転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢

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新たな関係

169.『持っている』枷

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さくさくと森の奥へと進んでいく。
氷壁からこっちは、全く延焼被害が無くてホッとした。

そのまま、何となく気の向くままに進んでいく。
すると、昨日作った雪氷室が見えて来た。

中を覗いても人の気配はない。きっと、全員下に運ばれたのだろう。
索敵で周囲を見ても、この界隈には人は居ない。


「ここでいっか。・・・ぬしさま~?いらっしゃいますか~?」


ふわ、と風が吹き、気がつくと目の前に白の大蛇が姿を現した。


『呼んだかぇ?』


優しい金色の目が細められる。
暖かい空気が流れてきて、思わず甘えてしまいたくなる。
その気持ちを押し留め、頭を下げた。


「主様・・・ごめんなさい。」

『何がじゃ?』

「森を燃やしてしまって・・・」

『お主の所為ではなかろうに。何故謝る?』

「でも、守護役なのに。あんなけ啖呵切ったのに。主様の大事な森なのに。火を付けられるの止めらんなくて。結局燃やされて。守れなくて・・・ごめんなさい。」

『“ごめんなさい”ではなかろ?ただただ、悔しかっただけだろて・・・火を付けたのも、けしかけたのも、あの騎士バカ共だろうに。お主の落ち度はなかろうて。むしろ、あれだけの氷壁を張るとは思わなんだ。あれのおかげで、延焼はかなり食い止められたしの。感謝しとるよ。』


責める風もなく、優しい声色が響く。
私は、ふるふると頭を振った。


「・・・だって、私が此処に居なければ、こんな事にならなくて。」


はぁー、と主様が大きなため息を吐く。


『全くお主は・・・そのうち、天変地異さえ自分の所為にしそうじゃな。お主が此処に居らんかったとしても、別な場所にいたら、その場所で同じことが起きとった。違うか?』


主様の言葉に、声が詰まる。


『・・・お主は、何でもかんでも自分の所為にして、一人になる理由を作っとるようにしか見えんのぉ。人は、守る為に一緒に居ると考える者が普通な様なのに。ほんに、不器用じゃなぁ・・・守りたいから、大事なモンから離れると考えるんか。』

「だって、一緒に居たら・・・また、傷つける。また、死なせるかもしれない。私が居た世界よりも、この世界はずっと死が隣り合わせだから・・・『持ってる』私の所為で、みんなを巻き込むのは、もうヤだ。カン君も、師匠やコウさんと一緒に居た方が安全だもの。集落のみんなだって、私が居ない方が何事もなく此処に居れるしょや。
・・・主様、焼けた森を治す方法を教えて?戻したら、こっから出てくからさ、さ。」


主様の顔を見れず、俯き気味に答える。


『強情じゃのぉ?・・・それで、お主の気持ちは何処にあるんじゃ?』

「きも、ち?」

『そうじゃ。人と繋がりたい、誰かと一緒に居たいと思っとる、お主の本心気持ちじゃの。それにも蓋をして生きてくつもりかぇ?』


その言葉に思わず顔を上げると、私を見下ろす金色の目がますます細められた。
自分の隠していた本心気持ちを見透かされ、目の奥が熱くなる。

握りしめていた猟銃相棒が、不意に子猫ヴェルの姿に戻った。
肩に乗り、『にー』と鳴きながら私の頬に頭を擦り付けてくる。
いっしょにいるよ、と、その想いが伝わってきた。

心を殺すのは慣れてる。
・・・もう、その望みは、5年前に捨てたから。



「ありがと、ヴェル・・・主様、いぃんだ。ほんの少しの事なのに、自分が優先されたいって思う気持ちを持つ自分が許せなくて・・・嫌だし。それに・・・目の前から居なくなるくらいなら、最初から居ない方がいいべさ。それに、私といる事で寿命が削られるなら、それこそ一緒に居たらダメでしょや・・・そこに、私の気持ちは必要ない。」

「それは違う。」



声がすると同時に、ひんやりとした風が舞う。
不意に現れた私達以外の気配に、身構えながら振り返る。その間にも、ヴェルが耳朶を食み、猟銃に戻った。
猟銃相棒を握りしめると、主様の前に立ち、気配がした森の方を伺った。


カサリ、と音がして、樹々の間から人影が見える。

そこに居たのは、憂いを帯びた表情を浮かべる、緑がかった白金髪の美丈夫だった。




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