172 / 393
新たな関係
169.『持っている』枷
しおりを挟むさくさくと森の奥へと進んでいく。
氷壁からこっちは、全く延焼被害が無くてホッとした。
そのまま、何となく気の向くままに進んでいく。
すると、昨日作った雪氷室が見えて来た。
中を覗いても人の気配はない。きっと、全員下に運ばれたのだろう。
索敵で周囲を見ても、この界隈には人は居ない。
「ここでいっか。・・・ぬしさま~?いらっしゃいますか~?」
ふわ、と風が吹き、気がつくと目の前に白の大蛇が姿を現した。
『呼んだかぇ?』
優しい金色の目が細められる。
暖かい空気が流れてきて、思わず甘えてしまいたくなる。
その気持ちを押し留め、頭を下げた。
「主様・・・ごめんなさい。」
『何がじゃ?』
「森を燃やしてしまって・・・」
『お主の所為ではなかろうに。何故謝る?』
「でも、守護役なのに。あんなけ啖呵切ったのに。主様の大事な森なのに。火を付けられるの止めらんなくて。結局燃やされて。守れなくて・・・ごめんなさい。」
『“ごめんなさい”ではなかろ?ただただ、悔しかっただけだろて・・・火を付けたのも、けしかけたのも、あの騎士共だろうに。お主の落ち度はなかろうて。むしろ、あれだけの氷壁を張るとは思わなんだ。あれのおかげで、延焼はかなり食い止められたしの。感謝しとるよ。』
責める風もなく、優しい声色が響く。
私は、ふるふると頭を振った。
「・・・だって、私が此処に居なければ、こんな事にならなくて。」
はぁー、と主様が大きなため息を吐く。
『全くお主は・・・そのうち、天変地異さえ自分の所為にしそうじゃな。お主が此処に居らんかったとしても、別な場所にいたら、その場所で同じことが起きとった。違うか?』
主様の言葉に、声が詰まる。
『・・・お主は、何でもかんでも自分の所為にして、一人になる理由を作っとるようにしか見えんのぉ。人は、守る為に一緒に居ると考える者が普通な様なのに。ほんに、不器用じゃなぁ・・・守りたいから、大事なモンから離れると考えるんか。』
「だって、一緒に居たら・・・また、傷つける。また、死なせるかもしれない。私が居た世界よりも、この世界はずっと死が隣り合わせだから・・・『持ってる』私の所為で、みんなを巻き込むのは、もうヤだ。カン君も、師匠やコウさんと一緒に居た方が安全だもの。集落のみんなだって、私が居ない方が何事もなく此処に居れるしょや。
・・・主様、焼けた森を治す方法を教えて?戻したら、こっから出てくからさ、さ。」
主様の顔を見れず、俯き気味に答える。
『強情じゃのぉ?・・・それで、お主の気持ちは何処にあるんじゃ?』
「きも、ち?」
『そうじゃ。人と繋がりたい、誰かと一緒に居たいと思っとる、お主の本心じゃの。それにも蓋をして生きてくつもりかぇ?』
その言葉に思わず顔を上げると、私を見下ろす金色の目がますます細められた。
自分の隠していた本心を見透かされ、目の奥が熱くなる。
握りしめていた猟銃が、不意に子猫の姿に戻った。
肩に乗り、『にー』と鳴きながら私の頬に頭を擦り付けてくる。
いっしょにいるよ、と、その想いが伝わってきた。
心を殺すのは慣れてる。
・・・もう、その望みは、5年前に捨てたから。
「ありがと、ヴェル・・・主様、いぃんだ。ほんの少しの事なのに、自分が優先されたいって思う気持ちを持つ自分が許せなくて・・・嫌だし。それに・・・目の前から居なくなるくらいなら、最初から居ない方がいいべさ。それに、私といる事で寿命が削られるなら、それこそ一緒に居たらダメでしょや・・・そこに、私の気持ちは必要ない。」
「それは違う。」
声がすると同時に、ひんやりとした風が舞う。
不意に現れた私達以外の気配に、身構えながら振り返る。その間にも、ヴェルが耳朶を食み、猟銃に戻った。
猟銃を握りしめると、主様の前に立ち、気配がした森の方を伺った。
カサリ、と音がして、樹々の間から人影が見える。
そこに居たのは、憂いを帯びた表情を浮かべる、緑がかった白金髪の美丈夫だった。
10
お気に入りに追加
1,009
あなたにおすすめの小説


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる