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新たな関係
168.モフリは現実逃避
しおりを挟むレザ先生が立ち去った後も、しばらくの間、小川向こうの炭化した木々を、ぼんやりと眺めていた。
『「・・・その『探しもの』が、君の事だとしたら、君はどうする?」』
先生の言葉が頭を渦巻く。・・・意味がわからない。
『「2人は、君を裏切ってなんかいないからね。」』
1人で森を出ていくと決めたのに。今更そんな事言われても。
「・・・わっかんね。」
片手で頭を掻き毟る。
何をどう考えて、行動すれば良いのか、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
『にゃーーー!!』
『ピッ』
「痛っ!」
背中にボールがぶつかった様な衝撃と、針に引っかかったような痛みが走り、思わず声を上げた。
「ヴェル・・・痛いよ・・・」
背中に重みがある。
涙目で後を見やると、ヴェルが背中に爪を立て、服に引っかかり、ぶら下がっていた。
『にゃあ』
『ピィ』
ヴェルの周りを、アルが飛んでいる。
・・・そういや君達、どこ行ってたのかな?家に居なかったし、勝手に遊びに行ってた?
背中に手を回し、ヴェルを引っかかった服から外す。
そして胡座をかき、その上にヴェルを乗せて撫でた。
ぐるぐる、と、喉を鳴らしながら大人しく丸くなる。
『ピィ?』
いつの間にか、左膝の上にアルが止まっている。
私の顔を見ながら小首を傾げる小鳥に、思わず指先を出し、首元を撫でた。
ピルピル、と、ご機嫌なような囀りが聞こえてくる。
暫くぼんやりと、その様子を眺めながら、彼等を撫でていた。
ふ、と顔を上げる。
焦げ臭さが残る焼けた森。
ーーー とりあえず、森について相談してこよう。
「ヴェル、森に行ってこよか。」
『にー』
『ピピッ』
いいよー、と答えるヴェルに、僕も~、と言った様子で囀るアル。
「アル、君はカン君と一緒じゃなくていいの?」
『チィ?』
なんで?、のような、仕草で首を傾げるアル。
「自由な子だねぇ・・・」
『にゃ』
そだね、とヴェルも呆れ混じりに同意して来た。
「ま。いっか。」
付いてくるのは勝手だ。
私は、ヴェルを右肩に乗せると、立ち上がる。
アルは一旦飛び立つと、左肩に乗り直す。
能天気なモフモフ2体に癒されながら、小川を飛び越え、森の中に踏み込んだ。
*
ぱきり、ぱきりと、炭化した枝を踏みしめて歩く。樹々と山肌の土が焼け焦げた匂いが漂う中、胸が苦しくなりながら森の奥を目指す。
少し進むと、氷壁が見えて来た。
表面は溶けているが、当初作ったままの高さを保ってそびえ立っている。
「意外に頑丈にできたもんだね。」
氷壁を叩いてみて、思わず呟く。
自分で作っておいて何だが、魔力を全開イメージで込めると、こんなにも頑丈になるのかと。
さて。
中に行くのには、氷壁が切れる所まで沿いに進んでも良いんだけど。
「メンドいな。・・・ヴェル、いい?」
『みゃぁ?』
なあに?と、鳴くヴェルを手に取る。手に収まるヴェルは色々察してくれたようで、ペロ、と私の指先を舐め、淡い光を放ちながら猟銃に戻った。
氷壁を崩す、というか、穴開けれればいいかと思い、風属性弾を猟銃に込める。
5m程氷壁から離れて立ち、猟銃を構えると、意識を集中させる。
分厚い壁を穿つイメージ。
魔力全開とまではいかないが、8割程度の魔力を猟銃に込める。
「いくよっ」
両足を踏ん張り、引鉄を引く。
ドゥッ!という音と共に放たれた魔法弾は、氷壁に吸い込まれていった。
何の変化もないように見えた壁は、少しの間を置き、キィンッと高い音を立てて振動し出した。
ーーー パキンッッ
一瞬振動が止まったかと思ったら、甲高い音を立て、弾けるように氷壁が消滅した。
細かい氷の粒が一面に広がり、太陽に照らされる様は、まるで真冬のダイヤモンドダストの様だった。
「・・・綺麗。」
久しぶりに見た、懐かしくなるような光景に息を飲む。
ーーー 息を吸ったら肺まで凍りそうな、晴れた極寒の日の朝の光景。
最後に見たのはいつだろう。
6年前の年明けの初猟の朝だっただろうか。
朝一の川近くで、オレンジ色の空に照らされた、けあらしとダイアモンドダストが、とても綺麗だった。
・・・あれは、こーくんと、最後に一緒に狩猟に行った時だ。
兎を追ったけどダメで。辛うじて鹿1頭仕留めたっけ。
きゅぅ、と胸の奥が苦しくなる。
泣きたくなる様な胸の痛みに、ブンブンと強く頭を振る。
今はそれじゃなくて。
・・・主様に会いに、森の奥に行かなきゃ。
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