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新たな関係
165.隠し事
しおりを挟む「な、何で・・・ですか?」
昨日あんな事があった相手の名前が、師匠からサラッと出てきたことに吃驚し、声を絞り出すのに精一杯だった。
「ん?前からカンには、旅に出るならA級になってから、って話していたし。コウ本人にも、付き添いのことは俺から頼んである。
アイツは常日頃から1人パーティーだから、通常の3人パーティーにもなるし。A級トップである事で、『黒持ち』のお前達のガードとしても適任だからなぁ。他に思い付く奴もいねぇし。・・・レザ、誰かいるか?」
「そうだねぇ・・・まぁ、あんな優良物件いないと思うよ?ある意味、所属フリーなA級だしねぇ。他国A級トップと比較しても、強いみたいだし。」
話を振られたレザ先生は首を傾げながら答える。その回答は、私の退路を塞いできた。
・・・何なのさ、一体。
顰めっ面をしていたのだろう、隣にいたカン君も困ったような顔をしてこちらを見ていた。
「リンさん?眉間が凄いことになってますよ。」
・・・何かおかしくね?
をい、特にアンタら2人。あの現場見てんだろが。何、つらっと無かったことにしようとしてんのさ?
思わず、ジト目でカン君を見上げる。
多分この状態は、上目遣いで拗ねる、と言った少女漫画的描写ではない。
目つきの悪い私が、眉間に皺を寄せて、下からガン飛ばしてるだけである。
「・・・何か、隠してね?」
「隠す、ですか?」
苦笑いしながら、カン君が首を傾げ、そっと目線をそらした。
その先は、師匠がいる。
私もそのまま、師匠を見た。
一瞬、う、とたじろぐ様子がある。
その後はすぐ、いつもの感じに戻ったけど。
「・・・あー、まぁ、ナンだ。本人に聞け。」
をい、答えになってねーべや。
「・・・いきなり、あんな事する方と、一体何を、話せと?」
イラっとして言い放つと、あー・・・と2人とも苦笑いを見せてくる。
「それは・・・事情があった、としか。」
「事情?何の事情さ?」
「それは・・・」
その、と言い澱むカン君。
その歯切れの悪さが、胡散臭さに拍車をかける。
益々眉間に力が入る私の様子に、師匠が溜息を吐く。
「だから、本人の話を聞いてやってくれって事だ。」
「・・・お2人にとってはお知り合いでも、私は知り合いですらありませんから、聞く道理もありません。」
「あのなぁ・・・、一応アレでもA級ライセンストップで、女性人気一番な男なんだが。」
「ほー。イケメンだから、何やっても許されるとでも?世論的にイケメンだろーが、好みじゃなければただの痴漢男でしかありません。」
「痴漢って、お前なぁ。」
「リンさん、その辺で。」
「・・・何で2人がそんなに庇うのか知りませんが、私には許せない事ですから。もういいです。じゃ、集落の皆さんに、持ち物返してきます。」
色々話は途中だったけど、歯切れが悪く、不自然な師匠達の様子に、かなりイライラし、私はこの場にいる事を放棄する事にした。
***
バン!と力任せに閉められたドアを、残された3人の男が見つめていた。
「・・・ありゃ、よっぽど、だな。警戒どころか、拒否だぞ?」
「・・・怖かったっス。」
「リンが、あんなに激怒してるの初めてみたよ。一体コウは、何したの。」
見るからに焦った様子の2人に、レザリックは声をかける。
「あー昨日な、リンを救出した後に、コウがキスしやがってなぁ・・・」
「・・・あンの馬鹿、やっと嫁に会えたからって、暴走しやがったな?」
「は?」
「・・・え?先生、コウさんが転生者って、知って?」
はぁー、と深いため息をつきながら呟いたレザリックの言葉は、予想だにしない響きがあったため、2人は固まってしまう。
「ん?あぁ、ってことは、コウは、お前達には伝えたんだね?・・・コウが転生者で、前世の嫁さんがリンだって。
俺は、コウと知り合ってそんなに間もない時に、転生者である事は知った。コウが前世で膵臓癌で死んだってこともな。・・・因みに俺も、前世は彼が入院していた病院の医者だったからねぇ。」
「「はぁっ!?」」
ファーマスとカンが、素っ頓狂な声を出した。
「まぁ、俺は外科医だったから、ターミナルだった彼の主治医では無かったし、直接2人には会ったことは無かったけど。彼の入院当初、手術するかどうするかで意見を求められた記憶があるんだよな。若くて、進行度合いが激しかったから、印象に残っててなぁ。」
「っつか、お前、そんなこと・・・」
「転生だとか前世だとか、言う訳無いだろ。ンなの、タダの気が触れた奴って思われるのがオチだ。まぁ、腕がいいって言われる治癒師と薬師の仕事には、かなり前世の経験が生きてるってだけだな。」
その言葉に、ファーマスは思わず何も言えなくなる。
おずおずと、カンが訪ねた。
「レザ先生・・・先生は、何でコウさんが転生者だと分かったんですか?」
「あー、まぁ、色々あってだな。そこら辺は、リンちゃんとコウの一件が解決したら纏めて教えるさ。・・・ま、身持ちの堅い彼女に、コウのフォロー入れてくるわ。一応、俺はその現場を見ていない人間だから、そこまで警戒されねーでしょ。」
そう言うと、レザリックは呆気にとられる2人を置いて、家を出ていった。
**************
※ 台風被害は大丈夫でしょうか?皆様安全確保を。
※ 次回主人公、拗れ過ぎて面倒臭さに拍車がかかります。見捨てないでやって下さいませ。
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