメだべさ。」


ふ、と、困ったような顔をして、彼は諭すように語りかけてくる。


「・・・ごめん。君を1人遺して逝った事で、君に辛い思いをさせたんだね。僕が死んだのは、君の所為じゃない。君の所為で命を削られた訳じゃない。ただ、寿命だっただけだよ。」

「嘘・・・だ・・・。だって、だって!」

「『持ってる』とか、関係ない。揶揄する言葉なんか聞かなくていい。そんな馬鹿げた言葉に振り回されないでよ。・・・僕は最期まで君の側にいられて、幸せだったんだ。」


ぐい、と銃身を引かれ、ぽす、と腕の中に捕らえられる。
そのまま、ぎゅ、と抱きしめられた。

知らないのに、知っている感覚。


「離してっ!」


腕の拘束から逃れようと、彼の胸を叩くが、ビクともしない。


「『すず』・・・ごめんね?僕が最期に君に伝えたかったのは、感謝だったんだ。側にいてくれてありがとうって。泣いて謝ってなんて欲しくなかった。僕が死んだって、君は幸せになって良いんだって、そう、伝えたかった。」


ぼやける視界の中見上げると、綺麗な顔で微笑む彼が居る。
あやす様に頭を撫でられる。

姿形が全く違うのに、纏う雰囲気と仕草は私の良く知るそれで。


「こーくん・・・なの?」

「うん。『佐伯康平』です。」

「ほんとに?」

「うん。転生してたみたいだ。」

「ほんとに、こーくん?」

「うん。『佐伯康平』の記憶は、僕の中にしっかりとあるよ?・・・初めて君と行ったライブは、大御所の武道館だったとか。君のペースで日本酒呑んでたら、ワリと酷い目にあったとか。」


そう言って、目の前の人は、懐かしむ様にくすくすと笑う。
そっと右手を伸ばして、頬に触れてみる。その上から彼の左手が重なった。
少し骨ばってるけど暖かい。


「ほんと、に?」

「ホントだよ。今は、チートとまでは行かないけど。前世知識をそれなりに使って生きてるよ?」

「・・・A級トップなんて、ガチでチートだべさ。」

「何言ってんの。苦労の賜物だよ?色々けっぱったんだから。」


にぱ、と笑みを浮かべる。
顔の作りは全く違うのに、笑い方は同じで。


「ねぇ、鈴。」

「・・・なに?」

「約束してた、旅に出よ?」

「な・・・」

「元気になったら、旅行に行こうって言ってたしょ?まぁ、京都でも、金沢でも、沖縄でもない、異世界なんだけどさ。日本で見れない景色は沢山あるから。きっと楽しいよ?」


ね。と言って微笑む姿に思わず甘えたくなる。
私は彼の頬から手を離し、ふるふると、頭を振った。


「・・・ダメ、だよ。折角、転生したのに。」

「まーた、そやって、ごうじょっぱんだね。」


ぎゅ、と再度苦しいぐらいに抱きしめられた。


「大丈夫。今の僕はそう簡単に死なないよ?まぁ、《迷い人》の事もあるし、イリューンの問題もあるから、カン君も一緒で、2人きりとはいかないケドさ。・・・兎に角、君1人でなんて、行かせないかんね?逃げてもわかんだから。」

「・・・うぅ。」


胸に頬が当たるような姿勢で、腕の中に囲われる。かすかに聞こえる鼓動が、優しくて、暖かい。
有無を言わさない態度が懐かしくて、安心できて、私は縋り付くように、抱きしめ返していた。
しおりを挟む
感想 580

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...